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高2
事件(1)
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その日の夕方、亜姫と麗華はそれぞれ委員会の作業をしていた。二人で教室へ戻ることにしていたが、いつもと違い亜姫の方が早く終わってしまう。
「帰らないの?」
同じ委員の友人に言われ、亜姫は迷ったが彼女と共にそこを出た。
和泉を呼ぶにしろ麗華を待つにしろ、そこに残れば一人で待つことになる。それなら出たほうがいい、と判断したから。
麗華には「勝手に動くな」と強く言われていた。だが今まで石橋に会ったのは、明るい時間帯。そして特別教室などがある、ひとけがない校舎を歩いていた時だけ。
今いる校舎は普段から人が多く、一人になることも石橋と出会うこともなかった。
それらが亜姫を油断させた。
麗華へ「先に行く」とメールして、階段を降りる。友人とは2階で分かれた。亜姫の教室は1階に降りてすぐのところだ。
こんな時間に、しかも階段を降りるだけ。彼と出会うことはないだろう。
階段を下りてすぐ左、そこで和泉が待っている。連絡しようか一瞬迷い、携帯を出しかけた。だがその間に戻れると思い直して階段を駆け下りる。
暗くなった校舎はなんだか寂しい。階段の明るさにホッとしながら、最後の一段を降りて左を向いた時。
後ろから手首を掴まれ、強く引かれた。同時に口を塞がれ、胸の下に太く大きな腕が絡まる。
そこは灯りが消された場所、視界が一瞬黒に染まった。
何が起きたのか。理解する前に、
「なかなか一人にならないからさぁ。……やーっとつかまえた」
くすくす笑う声が耳元で聞こえた。
石橋、先輩……。
全身がぞわりと泡立った。
強い力で体を持ち上げられ、両足を掬いあげられる。
ここは校舎の端、目の前は昇降口。今立つ場所はその右側で、奥外へ通じる小さなドアの外。
生徒達は殆どおらず、そこから先は電気も消えている。扉の窓から入る薄明かりで、自分の足を抱える安達の顔が見えた。
二人がかりで身体を抑えられ、亜姫はろくに抵抗も出来ぬまま連れ去られた。
校庭にあるプールの脇、他より少し奥まったところにある古い倉庫。もう使われておらず、普段は外から施錠されている。学校の最端にあり、周りは林に囲まれた場所。そこに用が無い限り、人が近づく事はまずない。
薄暗い倉庫の入口で、加藤が扉を開き待ち構えていた。
汚い床の上。
仰向けにされた体の上に石橋が覆い被さり、身動きがとれない。両手は頭上で安達に押さえつけられた。
亜姫は恐怖で声が出ない。
「声を出しても無駄だよ。ドアを閉めたら外からは見えないし、ここの音は向こうまで聞こえない。
ここは定期的に点検されてんだけど、先週したばっかだから当分誰も来ない。鍵穴が壊れてて外からは開けられないんだ。外の南京錠さえ外せれば、内鍵したら密室。穴場だろ?
ここなら、誰にも邪魔されずに……試せるよ?」
場にそぐわない爽やかさで石橋は語る。
「……いや……やめて下さ……」
亜姫は震える声でなんとか言葉を紡ぐが、小さな声しか出なかった。
「だからそんなに怯えんなって。俺は優しいって言っただろ? 実際にしてみれば俺の良さが分かるから」
首筋に顔を埋められ、這い回る感触が気持ち悪くてしかたがない。
だが、泣いても暴れてものしかかられた体はビクともしなかった。
「和泉は、男を知らないお前がが珍しかっただけだ。でも、ここで一晩過ごしたら穢れちゃうよな。
汚れて傷物になった亜姫を和泉はもう必要としねーよ? 次にも困らないし、今までの女と同じように飽きて捨てられるだけ。
でも……俺は捨てない。亜姫……これで、やっとお前に触れられる。……もう、お前は俺のもんだ」
不快感と恐怖心だけがどんどん増していく。
必死で抵抗してるつもりなのに力の差は歴然で。
服の上を這い回っていた手が中に入り込んできて、肌をまさぐる感覚に体が震える。
「加藤、見てねーで早くドア閉めろ。 閉めたらすぐ録り始めろよ?」
「隅々まで全部撮ってやるから。いい声で鳴けよ?」
録画して和泉に見せてやる。石橋は楽しげにそう囁いた。
触られた場所の感覚が麻痺する。自分が何をされているのかよくわからない。
