【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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高3

亜姫の家で(2)

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 亜姫が洗面所に消えると、母がコーヒーを出してくる。母も同じものを持ち、未だ晩酌をする父の隣に座った。
 
 和泉は気持ちを立て直し、姿勢を正す。 
「ありがとうございます。食事も、他のことも……色々と……」
 
 二人をまっすぐ見つめると、どちらも優しい顔を向けてくる。
 
「今日は……本当に、すみませんでした……」
 優しい目を向けられることにいたたまれなくなって、和泉は俯いた。
 守る・傷つけないと約束したにも関わらず、今日あんな目に合わせたのは他でもない自分だ。つい雰囲気に流されてしまったが、本来謝罪を先にすべきだったと気づいて後悔する。
 
「感謝しかないよ」 
 
 思いもよらない父の言葉。和泉は弾かれたように顔を上げた。
 
「亜姫を守りたいと言ったその言葉を、君はずっと守り続けてくれている。
 私達も先生方と同じだ。亜姫のことばかりで余裕もなく。しっかりして見えた君に甘え続けて、その気持ちに寄り添ってあげることができなかった。……申し訳なかった」
「いえ、そんな。俺はそばにいさせてもらえただけで……。だから、おじさんから謝られるようなことは……」
 
 まさかの言葉に和泉は狼狽える。
 和泉がこうして亜姫と過ごせているのは両親のおかげだ。それだけで充分すぎるほど有り難いのにこんな事まで言われてしまったら、せっかく落ち着いた感情がまた大きく揺さぶられてしまう。
 和泉は涙腺が崩壊しそうになって焦る。
 
 そこに、再び場をぶち壊す呑気な声。
「ねぇ和泉君。ワガママついでに、もう一つお願い事をしてもいいかしら?」
 
 これは天の助けと、和泉は二つ返事で頷いた。すると 
「今は随分落ち着いているようだけど。亜姫が今夜、あの日みたいに魘されちゃわないか少し心配なの。
 反省したそばからまた甘えるのは図々しいとわかっているのだけど……あの子が寝るまで、一緒にいてもらえないかしら? 和泉君のそばにいる時は、よく寝てるのよね?」
 と、想像もしなかった話が飛び出て和泉は目を見開いた。
 
「そ、れは……俺も心配なんで構いませんけど。でも、あの……亜姫がよく眠るのは、その、俺にくっついてる時だけで……。ようは、発作を治める時と同じような状態で……」
 発作時にどういったことをしているかは前から知らせてあるし後ろめたいわけではないが、何故だかしどろもどろになってしまう。
 
 そんな和泉を見て、二人は声を上げて笑った。
「亜姫がゆっくり眠れるのなら、和泉君に任せるよ。私達では出来ない事だし、特に私なんて亜姫が魘された時は近づくことすら出来ないからね。お母さんでも、ただそばにいることしか出来ないから。
 最近は満足な睡眠が取れてなかったみたいだし、今夜はゆっくり寝かせてあげたいんだ」
「……はい。じゃあ、いつものやり方でもいいですか?」
「疲れてるだろうに遅くまで振り回しちゃってごめんなさいね。でも助かるわ。ありがとう」
 
 その時、亜姫が風呂から上がってきた。
 話を聞かされた亜姫は、やはり珍しいことに照れも反対もせず、ただ嬉しそうに頷いた。


 
 ◇ 
 ドライヤーを持って、二人で部屋に上がる。
 亜姫を床に座らせると、和泉はその髪を乾かし始めた。亜姫はいつもの部屋着を着て、ベッドに腰掛ける和泉の足にもたれかかった。
 
「気持ちいい。和泉が乾かしてくれると、いつも髪の毛がさらさらになるんだよ。なんでだろう?」
「お前は最後まで乾かさないからだろ? あんなに雑な乾かし方でこんなに綺麗な髪を保ててるなんて、逆に不思議でならない」
「あぁ、そうだ。和泉が乾かしてくれるようになったのは、それに呆れたからだったもんね」
 
 初めて和泉の家でシャワーを浴びた時、あまりにも無頓着で雑な亜姫に呆れた和泉がドライヤーを奪い取って乾かした。
 それが意外に楽しかったのと、亜姫の髪を触ることが単純に気持ち良くて、それからずっと和泉が乾かすようになったのだが。
 
「亜姫の家でやると、なんだか悪いことをしてる気になるな」
 和泉は状況に若干の気まずさを覚えた。親への配慮から部屋の扉は開けたままにしている。亜姫が当たり前のように閉めようとした扉を、和泉が開け放したままにさせたのだ。
 
「ふふっ、私はすごく嬉しい。ごめんね、和泉の帰りが遅くなっちゃうけど。まだ一緒に居たかったから……寝るまでいてもらえるなんて、ちょっと浮かれちゃう」
 やはり珍しいことに、亜姫が素直な気持ちを口にした。
 二人きりだったらそのまま抱いていたかもしれないが、開いている扉が和泉の理性を押し留めてくれた。
 
 嬉しそうな亜姫を見ながら、和泉も穏やかに笑い返した。
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