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高2
告白のあと(1)
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「黒田に好きだって言われた……」
亜姫は、麗華にせがんで泊まりに来てもらっていた。
一日で沢山のことが起きすぎて、どうしたらいいかわからなかったからだ。
黒田から告白されたあと、ひと気のない倉庫で強引に迫られて怖かったこと。
和泉が助けてくれただけでなく、怖がってたことに気づいて慰めてくれたこと。
そして、和泉にも好きだと告げられたこと。
だが……その告白は自分の為にしてくれたこと。
明日からも、今まで通り変わらず過ごしたいと言われたこと。
麗華はその全てに驚いていたが、黒田に関しては凄まじい怒りを見せた。
「でも、和泉のおかげで黒田が怖くなくなった」
「それは有り難いけど、だからといって黒田が変わるわけじゃないのよ?」
麗華はまだ怒っている。
「……変わると思う」
「なんでよ?」
「和泉が、黒田に話をしてくれてた。……帰る前に見たの」
あのあと、教室に戻ってから。
和泉が廊下の片隅で作業する黒田に近づくのを見た。
「黒田。さっきは邪魔して悪かった」
和泉が声をかけた時、黒田は気まずそうに軽く頷くだけだった。
そんな彼に、あのやり方では逆効果だと和泉は助言する。
橘が怖がってたみたいだから、こうするといい。
あれじゃお前も誤解されたままになる、せっかく気持ちを伝えたのにもったいない。
お前も、さっきのことは気にしてんだろ?
さりげなく作業を手伝いながら、さもついでのように話しかける。
人と関わりたがらない和泉が話しかけてきたことに、黒田は驚きしかなさそうだった。しかし、滅多に喋らない和泉が終始気遣いを見せながらする話。
黒田は戸惑いながらも真摯に受け止めた。少なくとも、亜姫にはそう見えた。
亜姫は思った。和泉の行動は、黒田だけではなく自分の為でもあるのだろうと。
「話を聞いてたらね。いつもの黒田だな、もうあんなことはしないだろうな、って思えたよ」
穏やかに話す亜姫を見て、麗華は安堵する。
麗華は見た目の印象から軽い女だと思われがちで、強引に迫られたことが幾度もある。何度も起こればある程度の対処法は身につくものの、そういう時の怖さというのは慣れるものではない。
それを亜姫に根づかせないよう対処してくれた和泉には、感謝しかない。
その上、亜姫の為に言うつもりがなかった告白まで? しかも、和泉の気持ちに応えることはしなくていいと? 亜姫の気持ちを軽くする為だけに気持ちを伝え、負担は一切与えてない。
いくら疑いの眼差しで見ていた麗華でも、これだけの行動を聞かされれば彼は信用に足ると認めざるを得ない。
「亜姫は今日、どんな気持ちになった? 初めて告白されたわけだけど、黒田にときめいたりした?」
「とにかく驚いた。だけど、ときめくより困ったと思う方が強かったかな……」
「返事、しなきゃいけないのよね?……どうしたいと思ってる?」
亜姫はしばらく考えこむ。
恋とは? 付き合うとは? そういう話を、これまで何度もしてきた。それを踏まえてこの先のことを想像してみる。
「……ダメだ、全く想像出来ない。
黒田と二人で何かをしてるところ、何ひとつ想像出来ないよ。どうしよう、私の想像力が足りないのかな?」
いかにも亜姫らしい答えだった。麗華は苦笑する。
「それは、黒田と一緒に過ごす未来が見えないってことなんじゃない?」
「確かに、ただのお友達だと思ったほうが気持ちが楽だなぁ。
一緒に仕事をしたりする姿なら想像出来るんだけど。そもそも、付き合うってことをまだ考えられないし……。うん、そうだ。黒田には正直にそう伝えることにする」
「そうね。……で? 和泉には返事しなくていいんだっけ?」
亜姫は小さく頷く。
「和泉に言われたのは、どう思ったの?」
「すごく、驚いた。けど、嬉しかった……かな」
「なんで嬉しいと思ったの? 亜姫は、和泉をどう思ってる?」
亜姫はまた暫く考えていた。
「和泉は一緒にいて楽しいと思っていたから、かな。和泉も楽しんでくれてたのかな、って。それが嬉しかった。
和泉は……すごく優しい。それに、思っていたより色んなことを考えてる人だった。和泉が笑ってるのを見ると、なんだかすごく嬉しくなる」
「変わらず今まで通り、って言われたんだっけ? それはどう思った?」
「嬉しかった。今ね、一緒に仕事してるのがすごく楽しいの。和泉もそうなんだって。だから、最後まで楽しいまま終えたいなと思った」
亜姫にとっては、今まで通りに仕事を続けることが何よりも大事らしい。
ならば和泉の提案通り、変わらず過ごせばいいのでは? と麗華はアドバイスした。
最近、和泉の話をする亜姫は嬉しそうだ。
嬉しい楽しいと言い続けていることを亜姫は自覚していない。今もそうだ。
和泉に対する興味の形が、明らかに変化している。
ただ、今の和泉になら……。
そう思い、麗華は自然の流れにまかせてみることにした。
亜姫は、麗華にせがんで泊まりに来てもらっていた。
一日で沢山のことが起きすぎて、どうしたらいいかわからなかったからだ。
黒田から告白されたあと、ひと気のない倉庫で強引に迫られて怖かったこと。
和泉が助けてくれただけでなく、怖がってたことに気づいて慰めてくれたこと。
そして、和泉にも好きだと告げられたこと。
だが……その告白は自分の為にしてくれたこと。
明日からも、今まで通り変わらず過ごしたいと言われたこと。
麗華はその全てに驚いていたが、黒田に関しては凄まじい怒りを見せた。
「でも、和泉のおかげで黒田が怖くなくなった」
「それは有り難いけど、だからといって黒田が変わるわけじゃないのよ?」
麗華はまだ怒っている。
「……変わると思う」
「なんでよ?」
「和泉が、黒田に話をしてくれてた。……帰る前に見たの」
あのあと、教室に戻ってから。
和泉が廊下の片隅で作業する黒田に近づくのを見た。
「黒田。さっきは邪魔して悪かった」
和泉が声をかけた時、黒田は気まずそうに軽く頷くだけだった。
そんな彼に、あのやり方では逆効果だと和泉は助言する。
橘が怖がってたみたいだから、こうするといい。
あれじゃお前も誤解されたままになる、せっかく気持ちを伝えたのにもったいない。
お前も、さっきのことは気にしてんだろ?
