84 / 364
高2
文化祭(1)
しおりを挟む
文化祭当日。
今日、亜姫は和泉よりも早く登校した。着替えの前にヘアメイクをする為だ。
繁盛した場合に備え、裏方も接客できるよう揃いの制服が用意されている。ちなみに、男子は全員執事服着用だ。
亜姫は裏方だが、メイド服用のヘアメイクを施されている。いざとなったら亜姫を接客に変えようと、沙世莉達が密かに企んでいる為だ。だがそれがバレたら困るので、亜姫には和泉へのサプライズだと誤魔化して伝えていた。和泉には亜姫がメイクすることを知らせていない。
「和泉、いつもと違うことに気づいてくれるかなぁ。こんな可愛い髪型もメイクもしたことないんだけど……気に入ってくれるかな?」
「まだ心配してるの? あいつなら絶対気づくし、気にいるに決まってるじゃない」
不安と期待でソワソワ。
出来上がった自分の姿に亜姫は驚く。
え? これ、私……?
ナチュラルな仕上がりだが、やはり普段とは全然違う。いつもより大人っぽく可愛く見えると自分でも感じる。
これなら、喜んでくれるかな……。
嬉しそうに笑う和泉の顔を思い浮かべて、亜姫の胸は踊る。
なんだかんだで、あっと言う間に開始間際。慌てて外に出ると、教室の端に立つ和泉と目が合った。
あ、かっこいい……。
和泉の執事服に、珍しく亜姫が見惚れる。だが、和泉が厳しい目つきで眉を顰めていることに気づき、亜姫は体を強張らせた。
いつもなら、優しい顔を向けてくれるのに。
初めて見る和泉の表情に不安がよぎる。しかし慌ただしい準備に追われ、なぜそんな顔をしていたのか考える暇は無かった。
「見せた?」
そう聞く沙世莉に、亜姫は不安げな顔を向ける。
「一瞬目は合った、と思う。だけど……気に入らなかったのかも。すごく怖い顔、してた…」
「接客を嫌がってるから苛ついてるんじゃない? 気にしなくていいよ。どうせお昼になれば間近で見るわけだし、そのときの反応を楽しみにしとこ。すごく可愛いから自信持って。さ、皆、頑張って稼ごー!」
事前告知の効果もあり、メイド喫茶は想像以上の大反響だった。ホール組の接客も話題を呼んだが、やはり和泉効果が際立っていた。
本人は不機嫌極まりない態度ではあるが、そのつれない接客が逆に好評。おかげで客足が途切れることもなく、あっという間に午前中が終わる。
「亜姫。そろそろ準備しないと」
亜姫は更衣室へ入ると服を着替え、ヘアメイクの手直しをされた。
「デート仕様で華やかにしといたから。飾りが取れちゃうから、髪には触らないようにね。
亜姫、すっごく可愛いよ。お人形みたい」
実は、この日の為に内緒でメイド服を準備していたのだ。
「この服を着た亜姫と出かけたい」と、和泉が呟いていたから。
この服を着るのは恥ずかしい。ただでさえ自分には似合わないと思うのに、この格好で校内を歩き回るなんて。
だが、和泉の喜ぶ顔が見たくて考えたのだ。自分のワガママを聞いて貰うお礼として。
誰かの為にこんなに色々考えたことも、自分を綺麗に見せたいと思ったことも初めてだった。
果たして、叶えられるだろうか。不安で心臓がドキドキと音をたてる。
和泉は休む暇もなかった。そんな彼の状態が心配になる。
もしかしたら疲れてしまってるかも……。
朝の様子が気になっていたが、あれだけ何度も確認してきたのだからきっと大丈夫。疲れているようなら、ゆっくりする時間を増やせばいいだけだ。
そう自分に言い聞かせると、亜姫は少し早めに更衣室を飛び出した。
今日、亜姫は和泉よりも早く登校した。着替えの前にヘアメイクをする為だ。
繁盛した場合に備え、裏方も接客できるよう揃いの制服が用意されている。ちなみに、男子は全員執事服着用だ。
亜姫は裏方だが、メイド服用のヘアメイクを施されている。いざとなったら亜姫を接客に変えようと、沙世莉達が密かに企んでいる為だ。だがそれがバレたら困るので、亜姫には和泉へのサプライズだと誤魔化して伝えていた。和泉には亜姫がメイクすることを知らせていない。
「和泉、いつもと違うことに気づいてくれるかなぁ。こんな可愛い髪型もメイクもしたことないんだけど……気に入ってくれるかな?」
「まだ心配してるの? あいつなら絶対気づくし、気にいるに決まってるじゃない」
不安と期待でソワソワ。
出来上がった自分の姿に亜姫は驚く。
え? これ、私……?
