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高2
初めてのこと(3)
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亜姫と話を済ませてから合流することにして。
さて、ではこの子をどうするか……と思いきや。
「亜姫、起きなさい」
麗華が豪快に亜姫をはたいた。そのまま頬をバチバチ叩き、力いっぱい体を揺らす。
「さすがに、荒技すぎない……?」
和泉がドン引くも、この程度じゃ起きないわよと麗華は再度亜姫をはたく。すると、
「んー、やだ……あとちょっと」
寝ぼけた亜姫は、和泉にギュウッと抱きついた。そのままムギュムギュと体を押しつけて、
「お母さん、お布団変えたの? 私こっちの方がいいな、すっごく気持ちいー………」
そう言って、またすやすやと眠りについた。
………………………。
………………………。
長い沈黙の後、全員が噴き出す。
「俺……色々言われてきたけど、布団呼ばわりされたのは初だな」
和泉が体を震わせて笑っていると、亜姫の眉間に皺が寄る。
そのタイミングで、麗華が囁いた。
「おっぱいが大きくなってプルプルしてる」
「………………えっ!」
亜姫が突然ガバッと飛び起きて、自分の胸を見下ろし数秒。
「全然大きくなってない!! …………あれ?」
目の前に麗華達がいる。亜姫はきょとんとした。
なぜ皆が大爆笑しているのか。
わからない。
そして、今の状況もわからない。
「おっまえ、マジかよ! おっぱい……どんだけ……! も、無理、はら痛てぇ……!」
ヒロが腹を抱えてヒーヒー笑っている。笑いすぎて、最早まともに喋れていない。
「覚醒しかけた時に言うと効果絶大なのよ、これ」
麗華が楽しそうに言うが、一体何の話か亜姫にはわからない。
「どうしてそんなに笑ってるの……? 誰か状況を説明して………」
呟く亜姫を、後ろから和泉が覗き込んだ。
「逃げようとしてたの……覚えてる?」
そこでようやく、何があったか思い出したらしい。
真っ赤になって固まった亜姫に「ちゃんと話してからおいで」と伝えると、三人は先に出ていった。
◇
麗華達が出ていくまで、亜姫は和泉に掴まったままだった。逃げようにも逃げられない。心臓がバカみたいに大きな音を鳴らす。
扉が閉まり足音が遠のくと、シンとした空気が教室に広がる。
この音が教室に響きわたっているのではないか、そんな心配をした時。
「……目、覚めた?」
和泉が尋ねてきた。
亜姫が俯きながら頷くと、和泉がその顔を覗き込む。
「落ち着いた? 少し、話をしようか」
亜姫はコクンと頷いた。
「キスされるの、嫌だった?」
亜姫は首を横に振る。
「あんな事、突然言い出したのはどうして?」
和泉の表情も声も、とても優しい。教えてほしいと頼むような言い方で、亜姫は思ったままを口にする。
「あの、ね……友達から……」
「俺が、すぐヤる男だって聞いてた?」
「……うん……………」
「さっき、あのままそうなると思っちゃった?」
「………うん」
「付き合い始めてから、ずっと心配してたの? もしかして、不安にさせてた?」
亜姫はふるふると首を振る。
「考えたこともなかった。い、いきなり、あんなこと、されたから……なんか、わけがわからなくなって……色んな話がぐるぐる回っちゃって、ごめんなさい……」
話をするにつれ、亜姫は自身の行動に落ち込んでいった。
すると、和泉がその体を包み込むように囲う。
「確かに、俺はそういうことをしてきた。それこそ、学校で散々ね。
でもさ、亜姫は知ってた? 俺、去年の秋からそーいうことしてないんだよ。それどころか、女との関わりは全て拒絶し続けてる」
「えっ……?」
目を丸くする亜姫に、和泉はハハッと笑う。
「その間に触れたのは亜姫だけだよ。これからも、勿論お前だけ」
「でも、和泉……あ、あの……」
「俺、別に好きでしてたわけじゃない。むしろ逆」
「逆、って……?」
