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高2
告白(2)
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「ありがとう……もう、大丈夫」
腕の中から小さな声がして、和泉は力を緩める。
真っ赤な目をした亜姫が、和泉を見上げて小さく笑った。
「ごめんね。服、濡らしちゃった」
「いーよ、気にすんな。……落ち着いた?」
震えがだいぶ前に止まっていたのは知っている。
「うん、だいぶスッキリした。ありがとう」
力なく笑う姿が痛々しい。しかし亜姫は仕事をしようと和泉に背中を向けた。
「和泉、ありがとう。………考える。ちゃんと黒田のこと、考えてみる。私のこと好きだって言ってくれる人がいたんだもの、喜ばなくちゃ。
初めて告白された、記念すべき日に……なるんだもんね。嬉しい一日に、なる、はず……」
亜姫は、自身へ言い聞かせるように繰り返す。
楽しみにしていた憧れの瞬間が訪れたというのに、亜姫は全然喜べていない。
その様子を見るのが辛くなった。
あの亜姫が、笑わない。
自分には関係ないのに。
和泉は、見過ごすことが出来なかった。
「亜姫」
思わず、名前を呼んだ。
振り向いた亜姫を見たら、無意識に口から零れでた。
「好きだ」
亜姫が目を見開く。
その目を見ながら、和泉は再度伝えた。
「俺は、亜姫が好きだ」
「な……に、言って………」
真っ赤になって固まる亜姫を目にしたら、妙に冷静になった。和泉はフッと笑いを零す。
「前に、好きな子がいるって言っただろ? あれ、亜姫のことだよ。……ずっと前から、好きだった」
そこで黒田と同じ言い回しをしたことに気がついて、苦笑する。
「黒田が言ったからって、慌てて真似してるんじゃないよ?……もともと、お前に伝える気はなかったんだ。困らせるだけだってわかってたから。
今日はさ、亜姫にとっては憧れの記念日になるはずだろ? あんなに楽しみにしてたのに、男が怖いと思った日になっちゃうなんて悲しいじゃん。
今日は、初めての告白を二人からされた日にしろよ。そんな体験すること、なかなか出来ないだろ?」
しかけたイタズラが成功した、と言いたげに和泉が笑う。亜姫はつられて笑ってしまった。
「すごい記念日になっちゃう」
「だろ? 黒田だって、本当は気持ちを伝えたかっただけで、怖がらせるつもりはなかっただろうし。そうやって、ちゃんと笑える日にしないとな」
「あ、あの……黒田より、和泉の方に驚いちゃったけど……」
亜姫は赤い顔のまま、少し困ったように笑う。
「あー、うん。本当にさ、言うつもりはなかったから。俺のことは気にしなくていーよ、お前が困るってわかってたし。つきあうとか、全く考えてない。
……でも、好きなのは本当。それだけは、まぁ、知っててよ。
返事もいらねーし、俺は今まで通り、この仕事を楽しみたいと思ってるから。
でも、お前が嫌だっつーなら……あんまり関わらないようにするから。それは我慢しないで言ってもらえた方が、気は楽だけど」
「嫌じゃないよ! そんなこと、全然思わない!」
「そう? じゃ、やっぱり無理って思った時はちゃんと言って? それ以外は今まで通りにしてもらえると、俺も助かる」
「うん……」
「や、だからそーいう微妙なの、やめようぜ。
やっぱ、なかったことに……は、して欲しくないんだけど……うーん、失敗したかな」
今度は和泉が困り始めて唸り出す。
亜姫はなんだかおかしくなって、笑ってしまった。
「失敗って……そんなことないよ、嬉しかった。ありがとう。
ごめんね、こういうの初めてでどうしたらいいかわからなくて。今はありがとうとしか言えないんだけど……。でも、とりあえず今まで通りでお願いします!」
亜姫が気持ちを汲んでくれたと、和泉にはよくわかった。
亜姫が笑っている。
自分の気持ちを受け止めてくれた。
それだけで和泉は充分だった。
そのままいつも通り仕事をして。
それきり、その話にはならなかった。でも、変わらず楽しい時間を過ごせたことにお互いが安堵していた。
この翌日、亜姫は黒田から謝罪を受け告白の返事も済ませている。
和泉のおかげで、亜姫にとっては希望より遥かに思い出深い記念日となった。
腕の中から小さな声がして、和泉は力を緩める。
真っ赤な目をした亜姫が、和泉を見上げて小さく笑った。
「ごめんね。服、濡らしちゃった」
「いーよ、気にすんな。……落ち着いた?」
震えがだいぶ前に止まっていたのは知っている。
「うん、だいぶスッキリした。ありがとう」
力なく笑う姿が痛々しい。しかし亜姫は仕事をしようと和泉に背中を向けた。
「和泉、ありがとう。………考える。ちゃんと黒田のこと、考えてみる。私のこと好きだって言ってくれる人がいたんだもの、喜ばなくちゃ。
初めて告白された、記念すべき日に……なるんだもんね。嬉しい一日に、なる、はず……」
亜姫は、自身へ言い聞かせるように繰り返す。
楽しみにしていた憧れの瞬間が訪れたというのに、亜姫は全然喜べていない。
その様子を見るのが辛くなった。
あの亜姫が、笑わない。
自分には関係ないのに。
和泉は、見過ごすことが出来なかった。
「亜姫」
思わず、名前を呼んだ。
振り向いた亜姫を見たら、無意識に口から零れでた。
「好きだ」
亜姫が目を見開く。
その目を見ながら、和泉は再度伝えた。
「俺は、亜姫が好きだ」
「な……に、言って………」
真っ赤になって固まる亜姫を目にしたら、妙に冷静になった。和泉はフッと笑いを零す。
「前に、好きな子がいるって言っただろ? あれ、亜姫のことだよ。……ずっと前から、好きだった」
そこで黒田と同じ言い回しをしたことに気がついて、苦笑する。
「黒田が言ったからって、慌てて真似してるんじゃないよ?……もともと、お前に伝える気はなかったんだ。困らせるだけだってわかってたから。
今日はさ、亜姫にとっては憧れの記念日になるはずだろ? あんなに楽しみにしてたのに、男が怖いと思った日になっちゃうなんて悲しいじゃん。
今日は、初めての告白を二人からされた日にしろよ。そんな体験すること、なかなか出来ないだろ?」
しかけたイタズラが成功した、と言いたげに和泉が笑う。亜姫はつられて笑ってしまった。
「すごい記念日になっちゃう」
「だろ? 黒田だって、本当は気持ちを伝えたかっただけで、怖がらせるつもりはなかっただろうし。そうやって、ちゃんと笑える日にしないとな」
「あ、あの……黒田より、和泉の方に驚いちゃったけど……」
亜姫は赤い顔のまま、少し困ったように笑う。
「あー、うん。本当にさ、言うつもりはなかったから。俺のことは気にしなくていーよ、お前が困るってわかってたし。つきあうとか、全く考えてない。
……でも、好きなのは本当。それだけは、まぁ、知っててよ。
返事もいらねーし、俺は今まで通り、この仕事を楽しみたいと思ってるから。
でも、お前が嫌だっつーなら……あんまり関わらないようにするから。それは我慢しないで言ってもらえた方が、気は楽だけど」
「嫌じゃないよ! そんなこと、全然思わない!」
「そう? じゃ、やっぱり無理って思った時はちゃんと言って? それ以外は今まで通りにしてもらえると、俺も助かる」
「うん……」
「や、だからそーいう微妙なの、やめようぜ。
やっぱ、なかったことに……は、して欲しくないんだけど……うーん、失敗したかな」
今度は和泉が困り始めて唸り出す。
亜姫はなんだかおかしくなって、笑ってしまった。
「失敗って……そんなことないよ、嬉しかった。ありがとう。
ごめんね、こういうの初めてでどうしたらいいかわからなくて。今はありがとうとしか言えないんだけど……。でも、とりあえず今まで通りでお願いします!」
亜姫が気持ちを汲んでくれたと、和泉にはよくわかった。
亜姫が笑っている。
自分の気持ちを受け止めてくれた。
それだけで和泉は充分だった。
そのままいつも通り仕事をして。
それきり、その話にはならなかった。でも、変わらず楽しい時間を過ごせたことにお互いが安堵していた。
この翌日、亜姫は黒田から謝罪を受け告白の返事も済ませている。
和泉のおかげで、亜姫にとっては希望より遥かに思い出深い記念日となった。
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