89 / 364
高2
文化祭(6)
しおりを挟む
「待てって!」
またもや追いつかれるが、亜姫はもう和泉の顔を見なかった。
「逃げんな。なんでそんな男誘う服着たのかって聞いてんだよ、今ので納得するわけねぇだろ。ちゃんと説明しろよ。
なんであいつとキスなんかしたんだよ……おい、こっち見ろ……亜姫!」
無視を続ける亜姫に業を煮やした和泉。
体を無理やり自分の方へ反転させ、その顔を見て目を見開く。
亜姫は、目にいっぱいの涙を溜めて唇を震わせていた。伏し目がちなまま、震えた声を出す。
「……って、話聞いて、って……違うって、言った」
震えて動かない唇を数秒噛みしめ、亜姫はまた言う。
「着たくない。こんな恥ずかしい服、好きで着たわけじゃない。和泉が……この服で出かけたいって言ってた、から。
髪も、メイクも。他の人なんて知らないよ。全部、和泉の為にした」
「な、に、言って……だってお前、あいつと」
「キスなんかしてない。和泉と約束してたのに二人で消えたりなんか、しない」
ここで初めて和泉が動揺を見せた。
「あれは……誰がどう見たって、してる、としか……。あの人だって、さっき認め……」
「してない。だってあの時、崩れてたメイクを自分で直せなくて怒られてたんだから。
和泉の為の格好だって、先輩は知ってたから……。
和泉が戻って来る前にちゃんと綺麗にしろって。早くしろって。でも私があまりに出来なすぎて、呆れた先輩が急いで直してくれてた。
すぐ近くに、先輩の友達も皆いた。疑うなら聞いてみればいい。あの人達からもダメ出しされて、笑われてたんだから。
和泉のことしか、見てないのに。……先輩とそんなこと、するわけない」
和泉は言葉を失くして亜姫を見た。
「和泉こそ、朝から私の事を無視してたじゃない。今も、来たくなかったんでしょう? そう呟いたの、聞こえたよ?
………嫌なら、断ってくれればよかったのに。
でも、どうして? 昨日までと違いすぎて……理由なんて、逆に私が聞きたいよ? それに、二人で消えたのは和泉の方でしょう?」
「それはっ……でも、マリナはガキだろ!?」
「子供でも、好意向けられてるってわかってたじゃない。なのに、私のことを無視してマリナちゃんには笑いかけてた。
楽しそうに話して体に触れさせてた。すぐ、追いかけたのに……いなかった。
どうしていいかわからなくなってた私を、先輩があそこまで連れ戻してくれたんだよ。マリナちゃんがすぐあそこに戻ってくるはずだから、って。私にも和泉にも悪いことしたって、何度も謝ってた。
先輩に恋愛感情はないって、先輩もそんなこと絶対しないって、わかってくれてたんじゃないの……?
他の男の子に好かれたいなんて思ったこと、一度もないよ?
でも……和泉は私のこと、ずっとそういう風に見てたんだ? 私のこと、全然信じてなかったんだ? 信じてくれてなかったんだ」
「亜姫……」
試すことすら出来ずに終わる。こんな一日を受け入れられず、泣きそうになるのを堪えながら、せめて別れるジンクスが叶ってしまう事態は避けたくて、亜姫は必死に冷静さを保とうとしていた。
しかし、容赦なく暴れる暗い感情は止めどなく溢れ続け、亜姫の中をこれでもかと埋めていく。
「誰かにあんなに頼み事をしたのも、自分を綺麗に見せたいと思ったのも、初めてだった。
ずっと、和泉のことばっかり考えてた。……和泉の事しか、考えてなかった。
……私、悪い事なんて何もしてない。今日、すごく楽しみにしてたのに。だから、いっぱい、頑張ったのに」
潤む瞳を和泉に向けながら、今にも落ちそうな涙をなんとか留める。泣いたら全てが終わってしまう気がした。気持ちを落ち着かせる為に大きく息を吸う。そしてそれを吐き出そうとしたら、息の代わりに堪らえていた感情が漏れ出た。
「……て……もう、キライ……」
眉間に力を入れ、歪む顔をなんとか止める。溢れ出る感情に必死で蓋をする。
けれど、もう閉じることは出来そうになかった。
「………顔も見たくない。もう、和泉なんか、キライ」
そう呟くと、亜姫は振り向きざま駆け出した。
