【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

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文化祭(7)

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 遠ざかる亜姫を和泉が慌てて止める。体に巻き付いた長い腕を振りほどこうと、亜姫は体を捻り手に力を込めた。 
「離してよっ! 触らないで!」
「そんな状態で行かせるわけねぇだろ」
 
 亜姫の体を半ば強引に抱え、和泉は木の下まで戻る。 
「まだ話は終わってない。行くならせめて落ち着いてからにしろ。
 ……悪かった。俺が悪かった。ごめん。ちゃんと、話聞くから。亜姫……ごめん」
「嫌! もう話なんかしたくない! 離してよ! もう大ッキライ!」
「亜姫」 
 落ち着かせようとした和泉が力を強め、それに抵抗した亜姫の頭が木の幹に軽く接触した。
 
 ガリッ! 
「い、たっ……」
 
 木の幹から少しだけ飛び出ていた木片に頭の端が当たったようだ。亜姫が思わず振り返ると、髪の毛が一房、はらりと顔に落ちてきた。 
 自分の手をゆっくりと痛む箇所に伸ばす。
 綺麗に編み込んでまとめられていたそこに触れると、グシャッと無造作に膨らんだ感触。と共に、数本の髪が指に絡まる。
 髪を留める為につけていた、華やかな飾りのついたピン。それが数本、辛うじて髪の端についているのがわかる。木片に引っかかってセットした髪が崩れてしまったのだろう。
 
 沢山、時間をかけて準備した。
 人生で一番と言える程、綺麗にしてもらった。
 可愛いと思ってもらいたくて頑張った。
 忙しい中、沙世莉達は最優先で協力してくれた。
 和泉に喜んでもらいたかったし、笑ってほしかった。
 楽しい時間を過ごしたかった。 
 ジンクスを、叶えたかった……。
 
「……うっ……っ……」
 亜姫は崩れた髪の毛を上からギュッと掴む。と同時に、嗚咽と涙が一粒、ポロッと出た。 
 それを合図に、抑えていた感情が溢れ出す。
「あんなに時間かけて、やってもらったのに……っ。せっかく、可愛くしてもらったのに……崩れちゃった! 麗華達が、忙しい中で色々してくれたのに……!」
 亜姫は堰を切ったようにボロボロと泣き出した。
 
 和泉が狼狽えるのが見えたが、亜姫は溢れ出る感情が止められない。
 ひどく泣きながら、亜姫は感情を爆発させた。
「やりたいことがあるって……あんなに沢山お願いしてたのに! 全部、和泉に喜んでもらいたかったのに……何も出来なかった! ひとつも出来なかった!」
「……まだ、時間はある」
「無いよ! もう無理だよ、もう間に合わないんだから! もう行けない! もう、どうせ別れちゃうんだから!」
 
 すると和泉が激しく動揺した。 
「な、んだよそれ、別れるって……。俺はこれで終わりにするつもりはねぇぞ。今日が無理なら明日でも」
「それじゃ駄目なの! もう遅いの! 駄目なジンクスの方が叶っちゃったよ!
 どうして……こんな喧嘩、したことなんてなかったのに、バカ……信用もしてくれない……和泉なんか、和泉なんか、大ッキライ!」
 
 亜姫は変わらず泣き続ける。その様子と話の内容に、和泉が眉を顰めた。
 
「ジンクス?……今日やりたかったことって、もしかしてそれに関係あんの?」 
 瞬間、亜姫がハッとした。しかしすぐ、否定するように首を振る。
 
 その肩を掴み和泉は問う。
「亜姫、言えよ。お前がこんなんなるの、普通じゃ考えられない。今までの行動といい、なにかワケがあんじゃねーのか?」
「っ、言わない」 
 亜姫は口を噤み、代わりに目から大粒の涙をボロボロと溢した。 
 「亜姫! 言わなきゃ何もわかんねぇだろ!? いいから言え!!」
 掴んだ肩を揺さぶりながら、和泉は脅すような口調で強く言う。
 
 その勢いに亜姫はまた嗚咽を漏らし、号泣しはじめた。
 それでも口を開こうとしない亜姫。けれど和泉に問い詰められて、少しずつ口を割る。
「さよりちゃんから、秘密の話……ずっと、一緒にいられるって」
「それを叶えたかったの?」
 
 亜姫は小さく頷く。
 
「誰にも、言っちゃ駄目って、相手に、バレたり喧嘩したら、逆に必ず別れちゃうって……。
 バ、バレちゃった。喧嘩もして、みんな別れちゃうって、すごく、当たるって……こっちが、叶っちゃった……!
 絶対内緒、って言われてたのに。さよりちゃんが信用して話、してくれたのに。守れなかった。 
 和泉のせいだよ! もう、嫌い、大ッキライ、離して! 離してよ! 触らないで!」
「駄目だ。今のお前を一人でなんて歩かせらんない」
「和泉に関係ない! こんなとこにいたくない、離してよ! やだ、見ないで……見ないでよ……」
 
 亜姫は崩れた髪を抑え、和泉から隠すように顔を手で覆う。 
 こんな姿を見られるぐらいなら、綺麗に見せたいなんて思わなければよかった。 
 全てが無駄になってしまった。
 
 しかし、そんなことはどうでもいいと思う程ショックを受けていた──考えもしていなかった、別れるジンクスの方を叶えてしまったという事実に。
 
 とにかく和泉から離れたい。 
 まとまらない考えの中でそれだけは強く思うのに。
 和泉は腕を緩めてくれず、亜姫はいつまでも泣きながら抵抗を続けていた。
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