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高2
教官室で(3)
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「そういや、和泉はいつから亜姫を好きだったんだ? 4月? 5月? キッカケは?」
ふと、横川が聞いた。すると山本が、あっ! と声を上げる。
「そうだ、和泉! ようやく手に入れたって言ってただろ! あれ、どういうことだよ?」
「俺、亜姫に一目惚れ。入学式の翌日に」
聞いた瞬間、滅多に動じない彼らが揃って身を乗り出した。
「「入学式の翌日っ!?」」
「声がデカい。亜姫が起きちゃうだろ」
珍しい様子に和泉は笑い、付き合うまでの経緯を話した。
数分後、二人はそれぞれの椅子にもたれかかっていた。
「お前が変わりだしたのは、亜姫を好きだと自覚したからか……。おい……俺、何回も聞いたよな? 好きな子とか彼女作れとか……」
「あぁ、ごめん。そん時は自分の気持ちに全く気づいてなかった」
「なんで気づかないんだよ、絶対頭ん中にいただろーよ……もっと早く気付けよ。そしたら俺ら、あんなに苦労しなくてよかったじゃねーか」
「お前、本当に何やってんだ……」
去年を思い出したのかグッタリする二人。和泉は悪かったよと苦笑するしかない。
「お前らを見てると、運命ってあるんじゃないかって思いたくなるよ。お互い足りないものを補い合って、俺の目には二人で一対に見える。
なぁ、言いにくいことを聞くが……亜姫、ああいうことは石橋が初めて、だったのか……?」
和泉は少し逡巡して、ゆっくりと首を振った。
「夏に……俺のモノにはなってた」
和泉は無言で何か考えている様子だったが、少ししてポツポツと話し出した。
「俺、亜姫に教えてもらったんだ。体を重ねることの意味っつーか、大事さっつーか……。
亜姫は純粋の塊みたいな子だし、逆に俺はクズの塊だっただろ? そもそも体の繋がりは考えてないって、最初にちゃんと伝えてた。そこは絶対に誤解されたくなかったし、亜姫が自然に望むまで何年でもそれこそ一生でも待つつもりで。
そんなことしなくても、手を繋いだり肩寄せ合って座ったり……それだけで信じられないぐらい満たされてた」
和泉は亜姫を優しく見つめる。
「本当は、抱くのは早すぎんじゃねーかなって思ってた。もちろん、最終的には亜姫が望んだからだけど……。
なんつーか、亜姫にとって「触れる」ってすごく綺麗な行為で。その時の心を伝える大事な手段として存在してるというか、とにかく、そこにいやらしさとか性的な快楽ってのがないんだよ。
うまく言えねぇんだけど、同じ行為でも俺がしてきたのとは真逆のもので。不用意に触れたら汚しそうで壊しそうで、ちょっとしたことでも慎重にしてきた。
それまでも、散々確認してきたよ? まだ早い、勘違いしちゃ駄目だ、流されるなって。
だけどあの時、亜姫が一生懸命気持ちを伝えてくれて。それが痛いほど伝わってきて、応えてあげたくなったんだ。だったら絶対後悔させないようにしよう、って……。
抱けた時、本当にもう死んでもいいって思った。ヤれたからじゃねぇよ? 亜姫がすごく幸せそうで、それが本当に嬉しくて……幸せってこういうことかって思った。
大事にしてきたんだよ。本当に。その顔が見たくて……大切に、大切にしてきた。
あんなに怯えて、震えて泣かせるような触れ方……俺は、絶対にしない」
和泉は静かな怒りを一瞬見せたが、再び亜姫を優しく見つめる。
「あの日に亜姫を抱いといて良かったって、それだけは思う。初めて男に触れられたのがあの倉庫だなんて、そんなのあまりにも酷すぎる。
体に触れられる記憶、全部恐怖に変わっちゃったかも知れないけど……」
腕の中の亜姫を、和泉はギュッと抱え込む。
「今はそんなことはどうでもいい。日常を取り戻してやりたいよ……。いつも笑ってた亜姫を、早く返して欲しい」
泣いてるような、でも同時に怒っているような表情で和泉はそのまま黙り込んだ。
教師二人もしばらく亜姫の寝顔を眺めていたが、
「そうだな、でも焦るな。一歩進んで二歩下がる、そういう風にしか進まないぞ?」
そう言い聞かせた。
先日、野口に詰ってもらったこと。
そして今日、山本に言われた話。
それにより和泉の中で何かが変わった。
今、亜姫に必要とされている。まずはそれに全力で応えればいいと思えるようになった。
そしてこの夜、冬夜にも「心配かけてて悪い」と初めて謝った。
どこかスッキリした顔で胸の内を晒し「今まで以上に頼るから。世話になります」と言うと、冬夜は嬉しそうに笑い和泉の頭をもみくちゃに撫でた。
ふと、横川が聞いた。すると山本が、あっ! と声を上げる。
「そうだ、和泉! ようやく手に入れたって言ってただろ! あれ、どういうことだよ?」
「俺、亜姫に一目惚れ。入学式の翌日に」
聞いた瞬間、滅多に動じない彼らが揃って身を乗り出した。
「「入学式の翌日っ!?」」
「声がデカい。亜姫が起きちゃうだろ」
珍しい様子に和泉は笑い、付き合うまでの経緯を話した。
数分後、二人はそれぞれの椅子にもたれかかっていた。
「お前が変わりだしたのは、亜姫を好きだと自覚したからか……。おい……俺、何回も聞いたよな? 好きな子とか彼女作れとか……」
「あぁ、ごめん。そん時は自分の気持ちに全く気づいてなかった」
「なんで気づかないんだよ、絶対頭ん中にいただろーよ……もっと早く気付けよ。そしたら俺ら、あんなに苦労しなくてよかったじゃねーか」
「お前、本当に何やってんだ……」
去年を思い出したのかグッタリする二人。和泉は悪かったよと苦笑するしかない。
「お前らを見てると、運命ってあるんじゃないかって思いたくなるよ。お互い足りないものを補い合って、俺の目には二人で一対に見える。
なぁ、言いにくいことを聞くが……亜姫、ああいうことは石橋が初めて、だったのか……?」
和泉は少し逡巡して、ゆっくりと首を振った。
「夏に……俺のモノにはなってた」
和泉は無言で何か考えている様子だったが、少ししてポツポツと話し出した。
「俺、亜姫に教えてもらったんだ。体を重ねることの意味っつーか、大事さっつーか……。
亜姫は純粋の塊みたいな子だし、逆に俺はクズの塊だっただろ? そもそも体の繋がりは考えてないって、最初にちゃんと伝えてた。そこは絶対に誤解されたくなかったし、亜姫が自然に望むまで何年でもそれこそ一生でも待つつもりで。
そんなことしなくても、手を繋いだり肩寄せ合って座ったり……それだけで信じられないぐらい満たされてた」
和泉は亜姫を優しく見つめる。
「本当は、抱くのは早すぎんじゃねーかなって思ってた。もちろん、最終的には亜姫が望んだからだけど……。
なんつーか、亜姫にとって「触れる」ってすごく綺麗な行為で。その時の心を伝える大事な手段として存在してるというか、とにかく、そこにいやらしさとか性的な快楽ってのがないんだよ。
うまく言えねぇんだけど、同じ行為でも俺がしてきたのとは真逆のもので。不用意に触れたら汚しそうで壊しそうで、ちょっとしたことでも慎重にしてきた。
それまでも、散々確認してきたよ? まだ早い、勘違いしちゃ駄目だ、流されるなって。
だけどあの時、亜姫が一生懸命気持ちを伝えてくれて。それが痛いほど伝わってきて、応えてあげたくなったんだ。だったら絶対後悔させないようにしよう、って……。
抱けた時、本当にもう死んでもいいって思った。ヤれたからじゃねぇよ? 亜姫がすごく幸せそうで、それが本当に嬉しくて……幸せってこういうことかって思った。
大事にしてきたんだよ。本当に。その顔が見たくて……大切に、大切にしてきた。
あんなに怯えて、震えて泣かせるような触れ方……俺は、絶対にしない」
和泉は静かな怒りを一瞬見せたが、再び亜姫を優しく見つめる。
「あの日に亜姫を抱いといて良かったって、それだけは思う。初めて男に触れられたのがあの倉庫だなんて、そんなのあまりにも酷すぎる。
体に触れられる記憶、全部恐怖に変わっちゃったかも知れないけど……」
腕の中の亜姫を、和泉はギュッと抱え込む。
「今はそんなことはどうでもいい。日常を取り戻してやりたいよ……。いつも笑ってた亜姫を、早く返して欲しい」
泣いてるような、でも同時に怒っているような表情で和泉はそのまま黙り込んだ。
教師二人もしばらく亜姫の寝顔を眺めていたが、
「そうだな、でも焦るな。一歩進んで二歩下がる、そういう風にしか進まないぞ?」
そう言い聞かせた。
先日、野口に詰ってもらったこと。
そして今日、山本に言われた話。
それにより和泉の中で何かが変わった。
今、亜姫に必要とされている。まずはそれに全力で応えればいいと思えるようになった。
そしてこの夜、冬夜にも「心配かけてて悪い」と初めて謝った。
どこかスッキリした顔で胸の内を晒し「今まで以上に頼るから。世話になります」と言うと、冬夜は嬉しそうに笑い和泉の頭をもみくちゃに撫でた。
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