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高2

文化祭(1)

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 文化祭当日。
 
 今日、亜姫は和泉よりも早く登校した。着替えの前にヘアメイクをする為だ。
 繁盛した場合に備え、裏方も接客できるよう揃いの制服が用意されている。ちなみに、男子は全員執事服着用だ。
 
 亜姫は裏方だが、メイド服用のヘアメイクを施されている。いざとなったら亜姫を接客に変えようと、沙世莉達が密かに企んでいる為だ。だがそれがバレたら困るので、亜姫には和泉へのサプライズだと誤魔化して伝えていた。和泉には亜姫がメイクすることを知らせていない。
 
「和泉、いつもと違うことに気づいてくれるかなぁ。こんな可愛い髪型もメイクもしたことないんだけど……気に入ってくれるかな?」
「まだ心配してるの? あいつなら絶対気づくし、気にいるに決まってるじゃない」
 
 不安と期待でソワソワ。
 出来上がった自分の姿に亜姫は驚く。 
 え? これ、私……?
 
 ナチュラルな仕上がりだが、やはり普段とは全然違う。いつもより大人っぽく可愛く見えると自分でも感じる。
 これなら、喜んでくれるかな……。
 嬉しそうに笑う和泉の顔を思い浮かべて、亜姫の胸は踊る。
  
 なんだかんだで、あっと言う間に開始間際。慌てて外に出ると、教室の端に立つ和泉と目が合った。
 
 あ、かっこいい……。
 和泉の執事服に、珍しく亜姫が見惚れる。だが、和泉が厳しい目つきで眉をひそめていることに気づき、亜姫は体を強張らせた。

 いつもなら、優しい顔を向けてくれるのに。 
 初めて見る和泉の表情に不安がよぎる。しかし慌ただしい準備に追われ、なぜそんな顔をしていたのか考える暇は無かった。
 
「見せた?」
 そう聞く沙世莉に、亜姫は不安げな顔を向ける。
「一瞬目は合った、と思う。だけど……気に入らなかったのかも。すごく怖い顔、してた…」
「接客を嫌がってるから苛ついてるんじゃない? 気にしなくていいよ。どうせお昼になれば間近で見るわけだし、そのときの反応を楽しみにしとこ。すごく可愛いから自信持って。さ、皆、頑張って稼ごー!」
 
  
 事前告知の効果もあり、メイド喫茶は想像以上の大反響だった。ホール組の接客も話題を呼んだが、やはり和泉効果が際立っていた。
 本人は不機嫌極まりない態度ではあるが、そのつれない接客が逆に好評。おかげで客足が途切れることもなく、あっという間に午前中が終わる。
 
「亜姫。そろそろ準備しないと」 
 亜姫は更衣室へ入ると服を着替え、ヘアメイクの手直しをされた。
「デート仕様で華やかにしといたから。飾りが取れちゃうから、髪には触らないようにね。
 亜姫、すっごく可愛いよ。お人形みたい」
 
 実は、この日の為に内緒でメイド服を準備していたのだ。
 「この服を着た亜姫と出かけたい」と、和泉が呟いていたから。 
 この服を着るのは恥ずかしい。ただでさえ自分には似合わないと思うのに、この格好で校内を歩き回るなんて。
 だが、和泉の喜ぶ顔が見たくて考えたのだ。自分のワガママを聞いて貰うお礼として。
 誰かの為にこんなに色々考えたことも、自分を綺麗に見せたいと思ったことも初めてだった。
 
 果たして、叶えられるだろうか。不安で心臓がドキドキと音をたてる。
 和泉は休む暇もなかった。そんな彼の状態が心配になる。
 もしかしたら疲れてしまってるかも……。

 朝の様子が気になっていたが、あれだけ何度も確認してきたのだからきっと大丈夫。疲れているようなら、ゆっくりする時間を増やせばいいだけだ。
 そう自分に言い聞かせると、亜姫は少し早めに更衣室を飛び出した。
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