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高2
文化祭(15)
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「まぁ……今、話してることは…亜姫が、まだ、俺といてくれる気持ちが、残っていたら…なんだけど……」
今見ていたのは幻かと思うほどその声は小さく、自信無さげだった。
彼は今にも泣き出しそうに見えた。自分のすることに迷い、決断を不安がっているのがわかる。
亜姫の知る和泉は、いつでも自身の感情に正直で基本的に強気だ。どんな事があっても、自分の中で決断を迷うことがない。
たとえ一瞬迷ったとしても、諦めるのか、それとも迷いつつも先に進むのかはすぐに決断する。そして、それに合わせた行動を取る。
それが結果的に間違いだったとしても、そこからすぐ軌道修正の選択をする。
どうしたらいいかわからずに足踏みしたり立ち止まったりすることはまずない。
そんな彼が自信無さげに決断そのものを迷い、こんな顔を見せるのは初めてで。その姿は亜姫の頑なな心を揺さぶった。
「今、和泉と一緒に過ごしたいか」
そう問われたら、その答えは未だ「否」だ。それは怒りからなのか悲しみからなのか……自分でもうまく整理ができておらず、上手く言葉にできない。
だが、別れたいわけではない。
それだけは、目の前の和泉を見てはっきりと自覚した。とはいえ、そう簡単にリセットしようなんて思えない。『秘密裏に伝わるジンクス』という特殊性に特別な意味合いと強い効力を感じて、試してみたいと思ったのだから。
そこにのせた想いをそう簡単に切り替えるなんてできないと思ったし、そんな提案をしてくる和泉にはこの気持ちをまだ軽んじられているように感じてしまう。
「勝手だね。言ってることが目茶苦茶だよ。そんな簡単に考えられることじゃないのに……。
だいたい、謝罪の受け入れなんてどうやってやるつもり? 土下座されたとしても、私はいいよなんて言わない。絶対……言わない」
可愛げなく意地を張っている自覚はあったが、プイっと視線を逸らす。
「亜姫がジンクスを試そうとしたのは……少なくともその時は俺との未来を想像してくれた、ってことだろ?
今日のことを何度も確認してたのも、厳しい条件をクリアしてまで叶えたいと思ってくれてた……ってことだよな?
その気持ちや努力を踏みにじったのは俺で。ただの謝罪には意味なんかないと思う。
言い伝えとして残りそうな形にしたら、お前の心に少しは届くかな………」
和泉はそう言うと、少しの間考え込む。
「──誰もいない中庭の木の下で、しでかした男の話を渋々聞いた彼女が……許さないと怒りながらも謝罪のキスを受け入れてくれた瞬間に、リセットされる──とか……」
亜姫の心臓がトクンと跳ねた。
──私が本当に嫌がることはしないしやめてくれる。私の気持ちばっかり考えて、それを一番大事にしてくれる──
沙世莉にした話を思い出した。
「いや、触れるのは無しだよ……な」
何度も「触るな」と言った亜姫。それを汲んだのであろう言葉。
きっと、今、和泉が亜姫から距離を保っているのも同じ理由であろう。
そう考えて、和泉がずっと謝罪の言葉を口にしていない事にも気がついた。それは……亜姫が謝罪を聞きたがらないから、だろう。
──和泉は、本当はすごく優しい──
そういう彼が好きだった。
──自分の気持ちを大事にしてほしくて。私が、和泉の気持ちを大事にしたいって思って──
自分で言った言葉が頭の中を駆け巡る。
そっと和泉の顔を伺うと、やはり泣き出しそうな顔で……それでも、亜姫の気持ちに寄り添おうと考えているのは伝わってくる。
「流石に今のは都合が良すぎるよな。他の」
「する」
和泉が驚いた様子で顔を上げた。
「許さなくても、いいんでしょう? ……リセットだけ、する」
無言で亜姫を見つめる和泉の顔がほんの少し歪んだ。とうとう泣いてしまったのかと思える表情を一瞬だけ見せ、それを隠すように和泉は俯く。
