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高3
修学旅行(10)
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ブッハァッ!!
豪快に噴き出す音と共に、建物の角から笑い声。
「バカ戸塚、まだ黙ってろって……ブ、ハッ!」
「ごめ……でも、無理、どちら様でしたっけ、って……今更……!」
止まらぬ笑いに苦しみながら、おなかを抱えた戸塚とヒロが出てきた。その後ろから笑いを抑えた和泉も続く。
「来るのが遅い、ギリギリだったわよ」
麗華が怒ると戸塚が涙を拭きながら謝る。
「悪い。もう少し楽しめるかなって期待の方が勝っちゃって」
「楽しんでる場合じゃないでしょ、今日は時間も限られてるのに。
こうなったら止まらないってわかってるんだから、いたならもっと早く出てきてよ。手遅れになるとこだったじゃない」
「間に合ったからいいだろ、お前らだって楽しんでたじゃん。わざと煽ろうとしてたの、しっかり聞こえてたぞ?」
ポンポン飛び交う話の意味がわからず、江藤と高橋は動揺する。
ヒロはそれを一瞥し、苦笑する。
「あーあ、可哀想。お前ら、あとで絶対後悔するよ?」
同情すら滲ませたそれは……どういう意味だ? 理解できないことが逆に不気味で、二人は顔を引きつらせた。
しかし亜姫は気にせず、楽しげに問いを重ねようとする。
その異様な空気に慄いた二人は、恐ろしいものを見たような顔をした。だが亜姫は気にした様子もなく、満面の笑みを返す。
それが益々恐ろしく、二人は少し後ずさる。
「ね、名前。なんだっけ? 私のことは知ってもらえてるんだよね? あと、今から」
そこまで言ったところで和泉が亜姫を抱き込み、その口を手で覆った。
邪魔しないでと言いかけた口を塞ぎ、「それは今度な」と和泉が宥める。
嫌だと訴える視線をかわして、和泉は抱き込む手に力を入れた。
「俺の好みは違うって言ってるだろ」
ゆっくり口元の手を外すと、亜姫は即座の指南をまた願おうとする。
そこで、和泉は耳元へ囁いた。
「旅行中なんだけど? どうしてもって言うなら……今すぐ俺が教えてやるよ」
和泉が頬をなぞりながら顔を近づけると、案の定、亜姫は真っ赤になって動きを止めた。
そして
「どっ、どうしてもじゃないし! 離してっ!」
そう叫ぶと慌てて腕から抜け出し、その場から逃げ出した。
麗華達がすぐさま後を追い、先へ先へと進ませていく。
和泉は。江藤達を冷ややかな眼差しで見据えた。
「お前らと関わった覚えはないんだけど?
まぁ、シたって言うなら……二度と近づかない約束、守れよ?」
背を向けて歩き出した和泉に続きながら、戸塚が二人に声をかけた。
「御愁傷様。がんばってね」
その時、少し先から亜姫の声。
「あっ! 江藤さん、高橋さん、また───」
何か言いかけた亜姫を和泉が抱き寄せるようにして連れて行くのが見え、二人は何を言われたのかはわからなかった。
混乱したまま、彼女達は和泉との繋がりが切れたことだけ理解する。去り際の戸塚はそれを憐れんだのだろうと。
狐につままれたような気分で、同時に得体のしれない怖さも感じながら、二人はその場をあとにした。
◇
「あんたね、時と場所を考えなさいっていつも言ってるでしょ。まさかピンポイントであの話を持ち出されるなんて、焦っちゃったわ。
でも、だからってあんなところで聞くような話じゃないわよ。亜姫、聞いてるの?」
麗華の小言を聞き流して、亜姫はせっかくのチャンスを……とボヤいている。
「人がいなかったから良かったけど、あれじゃただの痴女だよ、痴女! 大きな声で卑猥な話をするんじゃないの!」
沙世莉からも怒られているのに、亜姫の頭の中は先程の話でいっぱいだ。
まさか、プルプルおっぱいじゃなくても役に立つなんて……!
しかも、和泉を夢中にさせた技能の持ち主までいたとは!!
