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高2
彼女とやら(5)
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「あーぁ、泣かせちゃった」
和泉はひたすら宥めたが、亜姫はなかなか泣き止まなかった。
しばらくして落ち着いた亜姫が、疑問を口にする。
「どうしてキスしたの? 和泉から抱き寄せてた」
「立ち上がろうとしたとこで引っ張られたからよろけた。あれはただの事故。手を伸ばした先がたまたまこいつの肩だったからそう見えただけ。最悪だよ……」
「そうだよカイ、なんで? あんたって無気力だけど、外であんな隙を見せたりはしないじゃん。
あんなにボーッとしてるなんて有り得ないんだけど? 何か考え事でもしてたわけ?」
「えっ……? いや、なんも……」
言い淀む和泉を亜姫がジッと見る。それをチラッと見た和泉は気まずそうに目を逸らすが、麻美からもその態度をつつかれ渋々呟いた。
「ちょっと……亜姫のことを、考えてた……」
亜姫は自分の名が出ると思っていなかったらしい。きょとんとすると、和泉は更に気まずそうな顔。
「そんな顔でこっち見んな……だから、さっきのが可愛くて、だから……」
「さっきのって? 何が?」
麻美の問いに、和泉はますますしどろもどろになる。
「いや、その……ちょっと、見惚れてて、あ……」
自分の失言に気づき、和泉は焦りを見せる。
「何に?」
麻美が容赦なくツッコむと亜姫も心配そうに言う。
「私……なにかしちゃってた?」
「カイが、何かしてたりして」
ゴホッ!!
和泉は咳き込み、言葉に詰まる。
すると、麻美が「……ふーん?」と面白そうに和泉を見る。
「カイ、何したの?」
無視しようとする和泉に、再度「な・に・し・た・の?」と問う麻美。
和泉の目の前にはじっと見つめる亜姫の姿。
和泉はしばらく無言を貫いていたが、再度亜姫を見て観念したように大きな息を吐いた。
「……寝顔見たらキスしたくなって。ついしちゃったら、お前が少し笑ってたのが可愛くて……。
寝ぼけてる姿がまた、いつもの寝起きん時みたいでたまんねぇなって……このまま連れ帰って抱くこと考えてて……いや、本当に、麻美がいることに気づいてなかったっつーか……そっちで頭いっぱいで、他はどうでもよかったっつーか……」
話を聞きながら、だんだん真っ赤になっていく亜姫。
「いや、だから、本当にごめんって。えぇ、これって悪いの俺……? でも寝顔にキスなんて、いつでもして」
「バカッ!」
羞恥に顔を背けた亜姫が、バッグを掴み出ていこうとした。和泉が慌てて抱き込むが、亜姫はその腕の中で小さく暴れている。
「……麻美、早く出てけ。お前が来なきゃ、今頃とっくに家に着いてた」
「今から行けばいーじゃん」
「無理。時間ない。亜姫んち門限早いし」
「なんで? まだ時間あるじゃない」
「もう遅い」
「はぁ? あんたいったいどんだけヤるつもり?」
と、そこで胸に衝撃がきて和泉が見下ろすと。
胸を叩いた亜姫が、真っ赤な顔でプルプル震えながら怒っていた。
「あー、もー、だからそういう顔すんなって……」
和泉が言うと、その横から麻美が興奮したように叫ぶ。
「やだ、亜姫ってば可愛いんだけど! ちょっと、惚れちゃうっ!」
言うと同時に細長い指が伸びてきて、亜姫は頬にチュッと口づけられた。
「おい!」
和泉が勢いよく引き剥がすと、麻美はシレッとした態度で和泉を一瞥する。
「いいじゃん少しぐらい」
「良くねぇよ、触んな。邪魔」
「………麻美さん?」
亜姫が衝撃に呆けていると、麻美は満面の笑みを浮かべた。
「亜姫、またゆっくり会おうね。私のことは、麻美で!
さてと。カイで汚れた唇、隆に消毒してもらおーっと!」
そう明るく言い放つと、麻美は不機嫌露わな和泉を振り返った。
「カイ、いいもの見せてもらった。……あんたの弱点、見っけ。
つーか、話は聞いてたけど……ほんとに亜姫の前だとめちゃくちゃ話すじゃん。今までカイが喋った数より今日のほうが多くて、ビックリなんだけど!