ナチュラルな仕上がりだが、やはり普段とは全然違う。いつもより大人っぽく可愛く見えると自分でも感じる。
これなら、喜んでくれるかな……。
嬉しそうに笑う和泉の顔を思い浮かべて、亜姫の胸は踊る。
なんだかんだで、あっと言う間に開始間際。慌てて外に出ると、教室の端に立つ和泉と目が合った。
あ、かっこいい……。
和泉の執事服に、珍しく亜姫が見惚れる。だが、和泉が厳しい目つきで眉を顰めていることに気づき、亜姫は体を強張らせた。
いつもなら、優しい顔を向けてくれるのに。
初めて見る和泉の表情に不安がよぎる。しかし慌ただしい準備に追われ、なぜそんな顔をしていたのか考える暇は無かった。
「見せた?」
そう聞く沙世莉に、亜姫は不安げな顔を向ける。
「一瞬目は合った、と思う。だけど……気に入らなかったのかも。すごく怖い顔、してた…」
「接客を嫌がってるから苛ついてるんじゃない? 気にしなくていいよ。どうせお昼になれば間近で見るわけだし、そのときの反応を楽しみにしとこ。すごく可愛いから自信持って。さ、皆、頑張って稼ごー!」
事前告知の効果もあり、メイド喫茶は想像以上の大反響だった。ホール組の接客も話題を呼んだが、やはり和泉効果が際立っていた。
本人は不機嫌極まりない態度ではあるが、そのつれない接客が逆に好評。おかげで客足が途切れることもなく、あっという間に午前中が終わる。
「亜姫。そろそろ準備しないと」
亜姫は更衣室へ入ると服を着替え、ヘアメイクの手直しをされた。
「デート仕様で華やかにしといたから。飾りが取れちゃうから、髪には触らないようにね。
亜姫、すっごく可愛いよ。お人形みたい」
実は、この日の為に内緒でメイド服を準備していたのだ。
「この服を着た亜姫と出かけたい」と、和泉が呟いていたから。
この服を着るのは恥ずかしい。ただでさえ自分には似合わないと思うのに、この格好で校内を歩き回るなんて。
だが、和泉の喜ぶ顔が見たくて考えたのだ。自分のワガママを聞いて貰うお礼として。
誰かの為にこんなに色々考えたことも、自分を綺麗に見せたいと思ったことも初めてだった。
果たして、叶えられるだろうか。不安で心臓がドキドキと音をたてる。
和泉は休む暇もなかった。そんな彼の状態が心配になる。
もしかしたら疲れてしまってるかも……。
朝の様子が気になっていたが、あれだけ何度も確認してきたのだからきっと大丈夫。疲れているようなら、ゆっくりする時間を増やせばいいだけだ。
そう自分に言い聞かせると、亜姫は少し早めに更衣室を飛び出した。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
夏の出来事
ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。
ハッピークリスマス !
設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が
この先もずっと続いていけぱいいのに……。
―――――――――――――――――――――――
|松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳
|堂本海(どうもとかい) ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ)
中学の同級生
|渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳
|石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳
|大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?
――― 2024.12.1 再々公開 ――――
💍 イラストはOBAKERON様 有償画像
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる