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高2
初めてのこと(1)
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学校は二人の噂で持ちきりだった。とにかく、あること無いこと至る所で話題になる。
亜姫も密かに人気があったので、落胆する男子の数はかなりのものだった。本人は全く気づいていなかったが。
亜姫に対する不穏な感情も多かったが、麗華達がうまく立ち回っておさめていた。
琴音が先回りしてある程度の情報を広めてくれたことも大きい。
手つなぎ登校の日、琴音は文字通りすっ飛んできた。
一体何が起きたのか聞き始めたところで、和泉が横から割り込み亜姫を抱き寄せる。
「俺が惚れてて告白した。それ以外は秘密。亜姫も、詳細は言うなよ?」
真っ赤になって離れたがる亜姫を捕まえたまま、和泉は琴音にも笑いかけた。
和泉が笑顔で自ら話しかける、という有り得ない姿を目にした琴音は舞い上がった。そんな彼女に、和泉は「この話を広めてくれ」と依頼する。
亜姫は誰が相手だろうが単純に靡くことはない。流されて簡単に付き合うような子でもない。
それを知っている琴音は、亜姫がちゃんと考えた末に和泉を選んだこと、そしてそんな亜姫を守る為に和泉がこう発言したのだと理解した。これなら、亜姫ではなく和泉の発言に目を向けられるから。
広めたところで気休めにしかならないだろう。だが琴音はその想いを受け止め、快諾した。
和泉といても亜姫は変わらなかった。和泉のどこを好きになったのか? という問いにも、
「一緒にいると楽しい。あと、なんだかすごく安心する。なんでだろう? 和泉が大きいからかな?」
と、いつもの笑顔で即答する。そこに、色気やときめく様子は皆無だった。
亜姫はやはり亜姫だったと琴音は呆れたが「そんな亜姫だから好き」と笑う和泉に好感を持ち、亜姫への被害が少なくなるようにうまく情報を流した。
何より和泉がベタ惚れの様相を惜しげも無く曝け出していた為、大きな問題は起きなかった。
そんなある日の放課後。
皆で出かけることになっていて、亜姫と和泉は三人を教室で待っていた。
亜姫は暇を持て余し、窓から校庭を眺める。体育祭目前なので、準備や練習で校庭は賑やかだ。その光景は見ているだけで楽しい。
「なに見てんの?」
突然、温かい空気に包まれた。
和泉が背後に立ち、亜姫の見ていた方を覗きこんだのだ。
「……運動会の、練習」
距離の近さに動揺して声が上擦った。和泉にも気づかれてしまったようだ。
亜姫は顔を上げることが出来ず、俯きがちに外を眺めるフリをした。
和泉がクスッと笑う。するとその吐息が微かに首へ当たり、じわじわと熱を帯び始めた。
そこにかかる髪を和泉がそっとよけ、そのままゆっくり顔を寄せて囁く。
「亜姫、もしかして緊張してる……? 首、赤くなってるよ?」
「やっ……」
亜姫は咄嗟に首を手で隠す。そこでからかわれたと気づき、振り向きざま和泉を睨みつけた。
……はずなのに。目前に和泉がいて、その近さに動揺する。
「ははっ。亜姫、後ろに立たれるの弱いんだろ? 倉庫でも、いつも真っ赤だったもんな」
揶揄うように笑った和泉は、亜姫の頭にチュッと口づけを落とした。
付き合うことになったあの日以来、和泉がこんなに近づくのは初めてだ。
動揺しまくる姿を和泉が面白そうに見つめ、ゆっくり指を伸ばした。
首筋にかかる髪を、そっと肩の奥へと流していく。
奥まで進めたその手を後頭部へ添え、和泉は亜姫のこめかみへ優しく唇を当てた。
「やっ、ここ……教室……ひひ、人が、く、くく来るから……」
「誰も来ないよ。ヒロ達もまだ時間かかるし」
「で、でもやだ……や、ち、ちょっと……ち、ちちち近いってばぁぁ………」
亜姫はガチガチに固まって不自然な動きをしている。
和泉はくすくす笑いながら、そばにあったカーテンを引いた。
シャッ! と大きな音がして、亜姫の視界が和泉とカーテンで満たされる。
「これで、見えない」
「外、から……見え、ちゃう……」
「端だから、見えない。この時間だと影になるから尚更」
今度は頬にそっと唇を落とした。
和泉の唇が触れるたび、亜姫の全身に痺れが広がっていく。心臓がものすごい音を立てて、今にも飛び出しそうだ。
亜姫はどうしたらいいかわからず、ギュッと目を瞑る。
和泉の唇は場所を変えながらゆっくり移動した。
そして鼻と鼻が擦り合わされたあと、とうとう亜姫の唇に重なった。
小さな音を立てて、一瞬で離れた温もり。
と思ったら少し位置をずらし、再び重なる。
ゆっくり味わうように重なったそれは、やはりゆっくりと離れていった。
ふわふわした感覚が体中に広がり、亜姫の思考が停止した。
ぼんやりしながら目を開けると、視界いっぱいに和泉の瞳が映る。強い色気を纏う瞳。
見つめられている。
そう感じた瞬間、亜姫の頭は真っ白になった。同時に、羞恥と恐怖と不安が吹き溢れそうな勢いで湧き上がってくる。
そんな中、和泉がまた近づいてきて………。
「やっ………!」
気がついたら、和泉を突き飛ばしていた。
驚きを見せた和泉の瞳は熱っぽさを保っていて、その視線に亜姫は限界を迎えた。
「で、出来ない……出来ないぃぃぃっ!」
「亜姫……?」
「だって……だってセックス!……むむむむムリだからっ!」
「セッ……!?」
和泉が目を見開いて固まる。
だが、赤く染まった亜姫は止まらない。眉をへにゃりと下げ、涙目で叫ぶ。
「だだだだって絶倫でヤりまくるですぐ学校のセックスだもん!! わわ……わ私まだおっぱ、おっぱい……!! プルプルが、まだ……だか、だから……はみ出たり無理なんだからっ! こ……こここっ声だって練習! しっ、してないし……せめてムニュって掴んでなのっ!」
「ちょっ……待って亜姫、何言っ、えっ、ぜつ……おっぱ……?」
支離滅裂な言語に和泉が混乱を極めるが、それを遥かに上回る亜姫は更に意味不明な事を喚き散らした。
「……とっ、とにかくっ! ででででっ出来ないからっ! やややっぱり付き合うなんてムッ……ムリ! かかかかっ、か、帰るぅぅっ!」
亜姫はパニックで半ベソをかき、ダッシュで逃げ出そうとした。
それを和泉が慌てて止める。
抱き止めるように腰に絡まる、逞しい腕。
亜姫はそれにますます混乱し、振りほどこうとして床に倒れ込む。
つられて一緒に座り込んだ和泉が、どうにか亜姫を抱え込み腕の中に抱きしめた。
「落ち着け、亜姫。何もしない、しないから。
大丈夫だから。まず落ち着こ?」
腕の中で藻掻き続ける亜姫。和泉は子供を宥めるようにその背をポンポンと叩いた。
亜姫も密かに人気があったので、落胆する男子の数はかなりのものだった。本人は全く気づいていなかったが。
亜姫に対する不穏な感情も多かったが、麗華達がうまく立ち回っておさめていた。
琴音が先回りしてある程度の情報を広めてくれたことも大きい。
手つなぎ登校の日、琴音は文字通りすっ飛んできた。
一体何が起きたのか聞き始めたところで、和泉が横から割り込み亜姫を抱き寄せる。
「俺が惚れてて告白した。それ以外は秘密。亜姫も、詳細は言うなよ?」
真っ赤になって離れたがる亜姫を捕まえたまま、和泉は琴音にも笑いかけた。
和泉が笑顔で自ら話しかける、という有り得ない姿を目にした琴音は舞い上がった。そんな彼女に、和泉は「この話を広めてくれ」と依頼する。
亜姫は誰が相手だろうが単純に靡くことはない。流されて簡単に付き合うような子でもない。
それを知っている琴音は、亜姫がちゃんと考えた末に和泉を選んだこと、そしてそんな亜姫を守る為に和泉がこう発言したのだと理解した。これなら、亜姫ではなく和泉の発言に目を向けられるから。
広めたところで気休めにしかならないだろう。だが琴音はその想いを受け止め、快諾した。
和泉といても亜姫は変わらなかった。和泉のどこを好きになったのか? という問いにも、
「一緒にいると楽しい。あと、なんだかすごく安心する。なんでだろう? 和泉が大きいからかな?」
と、いつもの笑顔で即答する。そこに、色気やときめく様子は皆無だった。
亜姫はやはり亜姫だったと琴音は呆れたが「そんな亜姫だから好き」と笑う和泉に好感を持ち、亜姫への被害が少なくなるようにうまく情報を流した。
何より和泉がベタ惚れの様相を惜しげも無く曝け出していた為、大きな問題は起きなかった。
そんなある日の放課後。
皆で出かけることになっていて、亜姫と和泉は三人を教室で待っていた。
亜姫は暇を持て余し、窓から校庭を眺める。体育祭目前なので、準備や練習で校庭は賑やかだ。その光景は見ているだけで楽しい。
