【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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彼女とやら(4)

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 すると突然腕が伸びてきて、亜姫は大きな体に包まれた。 
「亜姫、もういい」
 和泉が諭すように言うが、亜姫はその体を突き飛ばそうとする。
 しかし体は離れず、それどころか更に深く抱き込まれ「もういいよ、ありがと」と、宥めるように背中と頭を撫でられた。
 
 亜姫は、そこから抜け出そうと強く抵抗する。 
「間違えるなって、言った!」
「間違えてない、あってる」
「バカなの!? 誰が大事かなんて考えなくたってわかるでしょう! さっきだってキス」
「じゃねーよ、ただの接触事故」 
 話の途中で強い否定をかぶせられ、亜姫は絶句した。
 
 大事な人の目の前でそんなことを言い浮気相手を抱きしめるなど、正気の沙汰とは思えない。
 この後に及んで、まだ二股を続ける気なのか。
 
「何言って……キスでしょう……、わざわざ自分から抱き寄せ……」
「ねーよ。あさみとキスとかマジで気持ち悪い」
「それはこっちのセリフなんだけど」
 
 和泉の言葉と、突如割り込んだあさみの声。
 それらにより、亜姫の思考は完全に混乱した。
 
「え、え………?」
 耳に入った言葉を全く理解できない。
「く、口と口でするのは……キス、って言うんじゃ……ないっけ……?」
 あまりの衝撃に、怒気の抜けた間抜け声で亜姫は呟く。
 
「キスってのは」
 言うと同時に優しい口づけが落ちてきた。
「これがキスだよ。あんなのと一緒にすんな、どんな悪夢だよ俺が抱き寄せるとか死んでもねーよ」
「私もゴメンなんだけど。つーか、カイがまず私に謝れ」
「なんでだよ、こっちが言いてぇわ」
 
 どう見ても親密さしかない会話の応酬。亜姫の混乱はひどくなるばかり。
 
「え、どーゆーこと……? だってあさみさん、カイ返してって……名前呼んで、キス……ずっと付き合ってて、和泉は嘘ついて……私とは、浮気で…………?
 わかんない、もぉ、どーいうことか……わかんないぃ……」 
 ふぇ、と溜息と泣き声が一緒になったような声が出て、亜姫の目が潤む。同時に顔がクシャッと歪み、それを見た和泉が亜姫の顔を自分の胸に埋めた。 
「泣くなよ? お前にそういう泣かれ方されると本当にこたえるから。
 ……ゴメン、黙ってた俺が悪かった。ちゃんと説明するから」
 和泉はギュッと亜姫を抱えこむと、あさみを睨みつけた。
「亜姫に謝れ。大体、なんでいきなり来たんだよ」
 怒りを纏った和泉に怯えることもなく、あさみは飄々と言い返す。
「カイが、私達のことを教えてないのが悪い。だからさっきも言ったでしょ、我慢の限界が来たからだって」
 
 それを聞き、亜姫は慌てて離れようとする。
「ごめんなさ……私が邪魔して」  
 言葉を遮るように、和泉が亜姫を抱く腕に力を込めた。
「幼馴染」
「えっ?」
 勢いよく顔を上げた亜姫を見て、和泉は気まずげに口を開く。
「あれ、麻美って言うんだけど。俺の、幼馴染。昔からずっと同じ学校。 
 ……ついでに言うと、颯太そうたも。……実は、幼馴染」
「颯太って、同じクラスの……早川颯太?」
 和泉は無言で頷く。
「あと、別の高校にもいて。……全員、一歳の頃から一緒」 

 初めて聞く話に亜姫は呆然として……和泉を見て、次いで麻美に顔を向けた。 
 麻美はフフン、と言いたげな顔で「そーゆーこと」と同意する。
 
「じゃあ、ずっと麻美さんが彼女」
「違うって。麻美が彼女とか有り得ねぇ」
「え、でも……和泉の好きなプルプルおっぱい……」
「だから巨乳好きじゃねぇって。
 何があっても麻美だけはねぇよ。こいつの相手するぐらいなら死んだほうがマシ」
「ちょっと、カイごときに言われると腹が立つんだけど。まぁ、でも私も同感。カイとは有り得ない」
 
 亜姫が再び麻美を見ると、先程までの意地悪そうな顔はどこにも見当たらず。一転して、人懐っこそうな笑顔を向けてきた。 

「ごめんね、意地悪ばっかり言って。カイがずっと隠してるし、黒い噂ばっかやたら聞いてたからさ。
 なら、噂が本当か実際に確認しようと思って。こうすれば本性出すかなって……ワザと嫌な態度をとったの。噂通りの嫌な奴だったらもっと言ってやろうかと思ってたんだけど、違ったみたいだね。
 そんな訳で、私とカイはただの幼馴染。だから安心して?」
 
 亜姫はポカンとしたまま、二人を交互に見る。そして麻美に恐る恐る尋ねた。 
「……付き合って、ない?」
「うん」
「和泉のこと、ホントは好きとか」
「ないないっ、有り得ないから!」
「ホントに……?」
「ほんとにホント。死んでも絶対有り得ない」
「私……和泉と付き合ったままで、いい? 別れなくて……いいの?」
「いいに決まってるだろ」
 麻美が答える前に和泉が言い、亜姫をギュッと抱きしめた。
 
 それを聞き、亜姫はホウッと大きな息を吐く。
「よ、良かった……麻美さんの話が嘘で、良かった。
 私、本当に麻美さんのこと、傷つけてない?」
 
 まだ心配そうな亜姫は、笑いながら頷く彼女にホッとした笑顔を向ける。そしてその顔を徐々に歪ませ……とうとう泣き出した。
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