【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

文字の大きさ
上 下
101 / 364
高2

文化祭(18)

しおりを挟む
 そして翌朝。 
 亜姫は再びメイド服を着てヘアメイクをされていた。
 
「で、今日はどーするの?」 
 麗華の問いに、亜姫は言葉を詰まらせる。 
「……もちろん、接客する。昨日も楽しか……」
「そうじゃないでしょ。誤魔化すんじゃないの」 
 麗華にひと睨みされ、亜姫はう……と呻いた。 
「しっかし、昨日は見ものだったよねー!」
 横から沙世莉の笑い声が響いた。
  
 昨日、教室に戻ってから。 
 再開を待ちわびていた客で、店はあっという間に忙しくなった。
 亜姫はどんな相手にも笑顔を絶やさず楽しそうに接客する為、注文以外の声も多くかかる。しかし男性客が気のある素振りや下心を見せる度、亜姫には見えない立ち位置から和泉が威嚇。
 
 明らかに亜姫を狙う男性客の干渉等はあからさまに遮り、挙句の果てにこうぬかした。
「私の専属メイドになにか?」

 客の相手をしていた亜姫が、その言葉に啞然として固まる。すると、不機嫌丸出しだった和泉が彼女にだけ蕩けた笑顔を向けた。
 思わぬ不意打ちに亜姫はうろたえ、赤面してしどろもどろな接客になってしまう。 
 そんなことを繰り返す二人に見惚れる客が後を立たず、『無愛想なイケメン執事と、彼が唯一溺愛するメイドの可愛い姿』がこの店の一つのウリになってしまっていた。
 
「仕事中なのに、亜姫に近付く輩を片っ端から牽制しまくるなんて呆れるわよ。そもそも、一番やらかした自分はまだ許されてもいないっていうのに」
「でも、だいぶ反省してんでしょ? いつもみたいに張りつかず、番犬よろしくいい子でそばに控えてるじゃない。亜姫に触れないように必死で我慢してるよね、あれ。感心感心」
「まぁ、それはそうね。それに亜姫の方へ気がいってるせいか、なんだかんだ嫌がらずに仕事してるし、あんた達二人のおかげで集客力も更に増したし、見てる分には面白いし? あの対応なら言うことはないわ。
 で? 昼は昨日のやり直しするんでしょ?」
「うっ、いや、それは……」
 
 亜姫は言い淀む。正直、昨日ほどの怒りはない。和泉は終始気遣いを見せてくれたし誤解もとけている。     
 しかし、そう簡単には切り替えられない感情や気になることがあるのも確かで……。だから、二人きりになることを亜姫は躊躇していた。
 
「あはは、滅多に怒らないない子がいざ怒ると大変だ。まぁ、好きにしたら? 怒ったままでもなんでもいいって言われてんでしょ? たまには振り回したらいいじゃない。
 でも、ちゃんと行きな。文化祭は明日までなんだから意地張ってたら終わっちゃうよ? 和泉なりに償おうとしてるのはわかってるんでしょ?
 せっかくリセットしてもらったんだから、ジンクスをちゃんと叶えてきなよ。ね?」
 
 沙世莉に背中を押されて、休憩に入った亜姫は和泉の前に立った。しかし気持ちの整理はつかないままだ。
 
「着替えなくていーの?」
「時間ないから。このままでいい」 
 可愛げのない亜姫の態度に和泉はフッと口元を和らげた。 
「今日もすごく可愛い。手、繋いでもいい?」
「っ、知らない……っ」
 
 プイっと横を向いた亜姫の横に立ち、和泉は恐る恐ると行った様子で亜姫の指先に触れた。 
 ピクッと動いた亜姫の手が引っ込まないのを確認すると、和泉はその指先を遠慮がちに数本だけ握る。そして、それを軽く引きながらゆっくりと歩き出した。
 
 亜姫はどうしたらいいのかわからず、そのまま半歩後ろを付いていく。そのままジンクスのルートを辿り、昨日と同じく中庭のベンチに腰掛けた。
 
 相変わらず、二人の間には少しの距離。
 ほんの数回、途切れ途切れに交わす短い会話。
 
 突然、見えない壁ができてしまったようだ。亜姫はどうしたらいいか分からず、ただ黙々と食べ進めていた。
 
「亜姫。今、何を考えてる?」
  
 和泉を見上げると、昨日と同じように前を向く横顔が見えた。 
 視線が絡まない。亜姫の胸にツキンと針を刺したような痛みが走る。返事をしないまま横顔を眺めていると、和泉がゆっくりと亜姫の方に向き直る。
 
「亜姫の考えていること、教えて……? 怒ってても許せなくても、それ以外でも。亜姫の口から、今の気持ちを聞きたい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

処理中です...