73 / 364
高2
勘違い(5)
しおりを挟む
和泉は焦っていた。
つい先ほど、日本に帰国したばかりだ。
海外に発つ日の早朝、出発直前に不注意から携帯を壊してしまった。
画面も割れ、何も見えない。修理に出す時間など勿論なく、そのまま旅立つハメになった。
これでは亜姫と連絡が取れない。
疲れた姿を最後に見たきり、連絡が取れてない。
本当は、ちゃんと説明してから行くつもりだった。まさかあんな一日になるとは思わず、ようやくその話を思い出したのは別れ際だ。
だが亜姫の様子から、翌日に電話で話をすればいいと思っていた。
結果、亜姫には詳細を何も伝えてられてない。体調も心配だ。
よりによって、会えない時に携帯を壊すとは……。
初めて行く場所、短期滞在。修理に出す気も時間もなく、連絡を取りたくても画面が見られないので誰の連絡先も分からない。
亜姫の番号ぐらい覚えておけよと浮かれて過ごしていた自分に呆れる。だが、後悔したところで何が出来るわけでもなく。
現地に着くなり「今すぐ帰る」と初めてのダダをこねてみたが、勿論そんなの通用しなかった。
冬夜からは「ふざけんな、遊びに来たんじゃねぇんだよ」と手痛い説教をくらった。
しかし、初めてのワガママが冬夜には感慨深かったのか──頑なに理由を言わなかったにも関わらず──頑張って働けば終わり次第先に帰してやる、と言われガムシャラに手伝った。
そして今日、予定より早く帰国の途についた。
帰国した足で店に飛び込み、携帯を買い替える。幸いデータは引き継げたので、その場で亜姫に電話したが繋がらない。電源を落としているようだった。
メッセージも数件入っていたが、数日前を最後に一切の連絡が途絶えている。
音信不通な状態が、これでもかと不安をかき立てた。
亜姫の家へ向かってみたが、いつもなら家にいるはずの時間なのに留守だった。しばらく待ってみたけれど、誰も帰ってこない。
ならば麗華にと思ったが、そちらも繋がらなかった。家は分からないから尋ねようがない。
万策尽きて途方に暮れていると、戸塚から連絡が来た。
『夕方、野口と亜姫が仲良さそうに歩いてるのを見た。和泉はそれを知ってるのか? 一体、何がどうなってるんだ』
衝撃で、和泉の頭は真っ白になった。
『どう見ても遊びに行った帰りだった。用事の途中に見かけただけで詳しくは分からない。とにかく二人で楽しそうに店へ入っていった』
想像もしなかった事態に和泉は冷静さを失った。
荷物を駅のロッカーに放り投げ、急いでその店まで行ってみたが既に閉店。じっとしていられず周辺も探してみたが、やはり会うことは出来なかった。
野口と? そんな話、亜姫からは何も聞いてない。
今も野口と一緒なのか?
俺がいない間に何が起きてる?
どこにいる?
不可抗力とは言え、音信不通な状態を作り出した自分にひどく後悔する。やはり海外など行かず、亜姫のそばにいれば良かった。
しかし、今更そう思っても後の祭りだ。
『連絡して。会いたい』
そう書いたメッセージを送ったまま、いつまでも返ってこない返事をこれでもかと待ち続けた。
◇
亜姫と麗華は翌日の昼頃に目覚めた。昨日は遊びすぎて疲れてしまい、倒れ込むように寝てしまったのだ。
二人共、いつの間にか携帯の電源が落ちていたらしい。充電を済ませてようやく電源を入れると、亜姫の携帯にメッセージが届いていた。
『連絡して。会いたい』
久々の連絡にも関わらず、要件だけを伝える簡素な文字。雑誌の内容を思い出して、亜姫の胸がすくむ。
見なかったことにしたい。会うのが怖い。
そう思ったが、野口と同様に麗華もちゃんと話をしろと言う。
家で待ってるから、話し終えたらすぐに帰っておいで。
その言葉に背中を押されてメッセージを送ると、即座に着信。亜姫は恐る恐る出てみる。
「今、どこにいる?」
前置きもない和泉の低い声。聞き慣れた声のはすわなのに、知らない人みたいだ。
麗華の家だと言うと、電話の向こうで大きな溜息が聞こえた。なぜだか、責められているような気持ちになった。
「今から、会える?」
いつもこれでもかと呼ばれていた自分の名を、一度も呼ばれない。
それだけで亜姫の心は挫けそうになった。
再び雑誌の内容が浮かぶ。つい、試すような言葉が口をついた。
「家に、行ってもいい………?」
「え……? いや、そっちまで俺が出て行く」
和泉は焦った様子で、自宅に行くのを拒否する。
それで亜姫の心は完全に挫けた。
そんな亜姫を余所に、和泉は勝手に場所と時間を指定しようとする。
「和泉の家で話したい。今から……行くから」
一方的に告げて、亜姫は通話を切った。
麗華が心配そうに亜姫を見る。それに無理やり笑顔を返し、亜姫は和泉の元へ向かった。