そんなに話せんなら、普段から返事ぐらいはちゃんとしなよ。
あ、あと今夜は圭介んちだから。冬夜くんにも連絡してあるし、もう逃げられないからね! 亜姫、またね!」
そう言うと、麻美はあっという間に消えていった。
嵐のように過ぎ去った一連の出来事に亜姫の気持ちが追いつかない。半ば放心状態で振り返ると、溜息をつきながら和泉が補足する。
「圭介ってのも、幼馴染。隆も同じで、これは麻美の彼氏。麻美は昔から隆一筋で、今でもベタ惚れ。
念押ししとくけど、麻美とは絶対に有り得ないからな?ほんとに、亜姫だけだから。
そこ疑われんのはキツイから、信じて」
亜姫がゆっくり頷くのを確認すると、和泉は明らかに安堵した。
「とりあえず先に消毒。させて」
そう言うと、和泉はしばし亜姫の唇を堪能する。
これは、亜姫も素直に受け入れた。
和泉はひたすら宥めたが、亜姫はなかなか泣き止まなかった。
しばらくして落ち着いた亜姫が、疑問を口にする。
「どうしてキスしたの? 和泉から抱き寄せてた」
「立ち上がろうとしたとこで引っ張られたからよろけた。あれはただの事故。手を伸ばした先がたまたまこいつの肩だったからそう見えただけ。最悪だよ……」
「そうだよカイ、なんで? あんたって無気力だけど、外であんな隙を見せたりはしないじゃん。
あんなにボーッとしてるなんて有り得ないんだけど? 何か考え事でもしてたわけ?」
「えっ……? いや、なんも……」
言い淀む和泉を亜姫がジッと見る。それをチラッと見た和泉は気まずそうに目を逸らすが、麻美からもその態度をつつかれ渋々呟いた。
「ちょっと……亜姫のことを、考えてた……」
亜姫は自分の名が出ると思っていなかったらしい。きょとんとすると、和泉は更に気まずそうな顔。
「そんな顔でこっち見んな……だから、さっきのが可愛くて、だから……」
「さっきのって? 何が?」
麻美の問いに、和泉はますますしどろもどろになる。
「いや、その……ちょっと、見惚れてて、あ……」
自分の失言に気づき、和泉は焦りを見せる。
「何に?」
麻美が容赦なくツッコむと亜姫も心配そうに言う。
「私……なにかしちゃってた?」
「カイが、何かしてたりして」
ゴホッ!!
和泉は咳き込み、言葉に詰まる。
すると、麻美が「……ふーん?」と面白そうに和泉を見る。
「カイ、何したの?」
無視しようとする和泉に、再度「な・に・し・た・の?」と問う麻美。
和泉の目の前にはじっと見つめる亜姫の姿。
和泉はしばらく無言を貫いていたが、再度亜姫を見て観念したように大きな息を吐いた。
「……寝顔見たらキスしたくなって。ついしちゃったら、お前が少し笑ってたのが可愛くて……。
寝ぼけてる姿がまた、いつもの寝起きん時みたいでたまんねぇなって……このまま連れ帰って抱くこと考えてて……いや、本当に、麻美がいることに気づいてなかったっつーか……そっちで頭いっぱいで、他はどうでもよかったっつーか……」
話を聞きながら、だんだん真っ赤になっていく亜姫。
「いや、だから、本当にごめんって。えぇ、これって悪いの俺……? でも寝顔にキスなんて、いつでもして」
「バカッ!」
羞恥に顔を背けた亜姫が、バッグを掴み出ていこうとした。和泉が慌てて抱き込むが、亜姫はその腕の中で小さく暴れている。
「……麻美、早く出てけ。お前が来なきゃ、今頃とっくに家に着いてた」
「今から行けばいーじゃん」
「無理。時間ない。亜姫んち門限早いし」
「なんで? まだ時間あるじゃない」
「もう遅い」
「はぁ? あんたいったいどんだけヤるつもり?」
と、そこで胸に衝撃がきて和泉が見下ろすと。
胸を叩いた亜姫が、真っ赤な顔でプルプル震えながら怒っていた。
「あー、もー、だからそういう顔すんなって……」
和泉が言うと、その横から麻美が興奮したように叫ぶ。
「やだ、亜姫ってば可愛いんだけど! ちょっと、惚れちゃうっ!」
言うと同時に細長い指が伸びてきて、亜姫は頬にチュッと口づけられた。
「おい!」
和泉が勢いよく引き剥がすと、麻美はシレッとした態度で和泉を一瞥する。
「いいじゃん少しぐらい」
「良くねぇよ、触んな。邪魔」
「………麻美さん?」
亜姫が衝撃に呆けていると、麻美は満面の笑みを浮かべた。
「亜姫、またゆっくり会おうね。私のことは、麻美で!
さてと。カイで汚れた唇、隆に消毒してもらおーっと!」
そう明るく言い放つと、麻美は不機嫌露わな和泉を振り返った。
「カイ、いいもの見せてもらった。……あんたの弱点、見っけ。
つーか、話は聞いてたけど……ほんとに亜姫の前だとめちゃくちゃ話すじゃん。今までカイが喋った数より今日のほうが多くて、ビックリなんだけど!
そんなに話せんなら、普段から返事ぐらいはちゃんとしなよ。
あ、あと今夜は圭介んちだから。冬夜くんにも連絡してあるし、もう逃げられないからね! 亜姫、またね!」
そう言うと、麻美はあっという間に消えていった。
嵐のように過ぎ去った一連の出来事に亜姫の気持ちが追いつかない。半ば放心状態で振り返ると、溜息をつきながら和泉が補足する。
「圭介ってのも、幼馴染。隆も同じで、これは麻美の彼氏。麻美は昔から隆一筋で、今でもベタ惚れ。
念押ししとくけど、麻美とは絶対に有り得ないからな?ほんとに、亜姫だけだから。
そこ疑われんのはキツイから、信じて」
亜姫がゆっくり頷くのを確認すると、和泉は明らかに安堵した。
「とりあえず先に消毒。させて」
そう言うと、和泉はしばし亜姫の唇を堪能する。
これは、亜姫も素直に受け入れた。
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