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高3

忘れるなんて無理(12)

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「お前が、和泉に息を吹き込んだんだ。
和泉は自分の人生は終わってたって言うけど、俺は逆だと思ってる。ずっと、始まってなかったんだって。
 亜姫に会って、やっと生き始めたんだ。
 お前が振り回すことで和泉は更に生きる。今まで知らずに来たことを、今猛烈な勢いで学んでる。
 お前を守りたくて和泉はどんどん強くなる。
 ……和泉を泣かせたんじゃない。亜姫が、泣けるようにしてあげたんだ」
 
 真っ直ぐな目を向けてくる亜姫の頭を、山本はもう一度優しく撫でた。 

「和泉にどんどん甘えろ。もっと頼ってやれ。お前が絡むことで和泉はもっと成長できる。
 亜姫もそうだよ。もっと人に甘えたり頼ったりすることを覚えろ。和泉が言ってたように、我慢しないとか、時には人を疑うとか……。お前も学ぶべき事は沢山ある。
 ただ、お前らは一人にすると碌なことにならないからな。必ず二人で一緒に考えろ。今は一緒にいないと困るんだから、丁度いいだろ? 楽しいことも嫌なことも全部、二人で経験していけ」
「でも………」
「迷惑かけるとか、申し訳ないって思う?」
 
 亜姫は困ったように頷く。
 
「なあ……もし和泉がお前と同じような状況になったらどう思う? 嫌だ、面倒だ、迷惑だ離れたい……って思うか?」
「思わない。そばにいて支えたいし力になりたいって思う。自分に出来る事は何でもするし、逆に何も言われなかったら寂しいと……」
 ハッとしたように亜姫は山本を見た。

 山本は笑いながら頷く。
「和泉もそう思ってるんだよ。麗華達もな。
 お前が頼ったり元気になったりすることが、その恩返しになる。だから、今は沢山迷惑かけていい。 
 申し訳なく思ったら、ごめんじゃなくてありがとうって言えばいい。わかった?」
 
 亜姫は山本の顔をまっすぐ見て力強く頷いた。
 そこに綾子が顔を出し、「和泉、寝たわよ」と囁いた。
 
 そっと近寄ると、目にタオルをあてたまま静かな寝息を立てていた。
 ソファーの横には冷水と予備のタオルが置いてある。
 
「気が緩んじゃっただけだと思うわよ。心配しなくていいからね」
 綾子は亜姫にそう言うと、あとは任せると言い置いて仕事に戻っていった。
 
 亜姫はぬるくなっていたタオルを新しいものに変える。そうしていても和泉は動かない。鼻や目元はほんのり赤みが残り、閉ざされた瞼は腫れぼったかった。 
 もしかして、一人になった後も泣いたのだろうか。
 
 自分が泣く時は、いつも和泉がその涙を拭き寄り添ってくれた。それに安心しきって寄りかかってきた。
 一人で力尽きたように眠る和泉を見て、亜姫は切ない気持ちになる。
 
 もしかしたら、自分が迷惑かけまいと思っていた時は、和泉をこういう気持ちにさせていたのかもしれない。
 そう思うと、いたたまれない気持ちになった。
 せめて起きる前に腫れだけでも引かせてあげたいと、亜姫はせっせとタオルを取り替えた。
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