困惑する亜姫に、和泉は何故そんな生活だったのか、何故去年でやめたのかを説明した。
「──でも。じゃあ亜姫と、なんて考えてないよ? そんなことをする為にお前と付き合ったわけじゃない」
和泉は、亜姫の体を自分の方へ抱き寄せた。
密着した体を優しく包み込み、問う。
「こうやって抱きしめられるのは、嫌?」
恥ずかしいけど嫌じゃない、と亜姫は言う。
「じゃあ、さっきみたいなキスは? あれも、恥ずかしいけど嫌じゃない?」
亜姫は頬を染めながら、小さく頷く。
「俺が今、望むとしたらそれぐらい。それも、亜姫が同じようにしたいと思ってくれる時だけね。
俺が言っても説得力無いけど……こういうのは、気持ちが伴わないと駄目。だから亜姫も、必要ならさっきみたいにちゃんと嫌って言って。
俺は、お前が嫌がることは絶対にしない。だから我慢なんてするな。
万が一、それでも俺が止まらなかったら……さっきみたいに思い切り突き飛ばしていい。分かった?」
先に話しておくべきだった、怖い思いさせてごめん。そう言って、和泉は優しく微笑んだ。
それで、亜姫はようやく落ち着いた。
さっきまで逃げ出したかった筈なのに。改めて考えると、彼の腕の中はいつでも心地いい。
包みこまれる度、ずっとこうしていたいと思ってしまう。亜姫はホウッと息を吐いて、和泉にもたれかかった。
その温もりを堪能していると。
「亜姫? さっきの続き……してもいい?」
不意に聞こえた和泉の声は、いつもと違って甘かった。
いいよ、なんて恥ずかしくて言えない。
それを誤魔化すように、少し怒った口調で言ってしまう。
「そんなこといちいち聞かないで!」
すると和泉はフッと笑い、ゆっくりと顔を近づけてくる。
重なる唇に気を取られていると、
「亜姫? 大丈夫……?」
少し掠れた声がして、亜姫は閉じていた目をゆっくりと開けた。
視界いっぱいに、色気のある眼差し。けれど、今はその視線を心地良く感じてしまう。
亜姫が無言で見つめ返していると、和泉がクスッと笑った。
「もう少し、する……?」
「ん」
軽い返事と共に、亜姫は再び目を閉じた。
さて、ではこの子をどうするか……と思いきや。
「亜姫、起きなさい」
麗華が豪快に亜姫をはたいた。そのまま頬をバチバチ叩き、力いっぱい体を揺らす。
「さすがに、荒技すぎない……?」
和泉がドン引くも、この程度じゃ起きないわよと麗華は再度亜姫をはたく。すると、
「んー、やだ……あとちょっと」
寝ぼけた亜姫は、和泉にギュウッと抱きついた。そのままムギュムギュと体を押しつけて、
「お母さん、お布団変えたの? 私こっちの方がいいな、すっごく気持ちいー………」
そう言って、またすやすやと眠りについた。
………………………。
………………………。
長い沈黙の後、全員が噴き出す。
「俺……色々言われてきたけど、布団呼ばわりされたのは初だな」
和泉が体を震わせて笑っていると、亜姫の眉間に皺が寄る。
そのタイミングで、麗華が囁いた。
「おっぱいが大きくなってプルプルしてる」
「………………えっ!」
亜姫が突然ガバッと飛び起きて、自分の胸を見下ろし数秒。
「全然大きくなってない!! …………あれ?」
目の前に麗華達がいる。亜姫はきょとんとした。
なぜ皆が大爆笑しているのか。
わからない。
そして、今の状況もわからない。
「おっまえ、マジかよ! おっぱい……どんだけ……! も、無理、はら痛てぇ……!」
ヒロが腹を抱えてヒーヒー笑っている。笑いすぎて、最早まともに喋れていない。
「覚醒しかけた時に言うと効果絶大なのよ、これ」
麗華が楽しそうに言うが、一体何の話か亜姫にはわからない。
「どうしてそんなに笑ってるの……? 誰か状況を説明して………」
呟く亜姫を、後ろから和泉が覗き込んだ。
「逃げようとしてたの……覚えてる?」
そこでようやく、何があったか思い出したらしい。
真っ赤になって固まった亜姫に「ちゃんと話してからおいで」と伝えると、三人は先に出ていった。
◇
