上 下
175 / 364
高3

修学旅行(11)

しおりを挟む
「やっぱり亜姫は最強だな。あいつら完全にビビってたじゃん」
「別の意味でも怖いよね、何しでかすかわからなくて」
 ヒロ達の話を聞きながら、和泉は少し先にいる亜姫を見る。
「それもそうなんだけどさ。やっぱり、ちょっと変じゃない?」
 通常、こういう場面では和泉も笑っているのだが、今は珍しく真顔だ。
「どうした? 何が気になってんの?」
「さっきのなんて、いかにも亜姫って感じだったじゃん」
「確かにそうなんだけど……他に気を取られた時、ちょっと無防備になりすぎるというか」
 
 二人は先を促すが、和泉は上手く言葉が見つからないようだ。
 
「今もさ、俺から離れてるだろ? 昨日まで出来なかったのに、いきなりあんなに変わるかな……って」
 
 和泉達は今、有名な神社にいる。
 参拝を終えた所で沙世莉が甘い物を食べたいと言い出し、今、亜姫達は少し先の売店に立っている。
 
 和泉が何か言う前に、亜姫は当然のように沙世莉達と店へ向かって行った。その為、和泉は近くの椅子に座り様子を見ていたところだ。

 今は出来上がりを待っているようで、亜姫は楽しそうに話しこんでいる。
 だだっ広い境内の真ん中にある店で、亜姫の周りで沢山の人が行き交う。そこには、当然ながら男も含まれる。
 にも関わらず、亜姫は怯える様子もなく出来上がりに気を取られているようだった。
 
「まぁ確かに。普通だな」
「だろ? 怖さが薄れつつあるっつーならいいんだけど……」
「開放的になって、気持ちの切り替えができたとか? 亜姫の場合すぐ目の前のことに気を取られるし、本来の性格が戻って来たのかもよ。
 それに、学校でも女子だけの時はあんな感じだろ? 最近は和泉と離れられる時も増えてきてるし、発作の回数もかなり減ってるじゃん」
「何が引っかかってんだよ?」
 ヒロと戸塚は、単純にいい傾向だと思っているようだ。 
 けれど、やはり和泉にはなんとも言えない違和感が残る。それをうまく言葉にできないのだが、放置したらいけない気持ちになることは確かだ。 
「具体的に言葉で言えないんだけど。ただ、こんなにあっさり切り替えられるとは思えないし、俺と歩いてる時は相変わらず。むしろ……」
 
 そう、違和感の一つはそこだ。本人はなんともないと言うし、今のように普通に過ごしたりする。
 だが和泉が隣にいる時は、逆に今までより縋ってくるように感じていた。特に、シャツを掴む力がいつもより強い気がしている。
 
 三人で考えるが、やはり答えは出ない。
 
「もしかしたら、移行期みたいなもんなのかな?
 今の時期を超えたら一人で行動出来るようになっていくのかも」
「どっちにしろ、今は様子見るしかないだろ。亜姫があれで平気だっつーならこのまま楽しめばいいし、あとはお前が匙加減を調節すればいいんじゃない?」
「……そうだな」
 そうしているうちに亜姫達が戻ってきて、和泉達はそのまま次の観光場所へ向かった。
 
 そして修学旅行が終わるまでの間、亜姫は一度も発作を起こすことはなかった。
 あれから江藤達が絡んでくることもなく、亜姫は笑顔のまま旅を終えた。
 


 ◇ 
 そして授業が再開すると、亜姫は速攻で江藤と高橋の元へ飛んでいった。
 
 慄く二人に亜姫は言った。
「約束どおり、教えて?」
 
 にこりと笑った亜姫から逃れられるはずもなく、結局亜姫のペースに嵌められた二人。
  
 最初はどうにか遠ざけようとしたものの、何かと食いついてくる亜姫を振り払うことなど不可能で。
 この時ようやく、ヒロや戸塚に言われた言葉の意味を知る。
 
 しかし気づけば亜姫に望まれるまま知識を授けていて、それにより亜姫のレベルは以前より向上した。
 そしてこれを実践したくてたまらない亜姫は、またもや斜め上のやる気を見せる。
 
「和泉が夢中になった江藤さん達には遠く及ばないけど、私もそれぐらい喜ばせられるように頑張るね!」
 なんとも複雑な気分になる、頓珍漢な宣言。
 
 未だ誤解されたままだったと気づいた和泉があの二人とは無関係だと伝えると。
「二人が嘘をついてくれたおかげだから」
 と、なぜかお礼を言う場を設けられた。
 
 亜姫の為に切り離したにも関わらず、その亜姫から再び引き合わされるという摩訶不思議な展開を迎える。和泉はどうすべきかと頭を抱えた。
 
 当の二人も、あれだけ近づきたいと願った和泉から縁切りされたはずなのに、なぜか顔を合わせて感謝されるという不可思議な事態に固まっていた。
 しかし今では他の子達と同じように、亜姫と和泉をからかって遊ぶのを楽しみにしている。
 
 亜姫は最初からノーダメージだったことは、言うまでもない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...