「なに見てんの?」
突然、温かい空気に包まれた。
和泉が背後に立ち、亜姫の見ていた方を覗きこんだのだ。
「……運動会の、練習」
距離の近さに動揺して声が上擦った。和泉にも気づかれてしまったようだ。
亜姫は顔を上げることが出来ず、俯きがちに外を眺めるフリをした。
和泉がクスッと笑う。するとその吐息が微かに首へ当たり、じわじわと熱を帯び始めた。
そこにかかる髪を和泉がそっとよけ、そのままゆっくり顔を寄せて囁く。
「亜姫、もしかして緊張してる……? 首、赤くなってるよ?」
「やっ……」
亜姫は咄嗟に首を手で隠す。そこでからかわれたと気づき、振り向きざま和泉を睨みつけた。
……はずなのに。目前に和泉がいて、その近さに動揺する。
「ははっ。亜姫、後ろに立たれるの弱いんだろ? 倉庫でも、いつも真っ赤だったもんな」
揶揄うように笑った和泉は、亜姫の頭にチュッと口づけを落とした。
付き合うことになったあの日以来、和泉がこんなに近づくのは初めてだ。
動揺しまくる姿を和泉が面白そうに見つめ、ゆっくり指を伸ばした。
首筋にかかる髪を、そっと肩の奥へと流していく。
奥まで進めたその手を後頭部へ添え、和泉は亜姫のこめかみへ優しく唇を当てた。
「やっ、ここ……教室……ひひ、人が、く、くく来るから……」
「誰も来ないよ。ヒロ達もまだ時間かかるし」
「で、でもやだ……や、ち、ちょっと……ち、ちちち近いってばぁぁ………」
亜姫はガチガチに固まって不自然な動きをしている。
和泉はくすくす笑いながら、そばにあったカーテンを引いた。
シャッ! と大きな音がして、亜姫の視界が和泉とカーテンで満たされる。
「これで、見えない」
「外、から……見え、ちゃう……」
「端だから、見えない。この時間だと影になるから尚更」
今度は頬にそっと唇を落とした。
和泉の唇が触れるたび、亜姫の全身に痺れが広がっていく。心臓がものすごい音を立てて、今にも飛び出しそうだ。
亜姫はどうしたらいいかわからず、ギュッと目を瞑る。
和泉の唇は場所を変えながらゆっくり移動した。
そして鼻と鼻が擦り合わされたあと、とうとう亜姫の唇に重なった。
小さな音を立てて、一瞬で離れた温もり。
と思ったら少し位置をずらし、再び重なる。
ゆっくり味わうように重なったそれは、やはりゆっくりと離れていった。
ふわふわした感覚が体中に広がり、亜姫の思考が停止した。
ぼんやりしながら目を開けると、視界いっぱいに和泉の瞳が映る。強い色気を纏う瞳。
見つめられている。
そう感じた瞬間、亜姫の頭は真っ白になった。同時に、羞恥と恐怖と不安が吹き溢れそうな勢いで湧き上がってくる。
そんな中、和泉がまた近づいてきて………。
「やっ………!」
気がついたら、和泉を突き飛ばしていた。
驚きを見せた和泉の瞳は熱っぽさを保っていて、その視線に亜姫は限界を迎えた。
「で、出来ない……出来ないぃぃぃっ!」
「亜姫……?」
「だって……だってセックス!……むむむむムリだからっ!」
「セッ……!?」
和泉が目を見開いて固まる。
だが、赤く染まった亜姫は止まらない。眉をへにゃりと下げ、涙目で叫ぶ。
「だだだだって絶倫でヤりまくるですぐ学校のセックスだもん!! わわ……わ私まだおっぱ、おっぱい……!! プルプルが、まだ……だか、だから……はみ出たり無理なんだからっ! こ……こここっ声だって練習! しっ、してないし……せめてムニュって掴んでなのっ!」
「ちょっ……待って亜姫、何言っ、えっ、ぜつ……おっぱ……?」
支離滅裂な言語に和泉が混乱を極めるが、それを遥かに上回る亜姫は更に意味不明な事を喚き散らした。
「……とっ、とにかくっ! ででででっ出来ないからっ! やややっぱり付き合うなんてムッ……ムリ! かかかかっ、か、帰るぅぅっ!」
亜姫はパニックで半ベソをかき、ダッシュで逃げ出そうとした。
それを和泉が慌てて止める。
抱き止めるように腰に絡まる、逞しい腕。
亜姫はそれにますます混乱し、振りほどこうとして床に倒れ込む。
つられて一緒に座り込んだ和泉が、どうにか亜姫を抱え込み腕の中に抱きしめた。
「落ち着け、亜姫。何もしない、しないから。
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