麗華達が出ていくまで、亜姫は和泉に掴まったままだった。逃げようにも逃げられない。心臓がバカみたいに大きな音を鳴らす。
扉が閉まり足音が遠のくと、シンとした空気が教室に広がる。
この音が教室に響きわたっているのではないか、そんな心配をした時。
「……目、覚めた?」
和泉が尋ねてきた。
亜姫が俯きながら頷くと、和泉がその顔を覗き込む。
「落ち着いた? 少し、話をしようか」
亜姫はコクンと頷いた。
「キスされるの、嫌だった?」
亜姫は首を横に振る。
「あんな事、突然言い出したのはどうして?」
和泉の表情も声も、とても優しい。教えてほしいと頼むような言い方で、亜姫は思ったままを口にする。
「あの、ね……友達から……」
「俺が、すぐヤる男だって聞いてた?」
「……うん……………」
「さっき、あのままそうなると思っちゃった?」
「………うん」
「付き合い始めてから、ずっと心配してたの? もしかして、不安にさせてた?」
亜姫はふるふると首を振る。
「考えたこともなかった。い、いきなり、あんなこと、されたから……なんか、わけがわからなくなって……色んな話がぐるぐる回っちゃって、ごめんなさい……」
話をするにつれ、亜姫は自身の行動に落ち込んでいった。
すると、和泉がその体を包み込むように囲う。
「確かに、俺はそういうことをしてきた。それこそ、学校で散々ね。
でもさ、亜姫は知ってた? 俺、去年の秋からそーいうことしてないんだよ。それどころか、女との関わりは全て拒絶し続けてる」
「えっ……?」
目を丸くする亜姫に、和泉はハハッと笑う。
「その間に触れたのは亜姫だけだよ。これからも、勿論お前だけ」
「でも、和泉……あ、あの……」
「俺、別に好きでしてたわけじゃない。むしろ逆」
「逆、って……?」
困惑する亜姫に、和泉は何故そんな生活だったのか、何故去年でやめたのかを説明した。
「──でも。じゃあ亜姫と、なんて考えてないよ? そんなことをする為にお前と付き合ったわけじゃない」
和泉は、亜姫の体を自分の方へ抱き寄せた。
密着した体を優しく包み込み、問う。
「こうやって抱きしめられるのは、嫌?」
恥ずかしいけど嫌じゃない、と亜姫は言う。
「じゃあ、さっきみたいなキスは? あれも、恥ずかしいけど嫌じゃない?」
亜姫は頬を染めながら、小さく頷く。
「俺が今、望むとしたらそれぐらい。それも、亜姫が同じようにしたいと思ってくれる時だけね。
俺が言っても説得力無いけど……こういうのは、気持ちが伴わないと駄目。だから亜姫も、必要ならさっきみたいにちゃんと嫌って言って。
俺は、お前が嫌がることは絶対にしない。だから我慢なんてするな。
万が一、それでも俺が止まらなかったら……さっきみたいに思い切り突き飛ばしていい。分かった?」
先に話しておくべきだった、怖い思いさせてごめん。そう言って、和泉は優しく微笑んだ。
それで、亜姫はようやく落ち着いた。
さっきまで逃げ出したかった筈なのに。改めて考えると、彼の腕の中はいつでも心地いい。
包みこまれる度、ずっとこうしていたいと思ってしまう。亜姫はホウッと息を吐いて、和泉にもたれかかった。
その温もりを堪能していると。
「亜姫? さっきの続き……してもいい?」
不意に聞こえた和泉の声は、いつもと違って甘かった。
いいよ、なんて恥ずかしくて言えない。
それを誤魔化すように、少し怒った口調で言ってしまう。
「そんなこといちいち聞かないで!」
すると和泉はフッと笑い、ゆっくりと顔を近づけてくる。
重なる唇に気を取られていると、
「亜姫? 大丈夫……?」
少し掠れた声がして、亜姫は閉じていた目をゆっくりと開けた。
視界いっぱいに、色気のある眼差し。けれど、今はその視線を心地良く感じてしまう。
亜姫が無言で見つめ返していると、和泉がクスッと笑った。
「もう少し、する……?」
「ん」
軽い返事と共に、亜姫は再び目を閉じた。
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