またもや追いつかれるが、亜姫はもう和泉の顔を見なかった。
「逃げんな。なんでそんな男誘う服着たのかって聞いてんだよ、今ので納得するわけねぇだろ。ちゃんと説明しろよ。
なんであいつとキスなんかしたんだよ……おい、こっち見ろ……亜姫!」
無視を続ける亜姫に業を煮やした和泉。
体を無理やり自分の方へ反転させ、その顔を見て目を見開く。
亜姫は、目にいっぱいの涙を溜めて唇を震わせていた。伏し目がちなまま、震えた声を出す。
「……って、話聞いて、って……違うって、言った」
震えて動かない唇を数秒噛みしめ、亜姫はまた言う。
「着たくない。こんな恥ずかしい服、好きで着たわけじゃない。和泉が……この服で出かけたいって言ってた、から。
髪も、メイクも。他の人なんて知らないよ。全部、和泉の為にした」
「な、に、言って……だってお前、あいつと」
「キスなんかしてない。和泉と約束してたのに二人で消えたりなんか、しない」
ここで初めて和泉が動揺を見せた。
「あれは……誰がどう見たって、してる、としか……。あの人だって、さっき認め……」
「してない。だってあの時、崩れてたメイクを自分で直せなくて怒られてたんだから。
和泉の為の格好だって、先輩は知ってたから……。
和泉が戻って来る前にちゃんと綺麗にしろって。早くしろって。でも私があまりに出来なすぎて、呆れた先輩が急いで直してくれてた。
すぐ近くに、先輩の友達も皆いた。疑うなら聞いてみればいい。あの人達からもダメ出しされて、笑われてたんだから。
和泉のことしか、見てないのに。……先輩とそんなこと、するわけない」
和泉は言葉を失くして亜姫を見た。
「和泉こそ、朝から私の事を無視してたじゃない。今も、来たくなかったんでしょう? そう呟いたの、聞こえたよ?
………嫌なら、断ってくれればよかったのに。
でも、どうして? 昨日までと違いすぎて……理由なんて、逆に私が聞きたいよ? それに、二人で消えたのは和泉の方でしょう?」
「それはっ……でも、マリナはガキだろ!?」
「子供でも、好意向けられてるってわかってたじゃない。なのに、私のことを無視してマリナちゃんには笑いかけてた。
楽しそうに話して体に触れさせてた。すぐ、追いかけたのに……いなかった。
どうしていいかわからなくなってた私を、先輩があそこまで連れ戻してくれたんだよ。マリナちゃんがすぐあそこに戻ってくるはずだから、って。私にも和泉にも悪いことしたって、何度も謝ってた。
先輩に恋愛感情はないって、先輩もそんなこと絶対しないって、わかってくれてたんじゃないの……?
他の男の子に好かれたいなんて思ったこと、一度もないよ?
でも……和泉は私のこと、ずっとそういう風に見てたんだ? 私のこと、全然信じてなかったんだ? 信じてくれてなかったんだ」
「亜姫……」
試すことすら出来ずに終わる。こんな一日を受け入れられず、泣きそうになるのを堪えながら、せめて別れるジンクスが叶ってしまう事態は避けたくて、亜姫は必死に冷静さを保とうとしていた。
しかし、容赦なく暴れる暗い感情は止めどなく溢れ続け、亜姫の中をこれでもかと埋めていく。
「誰かにあんなに頼み事をしたのも、自分を綺麗に見せたいと思ったのも、初めてだった。
ずっと、和泉のことばっかり考えてた。……和泉の事しか、考えてなかった。
……私、悪い事なんて何もしてない。今日、すごく楽しみにしてたのに。だから、いっぱい、頑張ったのに」
潤む瞳を和泉に向けながら、今にも落ちそうな涙をなんとか留める。泣いたら全てが終わってしまう気がした。気持ちを落ち着かせる為に大きく息を吸う。そしてそれを吐き出そうとしたら、息の代わりに堪らえていた感情が漏れ出た。
「……て……もう、キライ……」
眉間に力を入れ、歪む顔をなんとか止める。溢れ出る感情に必死で蓋をする。
けれど、もう閉じることは出来そうになかった。
「………顔も見たくない。もう、和泉なんか、キライ」
そう呟くと、亜姫は振り向きざま駆け出した。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる