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高2
翌日(3)
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「亜姫!」
和泉は立ち上がり、閉まりそうな扉を勢いよく開ける。
そこには、制服のスカートとキャミソールを身につけた亜姫が立っていた。
「──なんだ。全然汚なくないじゃん。あんな言い方するからどれだけ酷いことになってるのかと思った。でも、昨日と何も変わらない」
何でもない事のように和泉は言った。
実際、和泉にとっては亜姫に会うことさえ叶えば、全ては些細なことだった。
「うそ。こんなの、見てられないでしょう……」
和泉は涙ぐむ亜姫の手を取る。
「この赤いのは、確かに痛そうで見てられない。
これ……風呂で擦って出来た傷?」
亜姫は頷く。
「全然落ちないから……」
足の方は殆どわからないが、首から下の肩や腕、デコルテ部分は擦過傷で真っ赤に腫れ上がり、血も滲んで痛々しい。昨日触られたところをひたすら擦っていたのだろう。
「どれだけ擦ったんだよ。血が出てるじゃん」
和泉は亜姫の背中側までぐるりと確認する。
「これ、服の下も同じ状態?」
再び頷く亜姫の真っ赤な二の腕を、和泉はそうっと撫でた。
「痛いだろ……傷だらけじゃん」
けれど亜姫は首を振る。
「痛くない。汚いからあんまり見ないで……」
倉庫での擦り傷に上書きした首の跡、それと新たに出来た真っ赤な傷。それ以外に目立つような傷や痣は見当たらない。亜姫が何を汚いと言うのか、和泉には本当にわからない。
それをそのまま伝えると、亜姫はとうとう泣き出した。
「うそ。こんなにシミだらけなのに……そんなわけない。
ねぇ、正直に言って。今の私を見てどう思う? 見る人に不快感、与えない……?」
泣きながら訴えられ、和泉は正直に答えた。
「いや本当に、シミっていうのが何なのか全然わからない。どこにあるの? 昨日は見当たらなかったから新しくできてるんだよな?
新しいのは……この赤い傷しか俺には見えない。それ以外は普通に綺麗だけど?
それより、やっと亜姫の顔を見られて……思いがけずキャミ姿まで拝めたことにかなり浮かれている」
沈黙が空間を包む。
「………は?」
「……え? どう思うか正直にって言うから答えたんだけど?」
「……変態……」
「なんでだよ。ようやく亜姫に会えたってだけで浮かれるのに、制服着てると思ってたらそんな格好で出てくるんだもん。そりゃダブルでテンション上がるだろ? 健全男子の思考じゃん。下は制服ってのがまた着替え途中っぽくて……」
最後まで言わないうちに亜姫が怒鳴り声をかぶせてきた。
「変態! そんなこと聞いてない! 私は汚いのをどう思うか聞いてるの!」
「だから汚いとこなんかどこにも無いんだって。何を気にしてんのか知らないけど、普通に綺麗だって言ったろ? シミなんか一つも見当たらねぇよ。
正直に言えっつったのはお前なのになんで怒るんだよ」
「バカッ! もういい! 和泉に聞いたのが間違いだった! もう! 出てってよ!」
和泉は体半分を洗面所に入れていたのだが怒った亜姫に突き飛ばされ、目の前で扉を閉められた。ガチャッとかかる鍵音に和泉は焦る。
「おい、だから俺もそっちに入れろって!」
「着替え中! 終わったら出るから入ってこないで! バカ! 変態!」
扉の向こうで叫んだ亜姫は、そのあともなんだかぷりぷりしている。
すぐに出てくると聞き、和泉は安堵する。そして後ろを振り返り、「…………………あ」と声を漏らして固まった。
そこには。
またもや忘れ去っていた亜姫の両親が、揃って和泉を見ていた。
和泉は立ち上がり、閉まりそうな扉を勢いよく開ける。
そこには、制服のスカートとキャミソールを身につけた亜姫が立っていた。
「──なんだ。全然汚なくないじゃん。あんな言い方するからどれだけ酷いことになってるのかと思った。でも、昨日と何も変わらない」
何でもない事のように和泉は言った。
実際、和泉にとっては亜姫に会うことさえ叶えば、全ては些細なことだった。
「うそ。こんなの、見てられないでしょう……」
和泉は涙ぐむ亜姫の手を取る。
「この赤いのは、確かに痛そうで見てられない。
これ……風呂で擦って出来た傷?」
亜姫は頷く。
「全然落ちないから……」
足の方は殆どわからないが、首から下の肩や腕、デコルテ部分は擦過傷で真っ赤に腫れ上がり、血も滲んで痛々しい。昨日触られたところをひたすら擦っていたのだろう。
「どれだけ擦ったんだよ。血が出てるじゃん」
和泉は亜姫の背中側までぐるりと確認する。
「これ、服の下も同じ状態?」
再び頷く亜姫の真っ赤な二の腕を、和泉はそうっと撫でた。
「痛いだろ……傷だらけじゃん」
けれど亜姫は首を振る。
「痛くない。汚いからあんまり見ないで……」
倉庫での擦り傷に上書きした首の跡、それと新たに出来た真っ赤な傷。それ以外に目立つような傷や痣は見当たらない。亜姫が何を汚いと言うのか、和泉には本当にわからない。
それをそのまま伝えると、亜姫はとうとう泣き出した。
「うそ。こんなにシミだらけなのに……そんなわけない。
ねぇ、正直に言って。今の私を見てどう思う? 見る人に不快感、与えない……?」
泣きながら訴えられ、和泉は正直に答えた。
「いや本当に、シミっていうのが何なのか全然わからない。どこにあるの? 昨日は見当たらなかったから新しくできてるんだよな?
新しいのは……この赤い傷しか俺には見えない。それ以外は普通に綺麗だけど?
それより、やっと亜姫の顔を見られて……思いがけずキャミ姿まで拝めたことにかなり浮かれている」
沈黙が空間を包む。
「………は?」
「……え? どう思うか正直にって言うから答えたんだけど?」
「……変態……」
「なんでだよ。ようやく亜姫に会えたってだけで浮かれるのに、制服着てると思ってたらそんな格好で出てくるんだもん。そりゃダブルでテンション上がるだろ? 健全男子の思考じゃん。下は制服ってのがまた着替え途中っぽくて……」
最後まで言わないうちに亜姫が怒鳴り声をかぶせてきた。
「変態! そんなこと聞いてない! 私は汚いのをどう思うか聞いてるの!」
「だから汚いとこなんかどこにも無いんだって。何を気にしてんのか知らないけど、普通に綺麗だって言ったろ? シミなんか一つも見当たらねぇよ。
正直に言えっつったのはお前なのになんで怒るんだよ」
「バカッ! もういい! 和泉に聞いたのが間違いだった! もう! 出てってよ!」
和泉は体半分を洗面所に入れていたのだが怒った亜姫に突き飛ばされ、目の前で扉を閉められた。ガチャッとかかる鍵音に和泉は焦る。
「おい、だから俺もそっちに入れろって!」
「着替え中! 終わったら出るから入ってこないで! バカ! 変態!」
扉の向こうで叫んだ亜姫は、そのあともなんだかぷりぷりしている。
すぐに出てくると聞き、和泉は安堵する。そして後ろを振り返り、「…………………あ」と声を漏らして固まった。
そこには。
またもや忘れ去っていた亜姫の両親が、揃って和泉を見ていた。
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