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高2
変化(1)
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◯高2・5月 変化(1)
変わらぬ日々が続いていた。
だがあの日以来、和泉は亜姫へ不用意に近づかないよう気をつけていた。亜姫が、近づくのを怖れているように見えるからだ。
告白で変に意識させてしまったのか、自分の過去に不信感を持たれてしまったのか。和泉にはわからない。
けれど亜姫に余計な負担はかけたくなかったし、この関係に水を差したくもなかった。距離さえ保てば、亜姫は今までと変わらないのだから。
あと少しで係の仕事は終わる。その後、今までのように話すことは出来なくなるだろうという予感があった。だからこそ、せめてその最後の日までは楽しみたかった。
しかしその希望とは裏腹に、亜姫は少しずつ変わっていく。
まず、ボンヤリすることが増えた。
仕事中、ふとした瞬間に戸惑いが見え隠れする。
和泉を見て急にビクッとすることが増えた。
そんな時に目が合うと、亜姫の笑顔が少し引きつる。
それが、日に日に少しずつ悪化していった。
◇
「もうすぐおしまいだな。どう? 楽しく終われそう?」
ヒロが、久し振りに亜姫の話題を出した。
しかし、返事がない。
和泉を見ると、携帯を触りながら何か考え込んでいる。
「和泉? 聞いてる?」
戸塚が声をかけると、長い間のあと和泉が呟いた。
「告白したの、失敗だったかも」
亜姫の様子が日に日に変わっていく。
今では、距離を保っていても亜姫の居心地は悪そうだ。
そして、ここ数日で目を合わせなくなった。
明らかに避けられている。
「え? 亜姫が?」
二人が驚く。
亜姫なら、避ける前にその理由を伝えるのではないか。それ以前に、誰かを避ける行動を亜姫が取るなんて考えられない。
和泉も同じように感じていたので、二人の驚く気持ちはよくわかる。
「気持ちを伝えたことで、印象が変わっちまったんだと思う。俺が亜姫に手を出すと思われてるか……俺への嫌悪感、じゃねぇかな。
俺が関わったら亜姫から笑顔を奪うって、わかってたのにな。あの時はあれしか思いつかなくて、つい言っちゃったんだけど……逆に困らせてる。考えが足りなかった」
「でも、亜姫が理由も言わずにそんな態度に出るなんて考えられない。何か別の理由があるんじゃねぇの?」
「それ以外、何があるんだよ。ねぇよ。あるとしても……理由を説明することすら嫌だと思われてるってことだろ。
まぁ……俺が相手ならこうなるよな、普通に考えたらわかることだ。せめてこれを終えるまではと思っていたけど……やっぱ、俺は恋愛には向いてねぇな。
そもそも、今までが有り得ないぐらい出来すぎてたんだよ。はは……ちょっと、夢、見すぎた」
和泉は乾いた笑いを零して、小さな溜息をもらす。
「…………元の生活に戻るだけ。なにかが変わるわけじゃない。
…………………ただ、元通りになるだけだよ」
「和泉……」
二人が言葉を失くして和泉を見つめる。
さすがに強がる気力は残っておらず、和泉は力なく笑う。
「亜姫はもともと男が苦手だろ? ちょっと近づいただけで真っ赤になって、あんなに動揺しちゃうんだし。あれじゃあ、俺なんて到底受け入れられねぇよな」
「……え?」
ヒロが驚いた様子で和泉を見る。
「誰が男を苦手だって?」
「亜姫だよ。近づく度に首まで真っ赤になっちゃうんだもん。あまりにパニクるから可愛くてついからかっちゃってたけど、あれも失敗だったかも。ますます男が苦手になってなきゃいいんだけどな」
思い出した光景に優しく笑うと、和泉は携帯を触り始めた。
だから気づかなかった。ヒロ達が驚愕の表情を浮かべていたことに。
変わらぬ日々が続いていた。
だがあの日以来、和泉は亜姫へ不用意に近づかないよう気をつけていた。亜姫が、近づくのを怖れているように見えるからだ。
告白で変に意識させてしまったのか、自分の過去に不信感を持たれてしまったのか。和泉にはわからない。
けれど亜姫に余計な負担はかけたくなかったし、この関係に水を差したくもなかった。距離さえ保てば、亜姫は今までと変わらないのだから。
あと少しで係の仕事は終わる。その後、今までのように話すことは出来なくなるだろうという予感があった。だからこそ、せめてその最後の日までは楽しみたかった。
しかしその希望とは裏腹に、亜姫は少しずつ変わっていく。
まず、ボンヤリすることが増えた。
仕事中、ふとした瞬間に戸惑いが見え隠れする。
和泉を見て急にビクッとすることが増えた。
そんな時に目が合うと、亜姫の笑顔が少し引きつる。
それが、日に日に少しずつ悪化していった。
◇
「もうすぐおしまいだな。どう? 楽しく終われそう?」
ヒロが、久し振りに亜姫の話題を出した。
しかし、返事がない。
和泉を見ると、携帯を触りながら何か考え込んでいる。
「和泉? 聞いてる?」
戸塚が声をかけると、長い間のあと和泉が呟いた。
「告白したの、失敗だったかも」
亜姫の様子が日に日に変わっていく。
今では、距離を保っていても亜姫の居心地は悪そうだ。
そして、ここ数日で目を合わせなくなった。
明らかに避けられている。
「え? 亜姫が?」
二人が驚く。
亜姫なら、避ける前にその理由を伝えるのではないか。それ以前に、誰かを避ける行動を亜姫が取るなんて考えられない。
和泉も同じように感じていたので、二人の驚く気持ちはよくわかる。
「気持ちを伝えたことで、印象が変わっちまったんだと思う。俺が亜姫に手を出すと思われてるか……俺への嫌悪感、じゃねぇかな。
俺が関わったら亜姫から笑顔を奪うって、わかってたのにな。あの時はあれしか思いつかなくて、つい言っちゃったんだけど……逆に困らせてる。考えが足りなかった」
「でも、亜姫が理由も言わずにそんな態度に出るなんて考えられない。何か別の理由があるんじゃねぇの?」
「それ以外、何があるんだよ。ねぇよ。あるとしても……理由を説明することすら嫌だと思われてるってことだろ。
まぁ……俺が相手ならこうなるよな、普通に考えたらわかることだ。せめてこれを終えるまではと思っていたけど……やっぱ、俺は恋愛には向いてねぇな。
そもそも、今までが有り得ないぐらい出来すぎてたんだよ。はは……ちょっと、夢、見すぎた」
和泉は乾いた笑いを零して、小さな溜息をもらす。
「…………元の生活に戻るだけ。なにかが変わるわけじゃない。
…………………ただ、元通りになるだけだよ」
「和泉……」
二人が言葉を失くして和泉を見つめる。
さすがに強がる気力は残っておらず、和泉は力なく笑う。
「亜姫はもともと男が苦手だろ? ちょっと近づいただけで真っ赤になって、あんなに動揺しちゃうんだし。あれじゃあ、俺なんて到底受け入れられねぇよな」
「……え?」
ヒロが驚いた様子で和泉を見る。
「誰が男を苦手だって?」
「亜姫だよ。近づく度に首まで真っ赤になっちゃうんだもん。あまりにパニクるから可愛くてついからかっちゃってたけど、あれも失敗だったかも。ますます男が苦手になってなきゃいいんだけどな」
思い出した光景に優しく笑うと、和泉は携帯を触り始めた。
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