68 / 364
高2
初の出来事(3)
しおりを挟む
和泉が自分を欲してくれている。それがこんなに嬉しくて幸せで……。
「……と…は………うな……。
やっ……り……の……が……ちばん…ったな……」
和泉が何か言っていたが、その時はあまり聞き取れなかった。
しばらく微睡んでいた亜姫は、温もりを感じて体をすり寄せた。上からフッと笑う声が聞こえて、例のごとく和泉に包まれていたと気づく。
けれどなぜ寝ていたか思い出せず、しばしボーッとして……。
「起きた?……大丈夫?」
和泉の気遣わしげな声で覚醒した。
ガバッと体を起こし、途端に恥ずかしくなって悲鳴を上げ、また布団の中に潜りこむ。
少しでも逃げ出せれば……と、和泉に背を向けて。
すると和泉がくすくすと笑い、わずかに出ていた頭へ口づけた。
わざとリップ音を鳴らしたことに気づき、亜姫は布団から飛び出して叫ぶ。
「意地悪しないで! もうっ!」
真っ赤な顔で怒る亜姫を見て、和泉は再び笑う。
「ごめんごめん。安心して。もうしないから」
「もう、しない……?」
「うん。絶対にしない」
そう言うと、和泉は亜姫の顔をそっと撫でた。
「ごめんな?」
亜姫は何も言わず、まるで和泉を捕まえるかのように抱きついた。
◇
亜姫が幸せそうに微笑みながら眠っている。それを見た和泉の中に幸福感が広がった。
目覚めてからはいつもの亜姫だ。なのに、しがみついてくる姿が今まで以上に愛おしい。
この子が自ら望んで自分のものになってくれたという事実。それが和泉を更に高揚させた。
亜姫の全てを手に入れた。
亜姫が、とうとう自分のモノになった。
和泉はその喜びに満たされたまま、しばらく亜姫を抱きしめていた。
ゆっくり休ませてやりたい。そう思い、いつもより早く家を出た。
そうしないと帰したくなくなってしまう。亜姫に触れたい気持ちが残っていたので、万が一の暴走を防ぐためにも必要だった。
体目当てだなんて亜姫に思われたら。
和泉の中では、やはりそれが一番怖い。なので暴れだしそうな感情を隠し、さも余裕があるフリをした。
帰り道の亜姫は口数も少なく俯きがちで、疲れが見える。
しておきたい話があったけど、今日は無理かな……。
和泉は、すっかり忘れていたことを思い出していた。
実は、明日から十日ほど海外へ行かねばならない。冬夜の仕事を急遽手伝うことになったからだ。和泉自身、聞かされたのは昨日の夜中。しかも決定事項として知らされた。
冬夜が仕事の手伝いを頼むなんて初めてのことだ、よっぽどの緊急事態に違いない。それを、まさか彼女と離れたくないなんて理由で断れるはずも無く。
しかたない、会えない間は気持ちを落ち着かせるのに必要な時間だと思おう。和泉はそう考えることにした。
結局、亜姫にその話はできなかった。去り際にしばらく会えないと簡単に告げただけで、和泉は翌日旅立った。
「……と…は………うな……。
やっ……り……の……が……ちばん…ったな……」
和泉が何か言っていたが、その時はあまり聞き取れなかった。
しばらく微睡んでいた亜姫は、温もりを感じて体をすり寄せた。上からフッと笑う声が聞こえて、例のごとく和泉に包まれていたと気づく。
けれどなぜ寝ていたか思い出せず、しばしボーッとして……。
「起きた?……大丈夫?」
和泉の気遣わしげな声で覚醒した。
ガバッと体を起こし、途端に恥ずかしくなって悲鳴を上げ、また布団の中に潜りこむ。
少しでも逃げ出せれば……と、和泉に背を向けて。
すると和泉がくすくすと笑い、わずかに出ていた頭へ口づけた。
わざとリップ音を鳴らしたことに気づき、亜姫は布団から飛び出して叫ぶ。
「意地悪しないで! もうっ!」
真っ赤な顔で怒る亜姫を見て、和泉は再び笑う。
「ごめんごめん。安心して。もうしないから」
「もう、しない……?」
「うん。絶対にしない」
そう言うと、和泉は亜姫の顔をそっと撫でた。
「ごめんな?」
亜姫は何も言わず、まるで和泉を捕まえるかのように抱きついた。
◇
亜姫が幸せそうに微笑みながら眠っている。それを見た和泉の中に幸福感が広がった。
目覚めてからはいつもの亜姫だ。なのに、しがみついてくる姿が今まで以上に愛おしい。
この子が自ら望んで自分のものになってくれたという事実。それが和泉を更に高揚させた。
亜姫の全てを手に入れた。
亜姫が、とうとう自分のモノになった。
和泉はその喜びに満たされたまま、しばらく亜姫を抱きしめていた。
ゆっくり休ませてやりたい。そう思い、いつもより早く家を出た。
そうしないと帰したくなくなってしまう。亜姫に触れたい気持ちが残っていたので、万が一の暴走を防ぐためにも必要だった。
体目当てだなんて亜姫に思われたら。
和泉の中では、やはりそれが一番怖い。なので暴れだしそうな感情を隠し、さも余裕があるフリをした。
帰り道の亜姫は口数も少なく俯きがちで、疲れが見える。
しておきたい話があったけど、今日は無理かな……。
和泉は、すっかり忘れていたことを思い出していた。
実は、明日から十日ほど海外へ行かねばならない。冬夜の仕事を急遽手伝うことになったからだ。和泉自身、聞かされたのは昨日の夜中。しかも決定事項として知らされた。
冬夜が仕事の手伝いを頼むなんて初めてのことだ、よっぽどの緊急事態に違いない。それを、まさか彼女と離れたくないなんて理由で断れるはずも無く。
しかたない、会えない間は気持ちを落ち着かせるのに必要な時間だと思おう。和泉はそう考えることにした。
結局、亜姫にその話はできなかった。去り際にしばらく会えないと簡単に告げただけで、和泉は翌日旅立った。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる