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久々の触れ合い(2)

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 映画を観ながら二人寄り添って座る。
 亜姫は隙間を埋めるように和泉にもたれかかった。
 すると、頭上からフッと笑う音。「どうした?」と言いながら頭を撫でてくる和泉を、亜姫は見上げた。 
「足の間がいい……」 
 小さな声で呟くと、和泉は一瞬驚いた顔を見せたが望み通りの場所へいざなう。
 
 足の間にスッポリおさまるとお腹の前へ手が置かれ、亜姫は和泉に包み込まれた。
 そっと、その手を上からなぞる。すると和泉の手が亜姫の左手を優しく掴み、その指を絡めてまた亜姫の腹へ戻った。
 
 そのまま暫く映画を観ていた二人。
 
「いずみ」
 亜姫が呼ぶと、和泉は映画を見ながら軽い返事を返してきた。
 
「キス、して」
 
 和泉が息を止め、ゆっくりと見下ろしてくる。
 その動きを感じながら亜姫は再度口にした。 
「キス、したい」
 亜姫は後ろの和泉を見上げた。
 
 和泉は軽く目を瞠り、そのまま数秒動きを止めていた。だが、ゆっくりと顔を近づけると唇を軽く擦り合わせ、同じようにゆっくりと離れていく。
 そして、またすぐ重なる唇……
 
 は、なかった。
 
 再び重なる。いつもなら。
 しかし、こなかった二度目。 
 亜姫が目を開けると、和泉は映画に視線を戻すところだった。 
「やっぱり、いや……?」
 
 和泉が亜姫を見た。
 
「やっぱり、私、汚い……?」
 
 和泉が驚きを露わにする。
 固まる和泉に、亜姫はそのまま畳み掛けた。
「本当は、私がそばにいるのも嫌だった……?
 今、私が頼りっぱなしだから、嫌なのに我慢してくれてる……? 触りたくないって、思ってたり……」 
 そこまで言ったところで、和泉がその口に手を当てて話すのを止めた。 
 だが、亜姫はその手を外して小さく叫ぶ。 
「ずっと、キスしてない。触りたくないなら、もうはっきり言って! こんなの……」
 
 チュ。
 叫んだ口に柔らかな感触。
 大好きな香りと温もり。
 
 数秒後、ようやくキスされたと気づいた。それでもまだ呆然とする亜姫。
 
 和泉が、口元に笑みを浮かべて亜姫を見る。
「また、なんか勘違いしてんな?」
「ふぇ……?」
「毎日のようにしてるけど?」
「……え? な、にを……?」
「キス」
 
 意味がわからない。
 亜姫がポカンとして固まっていると、和泉は再び「してるよ」と笑った。
 
「う、そ……してない。だって、あの次の日に駅でして、それから一度もしてないもん……。
 今だって、一回しか……私が、他の人に触られたから、だから……」
「あぁそっか。お前、記憶ないのか」 
 和泉が「そりゃそうか」と呟きながら一人で納得していて、亜姫はますます意味がわからない。
 すると、和泉はまた笑った。 
「亜姫に話をしたことはなかったな、そう言えば。
 発作を止める方法。こうしてんだよ」
 グイッと亜姫を抱き寄せ、いつもする一連の流れを実演する和泉。
 
 呆然とし続ける亜姫をそのままに、
「何故かわかんないけど、必ずこれで落ち着きを取り戻して寝る。その後は絶対に起きない。
 でも俺が離れるとやっぱり魘されるから、ずっと俺に抱きつかせてる。
 たまに、俺も寝ちゃってる事があるんだけど。山セン達曰く……俺、大事な宝物抱えるみたいにお前のこと抱きしめて寝てるらしい」 
 ハハッと笑った和泉は、優しい目を向けた。
「嫌になるどころか、あの日からずっと触れまくってる」
 
 亜姫はポロリと涙を溢した。
 
 和泉はそれをそっと拭う。
「キス、したかったの?」
 
 亜姫は小さく頷いた。そして和泉の首元にギュウッとしがみつく。
 
「もしかして、ずっとこうしたいって思ってた?」
 和泉がからかうように言うと。
 
 亜姫は巻き付けた腕に力を込め、耳元で囁いた。
 「抱いて」
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