そしてしばらくじっとして……「ありがと」と、小さな小さな声で呟いた。
今見ていたのは幻かと思うほどその声は小さく、自信無さげだった。
彼は今にも泣き出しそうに見えた。自分のすることに迷い、決断を不安がっているのがわかる。
亜姫の知る和泉は、いつでも自身の感情に正直で基本的に強気だ。どんな事があっても、自分の中で決断を迷うことがない。
たとえ一瞬迷ったとしても、諦めるのか、それとも迷いつつも先に進むのかはすぐに決断する。そして、それに合わせた行動を取る。
それが結果的に間違いだったとしても、そこからすぐ軌道修正の選択をする。
どうしたらいいかわからずに足踏みしたり立ち止まったりすることはまずない。
そんな彼が自信無さげに決断そのものを迷い、こんな顔を見せるのは初めてで。その姿は亜姫の頑なな心を揺さぶった。
「今、和泉と一緒に過ごしたいか」
そう問われたら、その答えは未だ「否」だ。それは怒りからなのか悲しみからなのか……自分でもうまく整理ができておらず、上手く言葉にできない。
だが、別れたいわけではない。
それだけは、目の前の和泉を見てはっきりと自覚した。とはいえ、そう簡単にリセットしようなんて思えない。『秘密裏に伝わるジンクス』という特殊性に特別な意味合いと強い効力を感じて、試してみたいと思ったのだから。
そこにのせた想いをそう簡単に切り替えるなんてできないと思ったし、そんな提案をしてくる和泉にはこの気持ちをまだ軽んじられているように感じてしまう。
「勝手だね。言ってることが目茶苦茶だよ。そんな簡単に考えられることじゃないのに……。
だいたい、謝罪の受け入れなんてどうやってやるつもり? 土下座されたとしても、私はいいよなんて言わない。絶対……言わない」
可愛げなく意地を張っている自覚はあったが、プイっと視線を逸らす。
「亜姫がジンクスを試そうとしたのは……少なくともその時は俺との未来を想像してくれた、ってことだろ?
今日のことを何度も確認してたのも、厳しい条件をクリアしてまで叶えたいと思ってくれてた……ってことだよな?
その気持ちや努力を踏みにじったのは俺で。ただの謝罪には意味なんかないと思う。
言い伝えとして残りそうな形にしたら、お前の心に少しは届くかな………」
和泉はそう言うと、少しの間考え込む。
「──誰もいない中庭の木の下で、しでかした男の話を渋々聞いた彼女が……許さないと怒りながらも謝罪のキスを受け入れてくれた瞬間に、リセットされる──とか……」
亜姫の心臓がトクンと跳ねた。
──私が本当に嫌がることはしないしやめてくれる。私の気持ちばっかり考えて、それを一番大事にしてくれる──
沙世莉にした話を思い出した。
「いや、触れるのは無しだよ……な」
何度も「触るな」と言った亜姫。それを汲んだのであろう言葉。
きっと、今、和泉が亜姫から距離を保っているのも同じ理由であろう。
そう考えて、和泉がずっと謝罪の言葉を口にしていない事にも気がついた。それは……亜姫が謝罪を聞きたがらないから、だろう。
──和泉は、本当はすごく優しい──
そういう彼が好きだった。
──自分の気持ちを大事にしてほしくて。私が、和泉の気持ちを大事にしたいって思って──
自分で言った言葉が頭の中を駆け巡る。
そっと和泉の顔を伺うと、やはり泣き出しそうな顔で……それでも、亜姫の気持ちに寄り添おうと考えているのは伝わってくる。
「流石に今のは都合が良すぎるよな。他の」
「する」
和泉が驚いた様子で顔を上げた。
「許さなくても、いいんでしょう? ……リセットだけ、する」
無言で亜姫を見つめる和泉の顔がほんの少し歪んだ。とうとう泣いてしまったのかと思える表情を一瞬だけ見せ、それを隠すように和泉は俯く。
そしてしばらくじっとして……「ありがと」と、小さな小さな声で呟いた。
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