45 / 364
高2
変化(3)
しおりを挟む
今日は、亜姫が自覚してから初めての仕事。
今まで以上に動揺してしまい、上手く話せない。倉庫へ移動している時も、何も言えぬままだった。
同じ空間にいるだけで、彼の全てに反応してしまう。
だが、「何か話したい、話さなきゃ」と思えば思うほど動けなくなっていく。どうしよう、と内心焦っていると。
「亜姫」
少し離れた位置から、彼の声。
見られている。そう思った瞬間、心臓が大きく飛び跳ねた。
彼が自分の名を呼んだ。そう意識した途端、外にまで聞こえそうなほどドキン! と胸が鳴る。同時に猛烈な恥ずかしさが全身を駆け巡り、どうしたらいいかわからなくなった亜姫は目を逸らして俯いた。
「分担して、別々に作業しよう」
思いがけないことを言われ、亜姫は目を見開く。驚きに顔を上げると、真顔の和泉と目が合った。
「もうすぐ仕事も終わりだし、もう大した量もない。二人で一緒に作業する必要はないだろ。俺が探した荷物を廊下に出すからさ、亜姫は教室に持っていって」
「え……?」
「その方が楽だろ? 時間も短くてすむし」
「……どう、して?」
なぜ急にそんなことを……?
亜姫は理解できなかった。だが、次の言葉で更に混乱することになる。
「俺が告白したことで、お前を困らせてるよな?
悪いな、嫌な思いをさせちゃって」
「そん、そんなこと……思ってないよ……」
「気を遣わなくていーよ。俺のこと、避けてるだろ? ごめんな、困らせるつもりはなかったんだ。
亜姫は悪くない。俺が不快感をもたれるのは、最初からわかりきってた。
……あと少しで終わるからさ。分担すれば仕事は成立するし、それで何とか我慢してもらえる?」
「何、言って……」
亜姫は何が起こってるかわからなかった。
なにせ、やっと自身の気持ちに気づいたばかり。一緒にいられることが嬉しくて、仕事が終わってもこの関係を続けたいと思っていたのに。
困ったことや嫌な思いをしたことなんて一度もない。不快感どころか、ときめきすぎて死にそうになっていたのに。
その時、ふと思う。自分の取っていた行動が、和泉に誤解を与えていたのではと。
慌ててそれを伝えようとしたけれど、うまく言葉が出てこない。
「前に、告白を無かったことにしないでって言ったけどさ……あれ、撤回する。
俺が好きだって言ったこと、もう忘れて。無かったことにしてほしい」
それは、感情を消した顔と声で紡がれた。
亜姫は最初、ただの羅列された文字として受け止めた。それは、少しずつ染み込みながら意味をなしていく。
今、なんて……?
無かったことに……?
もう、気持ちが無い……ってこと?
和泉と、一緒にいられない……?
もう、笑ってくれない……?
亜姫が反応しないのは了承の意と捉えたのか、それとも空気を変えようとしたのか。先に動いたのは和泉だった。
「とりあえず、今ある荷物は俺が持ってくよ。用意できた物は入り口に置いといて。戻ってきたらどう分担するか決めよう」
そう言って動き出した和泉の背中に、亜姫は吐き出した。
「やだ」
「……え?」
和泉が驚いて振り返る。
その顔を強く見据え、亜姫は再度言った。
「やだ。忘れない。無かったことにもしない。仕事も、別々は嫌」
「なに言って……」
「ずっと覚えてる。仕事も一緒にする。嫌な思いなんてしてないよ、行かないで……」
最後の方は泣いてしまって上手く言えなかった。気がつけば勝手に口が動いていて、何故泣いているのか亜姫にもよくわからない。胸の奥では、数多の感情が荒れ狂っている。
「なんでお前が泣くんだよ。あんなに嫌がってただろ? 気遣いならいらないから」
その言葉を否定したくて、亜姫は何度も首を振る。涙が止まらなくなって、胸の奥はますます乱れていく。
「嫌がってない……態度、悪くて……でも違うから……行っちゃ駄目。一緒に仕事、しようよ……」
和泉に伝えたい事は沢山ある。なのにうまく話せない。まずは落ち着かなければと、亜姫は目元を拭い続けた。
すると、その手がそっと掴まれる。
「そんなに擦ったら、顔に傷が付く。……泣くなよ」
「泣いてない!」
頬を濡らす亜姫を見て、和泉は呆れた様子で笑う。
「どう見ても泣いてるじゃん。……これも、俺のせい?」
「そうだよ!」
理不尽な断定を受け、和泉は苦笑する。
「そうか、それは悪かった。だから別々に、って提案しただろ? 俺が居なけりゃ、お前は笑えるし泣かなくて済む。
……とにかく、荷物持ってく。一人の方が気持ちも落ち着くだろ」
離れようとした和泉の服を、亜姫は咄嗟に掴んだ。
和泉が困惑したように眉をひそめる。
「お前なぁ、さっきから何がしたいんだよ。何を意地になってんのか知らないけど、いちいち抵抗してくんなって」
「行かないで。行っちゃ駄目、ここにいて」
しゃくり上げてうまく言葉に出来ないが、亜姫は必死で止めた。
和泉は流石に苛立ったようで、口調を荒げる。
「っ、マジでなんなんだよ。手ぇ離せって! おい亜姫……」
「好き」
和泉の動きが止まった。
「………………………………は?」
ゆっくりと亜姫に視線を合わせる。
亜姫は服を掴み直し、その目を真っ直ぐ見つめて呟いた。
「和泉…………好き」
和泉は固まっている。
「好き。和泉が好き」
「っ、何言って……俺のこと、嫌なんだろ………?」
「違う、違うの。昨日、気づいて……ごめんなさい、好きなの……」
想像すらしなかった出来事に、和泉はただ呆然とする。だが繰り返し想いを告げられ、ようやく現実を受け止めた。
今まで以上に動揺してしまい、上手く話せない。倉庫へ移動している時も、何も言えぬままだった。
同じ空間にいるだけで、彼の全てに反応してしまう。
だが、「何か話したい、話さなきゃ」と思えば思うほど動けなくなっていく。どうしよう、と内心焦っていると。
「亜姫」
少し離れた位置から、彼の声。
見られている。そう思った瞬間、心臓が大きく飛び跳ねた。
彼が自分の名を呼んだ。そう意識した途端、外にまで聞こえそうなほどドキン! と胸が鳴る。同時に猛烈な恥ずかしさが全身を駆け巡り、どうしたらいいかわからなくなった亜姫は目を逸らして俯いた。
「分担して、別々に作業しよう」
思いがけないことを言われ、亜姫は目を見開く。驚きに顔を上げると、真顔の和泉と目が合った。
「もうすぐ仕事も終わりだし、もう大した量もない。二人で一緒に作業する必要はないだろ。俺が探した荷物を廊下に出すからさ、亜姫は教室に持っていって」
「え……?」
「その方が楽だろ? 時間も短くてすむし」
「……どう、して?」
なぜ急にそんなことを……?
亜姫は理解できなかった。だが、次の言葉で更に混乱することになる。
「俺が告白したことで、お前を困らせてるよな?
悪いな、嫌な思いをさせちゃって」
「そん、そんなこと……思ってないよ……」
「気を遣わなくていーよ。俺のこと、避けてるだろ? ごめんな、困らせるつもりはなかったんだ。
亜姫は悪くない。俺が不快感をもたれるのは、最初からわかりきってた。
……あと少しで終わるからさ。分担すれば仕事は成立するし、それで何とか我慢してもらえる?」
「何、言って……」
亜姫は何が起こってるかわからなかった。
なにせ、やっと自身の気持ちに気づいたばかり。一緒にいられることが嬉しくて、仕事が終わってもこの関係を続けたいと思っていたのに。
困ったことや嫌な思いをしたことなんて一度もない。不快感どころか、ときめきすぎて死にそうになっていたのに。
その時、ふと思う。自分の取っていた行動が、和泉に誤解を与えていたのではと。
慌ててそれを伝えようとしたけれど、うまく言葉が出てこない。
「前に、告白を無かったことにしないでって言ったけどさ……あれ、撤回する。
俺が好きだって言ったこと、もう忘れて。無かったことにしてほしい」
それは、感情を消した顔と声で紡がれた。
亜姫は最初、ただの羅列された文字として受け止めた。それは、少しずつ染み込みながら意味をなしていく。
今、なんて……?
無かったことに……?
もう、気持ちが無い……ってこと?
和泉と、一緒にいられない……?
もう、笑ってくれない……?
亜姫が反応しないのは了承の意と捉えたのか、それとも空気を変えようとしたのか。先に動いたのは和泉だった。
「とりあえず、今ある荷物は俺が持ってくよ。用意できた物は入り口に置いといて。戻ってきたらどう分担するか決めよう」
そう言って動き出した和泉の背中に、亜姫は吐き出した。
「やだ」
「……え?」
和泉が驚いて振り返る。
その顔を強く見据え、亜姫は再度言った。
「やだ。忘れない。無かったことにもしない。仕事も、別々は嫌」
「なに言って……」
「ずっと覚えてる。仕事も一緒にする。嫌な思いなんてしてないよ、行かないで……」
最後の方は泣いてしまって上手く言えなかった。気がつけば勝手に口が動いていて、何故泣いているのか亜姫にもよくわからない。胸の奥では、数多の感情が荒れ狂っている。
「なんでお前が泣くんだよ。あんなに嫌がってただろ? 気遣いならいらないから」
その言葉を否定したくて、亜姫は何度も首を振る。涙が止まらなくなって、胸の奥はますます乱れていく。
「嫌がってない……態度、悪くて……でも違うから……行っちゃ駄目。一緒に仕事、しようよ……」
和泉に伝えたい事は沢山ある。なのにうまく話せない。まずは落ち着かなければと、亜姫は目元を拭い続けた。
すると、その手がそっと掴まれる。
「そんなに擦ったら、顔に傷が付く。……泣くなよ」
「泣いてない!」
頬を濡らす亜姫を見て、和泉は呆れた様子で笑う。
「どう見ても泣いてるじゃん。……これも、俺のせい?」
「そうだよ!」
理不尽な断定を受け、和泉は苦笑する。
「そうか、それは悪かった。だから別々に、って提案しただろ? 俺が居なけりゃ、お前は笑えるし泣かなくて済む。
……とにかく、荷物持ってく。一人の方が気持ちも落ち着くだろ」
離れようとした和泉の服を、亜姫は咄嗟に掴んだ。
和泉が困惑したように眉をひそめる。
「お前なぁ、さっきから何がしたいんだよ。何を意地になってんのか知らないけど、いちいち抵抗してくんなって」
「行かないで。行っちゃ駄目、ここにいて」
しゃくり上げてうまく言葉に出来ないが、亜姫は必死で止めた。
和泉は流石に苛立ったようで、口調を荒げる。
「っ、マジでなんなんだよ。手ぇ離せって! おい亜姫……」
「好き」
和泉の動きが止まった。
「………………………………は?」
ゆっくりと亜姫に視線を合わせる。
亜姫は服を掴み直し、その目を真っ直ぐ見つめて呟いた。
「和泉…………好き」
和泉は固まっている。
「好き。和泉が好き」
「っ、何言って……俺のこと、嫌なんだろ………?」
「違う、違うの。昨日、気づいて……ごめんなさい、好きなの……」
想像すらしなかった出来事に、和泉はただ呆然とする。だが繰り返し想いを告げられ、ようやく現実を受け止めた。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる