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高2

体育祭(3)

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「頼まれたからって、簡単について行くなよ。黒田の時みたいになったらどーすんだ」
「へっ? こんなに人が沢山いるのに、そんなことある?
 それより驚いたなぁ。こんな事って本当にあるんだね」
 亜姫は呑気な声で言う。
 
「あの状況なら告白しかないって思わなかったのか? 明らかにお前に惚れこんでるってわかるだろ。
 野口が持ってきたのは、「好きな人」のカードじゃねぇの?」
「わかんない、見てないもん。
 まさか告白されるなんて考えもしなかった。だって、この間初めての体験をしたばかりだよ?
 あれだけでも有り得なかったのに、こんな事が続くなんて普通は思わないでしょう。和泉と違ってモテないんだから、一目で分かるなんて無理だよ」
 
 あっけらかんという亜姫に、和泉は頭を痛める。
 もう少し危機感持てよ、お前の周りには狙ってる奴がゴロゴロしてんだから。 
 そう言いたいが、亜姫に言っても無駄だろう。
 うっかりしてると、簡単に手を出されそうだ。
 
 そんな気も知らず、当の本人は楽しげに集合場所へ走っていった。
  
 和泉はヒロ達の元へ戻り、苛立ち露わに事の次第を伝える。二人は大爆笑で面白がった。 
「面白いのが来たなぁ! 見たかった!」
「あっさり亜姫と友達になりやがった。俺は一年以上かかったのに……」
「何を張り合ってんだ。そりゃそいつみたいにストレートにいきゃ、そうなるだろ。
 そのまま横取りされねーように気をつけろよ?」
 ぶふっと笑いながらツッコんでくるヒロ。 
 和泉はますます苛つき、彼を蹴飛ばした。
 
 もうすぐ、亜姫の出番だ。
 
 
 
 ◇
 足の速い亜姫は一番にカードを引いた。にもかかわらず、顔を赤らめて数秒固まる。そしておずおずと振り向くと、和泉に小さく手招きした。
 
「俺でいーの?」
 和泉が確認すると、亜姫はほんのり頬を染めて頷く。 
 その手を取って走り出しながら「カード、見せて」と聞けば「見なくていいから!」と怒ったような返事。
 隙を見て取り上げると、そこには『好きな人』の文字。
 
 亜姫の様子とその文字に、和泉のテンションは一気に上がった。
 亜姫の手を握り直して猛烈なダッシュ。見事一位でゴールする。
 
「すごい、ごぼう抜き! 気持ち良かったね!」 
 亜姫が息を切らしながら、楽しそうに笑った。
 例の、喜びを爆発させた笑顔で。
 
 その姿を目にした瞬間、強烈な愛しさと独占欲が和泉の中から噴き出した。 
 1位の列に並ぶよう促された亜姫が、繋いでいた手を離していく。 
 だが、和泉はその手を掴み直して自分の方へ引き寄せた。そのまま後頭部に手を回し、その唇を塞ぐ。
 
 周りが衝撃をうけてざわめく。
 あちこちから聞こえる黄色い悲鳴、放送委員がマイク越しに騒ぎ立てる声……全てを無視して、和泉はゆっくりと顔を離す。
 
 案の定、首まで赤く染まった亜姫が時を止めたように呆然としていた。
 
 その顔がまた、たまらなく可愛い。
 囲い込みたい気持ちを押し留め、その背を進行方向へ押し出してやった。
 そして、ざわめく周りを無視して自身もその場を後にした。
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