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高2

文化祭準備(1)

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 呼ばれた気がして振り向くと、少し先の廊下で、紗世莉さよりが手招きしていた。
 
 紗世莉は同じクラス。麗華や亜姫とは中学からの付き合いで、昔からバスケ一筋。ここにもバスケの推薦で入り、才能を伸ばし続けているストイックなスポーツ女子。
 だが見た目はグラマラスな長身で色っぽく、女らしさも持ちあわせていたいと外見にも気を遣う為、一見運動をしているようには見えない。胸まである緩くふわっとした髪型がまた、紗世莉の色気を上増ししている。
 だがひとたびボールを持てば、男子にも負けない働きをする。競技中のかっこ良さ、さっぱりした性格、意志の強そうな凜とした雰囲気が合わさって、男だけでなく女子にもやたらとモテる。
 
 そんな紗世莉は、和泉に全く興味がない少数派の一人。
 スポーツが好きで真剣に取り組んでいる人、何事も楽しめる人、爽やかだけれど頼りがいがあるゴツい体格の人が理想だそうで、和泉は全てが圏外なのだとか。
 
 亜姫達と恋の話をしていた時、琴音が「和泉って実はスポーツ万能でいい体をしてるんだよ」と沙世莉に薦めたことがあった。
 
 すると沙世莉は。
「どれだけ運動出来ても、やる気がないじゃない。確かに見た目はいいけど、私はもっと筋肉質な人が好みだし。そもそも問題ありすぎて論外。
 あれがいいと言う人の神経が本当にわからない。琴音の目は確実に腐ってる! あんなのと一緒にいても全然楽しくないし、マネキンの方がまだマシ」
 と、汚いゴミを見るような目で和泉を評していた。
 
 なので麗華と同じく、亜姫と付き合いだした和泉にやたらと厳しい。
 亜姫が知る限り、和泉にそんな態度を取るのはこの二人だけだ。
 
「さよりちゃん? どうしたの?」
 
 紗世莉は亜姫を人のいない場所へ連れて行く。
 すると、そこには麗華もいた。
「悪いんだけど、亜姫の係はもう決まってるからね」
「へ? 今から決めるんじゃなかったの?」
 まさに次の時間、その詳細を決める予定だった。
「そうだけど。亜姫は決まってるの、イズミ係に」
「イズミ係?」
 
 二人が言うには。和泉狙いの女子を牽制する意味でも、和泉を落ちついて働かせる為にも必要な係だと。 
 「同じクラスの中で亜姫が他の男と組むのも、それを横目に他の女と働くのも無理でしょ? あのお子様には。
 いい? この文化祭では、和泉をとにかく働かせたいの。皆の食券がかかってるんだから、あいつを最大限に使う。
 その為にも、準備は亜姫と組ませるから。悪いけど、和泉の相手は亜姫に全部まかせた」
 
 そう、この文化祭は学年別の人気投票がある。一位を取ったクラスは、全員に学食の食券が数日分支給される。
 この学校の学食は豪華でおいしいと評判で、これ欲しさに熱を上げるクラスが多々あり、文化祭の質を向上させるのに一役買っている。 
 二年の出店は飲食店と決まっているので、ならば和泉を客寄せに使おうという魂胆だ。
 これはクラスの総意らしい。担任も食券の支給対象になっている為、山本もそれで行けとゴーサインを出したそうだ。
  
 そして次の時間、その通りに決定した。
 和泉がかなり渋った為、亜姫を同じスケジュールで一緒に働かせることで納得させた。 
 内容はメイド喫茶に決まっていた。女子はメイド服、男子は執事服で。
 
 早速、男女に分かれて試着を始める。すると、女子の方から歓声が上がる。 
「亜姫! あんたはずっと接客で決まり! これは予想以上!」
「えっ、これで? えぇー……私には無理があると思うんだけど……?」
「大丈夫大丈夫! 亜姫を餌に客寄せ出来る。いつも通り、笑ってればいーから!」
「ねー、見て!」
 
 亜姫が抵抗しつつ教室へ押し出される。
 途端にしん……とする教室の空気とポカンとする男子達。 
「……ほ、ほら。皆、変な顔してるじゃない。やっぱり私じゃない方が……」 
 最後まで言い終わらないうちに、亜姫は和泉に引っ張られて教室を飛び出していた。
 出る直前、和泉は室内に向かって叫ぶ。
「亜姫は無し! 絶対に! 着せないからな!!」 
「和泉、ちょっと? どこに行くの!?」 
 その言葉をひたすら無視して、和泉は二人きりになれる場所まで亜姫を連れていった。そこで膝の上に亜姫を乗せ、ようやく落ち着いた。
 
「勝手に出て来ちゃ駄目だよ、戻ろうよ。ねぇ、和泉……」
「駄目。これは絶対駄目」 
 亜姫をギュウッと抱え込んで、和泉はだめを連呼する。 
「やっぱり似合わないよね。皆、引いてたし。私もそう思……」
「バカ、逆。……似合いすぎててヤバい。お前、エロすぎる」
「へ? これのどこが? 子供っぽくない?」 
 わけがわからずにいる亜姫を、和泉はジッと見つめる。
 
 頭につけたレースのカチューシャ。
 広めに開いた胸元はやたら艶めかしい白い肌が晒され、そこにほんの少しだけ顔を出している小ぶりな胸の谷間。
 細くくびれた腰から下に向かって広がるふわふわのミニスカート。
 そこから伸びる、細く長い足。
 白いニーハイソックスとスカートの間に少しだけのぞく素肌の太もも。
 服やチラ見えする素肌から卑猥な妄想をかき立てられ、相反する亜姫の幼さがそれを更に増幅させている。
 
「いやいや、全身ヤバいって……。
 亜姫は接客したら駄目。それは着せない」
「えー! やりたかったのに! エロとか色気とか、そんなの全然ないじゃない! じゃあ、逆に執事服を着たらしてもいい?」
「バカ……お前のその幼い雰囲気が逆に危うさを産むんだって……皆、釘付けだったじゃねーか……。
 つーか、どんな服着ても駄目。お前に絡む男の客が絶対いるはずだから。お前は裏方」 
 膨れてブツブツ言う亜姫を、和泉はギュウッと抱きしめ呟いた。
「この服を着た亜姫と、出かけたい………」 
  
 結局、和泉が絶対に駄目だと引かなかった為に、亜姫は接客から外された。 
 俺もやらない! と和泉は最後まで粘ったが、麗華と紗世莉が「それなら亜姫を接客に回す」と有無を言わせず。
 それだけは許せない和泉は、『無愛想に対応する冷たい執事』の設定でいいと言われて渋々頷いた。
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