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高2
事件(3)
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和泉が保健室に入ると、綾子が険しい顔で待っていた。指示されるままベッドへ運ぶ。
「寝かせたら、外に出ていなさい」
「俺もここにいる」
「駄目。体の状態を見るから」
「……ここにいる」
「和泉!!」
綾子が怒鳴る。
「……状況わかってんの、俺だけなんだ。説明させて。頼む……そばにいさせて……」
和泉は頑として譲らなかった。
綾子は和泉を睨みつけたまま数秒黙っていたが、やがて小さく溜息をつく。
「次に言われた時は、必ず出なさいよ」
和泉は頷いて、まず背中の傷を確認してくれと頼んだ。
亜姫を縦抱きにしてジャージをめくると、綾子の顔が歪む。深く擦れたような傷が背中一面に広がっているらしい。濡れタオルを手に入ってきた麗華も、傷を見て顔を歪めた。
「滅多に使わない倉庫だったから……汚れが酷いわね。でも、服の中までこんなに傷ついちゃうなんて……」
そこまで言って綾子がハッとする。
意味を理解してない麗華だけが、不安そうに二人の顔を見た。
和泉は小さな声で言う。
「……直接……床に擦れたからな」
綾子は眉間の皺を深くしただけで、何も言わなかった。
「え……?………和泉……ねぇ、それどういう」
「麗華。傷と汚れ、見てもらいたい」
麗華の話は聞かず、和泉が服を更にめくり両脇腹を見せると、麗華が息を吞む。
「和泉……どうして……? ねぇ、どうしてこんなところを見なきゃいけな」
「いいから。傷、ある?」
「ねぇ和泉!」
叫ぶ麗華に、和泉は思わず声を荒げてしまう。
「っいいから言われた通りに見ろよ! ちょっと黙ってろ!」
ビクッとした麗華は涙目になりながら確認する。
幸い、脇腹には汚れと軽い擦り傷だけだった。
………のしかかられて、動けなかったことが幸いしたか……。
嬉しくない事実に、面白くもないのに小さな笑いが漏れた。
先程まで、カーテンの向こうではヒロ達の穏やかな声が聞こえていた。二人は亜姫の状態を見てないはずだ。助けるのは間に合ったと思っていたのだろう。
しかし、今は話を止めてこちらの様子を伺っている。
手足にも擦り傷や切り傷があり、麗華に汚れを拭いてもらう。和泉も首回りを拭くためにファスナーを下げ、亜姫の顔を少し仰け反らせた。
………………………………。
倉庫では気づかなかった、首まわりの有り得ない痣。
和泉は息を吸うのを忘れた。湧き出る怒りを抑えながら、首筋をそっと撫でる。
そんな和泉をじっと見つめる麗華に気づき、慌てて止めていた息を吐く。
爆発しそうな怒りを今は出さないように。もの言いたげな麗華の視線に気付かないフリをして、痣を隠すようにファスナーを引き上げた。
厳しい顔をして処置を続けている綾子と半泣きの麗華。
その顔を見ながら和泉は「あのさ」と切り出した。目を合わせたら一緒に顔を歪ませてしまいそうで、それを誤魔化すように俯く。
「亜姫、起きたら……着替えるだろ? その時……さりげなくお願いしたいんだけど。ここ」
和泉は胸元を指差した。
「下着、ちゃんと着けられてるか……あと、汚れ。確認してあげて」
麗華の顔がくしゃりと歪む。
「……なんで? ねぇ、どうしてそんなこと言うの?」
外からも、ヒロの「お前、なにを言って……」という声が聞こえる。
麗華が泣き始め、
「何があったの……? 何も、無かったんじゃ……ないの?」
と説明を求めて詰め寄ってきた。
和泉はもう感情をコントロール出来なかった。
「うるせぇ! 黙ってろっつっただろ!!
