【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

文字の大きさ
上 下
49 / 364
高2

新しい朝(2)

しおりを挟む
 笑わない和泉が声を上げて笑っている。
 喋らない和泉がずっと会話を、しかも彼の方から話しかけている。
 女に冷たい和泉が、顔を覗き込んでは何かと気遣う素振りを見せている。
 そして、あの和泉が女と手を繋いでいる。目撃者に聞けば、なんと和泉から手を取ったのだという。
 相手が嫌がる素振りを見せているにも関わらず、離そうとしないしさせない。
 
 全てが衝撃的で、強烈な嫉妬が隣の女に向かう。 
 あれは誰だ。一体どんな手を使ったのか。
 そんな声があちこちで囁かれる。
 
 途中で合流した麗華の耳にもヒロ達にも、そのざわめきは届いていた。 
「やっぱり、静かに見守ってもらうのは無理そうね」
 溜息をつく麗華に戸塚が苦笑する。
 
 少し前を歩く二人の、なんだか幸せそうな姿。
 この二人の邪魔をしないでやってほしい。
 無理だとわかっているが、そう願わずにはいられなかった。 
 
 そんな想いを余所に、亜姫達は手を繋いだまま校門をくぐる。校内にも既に話が広まっていて、彼らの姿に大騒ぎだった。 
 亜姫はもう、下を向いて小さくなっている。
 
 校庭の真ん中には山本が立っていた。その目が二人の姿を捉えると、大きく見開かれて固まる。
「和泉……お、まえ……亜姫は……違うだろう……!」
 
 山本は「ちょっと来い!」と二人を校庭の端まで連れていった。
 
「なんだよ、こんなとこまで連れてきて」
「なんだじゃねーよ! これはどーいうことだ!? 和泉、亜姫は違うって……ちゃんとわかってんだろうな!?」
 
 亜姫は突然始まった話の意味がわからず、首を傾げている。
 その亜姫と和泉を交互に見る山本。こんなに動揺している彼を見るのは二人とも初めてだ。
 
「山セン、動揺しすぎ。勿論わかってるよ。亜姫はそーゆうんじゃねーから」
 
 和泉は未だ不思議そうな亜姫の顔を優しく見つめると、顔を引き締め真顔で彼に告げた。
「ずっと言われてただろ? ちゃんと見つけた。
 ようやく手に入れたんだ。しばらく見守っててくんねーかな」
「ようやく……?」
 呆然と和泉を見ていた山本が、ハッとしたように亜姫を見る。
「亜姫、和泉のことは……ちゃんとわかってるのか?」
 
 亜姫は笑った。和泉の過去と、そんな和泉からの扱われ方について心配されているのだろう。
「和泉がどんな生活してきたか、ちゃんと知ってます。その上で、今の和泉が好きなんです。
 ……先生が心配するような事もしてません。だから、心配しないで」
 
 いつもの亜姫だ。隣に立つ和泉は、その様子を優しく見つめている。それを見て山本はようやく肩の力を抜いた。
 

  

 ◇
 今までの和泉からは想像もしなかった姿。遠ざかるその背を、山本はしばらく眺めていた。 
 彼には、折に触れ何度も伝えてきた。
 大事にしたいと思うモノを見つけろ、お前自身を見てくれる人を探せと。
 
 ──冬夜、お前の弟は大事なモノをちゃんと見つけたみたいだぞ──
 
 それも、あの橘亜姫を。選りに選って、まさかあの子を見つけ出すとは。
 ようやく手に入れた、だと? いつからだ……? 変わり始めた頃からか? なんにせよ、あいつの変化は亜姫が理由か。
 それなら和泉の変化に納得がいく。
 相手が亜姫なら、この先和泉が歪むことはないだろう。あの子は人が本来持ちうる心を引き出すのがうまい。そして、どんな人のことも──特にその心を──とにかく大事にする子だから。
 
 亜姫は、和泉の『中身が好き』だと言っているのだ。
 
 和泉がうっかり手を出したりしないように、後で釘だけはさしておくか……。
 そう思いながらも、あの二人の明るい未来を想像して山本の顔には笑みが零れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

青春残酷物語~鬼コーチと秘密の「****」~

厄色亭・至宙
青春
バレーボールに打ち込む女子高生の森真由美。 しかし怪我で状況は一変して退学の危機に。 そこで手を差し伸べたのが鬼コーチの斎藤俊だった。 しかし彼にはある秘めた魂胆があった… 真由美の清純な身体に斎藤の魔の手が?…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

処理中です...