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高2
文化祭(14)
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考えもしなかった提案に亜姫は混乱し、無言で和泉を見る。涙はいつの間にか止まっていた。
「嫌なら、嫌って言っていいよ」
静かに告げる和泉に、亜姫は問う。
「嫌って言ったら、どうするの……?」
「別の方法を考える。亜姫がいいって言うまで、ずっと考え続けるよ」
その上で、と和泉は続けた。
「今日の、やり直しをさせてほしい」
この言葉に、亜姫は一番の驚きを見せた。同時に、猛烈な怒りが湧き上がってくる。
「な、にを……。そんな、こと……出来るわけがないじゃない! 駄目にしたのは誰だと思って……!」
「俺だよ。だから、責任取る」
「っ! 聞いたんでしょう、ジンクスの話! もう、間に合わないって言った! なにもかも、もう遅いの!」
「遅くない。間に合うよ」
「勝手な事言わないで!! 試すこと自体が難しいと言われてるのに……人の気も知らないで軽く言わないでよ! 今更どうやって出来るっていうの!?」
「新しいジンクスを作る」
亜姫は呆気にとられて和泉を見た。
「……は? ……え? 何を言って……」
「俺が、新たにジンクスを作る。
ジンクスとか言い伝えとか……そういうのは、元を辿れば誰かがした事だろ。なら、その元を作ればいい」
「そんな、こと……無理に決まって」
「出来るよ。俺達がこの先もずっと一緒にいればいいんだ。……俺は、お前のことを一生好きでいる。それだけは、自信がある」
「そんな勝手な話……」
「無理なら、別の方法を考える。
お前がやろうとしてたこと、一つも無駄になんてしない。どんなことをしても全部叶える。
今更なのはわかってる。だけど……まずは、亜姫が今日の為にしてくれたその気持ちに報いたい。それが、俺なりの……最初の、償い」
拳をぐっと握りしめ、和泉は真っ直ぐに亜姫を見た。その瞳には強い意志が見える。
「で、も……もう、ジンクスは叶ってて……。それは、どう……」
「リセットする」
「え?」
「叶えたくなかったんだろ? リセットして、無かったことにする」
次々と紡がれる有り得ない内容に、亜姫は怒るのも忘れて和泉の頭を疑った。
彼は、どこかおかしくなってしまったのだろうか?
ジンクスや言い伝えとは、自分の意思で作り出したりリセットしたり出来るものなのだろうか? ……いや、そんなのはそもそもジンクスといえるのか?
「そんなに都合よく出来るわけがない。簡単に叶わないものだから、こうしてずっと語り継がれているんでしょう?」
素直に受け入れたくない気持ちが、亜姫の態度をひねくれさせる。
しかし、和泉は顔色一つ変えなかった。
「………語り継がれた先では、そうなんだろうな。
でも、俺はジンクスの始まりを作り出そうとしてる。だから、亜姫がただ望むことをすればいい。
その前にリセットすれば……まだ、ジンクスは叶ってないよ」
「簡単にリセットなんて、考えられない。だって……さっきまで……」
思い出した亜姫の顔が曇る。
それを見て、和泉が言った。
「じゃあ、上書きにすればいい。
………男のせいで、別れるジンクスが叶ってしまった時。男の謝罪を受け入れ、翌日再挑戦できた二人は……更に固い絆でむすばれる。とか?」
「謝罪なんか、受け入れたくない」
亜姫は即座に拒否をした。拗ねたようにも見える不貞腐れかたに、和泉がフッと口元を緩める。
「許す必要はない。怒ったままで話なんかしなくてもいい。
あくまでも、謝罪したいという気持ちを受け止めてくれるだけ。でいい」
「そんな状態で再挑戦なんて……それに、もう私は何も……」
「何もしなくていい」
驚いた亜姫は、思わず和泉の顔を見た。
「亜姫は、もう何もしなくていい。俺が連れて行く。内容は、もうわかってるから。
沙世莉と麗華にも頼んできた。明日も、今日と同じように可愛くしてくれるって。
俺が内容を知ってても、亜姫が怒っていても。なんの問題もない。今から作るジンクスに、細かい条件はつけない。
予定通りのルートを辿ってもいいし、好きなように回ってもいい。それも嫌なら、また別の方法を考える」
そこまで言ったあと、和泉は言葉を詰まらせ俯いた。
「まぁ……今、話してることは……亜姫が、まだ、俺といてくれる気持ちが、残っていたら。なんだけど……」
「嫌なら、嫌って言っていいよ」
静かに告げる和泉に、亜姫は問う。
「嫌って言ったら、どうするの……?」
「別の方法を考える。亜姫がいいって言うまで、ずっと考え続けるよ」
その上で、と和泉は続けた。
「今日の、やり直しをさせてほしい」
この言葉に、亜姫は一番の驚きを見せた。同時に、猛烈な怒りが湧き上がってくる。
「な、にを……。そんな、こと……出来るわけがないじゃない! 駄目にしたのは誰だと思って……!」
「俺だよ。だから、責任取る」
「っ! 聞いたんでしょう、ジンクスの話! もう、間に合わないって言った! なにもかも、もう遅いの!」
「遅くない。間に合うよ」
「勝手な事言わないで!! 試すこと自体が難しいと言われてるのに……人の気も知らないで軽く言わないでよ! 今更どうやって出来るっていうの!?」
「新しいジンクスを作る」
亜姫は呆気にとられて和泉を見た。
「……は? ……え? 何を言って……」
「俺が、新たにジンクスを作る。
ジンクスとか言い伝えとか……そういうのは、元を辿れば誰かがした事だろ。なら、その元を作ればいい」
「そんな、こと……無理に決まって」
「出来るよ。俺達がこの先もずっと一緒にいればいいんだ。……俺は、お前のことを一生好きでいる。それだけは、自信がある」
「そんな勝手な話……」
「無理なら、別の方法を考える。
お前がやろうとしてたこと、一つも無駄になんてしない。どんなことをしても全部叶える。
今更なのはわかってる。だけど……まずは、亜姫が今日の為にしてくれたその気持ちに報いたい。それが、俺なりの……最初の、償い」
拳をぐっと握りしめ、和泉は真っ直ぐに亜姫を見た。その瞳には強い意志が見える。
「で、も……もう、ジンクスは叶ってて……。それは、どう……」
「リセットする」
「え?」
「叶えたくなかったんだろ? リセットして、無かったことにする」
次々と紡がれる有り得ない内容に、亜姫は怒るのも忘れて和泉の頭を疑った。
彼は、どこかおかしくなってしまったのだろうか?
ジンクスや言い伝えとは、自分の意思で作り出したりリセットしたり出来るものなのだろうか? ……いや、そんなのはそもそもジンクスといえるのか?
「そんなに都合よく出来るわけがない。簡単に叶わないものだから、こうしてずっと語り継がれているんでしょう?」
素直に受け入れたくない気持ちが、亜姫の態度をひねくれさせる。
しかし、和泉は顔色一つ変えなかった。
「………語り継がれた先では、そうなんだろうな。
でも、俺はジンクスの始まりを作り出そうとしてる。だから、亜姫がただ望むことをすればいい。
その前にリセットすれば……まだ、ジンクスは叶ってないよ」
「簡単にリセットなんて、考えられない。だって……さっきまで……」
思い出した亜姫の顔が曇る。
それを見て、和泉が言った。
「じゃあ、上書きにすればいい。
………男のせいで、別れるジンクスが叶ってしまった時。男の謝罪を受け入れ、翌日再挑戦できた二人は……更に固い絆でむすばれる。とか?」
「謝罪なんか、受け入れたくない」
亜姫は即座に拒否をした。拗ねたようにも見える不貞腐れかたに、和泉がフッと口元を緩める。
「許す必要はない。怒ったままで話なんかしなくてもいい。
あくまでも、謝罪したいという気持ちを受け止めてくれるだけ。でいい」
「そんな状態で再挑戦なんて……それに、もう私は何も……」
「何もしなくていい」
驚いた亜姫は、思わず和泉の顔を見た。
「亜姫は、もう何もしなくていい。俺が連れて行く。内容は、もうわかってるから。
沙世莉と麗華にも頼んできた。明日も、今日と同じように可愛くしてくれるって。
俺が内容を知ってても、亜姫が怒っていても。なんの問題もない。今から作るジンクスに、細かい条件はつけない。
予定通りのルートを辿ってもいいし、好きなように回ってもいい。それも嫌なら、また別の方法を考える」
そこまで言ったあと、和泉は言葉を詰まらせ俯いた。
「まぁ……今、話してることは……亜姫が、まだ、俺といてくれる気持ちが、残っていたら。なんだけど……」
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