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高2
登校(3)
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二人は到着した電車の前に立った。今だ車内は満員。普段なら無理して体を押し込み、またその後ろからも押されて車内に溶け込むところだ。
亜姫の足が震える。後ずさりしたくなった時、扉が開いた。
と、和泉が亜姫の肩に手を添えたまま車内へ乗り込む。そこから口の動きで「おいで」と言われ、意を決して踏み込んだ。
途端、視界が遮られ嗅ぎ慣れた和泉の香りに包まれる。大好きな和泉の匂い。と同時に、亜姫の足は和泉とバッグに挟み込まれた。
頭から腰までも長い手に囲われ、視界は和泉の制服で遮られる。そして頭の上にも和泉の顔が乗り、「まずは一駅、頑張ろうな」と優しい言葉が降りてきた。
和泉に守られていると実感できて、安心する。
亜姫は消えない恐怖をこらえて和泉にしがみつき、上から降ってくる「大丈夫だから」「ゆっくり呼吸しろ」という囁き声に従った。
そして、意外にも三駅先まで辿り着く。
だが緊張していた亜姫の体は思うように動かず、和泉が抱えるように外へ出てそのままベンチへ座らせた。
体は震え、顔色も悪い。だが、亜姫はどうにか学校まで行きたかった。
和泉はそれを尊重し、「まずは休んでから」と自身も椅子に腰かけた。
「どうだった? ……怖かった?」
和泉が優しく問いかける。
「うん。でも、あれなら頑張れるかも……」
すると、和泉は褒められた子供のように喜んだ。
「俺、あれならいつでもアリ!
お前の状況忘れて、たわけじゃ無いんだけど……ごめん、それそっちのけで浮かれまくってた。
亜姫がああやって甘えてくるの、嬉し過ぎる。これに関しては、石橋に感謝してもいいかも!」
それを見て、亜姫の心は軽くなった。
和泉はいつもこうだ。
亜姫は自分のことになると考え過ぎてしまい、自分が希望したことでもいつの間にか「こうしなければいけない」と義務のように考えてしまう。そして出来なかった時は自分を責める方向に考えがちだ。今日だってそうだ。
でも、和泉は「そうじゃないよ」と簡単に言って気づかせてくれる。
学校まで行かなければと固まれば「一歩だけ頑張れ」と言い、それが出来たと褒めてくれる。
電車に乗らないと……と思い詰めれば、さっきのような方法でここまで連れてくる。
動けなくなってる今を内心情けないと思っている亜姫に、慰めも心配もせず、ただあの状態が嬉しすぎると喜ぶ。
良くも悪くもなく、ありのままでいいんだと思わせてくれる。
亜姫の事を「人の気持ちばかり慮る」と言う和泉こそ、気持ちに自然と寄り添える人だと思う。常につまらなそうだったにも関わらず人に囲まれてきたのは、そういう彼に惹かれる人が多いからだろう。
そして亜姫は、和泉のそんなところが大好きだ。
亜姫は変化が嫌だと言ったけれど、この登校手段は嬉しいと思った。そして電車に乗っている時、実は自分も嬉しくて幸せを感じていた。
それらはしばらく内緒にしておこうと、和泉の笑顔を見ながら亜姫は思った。
亜姫の足が震える。後ずさりしたくなった時、扉が開いた。
と、和泉が亜姫の肩に手を添えたまま車内へ乗り込む。そこから口の動きで「おいで」と言われ、意を決して踏み込んだ。
途端、視界が遮られ嗅ぎ慣れた和泉の香りに包まれる。大好きな和泉の匂い。と同時に、亜姫の足は和泉とバッグに挟み込まれた。
頭から腰までも長い手に囲われ、視界は和泉の制服で遮られる。そして頭の上にも和泉の顔が乗り、「まずは一駅、頑張ろうな」と優しい言葉が降りてきた。
和泉に守られていると実感できて、安心する。
亜姫は消えない恐怖をこらえて和泉にしがみつき、上から降ってくる「大丈夫だから」「ゆっくり呼吸しろ」という囁き声に従った。
そして、意外にも三駅先まで辿り着く。
だが緊張していた亜姫の体は思うように動かず、和泉が抱えるように外へ出てそのままベンチへ座らせた。
体は震え、顔色も悪い。だが、亜姫はどうにか学校まで行きたかった。
和泉はそれを尊重し、「まずは休んでから」と自身も椅子に腰かけた。
「どうだった? ……怖かった?」
和泉が優しく問いかける。
「うん。でも、あれなら頑張れるかも……」
すると、和泉は褒められた子供のように喜んだ。
「俺、あれならいつでもアリ!
お前の状況忘れて、たわけじゃ無いんだけど……ごめん、それそっちのけで浮かれまくってた。
亜姫がああやって甘えてくるの、嬉し過ぎる。これに関しては、石橋に感謝してもいいかも!」
それを見て、亜姫の心は軽くなった。
和泉はいつもこうだ。
亜姫は自分のことになると考え過ぎてしまい、自分が希望したことでもいつの間にか「こうしなければいけない」と義務のように考えてしまう。そして出来なかった時は自分を責める方向に考えがちだ。今日だってそうだ。
でも、和泉は「そうじゃないよ」と簡単に言って気づかせてくれる。
学校まで行かなければと固まれば「一歩だけ頑張れ」と言い、それが出来たと褒めてくれる。
電車に乗らないと……と思い詰めれば、さっきのような方法でここまで連れてくる。
動けなくなってる今を内心情けないと思っている亜姫に、慰めも心配もせず、ただあの状態が嬉しすぎると喜ぶ。
良くも悪くもなく、ありのままでいいんだと思わせてくれる。
亜姫の事を「人の気持ちばかり慮る」と言う和泉こそ、気持ちに自然と寄り添える人だと思う。常につまらなそうだったにも関わらず人に囲まれてきたのは、そういう彼に惹かれる人が多いからだろう。
そして亜姫は、和泉のそんなところが大好きだ。
亜姫は変化が嫌だと言ったけれど、この登校手段は嬉しいと思った。そして電車に乗っている時、実は自分も嬉しくて幸せを感じていた。
それらはしばらく内緒にしておこうと、和泉の笑顔を見ながら亜姫は思った。
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