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高2
文化祭(18)
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そして翌朝。
亜姫は再びメイド服を着てヘアメイクをされていた。
「で、今日はどーするの?」
麗華の問いに、亜姫は言葉を詰まらせる。
「……もちろん、接客する。昨日も楽しか……」
「そうじゃないでしょ。誤魔化すんじゃないの」
麗華にひと睨みされ、亜姫はう……と呻いた。
「しっかし、昨日は見ものだったよねー!」
横から沙世莉の笑い声が響いた。
昨日、教室に戻ってから。
再開を待ちわびていた客で、店はあっという間に忙しくなった。
亜姫はどんな相手にも笑顔を絶やさず楽しそうに接客する為、注文以外の声も多くかかる。しかし男性客が気のある素振りや下心を見せる度、亜姫には見えない立ち位置から和泉が威嚇。
明らかに亜姫を狙う男性客の干渉等はあからさまに遮り、挙句の果てにこうぬかした。
「私の専属メイドになにか?」
客の相手をしていた亜姫が、その言葉に啞然として固まる。すると、不機嫌丸出しだった和泉が彼女にだけ蕩けた笑顔を向けた。
思わぬ不意打ちに亜姫はうろたえ、赤面してしどろもどろな接客になってしまう。
そんなことを繰り返す二人に見惚れる客が後を立たず、『無愛想なイケメン執事と、彼が唯一溺愛するメイドの可愛い姿』がこの店の一つのウリになってしまっていた。
「仕事中なのに、亜姫に近付く輩を片っ端から牽制しまくるなんて呆れるわよ。そもそも、一番やらかした自分はまだ許されてもいないっていうのに」
「でも、だいぶ反省してんでしょ? いつもみたいに張りつかず、番犬よろしくいい子でそばに控えてるじゃない。亜姫に触れないように必死で我慢してるよね、あれ。感心感心」
「まぁ、それはそうね。それに亜姫の方へ気がいってるせいか、なんだかんだ嫌がらずに仕事してるし、あんた達二人のおかげで集客力も更に増したし、見てる分には面白いし? あの対応なら言うことはないわ。
で? 昼は昨日のやり直しするんでしょ?」
「うっ、いや、それは……」
亜姫は言い淀む。正直、昨日ほどの怒りはない。和泉は終始気遣いを見せてくれたし誤解もとけている。
しかし、そう簡単には切り替えられない感情や気になることがあるのも確かで……。だから、二人きりになることを亜姫は躊躇していた。
「あはは、滅多に怒らないない子がいざ怒ると大変だ。まぁ、好きにしたら? 怒ったままでもなんでもいいって言われてんでしょ? たまには振り回したらいいじゃない。
でも、ちゃんと行きな。文化祭は明日までなんだから意地張ってたら終わっちゃうよ? 和泉なりに償おうとしてるのはわかってるんでしょ?
せっかくリセットしてもらったんだから、ジンクスをちゃんと叶えてきなよ。ね?」
沙世莉に背中を押されて、休憩に入った亜姫は和泉の前に立った。しかし気持ちの整理はつかないままだ。
「着替えなくていーの?」
「時間ないから。このままでいい」
可愛げのない亜姫の態度に和泉はフッと口元を和らげた。
「今日もすごく可愛い。手、繋いでもいい?」
「っ、知らない……っ」
プイっと横を向いた亜姫の横に立ち、和泉は恐る恐ると行った様子で亜姫の指先に触れた。
ピクッと動いた亜姫の手が引っ込まないのを確認すると、和泉はその指先を遠慮がちに数本だけ握る。そして、それを軽く引きながらゆっくりと歩き出した。
亜姫はどうしたらいいのかわからず、そのまま半歩後ろを付いていく。そのままジンクスのルートを辿り、昨日と同じく中庭のベンチに腰掛けた。
相変わらず、二人の間には少しの距離。
ほんの数回、途切れ途切れに交わす短い会話。
突然、見えない壁ができてしまったようだ。亜姫はどうしたらいいか分からず、ただ黙々と食べ進めていた。
「亜姫。今、何を考えてる?」
和泉を見上げると、昨日と同じように前を向く横顔が見えた。
視線が絡まない。亜姫の胸にツキンと針を刺したような痛みが走る。返事をしないまま横顔を眺めていると、和泉がゆっくりと亜姫の方に向き直る。
「亜姫の考えていること、教えて……? 怒ってても許せなくても、それ以外でも。亜姫の口から、今の気持ちを聞きたい」
亜姫は再びメイド服を着てヘアメイクをされていた。
「で、今日はどーするの?」
麗華の問いに、亜姫は言葉を詰まらせる。
「……もちろん、接客する。昨日も楽しか……」
「そうじゃないでしょ。誤魔化すんじゃないの」
麗華にひと睨みされ、亜姫はう……と呻いた。
「しっかし、昨日は見ものだったよねー!」
横から沙世莉の笑い声が響いた。
昨日、教室に戻ってから。
再開を待ちわびていた客で、店はあっという間に忙しくなった。
亜姫はどんな相手にも笑顔を絶やさず楽しそうに接客する為、注文以外の声も多くかかる。しかし男性客が気のある素振りや下心を見せる度、亜姫には見えない立ち位置から和泉が威嚇。
明らかに亜姫を狙う男性客の干渉等はあからさまに遮り、挙句の果てにこうぬかした。
「私の専属メイドになにか?」
客の相手をしていた亜姫が、その言葉に啞然として固まる。すると、不機嫌丸出しだった和泉が彼女にだけ蕩けた笑顔を向けた。
思わぬ不意打ちに亜姫はうろたえ、赤面してしどろもどろな接客になってしまう。
そんなことを繰り返す二人に見惚れる客が後を立たず、『無愛想なイケメン執事と、彼が唯一溺愛するメイドの可愛い姿』がこの店の一つのウリになってしまっていた。
「仕事中なのに、亜姫に近付く輩を片っ端から牽制しまくるなんて呆れるわよ。そもそも、一番やらかした自分はまだ許されてもいないっていうのに」
「でも、だいぶ反省してんでしょ? いつもみたいに張りつかず、番犬よろしくいい子でそばに控えてるじゃない。亜姫に触れないように必死で我慢してるよね、あれ。感心感心」
「まぁ、それはそうね。それに亜姫の方へ気がいってるせいか、なんだかんだ嫌がらずに仕事してるし、あんた達二人のおかげで集客力も更に増したし、見てる分には面白いし? あの対応なら言うことはないわ。
で? 昼は昨日のやり直しするんでしょ?」
「うっ、いや、それは……」
亜姫は言い淀む。正直、昨日ほどの怒りはない。和泉は終始気遣いを見せてくれたし誤解もとけている。
しかし、そう簡単には切り替えられない感情や気になることがあるのも確かで……。だから、二人きりになることを亜姫は躊躇していた。
「あはは、滅多に怒らないない子がいざ怒ると大変だ。まぁ、好きにしたら? 怒ったままでもなんでもいいって言われてんでしょ? たまには振り回したらいいじゃない。
でも、ちゃんと行きな。文化祭は明日までなんだから意地張ってたら終わっちゃうよ? 和泉なりに償おうとしてるのはわかってるんでしょ?
せっかくリセットしてもらったんだから、ジンクスをちゃんと叶えてきなよ。ね?」
沙世莉に背中を押されて、休憩に入った亜姫は和泉の前に立った。しかし気持ちの整理はつかないままだ。
「着替えなくていーの?」
「時間ないから。このままでいい」
可愛げのない亜姫の態度に和泉はフッと口元を和らげた。
「今日もすごく可愛い。手、繋いでもいい?」
「っ、知らない……っ」
プイっと横を向いた亜姫の横に立ち、和泉は恐る恐ると行った様子で亜姫の指先に触れた。
ピクッと動いた亜姫の手が引っ込まないのを確認すると、和泉はその指先を遠慮がちに数本だけ握る。そして、それを軽く引きながらゆっくりと歩き出した。
亜姫はどうしたらいいのかわからず、そのまま半歩後ろを付いていく。そのままジンクスのルートを辿り、昨日と同じく中庭のベンチに腰掛けた。
相変わらず、二人の間には少しの距離。
ほんの数回、途切れ途切れに交わす短い会話。
突然、見えない壁ができてしまったようだ。亜姫はどうしたらいいか分からず、ただ黙々と食べ進めていた。
「亜姫。今、何を考えてる?」
和泉を見上げると、昨日と同じように前を向く横顔が見えた。
視線が絡まない。亜姫の胸にツキンと針を刺したような痛みが走る。返事をしないまま横顔を眺めていると、和泉がゆっくりと亜姫の方に向き直る。
「亜姫の考えていること、教えて……? 怒ってても許せなくても、それ以外でも。亜姫の口から、今の気持ちを聞きたい」
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