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高2

文化祭(6)

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「待てって!」
 またもや追いつかれるが、亜姫はもう和泉の顔を見なかった。
 
「逃げんな。なんでそんな男誘う服着たのかって聞いてんだよ、今ので納得するわけねぇだろ。ちゃんと説明しろよ。
 なんであいつとキスなんかしたんだよ……おい、こっち見ろ……亜姫!」 
 無視を続ける亜姫に業を煮やした和泉。
 体を無理やり自分の方へ反転させ、その顔を見て目を見開く。
 
 亜姫は、目にいっぱいの涙を溜めて唇を震わせていた。伏し目がちなまま、震えた声を出す。
「……って、話聞いて、って……違うって、言った」
 
 震えて動かない唇を数秒噛みしめ、亜姫はまた言う。
「着たくない。こんな恥ずかしい服、好きで着たわけじゃない。和泉が……この服で出かけたいって言ってた、から。
 髪も、メイクも。他の人なんて知らないよ。全部、和泉の為にした」
「な、に、言って……だってお前、あいつと」 
「キスなんかしてない。和泉と約束してたのに二人で消えたりなんか、しない」
 
 ここで初めて和泉が動揺を見せた。
「あれは……誰がどう見たって、してる、としか……。あの人だって、さっき認め……」
「してない。だってあの時、崩れてたメイクを自分で直せなくて怒られてたんだから。
 和泉の為の格好だって、先輩は知ってたから……。
 和泉が戻って来る前にちゃんと綺麗にしろって。早くしろって。でも私があまりに出来なすぎて、呆れた先輩が急いで直してくれてた。
 すぐ近くに、先輩の友達も皆いた。疑うなら聞いてみればいい。あの人達からもダメ出しされて、笑われてたんだから。
 和泉のことしか、見てないのに。……先輩とそんなこと、するわけない」
 
 和泉は言葉を失くして亜姫を見た。
 
「和泉こそ、朝から私の事を無視してたじゃない。今も、来たくなかったんでしょう? そう呟いたの、聞こえたよ?
 ………嫌なら、断ってくれればよかったのに。
 でも、どうして? 昨日までと違いすぎて……理由なんて、逆に私が聞きたいよ? それに、二人で消えたのは和泉の方でしょう?」
「それはっ……でも、マリナはガキだろ!?」
「子供でも、好意向けられてるってわかってたじゃない。なのに、私のことを無視してマリナちゃんには笑いかけてた。
 楽しそうに話して体に触れさせてた。すぐ、追いかけたのに……いなかった。
 どうしていいかわからなくなってた私を、先輩があそこまで連れ戻してくれたんだよ。マリナちゃんがすぐあそこに戻ってくるはずだから、って。私にも和泉にも悪いことしたって、何度も謝ってた。
 先輩に恋愛感情はないって、先輩もそんなこと絶対しないって、わかってくれてたんじゃないの……?
 他の男の子に好かれたいなんて思ったこと、一度もないよ?
 でも……和泉は私のこと、ずっとそういう風に見てたんだ? 私のこと、全然信じてなかったんだ? 信じてくれてなかったんだ」
「亜姫……」
 
 試すことすら出来ずに終わる。こんな一日を受け入れられず、泣きそうになるのを堪えながら、せめて別れるジンクスが叶ってしまう事態は避けたくて、亜姫は必死に冷静さを保とうとしていた。
 しかし、容赦なく暴れる暗い感情は止めどなく溢れ続け、亜姫の中をこれでもかと埋めていく。
 
「誰かにあんなに頼み事をしたのも、自分を綺麗に見せたいと思ったのも、初めてだった。
 ずっと、和泉のことばっかり考えてた。……和泉の事しか、考えてなかった。
 ……私、悪い事なんて何もしてない。今日、すごく楽しみにしてたのに。だから、いっぱい、頑張ったのに」
 
 潤む瞳を和泉に向けながら、今にも落ちそうな涙をなんとか留める。泣いたら全てが終わってしまう気がした。気持ちを落ち着かせる為に大きく息を吸う。そしてそれを吐き出そうとしたら、息の代わりに堪らえていた感情が漏れ出た。
「……て……もう、キライ……」
 
 眉間に力を入れ、歪む顔をなんとか止める。溢れ出る感情に必死で蓋をする。
 けれど、もう閉じることは出来そうになかった。 
「………顔も見たくない。もう、和泉なんか、キライ」
 そう呟くと、亜姫は振り向きざま駆け出した。
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