つい先ほど、日本に帰国したばかりだ。
海外に発つ日の早朝、出発直前に不注意から携帯を壊してしまった。
画面も割れ、何も見えない。修理に出す時間など勿論なく、そのまま旅立つハメになった。
これでは亜姫と連絡が取れない。
疲れた姿を最後に見たきり、連絡が取れてない。
本当は、ちゃんと説明してから行くつもりだった。まさかあんな一日になるとは思わず、ようやくその話を思い出したのは別れ際だ。
だが亜姫の様子から、翌日に電話で話をすればいいと思っていた。
結果、亜姫には詳細を何も伝えてられてない。体調も心配だ。
よりによって、会えない時に携帯を壊すとは……。
初めて行く場所、短期滞在。修理に出す気も時間もなく、連絡を取りたくても画面が見られないので誰の連絡先も分からない。
亜姫の番号ぐらい覚えておけよと浮かれて過ごしていた自分に呆れる。だが、後悔したところで何が出来るわけでもなく。
現地に着くなり「今すぐ帰る」と初めてのダダをこねてみたが、勿論そんなの通用しなかった。
冬夜からは「ふざけんな、遊びに来たんじゃねぇんだよ」と手痛い説教をくらった。
しかし、初めてのワガママが冬夜には感慨深かったのか──頑なに理由を言わなかったにも関わらず──頑張って働けば終わり次第先に帰してやる、と言われガムシャラに手伝った。
そして今日、予定より早く帰国の途についた。
帰国した足で店に飛び込み、携帯を買い替える。幸いデータは引き継げたので、その場で亜姫に電話したが繋がらない。電源を落としているようだった。
メッセージも数件入っていたが、数日前を最後に一切の連絡が途絶えている。
音信不通な状態が、これでもかと不安をかき立てた。
亜姫の家へ向かってみたが、いつもなら家にいるはずの時間なのに留守だった。しばらく待ってみたけれど、誰も帰ってこない。
ならば麗華にと思ったが、そちらも繋がらなかった。家は分からないから尋ねようがない。
万策尽きて途方に暮れていると、戸塚から連絡が来た。
『夕方、野口と亜姫が仲良さそうに歩いてるのを見た。和泉はそれを知ってるのか? 一体、何がどうなってるんだ』
衝撃で、和泉の頭は真っ白になった。
『どう見ても遊びに行った帰りだった。用事の途中に見かけただけで詳しくは分からない。とにかく二人で楽しそうに店へ入っていった』
想像もしなかった事態に和泉は冷静さを失った。
荷物を駅のロッカーに放り投げ、急いでその店まで行ってみたが既に閉店。じっとしていられず周辺も探してみたが、やはり会うことは出来なかった。
野口と? そんな話、亜姫からは何も聞いてない。
今も野口と一緒なのか?
俺がいない間に何が起きてる?
どこにいる?
不可抗力とは言え、音信不通な状態を作り出した自分にひどく後悔する。やはり海外など行かず、亜姫のそばにいれば良かった。
しかし、今更そう思っても後の祭りだ。
『連絡して。会いたい』
そう書いたメッセージを送ったまま、いつまでも返ってこない返事をこれでもかと待ち続けた。
◇
亜姫と麗華は翌日の昼頃に目覚めた。昨日は遊びすぎて疲れてしまい、倒れ込むように寝てしまったのだ。
二人共、いつの間にか携帯の電源が落ちていたらしい。充電を済ませてようやく電源を入れると、亜姫の携帯にメッセージが届いていた。
『連絡して。会いたい』
久々の連絡にも関わらず、要件だけを伝える簡素な文字。雑誌の内容を思い出して、亜姫の胸がすくむ。
見なかったことにしたい。会うのが怖い。
そう思ったが、野口と同様に麗華もちゃんと話をしろと言う。
家で待ってるから、話し終えたらすぐに帰っておいで。
その言葉に背中を押されてメッセージを送ると、即座に着信。亜姫は恐る恐る出てみる。
「今、どこにいる?」
前置きもない和泉の低い声。聞き慣れた声のはすわなのに、知らない人みたいだ。
麗華の家だと言うと、電話の向こうで大きな溜息が聞こえた。なぜだか、責められているような気持ちになった。
「今から、会える?」
いつもこれでもかと呼ばれていた自分の名を、一度も呼ばれない。
それだけで亜姫の心は挫けそうになった。
再び雑誌の内容が浮かぶ。つい、試すような言葉が口をついた。
「家に、行ってもいい………?」
「え……? いや、そっちまで俺が出て行く」
和泉は焦った様子で、自宅に行くのを拒否する。
それで亜姫の心は完全に挫けた。
そんな亜姫を余所に、和泉は勝手に場所と時間を指定しようとする。
「和泉の家で話したい。今から……行くから」
一方的に告げて、亜姫は通話を切った。
麗華が心配そうに亜姫を見る。それに無理やり笑顔を返し、亜姫は和泉の元へ向かった。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる