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高2
告白のあと(2)
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和泉は思わぬ形で気持ちを伝えることになってしまったが、自分の行動にも伝えたことにも後悔はなかった。
あの時。
亜姫に笑ってほしい。
それしか考えられなかった。
そして、今の関係を壊したくなかった。
「バカだな」
戸塚とヒロが声を揃えて言う。
あれから数日経って、二人に告白したこととその経緯を話している。それに対する返事がこれだ。
「なんでだよ。伝えられたことは褒めてくれねぇの?」
和泉は屈託のない笑みを浮かべた。
「なんだよ今まで通りって。返事もいらねぇ、付き合う気もねぇ、その上恋敵のフォローまでして、それがバカじゃなきゃなんなんだ。
お前、それでもし黒田と亜姫が付き合い始めたらどーすんだよ。呑気に笑ってんじゃねーよ!」
ヒロが呆れ果てて、手に持つパンを投げつける。
「そうなったらしょうがねえよ、それを決めるのは亜姫だから」
「ばか野郎、せめて同じように俺のことも考えてって言え!!」
基本的に笑っているヒロが自分の為に怒るのを見ると、和泉は胸がムズムズするようなくすぐったいような気持ちになる。
ヒロは怒りながら投げつけたパンを拾い、荒々しく袋を開けてむしゃむしゃと食べ始めた。その様子がおかしくて、和泉は笑う。
ヒロとは対照的に、戸塚は冷静だった。
「黒田の告白を聞いて、和泉は焦らなかったの?」
「そんなこと、考えられなかった。あの時は亜姫の事しか頭に無かった」
「……今は? 焦りはないの? 黒田になんて返事したかは知らないんだろ?」
「そんなの聞いても仕方ないし、焦ってもしょうがねぇよ。ちゃんと考えるって言ってたから、出した答えがあの子の意思だろ。
亜姫の事だから、黒田の気持ちも真剣に受け止めてるとは思う」
「和泉。なんで今まで通りがいいなんて言ったんだよ、わざわざ言わなくてもよかったじゃん」
「………俺の望みが、それだったから」
「なんで? 付き合うチャンスだったのに。今の亜姫が和泉に不快感を持ってないのはわかるだろ? 自らその道を潰す必要はなかったんじゃない?」
「つきあうなんて無理だよ。
今の形が続けばそれでいい。……今の関係を、失いたくない」
「……なんだよ、それ。まさか、今更また怖じ気づいてんじゃねぇよな?」
まだ怒っているヒロと、心配する戸塚。
二人はずっと応援してくれた。彼らには、嘘もごまかしもしたくない。和泉は言葉を選びながら胸の内を吐き出した。
「一緒に話をするようになって、亜姫の事を知れば知るほど……俺じゃ、亜姫を幸せに出来ないってわかったんだ。
亜姫は、汚れてない。なんつーか……中身がすごく綺麗。
過去も知った上で、俺のことも悪く言わない。逆に気遣いすらしてくれて。
すごく嬉しいし、ありがたいなって思う。亜姫に言われると、自分が意外とまともな人間なのかなって思っちゃったりする。
でもさ、それは友人ならの話だろ。
あんな純粋な子に、俺の過去は……やっぱり無理だよ。つきあうなら、そこは絶対引っかかってくる。俺が変われても、そんな俺を亜姫が認めてくれたとしても。してきたことは変わらないし消えないんだから。
俺、今回よくわかったんだ。
亜姫にはマジで惚れてるし、他の奴に取られるのは苦しいとも思う。けど……俺は、亜姫にずっと笑っててほしい。
一番の望みはそれなんだって気づいた。
俺と付き合ったりしたら、いつか笑えなくなる。亜姫まで汚れる。……それは嫌なんだ。
今、あの笑顔を俺に向けてくれてる。心を開いてくれてる。
これ以上の望みなんてねぇよ。
だから、せめて今の関係を守りたかった。
……………これだけは、絶対、失くしたくない」
静かに、しかし強い決意を滲ませて。
そんな和泉の言葉を二人は黙って聞いていた。
「……和泉。係の仕事はもうすぐ終わるよ? この先、今みたいに話が出来るとは限らないってわかってる?」
「わかってるよ」
「亜姫の隣に他の男がいるようになって、お前が近づく事も出来なくなるかもよ?」
「わかってる」
「……いいのかよ、それでも」
和泉は返事をせず、少しの間考えていた。
「俺さ……自分が思ってたよりも亜姫のことが好きみたい。
俺がどうしたいのかをずっと考えてきたけど、実際に亜姫を知ったら……もう、亜姫の幸せしか考えられないんだよ。
あの子が笑っててくれるなら、そばにいるのは俺じゃなくていい。今は本気でそう思ってる。
今回、亜姫が気持ちを笑って受け止めてくれて、俺が望む通りに変わらない関係を続けてくれてる。
それがたまらなく嬉しい。
俺が苦しいとか切なくなるっていうのは、あの子が幸せでいることとは別の話だ。
お前らにはずっと応援してもらったのに申し訳ないけど。こう思えるようになれたってことに、俺はすごく満足してる。
それでも……凹んだ時は、また世話になるわ」
和泉は穏やかな顔で微笑んだ。
