上 下
142 / 364
高2

教官室で(3)

しおりを挟む
「そういや、和泉はいつから亜姫を好きだったんだ? 4月? 5月? キッカケは?」
 ふと、横川が聞いた。すると山本が、あっ! と声を上げる。
「そうだ、和泉! ようやく手に入れたって言ってただろ! あれ、どういうことだよ?」 
「俺、亜姫に一目惚れ。入学式の翌日に」
 
 聞いた瞬間、滅多に動じない彼らが揃って身を乗り出した。
「「入学式の翌日っ!?」」 
「声がデカい。亜姫が起きちゃうだろ」
 珍しい様子に和泉は笑い、付き合うまでの経緯を話した。
  
 数分後、二人はそれぞれの椅子にもたれかかっていた。
「お前が変わりだしたのは、亜姫を好きだと自覚したからか……。おい……俺、何回も聞いたよな? 好きな子とか彼女作れとか……」
「あぁ、ごめん。そん時は自分の気持ちに全く気づいてなかった」
「なんで気づかないんだよ、絶対頭ん中にいただろーよ……もっと早く気付けよ。そしたら俺ら、あんなに苦労しなくてよかったじゃねーか」
「お前、本当に何やってんだ……」 
 去年を思い出したのかグッタリする二人。和泉は悪かったよと苦笑するしかない。
 
「お前らを見てると、運命ってあるんじゃないかって思いたくなるよ。お互い足りないものを補い合って、俺の目には二人で一対に見える。
 なぁ、言いにくいことを聞くが……亜姫、ああいうことは石橋が初めて、だったのか……?」
 
 和泉は少し逡巡して、ゆっくりと首を振った。
「夏に……俺のモノにはなってた」
 
 和泉は無言で何か考えている様子だったが、少ししてポツポツと話し出した。 
「俺、亜姫に教えてもらったんだ。体を重ねることの意味っつーか、大事さっつーか……。
 亜姫は純粋の塊みたいな子だし、逆に俺はクズの塊だっただろ? そもそも体の繋がりは考えてないって、最初にちゃんと伝えてた。そこは絶対に誤解されたくなかったし、亜姫が自然に望むまで何年でもそれこそ一生でも待つつもりで。
 そんなことしなくても、手を繋いだり肩寄せ合って座ったり……それだけで信じられないぐらい満たされてた」
 
 和泉は亜姫を優しく見つめる。
 
「本当は、抱くのは早すぎんじゃねーかなって思ってた。もちろん、最終的には亜姫が望んだからだけど……。
 なんつーか、亜姫にとって「触れる」ってすごく綺麗な行為で。その時の心を伝える大事な手段として存在してるというか、とにかく、そこにいやらしさとか性的な快楽ってのがないんだよ。
 うまく言えねぇんだけど、同じ行為でも俺がしてきたのとは真逆のもので。不用意に触れたら汚しそうで壊しそうで、ちょっとしたことでも慎重にしてきた。
 それまでも、散々確認してきたよ? まだ早い、勘違いしちゃ駄目だ、流されるなって。
 だけどあの時、亜姫が一生懸命気持ちを伝えてくれて。それが痛いほど伝わってきて、応えてあげたくなったんだ。だったら絶対後悔させないようにしよう、って……。
 抱けた時、本当にもう死んでもいいって思った。ヤれたからじゃねぇよ? 亜姫がすごく幸せそうで、それが本当に嬉しくて……幸せってこういうことかって思った。
 大事にしてきたんだよ。本当に。その顔が見たくて……大切に、大切にしてきた。
 あんなに怯えて、震えて泣かせるような触れ方……俺は、絶対にしない」
 
 和泉は静かな怒りを一瞬見せたが、再び亜姫を優しく見つめる。
 
「あの日に亜姫を抱いといて良かったって、それだけは思う。初めて男に触れられたのがあの倉庫だなんて、そんなのあまりにも酷すぎる。
 体に触れられる記憶、全部恐怖に変わっちゃったかも知れないけど……」 
 腕の中の亜姫を、和泉はギュッと抱え込む。 
「今はそんなことはどうでもいい。日常を取り戻してやりたいよ……。いつも笑ってた亜姫を、早く返して欲しい」 
 泣いてるような、でも同時に怒っているような表情で和泉はそのまま黙り込んだ。
 
 教師二人もしばらく亜姫の寝顔を眺めていたが、
「そうだな、でも焦るな。一歩進んで二歩下がる、そういう風にしか進まないぞ?」
 そう言い聞かせた。
 
 
 先日、野口に詰ってもらったこと。
 そして今日、山本に言われた話。 
 それにより和泉の中で何かが変わった。
 今、亜姫に必要とされている。まずはそれに全力で応えればいいと思えるようになった。
 
 そしてこの夜、冬夜にも「心配かけてて悪い」と初めて謝った。
 どこかスッキリした顔で胸の内を晒し「今まで以上に頼るから。世話になります」と言うと、冬夜は嬉しそうに笑い和泉の頭をもみくちゃに撫でた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...