絶望が全身を覆い尽くすような気がした時、ふと体から重さが消え、一瞬視界が明るくなった。
と、すぐに誰かがまた覆い被さってきて。
そこで亜姫の思考は止まった。
「帰らないの?」
同じ委員の友人に言われ、亜姫は迷ったが彼女と共にそこを出た。
和泉を呼ぶにしろ麗華を待つにしろ、そこに残れば一人で待つことになる。それなら出たほうがいい、と判断したから。
麗華には「勝手に動くな」と強く言われていた。だが今まで石橋に会ったのは、明るい時間帯。そして特別教室などがある、ひとけがない校舎を歩いていた時だけ。
今いる校舎は普段から人が多く、一人になることも石橋と出会うこともなかった。
それらが亜姫を油断させた。
麗華へ「先に行く」とメールして、階段を降りる。友人とは2階で分かれた。亜姫の教室は1階に降りてすぐのところだ。
こんな時間に、しかも階段を降りるだけ。彼と出会うことはないだろう。
階段を下りてすぐ左、そこで和泉が待っている。連絡しようか一瞬迷い、携帯を出しかけた。だがその間に戻れると思い直して階段を駆け下りる。
暗くなった校舎はなんだか寂しい。階段の明るさにホッとしながら、最後の一段を降りて左を向いた時。
後ろから手首を掴まれ、強く引かれた。同時に口を塞がれ、胸の下に太く大きな腕が絡まる。
そこは灯りが消された場所、視界が一瞬黒に染まった。
何が起きたのか。理解する前に、
「なかなか一人にならないからさぁ。……やーっとつかまえた」
くすくす笑う声が耳元で聞こえた。
石橋、先輩……。
全身がぞわりと泡立った。
強い力で体を持ち上げられ、両足を掬いあげられる。
ここは校舎の端、目の前は昇降口。今立つ場所はその右側で、奥外へ通じる小さなドアの外。
生徒達は殆どおらず、そこから先は電気も消えている。扉の窓から入る薄明かりで、自分の足を抱える安達の顔が見えた。
二人がかりで身体を抑えられ、亜姫はろくに抵抗も出来ぬまま連れ去られた。
校庭にあるプールの脇、他より少し奥まったところにある古い倉庫。もう使われておらず、普段は外から施錠されている。学校の最端にあり、周りは林に囲まれた場所。そこに用が無い限り、人が近づく事はまずない。
薄暗い倉庫の入口で、加藤が扉を開き待ち構えていた。
汚い床の上。
仰向けにされた体の上に石橋が覆い被さり、身動きがとれない。両手は頭上で安達に押さえつけられた。
亜姫は恐怖で声が出ない。
「声を出しても無駄だよ。ドアを閉めたら外からは見えないし、ここの音は向こうまで聞こえない。
ここは定期的に点検されてんだけど、先週したばっかだから当分誰も来ない。鍵穴が壊れてて外からは開けられないんだ。外の南京錠さえ外せれば、内鍵したら密室。穴場だろ?
ここなら、誰にも邪魔されずに……試せるよ?」
場にそぐわない爽やかさで石橋は語る。
「……いや……やめて下さ……」
亜姫は震える声でなんとか言葉を紡ぐが、小さな声しか出なかった。
「だからそんなに怯えんなって。俺は優しいって言っただろ? 実際にしてみれば俺の良さが分かるから」
首筋に顔を埋められ、這い回る感触が気持ち悪くてしかたがない。
だが、泣いても暴れてものしかかられた体はビクともしなかった。
「和泉は、男を知らないお前がが珍しかっただけだ。でも、ここで一晩過ごしたら穢れちゃうよな。
汚れて傷物になった亜姫を和泉はもう必要としねーよ? 次にも困らないし、今までの女と同じように飽きて捨てられるだけ。
でも……俺は捨てない。亜姫……これで、やっとお前に触れられる。……もう、お前は俺のもんだ」
不快感と恐怖心だけがどんどん増していく。
必死で抵抗してるつもりなのに力の差は歴然で。
服の上を這い回っていた手が中に入り込んできて、肌をまさぐる感覚に体が震える。
「加藤、見てねーで早くドア閉めろ。 閉めたらすぐ録り始めろよ?」
「隅々まで全部撮ってやるから。いい声で鳴けよ?」
録画して和泉に見せてやる。石橋は楽しげにそう囁いた。
触られた場所の感覚が麻痺する。自分が何をされているのかよくわからない。
絶望が全身を覆い尽くすような気がした時、ふと体から重さが消え、一瞬視界が明るくなった。
と、すぐに誰かがまた覆い被さってきて。
そこで亜姫の思考は止まった。
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