「今日の夜……」
夜の自由時間に再突撃しようと目論む亜姫を、和泉が「駄目」と止める。
「教えてもらったらすぐ試したいだろ? 家に戻ってからにしような。
それとも、ホテルの庭で試してみる……?」
耳元で甘く甘く囁くと、亜姫は例のごとく固まった。
和泉は笑いながら念を押すようにしばらくからかい、
「旅行中、この話はお預け。いいな?」
と、強制的にこの話を終わらせた。
豪快に噴き出す音と共に、建物の角から笑い声。
「バカ戸塚、まだ黙ってろって……ブ、ハッ!」
「ごめ……でも、無理、どちら様でしたっけ、って……今更……!」
止まらぬ笑いに苦しみながら、おなかを抱えた戸塚とヒロが出てきた。その後ろから笑いを抑えた和泉も続く。
「来るのが遅い、ギリギリだったわよ」
麗華が怒ると戸塚が涙を拭きながら謝る。
「悪い。もう少し楽しめるかなって期待の方が勝っちゃって」
「楽しんでる場合じゃないでしょ、今日は時間も限られてるのに。
こうなったら止まらないってわかってるんだから、いたならもっと早く出てきてよ。手遅れになるとこだったじゃない」
「間に合ったからいいだろ、お前らだって楽しんでたじゃん。わざと煽ろうとしてたの、しっかり聞こえてたぞ?」
ポンポン飛び交う話の意味がわからず、江藤と高橋は動揺する。
ヒロはそれを一瞥し、苦笑する。
「あーあ、可哀想。お前ら、あとで絶対後悔するよ?」
同情すら滲ませたそれは……どういう意味だ? 理解できないことが逆に不気味で、二人は顔を引きつらせた。
しかし亜姫は気にせず、楽しげに問いを重ねようとする。
その異様な空気に慄いた二人は、恐ろしいものを見たような顔をした。だが亜姫は気にした様子もなく、満面の笑みを返す。
それが益々恐ろしく、二人は少し後ずさる。
「ね、名前。なんだっけ? 私のことは知ってもらえてるんだよね? あと、今から」
そこまで言ったところで和泉が亜姫を抱き込み、その口を手で覆った。
邪魔しないでと言いかけた口を塞ぎ、「それは今度な」と和泉が宥める。
嫌だと訴える視線をかわして、和泉は抱き込む手に力を入れた。
「俺の好みは違うって言ってるだろ」
ゆっくり口元の手を外すと、亜姫は即座の指南をまた願おうとする。
そこで、和泉は耳元へ囁いた。
「旅行中なんだけど? どうしてもって言うなら……今すぐ俺が教えてやるよ」
和泉が頬をなぞりながら顔を近づけると、案の定、亜姫は真っ赤になって動きを止めた。
そして
「どっ、どうしてもじゃないし! 離してっ!」
そう叫ぶと慌てて腕から抜け出し、その場から逃げ出した。
麗華達がすぐさま後を追い、先へ先へと進ませていく。
和泉は。江藤達を冷ややかな眼差しで見据えた。
「お前らと関わった覚えはないんだけど?
まぁ、シたって言うなら……二度と近づかない約束、守れよ?」
背を向けて歩き出した和泉に続きながら、戸塚が二人に声をかけた。
「御愁傷様。がんばってね」
その時、少し先から亜姫の声。
「あっ! 江藤さん、高橋さん、また───」
何か言いかけた亜姫を和泉が抱き寄せるようにして連れて行くのが見え、二人は何を言われたのかはわからなかった。
混乱したまま、彼女達は和泉との繋がりが切れたことだけ理解する。去り際の戸塚はそれを憐れんだのだろうと。
狐につままれたような気分で、同時に得体のしれない怖さも感じながら、二人はその場をあとにした。
◇
「あんたね、時と場所を考えなさいっていつも言ってるでしょ。まさかピンポイントであの話を持ち出されるなんて、焦っちゃったわ。
でも、だからってあんなところで聞くような話じゃないわよ。亜姫、聞いてるの?」
麗華の小言を聞き流して、亜姫はせっかくのチャンスを……とボヤいている。
「人がいなかったから良かったけど、あれじゃただの痴女だよ、痴女! 大きな声で卑猥な話をするんじゃないの!」
沙世莉からも怒られているのに、亜姫の頭の中は先程の話でいっぱいだ。
まさか、プルプルおっぱいじゃなくても役に立つなんて……!
しかも、和泉を夢中にさせた技能の持ち主までいたとは!!
「今日の夜……」
夜の自由時間に再突撃しようと目論む亜姫を、和泉が「駄目」と止める。
「教えてもらったらすぐ試したいだろ? 家に戻ってからにしような。
それとも、ホテルの庭で試してみる……?」
耳元で甘く甘く囁くと、亜姫は例のごとく固まった。
和泉は笑いながら念を押すようにしばらくからかい、
「旅行中、この話はお預け。いいな?」
と、強制的にこの話を終わらせた。
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