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高2

体育祭(4)

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「ばか野郎! なにしてんだお前は!!」 
 トラックを出たところで待ち構えていた山本に掴まり、和泉は連行された。
  
「亜姫を狙う奴らが多すぎんだよ。
 俺のもんだって見せつけとかねーと、悪い虫がつくだろ?」
 不貞腐れた態度を見せる和泉。
 
「バカが! 少しは亜姫のことを考えろ!
 見せつけるにしても、もっと他のやり方があるだろう! あんなところで一人取り残されて、可哀想に」
 
 あの場から逃げることも出来ず、恥ずかしさを堪えながら小さくなって座る。
 亜姫のそんな姿を思い浮かべて、和泉は思わず笑みをこぼす。 
 そして、また山本に叱られた。
「呑気に笑ってんじゃねーよ。あれじゃ、女の嫉妬が全部亜姫に向くぞ?
 自分がどういう目で見られてるかわかってんだろ?そんな調子で亜姫のことをちゃんと守れんのか、お前は!!」 
「もちろん守る」 

 当然だと即答する和泉を見て、山本は大きな溜息をついた。
 
「まさか、お前がここまで変わるとはな……。
 全てに無関心な奴だと思ってたのに、蓋を開けてみりゃ独占欲の固まりじゃねーか。
 どっちにしても、お前が何をしでかすか気が気じゃない。まったく……少しは楽させてくれよ。俺も若くないんだから」

 後半はボヤキが入り、和泉は笑う。
 入学当初から何かと構ってくる彼のことは、嫌いじゃなかった。
 
「もうしねーよ、亜姫にも絶対叱られるし。ちゃんと行事もこなすし、しっかり守る。
 亜姫を狙う男が想像以上に多くて苛ついてたんだ。まぁ、やり過ぎたかなって少し反省してる」 
「少しじゃない、大いに反省しろ! 次は見逃さねーぞ!」 
 山本は再度溜息をつくと、渋々和泉を解放した。
 
 
 
 ◇
 和泉が戻る途中で、競技を終えた亜姫と会った。 
 口の動きだけで名前を呼び、おいでと呼びかけてみる。が、亜姫は怒るジェスチャーを返してきて「ばか!」と口パクで罵ると、「ふん!」と先に歩いて行った。
 
 それがまた可愛くてたまらない。
 和泉は、そのまま亜姫の後ろをついていく。
 
「ついて来ないで! あっち行ってよ!」 
 亜姫が途中で振り返り、小さな声で怒ってくるが、戻る場所が一緒なのだから仕方ない。
 すると、そのことに気づいた亜姫は「……もう!」とまた怒って、歩く速度を速めた。
 
 今、一緒にいるのを見られるのは耐えられないのだろう。和泉はくすりと笑って後ろ姿を見送った。
 そして、遠のく姿を見ながらのんびり歩いていると。
 
「おい、あんた! ちょっと! ……和泉!」
 
 呼ばれた声に和泉が振り返ると。
 
「和泉……さん。話、あんだけど」 
 先ほど会ったばかりの野口が、和泉を睨みつけて立っていた。隣に立つ同級生が必死に宥めているが、野口は聞く耳を持たない。

「クソガキが何の用?」
「亜姫先輩に恥かかせるなよ」
「は?」
「………さっきの、あ、あれのことだよ!
 人前であんなことしたら可哀想だろ! 亜姫先輩がどんな気持ちになるか、わかんない?そんなことすら分からないのなら、さっさと別れろよ!」 
 野口はまだ純情なのだろう、先ほどの行為を見た恥ずかしさで顔を赤らめた。だがそれはほんの一瞬で、激しい怒りを和泉にぶつける。
 
「お前にそんなこと言われる筋合いはねぇよ」
「ある。あんた、女癖悪いんだろ? 一年の間でも、あんたがしてたことは有名なんだよ。
 あんたとヤりたがってる奴は未だにいるし、隙あらばチャンス狙ってるって……亜姫先輩を出し抜くつもりだって実際に女が話してんのも聞いた。
 実際あんたのそばでは、今でも女がうろついてるじゃねーか。性行為やめたとか女嫌いとか……誰も信じてねぇよ、このクソ野郎!
 亜姫先輩をそこに巻き込むな。亜姫先輩はあんたとは違う。………あんたは、先輩にふさわしくない」
 
 いつの間にかヒロ達がそばにいて、面白そうに野口を見ている。
 だがその存在を確認しても彼は引くことなく、真っ直ぐに和泉を睨みつけていた。
 
 そんな彼を、和泉は「ちょっと来い」と引きずって行く。
 
「何すんだよ! 離せよ!」
「あんなとこで話をしてたら亜姫にも迷惑かかるって……分かんない?」
 和泉が呆れた目を向ける。 
 すると野口は口を噤み、大人しく歩き出した。

 その後ろから、ヒロ達が面白そうについてきた。
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