167 / 364
高3
修学旅行(3)
しおりを挟む
運良く、今は他の客がいない。体に当たる風は涼しくて気持ちがいい。
腰を落ち着かせると、亜姫は続きを促すように二人を見た。
「アキラさんはだいぶ年上だから学生よりは余裕あるわよ、常に。結構遊んでたみたいだし。
でも、余裕無さそうな顔してる時は、たまにある……わよ?」
ほんのり照れた様子を見せる麗華は、そこに恋慕の情が乗り可愛く見えた。
アキラさんでなくとも、手を出したくなる男は山ほどいるに違いない。そう思いながら、亜姫は沙世莉を見る。
言わなきゃ駄目? と無言で伝えてきた彼女に、亜姫は小さく頷く。
沙世莉は亜姫をチラっと見て、他意はないから気にしないでよ?と念押しする。
「その、先輩が亜姫を好きだった頃までね。いわゆる、欲情って言うの? そーゆーの、全然なかったって。ほら、亜姫にキスしたことがあったでしょ? あの時も、それ以上したいとは思わなかったって。
先輩の雰囲気も、優しいお兄ちゃんて感じでしょ。すごく男らしく見えるのに、性的ないやらしさが見えないっていうか。普段出かけてる時も、亜姫達が見てる先輩そのまんまで。
でも二人きりになると、たまに、迫られる時はあって……」
頬を染めた沙世莉は恥ずかしそうに俯き、そこからチラっと亜姫達を見上げてきた。
「普段とのギャップが激しくて、どうしたらいいかわからなくなったりする……かな」
常に姉御肌な雰囲気の沙世莉。それがひ弱な女の子の様な頼りなさを見せて困惑する様子は、それこそギャップが大きくて亜姫でさえ庇護欲をそそられた。
「そっか、先輩でもそうなるんだ。聞いといてあれだけど、そんなこと考えたことも感じたこともなかったなぁ。
っていうか、先輩のそういう話って、家族の卑猥な話をうっかり聞いちゃって気まずい……って気分」
思わずそう呟くと、沙世莉が恨めしげに亜姫を見る。
「あんたね、キスまでされといて何言ってんの。
その頃は何とも思ってなかった時期だけど、悠仁から大事にされてる亜姫には時々嫉妬するんだからね」
拗ねたように言う沙世莉がますます可愛くて、亜姫は思わず笑った。
「さよりちゃんが気にするなら、何度でも否定する。私と先輩は絶対恋愛にはならない。
……もしかして、先輩が不安にさせてるの? なら、さよりちゃんを返してもらいにいかなくちゃ!!」
ふんすと意気込む亜姫を見て、沙世莉が慌てて否定する。
なぜ慌てたかというと。
沙世莉が付き合う前のことだが、亜姫は泣いている沙世莉を抱きしめながら熊澤の前に立ちはだかり、こう言ったのだ。
「こんなに泣かせたり不安にさせたりする人に、大事なさよりちゃんは任せられない。
それ以上近づかないで。先輩なんかにさよりちゃんは渡さないから。顔洗って出直してきて」
沙世莉が誰かに守られたのは、あれが初めてだった。今でも熊澤が「まさかあの亜姫に叱られて、お前を守る役まで取られるとは思わなかった」と苦笑する出来事だ。
結果的にそれがキッカケとなり、つきあうに至ったのだが。亜姫は今でも、沙世莉のことに関しては熊澤に厳しい。
沙世莉がちゃんと幸せそうだと確認すると、亜姫はいつもと同じ笑顔を見せた。
そして、何の話をしていたか思い出して眉をヘニョッと下げる。
「あの先輩でも、やっぱりさよりちゃんにはそうなるのかぁ。っていうか、先輩のこと名前で呼んでるの?」
「えっ、今、名前、出してた? うん、名前で呼べってうるさいから……女の子に名前で呼ばせたことないとかなんとか」
ゴニョゴニョ言う沙世莉は、何を思い出しているのか頬を染めていて。
けして風呂にのぼせたわけではない。その可愛らしい素顔に熊澤がハマっているのだろうと、亜姫にはよくわかった。
──傷つけない。大事に扱う。お前が信じらんねぇと感じたら取り上げていいよ。絶対、そんなことさせねぇけど。
沙世莉を泣き止ませんの、俺にやらせて。亜姫、頼むよ……その場所、俺に譲って。
沙世莉を、他の男に獲られたくないんだ──
あの日約束した通り、熊澤は沙世莉を大事にしている。
あの冷静沈着な熊澤が、沙世莉にだけは欲を感じて荒ぶる。それはやはりこの可愛さと色気と……
「で? 結局亜姫の言いたいことは何なのよ? 先輩と沙世莉の惚気話が聞きたかっただけ?」
横で慌てる沙世莉を押し止めて、麗華は冷静に亜姫に聞く。
「やっぱり、色気とおっぱいは世の男性共通のスイッチなのかな、って……」
「そんなもん無くても、あんたの彼氏は万年発情中じゃないの? ヒロの下品な下ネタなんて霞んじゃうぐらい、いつでも手を出したがってるように見えるけど?」
「麗華、だから口が悪いってば。
和泉はなんだかんだ言ってても冷静だもの。興奮して見境なく襲いかかるとか、お前にだけは名前で呼ばれたいとか……ないもん」
亜姫は顔を半分湯船に埋めて、拗ねたようにむぅ……と口を尖らせる。
その顔こそが庇護欲を煽るというのに、亜姫は全然わかっていない。
確かに亜姫の胸はあまり大きくはない。しかし形良く柔らかそうなその胸は、女性でも思わず手を伸ばしたくなる代物である。
更に、その体の曲線美。これは真似したくともなかなかできるものではない。
見れば誰もが見惚れるその体は脱いで初めてわかるもので、そのラインに和泉がどハマリしていることをこの子は未だに知らないのか。
髪をアップにすると見える艶めかしい細い首筋に男が喉を鳴らし、それに苛つき荒れまくる和泉を見たことがないのか。
何より亜姫以外の女は視界に入らない和泉からあれだけの執着を受けていて、なぜそんな考えが出るのか……。
傍から見れば、そんな行動を取って亜姫に嫌われることを恐れすぎている和泉が必死に待てをしているのがありありと分かるのに、当の本人は野獣のごとく襲ってほしいと願うような口ぶり。
もし和泉がこの話を知ればそれこそ抑制が効かず、めでたく嫌われるに違いない。
流石の麗華達も、これは和泉に同情しかない。
亜姫は、和泉の事も自分の事も理解してなさすぎる。
そもそも「なんだかんだいっても冷静……」が既に間違っている。
和泉は自分の過去から、亜姫に誤解されないよう相当気を使っている。その為、確かに冷静さや余裕のある行動を取っているし、亜姫にあんな事があってからは殊更大事に扱っている。
しかし必死に耐えても無自覚な亜姫の煽りに負け、理性をふっとばしそうになっているではないか。
だが和泉はそれを隠すだろうし、亜姫が気づくことはないだろう。例え亜姫に色気とおっぱいが増えても、和泉の忍耐時間が増すだけで同じだ。
とっくに叶っていることなのだから、悩むだけ無駄というもの。
しかしそれを教えたところで、この子は斜め上の方向にしか進まない。
そう判断した二人は、即座に会話を引き上げることにした。
「今更胸や色気は求められてないだろうし、そんなもん手に入れて執着が酷くなっても困るでしょ。
それでもどうしてもっていうなら、この間みたいに頑張りながらおねだりしたら?」
「亜姫が呼びたいなら名前で呼んじゃえばいいじゃない。嫌がりはしないでしょ。もしかしたら、それに喜びすぎて襲って来るかもよ?
はい解決。ほら、のぼせてきたから出るよ」
二人がザバッと立ち上がると、そこには自分にない肉感的な魅惑ボディ。
その二人に軽くあしらわれ、亜姫は不満を隠しもせず、
「だから、その頑張りも上手く出来ないから困ってるんだってば」
とぶつぶつ言いながら後を追った。
腰を落ち着かせると、亜姫は続きを促すように二人を見た。
「アキラさんはだいぶ年上だから学生よりは余裕あるわよ、常に。結構遊んでたみたいだし。
でも、余裕無さそうな顔してる時は、たまにある……わよ?」
ほんのり照れた様子を見せる麗華は、そこに恋慕の情が乗り可愛く見えた。
アキラさんでなくとも、手を出したくなる男は山ほどいるに違いない。そう思いながら、亜姫は沙世莉を見る。
言わなきゃ駄目? と無言で伝えてきた彼女に、亜姫は小さく頷く。
沙世莉は亜姫をチラっと見て、他意はないから気にしないでよ?と念押しする。
「その、先輩が亜姫を好きだった頃までね。いわゆる、欲情って言うの? そーゆーの、全然なかったって。ほら、亜姫にキスしたことがあったでしょ? あの時も、それ以上したいとは思わなかったって。
先輩の雰囲気も、優しいお兄ちゃんて感じでしょ。すごく男らしく見えるのに、性的ないやらしさが見えないっていうか。普段出かけてる時も、亜姫達が見てる先輩そのまんまで。
でも二人きりになると、たまに、迫られる時はあって……」
頬を染めた沙世莉は恥ずかしそうに俯き、そこからチラっと亜姫達を見上げてきた。
「普段とのギャップが激しくて、どうしたらいいかわからなくなったりする……かな」
常に姉御肌な雰囲気の沙世莉。それがひ弱な女の子の様な頼りなさを見せて困惑する様子は、それこそギャップが大きくて亜姫でさえ庇護欲をそそられた。
「そっか、先輩でもそうなるんだ。聞いといてあれだけど、そんなこと考えたことも感じたこともなかったなぁ。
っていうか、先輩のそういう話って、家族の卑猥な話をうっかり聞いちゃって気まずい……って気分」
思わずそう呟くと、沙世莉が恨めしげに亜姫を見る。
「あんたね、キスまでされといて何言ってんの。
その頃は何とも思ってなかった時期だけど、悠仁から大事にされてる亜姫には時々嫉妬するんだからね」
拗ねたように言う沙世莉がますます可愛くて、亜姫は思わず笑った。
「さよりちゃんが気にするなら、何度でも否定する。私と先輩は絶対恋愛にはならない。
……もしかして、先輩が不安にさせてるの? なら、さよりちゃんを返してもらいにいかなくちゃ!!」
ふんすと意気込む亜姫を見て、沙世莉が慌てて否定する。
なぜ慌てたかというと。
沙世莉が付き合う前のことだが、亜姫は泣いている沙世莉を抱きしめながら熊澤の前に立ちはだかり、こう言ったのだ。
「こんなに泣かせたり不安にさせたりする人に、大事なさよりちゃんは任せられない。
それ以上近づかないで。先輩なんかにさよりちゃんは渡さないから。顔洗って出直してきて」
沙世莉が誰かに守られたのは、あれが初めてだった。今でも熊澤が「まさかあの亜姫に叱られて、お前を守る役まで取られるとは思わなかった」と苦笑する出来事だ。
結果的にそれがキッカケとなり、つきあうに至ったのだが。亜姫は今でも、沙世莉のことに関しては熊澤に厳しい。
沙世莉がちゃんと幸せそうだと確認すると、亜姫はいつもと同じ笑顔を見せた。
そして、何の話をしていたか思い出して眉をヘニョッと下げる。
「あの先輩でも、やっぱりさよりちゃんにはそうなるのかぁ。っていうか、先輩のこと名前で呼んでるの?」
「えっ、今、名前、出してた? うん、名前で呼べってうるさいから……女の子に名前で呼ばせたことないとかなんとか」
ゴニョゴニョ言う沙世莉は、何を思い出しているのか頬を染めていて。
けして風呂にのぼせたわけではない。その可愛らしい素顔に熊澤がハマっているのだろうと、亜姫にはよくわかった。
──傷つけない。大事に扱う。お前が信じらんねぇと感じたら取り上げていいよ。絶対、そんなことさせねぇけど。
沙世莉を泣き止ませんの、俺にやらせて。亜姫、頼むよ……その場所、俺に譲って。
沙世莉を、他の男に獲られたくないんだ──
あの日約束した通り、熊澤は沙世莉を大事にしている。
あの冷静沈着な熊澤が、沙世莉にだけは欲を感じて荒ぶる。それはやはりこの可愛さと色気と……
「で? 結局亜姫の言いたいことは何なのよ? 先輩と沙世莉の惚気話が聞きたかっただけ?」
横で慌てる沙世莉を押し止めて、麗華は冷静に亜姫に聞く。
「やっぱり、色気とおっぱいは世の男性共通のスイッチなのかな、って……」
「そんなもん無くても、あんたの彼氏は万年発情中じゃないの? ヒロの下品な下ネタなんて霞んじゃうぐらい、いつでも手を出したがってるように見えるけど?」
「麗華、だから口が悪いってば。
和泉はなんだかんだ言ってても冷静だもの。興奮して見境なく襲いかかるとか、お前にだけは名前で呼ばれたいとか……ないもん」
亜姫は顔を半分湯船に埋めて、拗ねたようにむぅ……と口を尖らせる。
その顔こそが庇護欲を煽るというのに、亜姫は全然わかっていない。
確かに亜姫の胸はあまり大きくはない。しかし形良く柔らかそうなその胸は、女性でも思わず手を伸ばしたくなる代物である。
更に、その体の曲線美。これは真似したくともなかなかできるものではない。
見れば誰もが見惚れるその体は脱いで初めてわかるもので、そのラインに和泉がどハマリしていることをこの子は未だに知らないのか。
髪をアップにすると見える艶めかしい細い首筋に男が喉を鳴らし、それに苛つき荒れまくる和泉を見たことがないのか。
何より亜姫以外の女は視界に入らない和泉からあれだけの執着を受けていて、なぜそんな考えが出るのか……。
傍から見れば、そんな行動を取って亜姫に嫌われることを恐れすぎている和泉が必死に待てをしているのがありありと分かるのに、当の本人は野獣のごとく襲ってほしいと願うような口ぶり。
もし和泉がこの話を知ればそれこそ抑制が効かず、めでたく嫌われるに違いない。
流石の麗華達も、これは和泉に同情しかない。
亜姫は、和泉の事も自分の事も理解してなさすぎる。
そもそも「なんだかんだいっても冷静……」が既に間違っている。
和泉は自分の過去から、亜姫に誤解されないよう相当気を使っている。その為、確かに冷静さや余裕のある行動を取っているし、亜姫にあんな事があってからは殊更大事に扱っている。
しかし必死に耐えても無自覚な亜姫の煽りに負け、理性をふっとばしそうになっているではないか。
だが和泉はそれを隠すだろうし、亜姫が気づくことはないだろう。例え亜姫に色気とおっぱいが増えても、和泉の忍耐時間が増すだけで同じだ。
とっくに叶っていることなのだから、悩むだけ無駄というもの。
しかしそれを教えたところで、この子は斜め上の方向にしか進まない。
そう判断した二人は、即座に会話を引き上げることにした。
「今更胸や色気は求められてないだろうし、そんなもん手に入れて執着が酷くなっても困るでしょ。
それでもどうしてもっていうなら、この間みたいに頑張りながらおねだりしたら?」
「亜姫が呼びたいなら名前で呼んじゃえばいいじゃない。嫌がりはしないでしょ。もしかしたら、それに喜びすぎて襲って来るかもよ?
はい解決。ほら、のぼせてきたから出るよ」
二人がザバッと立ち上がると、そこには自分にない肉感的な魅惑ボディ。
その二人に軽くあしらわれ、亜姫は不満を隠しもせず、
「だから、その頑張りも上手く出来ないから困ってるんだってば」
とぶつぶつ言いながら後を追った。
10
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
青春残酷物語~鬼コーチと秘密の「****」~
厄色亭・至宙
青春
バレーボールに打ち込む女子高生の森真由美。
しかし怪我で状況は一変して退学の危機に。
そこで手を差し伸べたのが鬼コーチの斎藤俊だった。
しかし彼にはある秘めた魂胆があった…
真由美の清純な身体に斎藤の魔の手が?…

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる