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高2

兄との記憶(2)

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「和泉は、誰にでも優しいもんね」

 和泉は呆けた顔でしばらく亜姫を眺め、途中でハッとして目を瞬かせた。
 
 自覚する自分の性格は「冷たい」だ、亜姫以外には。しかし亜姫はいつでも「誰にでも優しい」と言う。やっぱりわけがわからないと考えた時、突如思い出したことがあった。
「なあ……亜姫、この間言ってたろ? リビング見て、俺が冬夜に大事にされてるって。
 あれ、どーゆー意味? どこを見てそう思ったの?」
 
 突然の質問に亜姫は目をパチパチさせて、あぁ、と思い出したように言った。
「家全体の、雰囲気……かな?」
「生活感も薄い殺風景なこの部屋のどこに、そんな雰囲気があるの? 冬夜に会ったことは覚えてないんだよな? どんな奴か知らないよな?」
「うん、冬夜さんのことは知らない。けど、和泉が何回か話してたことがあったよね? それを聞く度に、和泉を大事にする優しい人なんだろうなとは思ってた。そしたら家が温かかったから、やっぱりなって思ったの」
 
 和泉は色々思い出そうとしてみるが、亜姫にした冬夜の話なんて「厳しい」「容赦ない」と言った類の内容しか思い当たらない。
 
 ますます混乱した和泉を見て、亜姫は声を上げて笑った。 
「冬夜さんのことを話す時はすごく優しい顔してるもの。和泉もお兄さんのこと、すごく好きだよね。信頼してるのがよくわかる」
 
「……え?」
 和泉は人生で一番衝撃を受けた。そう思ってしまうほど、亜姫の言葉は強烈に心の扉をノックした。
 
「え? 冬夜を好き……って、いや、そんなこと思ったことない……優しいっつーより厳しいって感じだし……信頼……?
 いや、そもそも冬夜に何かを思うことなんて……」
 
 何がなんだか分からなくなって、頭の中がグチャグチャになってしまった。
 助けを求めるように、情けない顔で亜姫を見る。
 
 亜姫は優しく笑い返した。
「うちの親に会った時、冬夜さんの話をしてたでしょう? 覚えてない?」
「覚えて、る、けど………」
 
 確かに冬夜の話をした。でも、あれは亜姫の親に自分を知ってもらおうとして一晩考えて言っただけで……
 
「今の私達の年でしょう? 和泉が産まれた時の冬夜さんって。その時から、ずっと面倒見てくれてたんだよね? で、和泉が7歳の時から育ててくれてるんでしょう? しかも和泉の為にご両親を説得してまで。
 そんなこと、普通はできないと思うよ? 和泉をそれだけ大事に思ってる、何よりの証拠だよ。
 和泉も。愛情、人一倍もらってるって言ってた。
 和泉が何も感じてなければ、あんな言葉は出てこないと思う」
 
 亜姫の話に、和泉はあの時言ったことを思い返す。
 
 ──多忙で殆ど家にいない親との海外生活を日本に残る兄が頑なに反対したらしくて、俺は日本に残り17歳上の兄に育てられました。
 兄は若いですが、産まれた時からずっと面倒を見てくれていて……その辺の親よりよっぽど厳しくて、でもその分愛情も人一倍くれてます。だから……俺の最低な生き方に家の環境は関係ないと自分では思ってます──
 
「そう思えることが日常的にあった、ってことじゃないのかな?
 厳しいとか容赦ないって言うけど、冬夜さんの話をする時、和泉の表情はすごく柔らかいもの。怖がったり寂しがってるようにも見えない。
 冬夜さんに優しくされたり大事にされてるって感じること、実はいっぱいあるんじゃない?」
 
 聞いたことも考えたこともないことをこれでもかと注がれて、それに埋もれた和泉は放心状態になった。
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