その顔は妙にスッキリしていて、ヒロ達も頷くしかなかった。
そしてこの日から、和泉は亜姫の話をしなくなった。
あの時。
亜姫に笑ってほしい。
それしか考えられなかった。
そして、今の関係を壊したくなかった。
「バカだな」
戸塚とヒロが声を揃えて言う。
あれから数日経って、二人に告白したこととその経緯を話している。それに対する返事がこれだ。
「なんでだよ。伝えられたことは褒めてくれねぇの?」
和泉は屈託のない笑みを浮かべた。
「なんだよ今まで通りって。返事もいらねぇ、付き合う気もねぇ、その上恋敵のフォローまでして、それがバカじゃなきゃなんなんだ。
お前、それでもし黒田と亜姫が付き合い始めたらどーすんだよ。呑気に笑ってんじゃねーよ!」
ヒロが呆れ果てて、手に持つパンを投げつける。
「そうなったらしょうがねえよ、それを決めるのは亜姫だから」
「ばか野郎、せめて同じように俺のことも考えてって言え!!」
基本的に笑っているヒロが自分の為に怒るのを見ると、和泉は胸がムズムズするようなくすぐったいような気持ちになる。
ヒロは怒りながら投げつけたパンを拾い、荒々しく袋を開けてむしゃむしゃと食べ始めた。その様子がおかしくて、和泉は笑う。
ヒロとは対照的に、戸塚は冷静だった。
「黒田の告白を聞いて、和泉は焦らなかったの?」
「そんなこと、考えられなかった。あの時は亜姫の事しか頭に無かった」
「……今は? 焦りはないの? 黒田になんて返事したかは知らないんだろ?」
「そんなの聞いても仕方ないし、焦ってもしょうがねぇよ。ちゃんと考えるって言ってたから、出した答えがあの子の意思だろ。
亜姫の事だから、黒田の気持ちも真剣に受け止めてるとは思う」
「和泉。なんで今まで通りがいいなんて言ったんだよ、わざわざ言わなくてもよかったじゃん」
「………俺の望みが、それだったから」
「なんで? 付き合うチャンスだったのに。今の亜姫が和泉に不快感を持ってないのはわかるだろ? 自らその道を潰す必要はなかったんじゃない?」
「つきあうなんて無理だよ。
今の形が続けばそれでいい。……今の関係を、失いたくない」
「……なんだよ、それ。まさか、今更また怖じ気づいてんじゃねぇよな?」
まだ怒っているヒロと、心配する戸塚。
二人はずっと応援してくれた。彼らには、嘘もごまかしもしたくない。和泉は言葉を選びながら胸の内を吐き出した。
「一緒に話をするようになって、亜姫の事を知れば知るほど……俺じゃ、亜姫を幸せに出来ないってわかったんだ。
亜姫は、汚れてない。なんつーか……中身がすごく綺麗。
過去も知った上で、俺のことも悪く言わない。逆に気遣いすらしてくれて。
すごく嬉しいし、ありがたいなって思う。亜姫に言われると、自分が意外とまともな人間なのかなって思っちゃったりする。
でもさ、それは友人ならの話だろ。
あんな純粋な子に、俺の過去は……やっぱり無理だよ。つきあうなら、そこは絶対引っかかってくる。俺が変われても、そんな俺を亜姫が認めてくれたとしても。してきたことは変わらないし消えないんだから。
俺、今回よくわかったんだ。
亜姫にはマジで惚れてるし、他の奴に取られるのは苦しいとも思う。けど……俺は、亜姫にずっと笑っててほしい。
一番の望みはそれなんだって気づいた。
俺と付き合ったりしたら、いつか笑えなくなる。亜姫まで汚れる。……それは嫌なんだ。
今、あの笑顔を俺に向けてくれてる。心を開いてくれてる。
これ以上の望みなんてねぇよ。
だから、せめて今の関係を守りたかった。
……………これだけは、絶対、失くしたくない」
静かに、しかし強い決意を滲ませて。
そんな和泉の言葉を二人は黙って聞いていた。
「……和泉。係の仕事はもうすぐ終わるよ? この先、今みたいに話が出来るとは限らないってわかってる?」
「わかってるよ」
「亜姫の隣に他の男がいるようになって、お前が近づく事も出来なくなるかもよ?」
「わかってる」
「……いいのかよ、それでも」
和泉は返事をせず、少しの間考えていた。
「俺さ……自分が思ってたよりも亜姫のことが好きみたい。
俺がどうしたいのかをずっと考えてきたけど、実際に亜姫を知ったら……もう、亜姫の幸せしか考えられないんだよ。
あの子が笑っててくれるなら、そばにいるのは俺じゃなくていい。今は本気でそう思ってる。
今回、亜姫が気持ちを笑って受け止めてくれて、俺が望む通りに変わらない関係を続けてくれてる。
それがたまらなく嬉しい。
俺が苦しいとか切なくなるっていうのは、あの子が幸せでいることとは別の話だ。
お前らにはずっと応援してもらったのに申し訳ないけど。こう思えるようになれたってことに、俺はすごく満足してる。
それでも……凹んだ時は、また世話になるわ」
和泉は穏やかな顔で微笑んだ。
その顔は妙にスッキリしていて、ヒロ達も頷くしかなかった。
そしてこの日から、和泉は亜姫の話をしなくなった。
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