さりげなく作業を手伝いながら、さもついでのように話しかける。
人と関わりたがらない和泉が話しかけてきたことに、黒田は驚きしかなさそうだった。しかし、滅多に喋らない和泉が終始気遣いを見せながらする話。
黒田は戸惑いながらも真摯に受け止めた。少なくとも、亜姫にはそう見えた。
亜姫は思った。和泉の行動は、黒田だけではなく自分の為でもあるのだろうと。
「話を聞いてたらね。いつもの黒田だな、もうあんなことはしないだろうな、って思えたよ」
穏やかに話す亜姫を見て、麗華は安堵する。
麗華は見た目の印象から軽い女だと思われがちで、強引に迫られたことが幾度もある。何度も起こればある程度の対処法は身につくものの、そういう時の怖さというのは慣れるものではない。
それを亜姫に根づかせないよう対処してくれた和泉には、感謝しかない。
その上、亜姫の為に言うつもりがなかった告白まで? しかも、和泉の気持ちに応えることはしなくていいと? 亜姫の気持ちを軽くする為だけに気持ちを伝え、負担は一切与えてない。
いくら疑いの眼差しで見ていた麗華でも、これだけの行動を聞かされれば彼は信用に足ると認めざるを得ない。
「亜姫は今日、どんな気持ちになった? 初めて告白されたわけだけど、黒田にときめいたりした?」
「とにかく驚いた。だけど、ときめくより困ったと思う方が強かったかな……」
「返事、しなきゃいけないのよね?……どうしたいと思ってる?」
亜姫はしばらく考えこむ。
恋とは? 付き合うとは? そういう話を、これまで何度もしてきた。それを踏まえてこの先のことを想像してみる。
「……ダメだ、全く想像出来ない。
黒田と二人で何かをしてるところ、何ひとつ想像出来ないよ。どうしよう、私の想像力が足りないのかな?」
いかにも亜姫らしい答えだった。麗華は苦笑する。
「それは、黒田と一緒に過ごす未来が見えないってことなんじゃない?」
「確かに、ただのお友達だと思ったほうが気持ちが楽だなぁ。
一緒に仕事をしたりする姿なら想像出来るんだけど。そもそも、付き合うってことをまだ考えられないし……。うん、そうだ。黒田には正直にそう伝えることにする」
「そうね。……で? 和泉には返事しなくていいんだっけ?」
亜姫は小さく頷く。
「和泉に言われたのは、どう思ったの?」
「すごく、驚いた。けど、嬉しかった……かな」
「なんで嬉しいと思ったの? 亜姫は、和泉をどう思ってる?」
亜姫はまた暫く考えていた。
「和泉は一緒にいて楽しいと思っていたから、かな。和泉も楽しんでくれてたのかな、って。それが嬉しかった。
和泉は……すごく優しい。それに、思っていたより色んなことを考えてる人だった。和泉が笑ってるのを見ると、なんだかすごく嬉しくなる」
「変わらず今まで通り、って言われたんだっけ? それはどう思った?」
「嬉しかった。今ね、一緒に仕事してるのがすごく楽しいの。和泉もそうなんだって。だから、最後まで楽しいまま終えたいなと思った」
亜姫にとっては、今まで通りに仕事を続けることが何よりも大事らしい。
ならば和泉の提案通り、変わらず過ごせばいいのでは? と麗華はアドバイスした。
最近、和泉の話をする亜姫は嬉しそうだ。
嬉しい楽しいと言い続けていることを亜姫は自覚していない。今もそうだ。
和泉に対する興味の形が、明らかに変化している。
ただ、今の和泉になら……。
そう思い、麗華は自然の流れにまかせてみることにした。
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