今は、なんも言うな。少し……黙ってて」
その後、綾子に亜姫を任せると和泉はカーテンの外へ出た。
「寝かせたら、外に出ていなさい」
「俺もここにいる」
「駄目。体の状態を見るから」
「……ここにいる」
「和泉!!」
綾子が怒鳴る。
「……状況わかってんの、俺だけなんだ。説明させて。頼む……そばにいさせて……」
和泉は頑として譲らなかった。
綾子は和泉を睨みつけたまま数秒黙っていたが、やがて小さく溜息をつく。
「次に言われた時は、必ず出なさいよ」
和泉は頷いて、まず背中の傷を確認してくれと頼んだ。
亜姫を縦抱きにしてジャージをめくると、綾子の顔が歪む。深く擦れたような傷が背中一面に広がっているらしい。濡れタオルを手に入ってきた麗華も、傷を見て顔を歪めた。
「滅多に使わない倉庫だったから……汚れが酷いわね。でも、服の中までこんなに傷ついちゃうなんて……」
そこまで言って綾子がハッとする。
意味を理解してない麗華だけが、不安そうに二人の顔を見た。
和泉は小さな声で言う。
「……直接……床に擦れたからな」
綾子は眉間の皺を深くしただけで、何も言わなかった。
「え……?………和泉……ねぇ、それどういう」
「麗華。傷と汚れ、見てもらいたい」
麗華の話は聞かず、和泉が服を更にめくり両脇腹を見せると、麗華が息を吞む。
「和泉……どうして……? ねぇ、どうしてこんなところを見なきゃいけな」
「いいから。傷、ある?」
「ねぇ和泉!」
叫ぶ麗華に、和泉は思わず声を荒げてしまう。
「っいいから言われた通りに見ろよ! ちょっと黙ってろ!」
ビクッとした麗華は涙目になりながら確認する。
幸い、脇腹には汚れと軽い擦り傷だけだった。
………のしかかられて、動けなかったことが幸いしたか……。
嬉しくない事実に、面白くもないのに小さな笑いが漏れた。
先程まで、カーテンの向こうではヒロ達の穏やかな声が聞こえていた。二人は亜姫の状態を見てないはずだ。助けるのは間に合ったと思っていたのだろう。
しかし、今は話を止めてこちらの様子を伺っている。
手足にも擦り傷や切り傷があり、麗華に汚れを拭いてもらう。和泉も首回りを拭くためにファスナーを下げ、亜姫の顔を少し仰け反らせた。
………………………………。
倉庫では気づかなかった、首まわりの有り得ない痣。
和泉は息を吸うのを忘れた。湧き出る怒りを抑えながら、首筋をそっと撫でる。
そんな和泉をじっと見つめる麗華に気づき、慌てて止めていた息を吐く。
爆発しそうな怒りを今は出さないように。もの言いたげな麗華の視線に気付かないフリをして、痣を隠すようにファスナーを引き上げた。
厳しい顔をして処置を続けている綾子と半泣きの麗華。
その顔を見ながら和泉は「あのさ」と切り出した。目を合わせたら一緒に顔を歪ませてしまいそうで、それを誤魔化すように俯く。
「亜姫、起きたら……着替えるだろ? その時……さりげなくお願いしたいんだけど。ここ」
和泉は胸元を指差した。
「下着、ちゃんと着けられてるか……あと、汚れ。確認してあげて」
麗華の顔がくしゃりと歪む。
「……なんで? ねぇ、どうしてそんなこと言うの?」
外からも、ヒロの「お前、なにを言って……」という声が聞こえる。
麗華が泣き始め、
「何があったの……? 何も、無かったんじゃ……ないの?」
と説明を求めて詰め寄ってきた。
和泉はもう感情をコントロール出来なかった。
「うるせぇ! 黙ってろっつっただろ!!
今は、なんも言うな。少し……黙ってて」
その後、綾子に亜姫を任せると和泉はカーテンの外へ出た。
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