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高2
彼女とやら(1)
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数ヶ月が経ち、亜姫の日常は前進傾向にあった。
基本的な問題は変わらず。けれど、少しずつ出来ることも増えてきた。
壁際、もしくは背もたれの高いシートに和泉と並んで座れるなら、軽い飲食が出来る。
空いている店でなら少しだけ買い物を楽しめる。
学校では、壁に背を預けられる場所へ座ることで安定した。後ろからの恐怖を感じなくてすむからだ。
とは言え、今の亜姫では家と学校の近辺を少し出歩く程度だが。
女子しかいない場所なら、条件さえ整えば変わらず過ごせるようになった。
鍋島の一件で、事情を理解してくれた者も少なからずいる。そこからの気遣いなどもあったりして、穏やかに過ごせる日は随分増えていた。
そんな中。今日は、放課後の教室で課題をこなしている。
亜姫の苦手な数学で、うんうん唸りながら課題を解く様子を和泉が面白そうに眺めていた。
亜姫は、苦手なことでもどうにかクリアしようとする。それは亜姫の前向きさ故だろうが、数学だけはどうにも成果が出にくいようだ。逆に数学の得意な和泉がヒントを出したりしてサポートしていたのだが、亜姫は頭を使いすぎたせいかボンヤリし始めていた。
「亜姫? 起きてる?」
「ん……? 起きてるよ……?」
ゆっくり瞬きをする亜姫を見て、和泉がくすりと笑う。
「疲れちゃった? 少し休憩しようか」
それにも小さな返事が帰ってきただけで、亜姫はうとうとし始めていた。
本格的に眠ってしまう前に帰ったほうがいいかもしれない。ここで発作は出したくない。
和泉は目の前の亜姫を見る。
今は二人きり。更に壁際の隅へ席を移動している為、くっつかなくとも動けている。
少し席を外してもいいか尋ねると。
「ん……いいよ。これ、解いてるね……」
瞬きを繰り返しながらも課題をやろうとしている亜姫。
和泉はその頭を軽く撫でてから洗面所へ行き、すぐに戻った。
教室の扉を静かに開けると、傾きかけた陽の光が柔らかく室内を照らしていた。その光に反射した亜姫の長い黒髪がキラキラと輝いている。
光で影になった亜姫のシルエット、それがわずかに揺れている。どうやらうたた寝してしまったようだ。
発作の前に起こさないと……と俯いた顔を覗きこむと、ほんのり当たる陽光が亜姫の顔を綺麗に映し出していた。
普段の亜姫は「可愛い」がぴったりな印象だが、このように見惚れるほど綺麗な姿を見せる時がある。
日に日にそう思う機会が増えていて、それがまた和泉の心配を煽るのだが。
その綺麗さに吸い寄せられるように、和泉は机に両手を付き亜姫の唇を塞いだ。起こさないように、そっと重なるだけの口づけ。
ゆっくり離れると、寝ているはずの亜姫が少し嬉しそうに緩む。
甘えた時に亜姫が見せる、気の抜けた柔らかい笑顔。
それを見た瞬間、和泉の中でカチリとスイッチが入った。
片手を亜姫の首筋に添え、ゆっくりと髪の毛を肩の向こうへと流す。そうしながら、再度唇を合わせた。
寝ている時に軽く口づけることはあるが、寝込みを襲うようなことはしない。けれど、今はそんなことも考えられないほど目の前の亜姫に惹かれていた。
だが、亜姫が身じろぎして和泉の頭は一気に冷えた。慌てて、しかし起こさぬよう静かに亜姫から離れる。そして平静を装って亜姫を起こした。
何も気づかぬまま、亜姫はぼんやりと目を覚ました。
うたた寝だったせいか、発作は起こしてないようだ。和泉はそれに安堵しつつ、亜姫に帰り支度を促した。
半分寝ぼけた状態で身支度をする亜姫の様子は、事後の微睡んだ様子に似ている。
和泉は先程の熱が再び湧き上がるのを感じていた。
この時間なら、まだ家に連れて帰れるな……。
そんな事を考えながら、和泉はそばに腰掛けて亜姫に見惚れていた。
一方、亜姫はぼんやりしたまま帰り支度を進めていた。うまく頭が起きてくれない、そんな感覚で眠気と戦いながら。
不意に勢いよく扉が開き、亜姫は視線だけをそちらに向ける。
すると、大きな胸の派手な女子が「いたいた」と言いながら入ってきた。
誰だろう? 亜姫は回らない頭で考える。こんな風に和泉へ近づく人が未だにいる。その中のひとりだろうと亜姫が支度を進めていると
「ねぇ、なんで全然来ないのよ? 待ってたのに」
言いながら、彼女は和泉の横へ腰掛けた。体が触れているのかと思う程、すぐそばに。
他の子には見られない、やたら親しげな物言いと仕草。亜姫は言いしれぬ違和感を感じた。
基本的な問題は変わらず。けれど、少しずつ出来ることも増えてきた。
壁際、もしくは背もたれの高いシートに和泉と並んで座れるなら、軽い飲食が出来る。
空いている店でなら少しだけ買い物を楽しめる。
学校では、壁に背を預けられる場所へ座ることで安定した。後ろからの恐怖を感じなくてすむからだ。
とは言え、今の亜姫では家と学校の近辺を少し出歩く程度だが。
女子しかいない場所なら、条件さえ整えば変わらず過ごせるようになった。
鍋島の一件で、事情を理解してくれた者も少なからずいる。そこからの気遣いなどもあったりして、穏やかに過ごせる日は随分増えていた。
そんな中。今日は、放課後の教室で課題をこなしている。
亜姫の苦手な数学で、うんうん唸りながら課題を解く様子を和泉が面白そうに眺めていた。
亜姫は、苦手なことでもどうにかクリアしようとする。それは亜姫の前向きさ故だろうが、数学だけはどうにも成果が出にくいようだ。逆に数学の得意な和泉がヒントを出したりしてサポートしていたのだが、亜姫は頭を使いすぎたせいかボンヤリし始めていた。
「亜姫? 起きてる?」
「ん……? 起きてるよ……?」
ゆっくり瞬きをする亜姫を見て、和泉がくすりと笑う。
「疲れちゃった? 少し休憩しようか」
それにも小さな返事が帰ってきただけで、亜姫はうとうとし始めていた。
本格的に眠ってしまう前に帰ったほうがいいかもしれない。ここで発作は出したくない。
和泉は目の前の亜姫を見る。
今は二人きり。更に壁際の隅へ席を移動している為、くっつかなくとも動けている。
少し席を外してもいいか尋ねると。
「ん……いいよ。これ、解いてるね……」
瞬きを繰り返しながらも課題をやろうとしている亜姫。
和泉はその頭を軽く撫でてから洗面所へ行き、すぐに戻った。
教室の扉を静かに開けると、傾きかけた陽の光が柔らかく室内を照らしていた。その光に反射した亜姫の長い黒髪がキラキラと輝いている。
光で影になった亜姫のシルエット、それがわずかに揺れている。どうやらうたた寝してしまったようだ。
発作の前に起こさないと……と俯いた顔を覗きこむと、ほんのり当たる陽光が亜姫の顔を綺麗に映し出していた。
普段の亜姫は「可愛い」がぴったりな印象だが、このように見惚れるほど綺麗な姿を見せる時がある。
日に日にそう思う機会が増えていて、それがまた和泉の心配を煽るのだが。
その綺麗さに吸い寄せられるように、和泉は机に両手を付き亜姫の唇を塞いだ。起こさないように、そっと重なるだけの口づけ。
ゆっくり離れると、寝ているはずの亜姫が少し嬉しそうに緩む。
甘えた時に亜姫が見せる、気の抜けた柔らかい笑顔。
それを見た瞬間、和泉の中でカチリとスイッチが入った。
片手を亜姫の首筋に添え、ゆっくりと髪の毛を肩の向こうへと流す。そうしながら、再度唇を合わせた。
寝ている時に軽く口づけることはあるが、寝込みを襲うようなことはしない。けれど、今はそんなことも考えられないほど目の前の亜姫に惹かれていた。
だが、亜姫が身じろぎして和泉の頭は一気に冷えた。慌てて、しかし起こさぬよう静かに亜姫から離れる。そして平静を装って亜姫を起こした。
何も気づかぬまま、亜姫はぼんやりと目を覚ました。
うたた寝だったせいか、発作は起こしてないようだ。和泉はそれに安堵しつつ、亜姫に帰り支度を促した。
半分寝ぼけた状態で身支度をする亜姫の様子は、事後の微睡んだ様子に似ている。
和泉は先程の熱が再び湧き上がるのを感じていた。
この時間なら、まだ家に連れて帰れるな……。
そんな事を考えながら、和泉はそばに腰掛けて亜姫に見惚れていた。
一方、亜姫はぼんやりしたまま帰り支度を進めていた。うまく頭が起きてくれない、そんな感覚で眠気と戦いながら。
不意に勢いよく扉が開き、亜姫は視線だけをそちらに向ける。
すると、大きな胸の派手な女子が「いたいた」と言いながら入ってきた。
誰だろう? 亜姫は回らない頭で考える。こんな風に和泉へ近づく人が未だにいる。その中のひとりだろうと亜姫が支度を進めていると
「ねぇ、なんで全然来ないのよ? 待ってたのに」
言いながら、彼女は和泉の横へ腰掛けた。体が触れているのかと思う程、すぐそばに。
他の子には見られない、やたら親しげな物言いと仕草。亜姫は言いしれぬ違和感を感じた。
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