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高2
心の中(2)
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苛立ち露わに、亜姫へ冷たく当たってしまった。そんな自分にまた気持ちが荒れていく。
だが亜姫の様子は変わらず、優しい笑みを浮かべたままだった。
「確かに、和泉の事は友達から聞く話でしか知らなかったけど。でも今、一緒に仕事をしてて……私は和泉が優しいなって感じてる。
それに、話を聞きながらよく思ってたよ。皆、何があっても和泉のことをずっと好きなんだなって。それが恋愛としてなのか人としてなのか、私にはわからないけど。
女の子に対しても、酷い対応をしてたように見えちゃうけど。実際は和泉が願いを叶えてあげてただけで、誰かを傷つけたりはしていないと思う。
実際に関わった人達、誰も和泉のことを悪く言わないんだなって思ってた。だって、山ほど噂があるのに……和泉を非難する話は一つも出て来ないもの」
穏やかに話す亜姫の口から出てくるのは、和泉が初めて聞く言葉ばかりだ。
しかし、耳に入るそれらは先程と同じで──あまりにも綺麗過ぎて──受け入れることが出来ず、それどころか反発や拒絶の感情が猛烈な勢いで噴き出してくる。
和泉は必死で抗う感情の荒波に狼狽えた。
最近は色んな事を考えるようになっていた。
知らなかった感情と向き合うことも増えた。
ただ、その変化は……これまで頑なに閉じていた「新しい世界を知る扉」を開けていただけだと気づく。
そして、亜姫のことばかり考えていたにも関わらず、亜姫は何を考えているのかと──その「心」を探ろうと思ったことが殆ど無いと気づいた。
亜姫の気持ちを考えたのは、初めて会話した時──嫌われてないのだろうかと思った、あの一瞬──だけだ。
ずっと考えていたのは、亜姫に絡めた「今その瞬間の自分の心情」だけだ。
「今までの自分」について考えたことはなかった。
「固く閉ざされた心の奥底」をこじ開けるようなこともなかった。
考えるまでもなく、ただひたすら自分は最低だったと……その一言で片付けていたから。
今、開きかけたその扉を必死に閉じようとしている自身を感じて、そこは開けたくなかったのだと──見たくも知りたくもない、隠された感情があるのだと──初めて自覚した。
それなのに、いや、だからこそなのか。自分でも気づいてなかったドス黒い感情が、意思とは関係なく次々と吐き出されてゆく。
「だから、意味わかんねぇって……そんなことは有り得ねぇから。
俺は……全て消えればいいって、生きてる意味なんて無いと思ってた。
何もかもが鬱陶しくて面倒くさかった。
毎日が、明日が来るのが、嫌で嫌でたまらなかった。
だから、一番手っ取り早い方法で切り捨ててきたんだ。
行為一つで俺の前から消えてくれるなら、楽だと思ってたよ。相手も内容も方法も、俺にはどうでもいいことだった。
二度と関わんなって、たまに思うのはそれぐらいで。考えることすら放棄して、一方的に自分勝手にやってきたんだ。
優しさなんてこれっぽっちもねぇよ。逆に傷つけてきたんだよ。
けど、俺は女に罪悪感なんて持ったことないし、これから先も持つことはない。絶対にない。
そもそも、何かを感じたことなんかなかった。俺には……………何も、無かった。
感情も言葉も人と関わるのも、ただ邪魔なだけだった。
そんな俺を優しいなんて思う奴、いるはずねぇだろ。万が一いたとしても、俺にそんなこと求める奴なんかいないって。
誰にどう思われようが興味ないし、どーでもいいって言ってんだろ。今更そんなこと知ったって何も変わらないし、意味ない。
余計なこと言って掻き回してくんな。放っとけよ、お前に関係ねーだろ」
辛辣に吐き捨てられる、自分の口から出たはずの言葉。その内容に和泉自身が驚いていた。
自分はずっとそう思っていたのかと、言葉にして初めて自覚する。
だが腑に落ちる気持ちもあり、そうか自分はずっと怒っていたのだと──妙に冷静に受け止めた。
途端、今までの自分や纏わりついた奴らに猛烈な不快感が湧き上がってきた。
こんなに綺麗な言葉で塗り替えられる過去ではない。むしろ、言われたことで最低さが増したのではなかろうか。
それは、この先も自分に深く刻まれて消せないものだ。
そんな生き方をしてきたのは自分だ。
なのに、そんな自分にこそ腹を立てていることに気づく。
そして今更そんな過去をひどく後悔し──変わることばかり考えて、全て無かったことにしようと──都合の悪いモノに蓋をして、見ようとしなかった自分に吐き気がした。
その不快感は今までの比ではなく、今すぐ全てを破壊したい衝動に襲われた。その感情に溺れそうになるのを、拳をグッと握りしめて堪える。
そうしなければ、掻き乱してくる亜姫にますます酷いことを言ってしまいそうだった。
だが亜姫は微笑み続け、静かに首を振る。
「傷ついてる人がいるとしたら……それはきっと、和泉だけだよ。
毎日沢山の人が近づいて、一方的に気持ちを押し付けられて。それを、全部受け止め続けてきたんでしょう? それじゃあ、誰だって疲れちゃう。
どんな方法でもいいから全部消えて、なんて……よっぽどの事がなければそこまでは思わないんじゃない?
和泉は優しすぎるんだと思う。どうでもいいって言いながら相手の願いは叶えてあげて、相手が納得して引いてくれるように自分が我慢して。
人を傷つけても平気な人なら、最初から相手なんかしない。もしくは……もっとわかりやすく相手を傷つけて、あからさまに遠ざけるんじゃないかな。
あまり話さないみたいだけど、時には怒鳴り散らしたりすればよかったのに。
………今みたいに、言えばよかったのに。皆も好き勝手言ってるんだもの、和泉も同じように言ったってよかったんじゃない?
この間、すごく楽しそうに笑ってたよ? 見てる私まで楽しくなっちゃった。本当はあんな風に笑えるし、よく笑う人だよね。
和泉が笑わないって言われてるのは、笑いたくなる環境ではなかったってことでしょう?
でも今、和泉は過去形で話してる。今はもう、違うんだね。
女の子と関わるのをやめたって聞いたけど……少しは楽になった?」
だが亜姫の様子は変わらず、優しい笑みを浮かべたままだった。
「確かに、和泉の事は友達から聞く話でしか知らなかったけど。でも今、一緒に仕事をしてて……私は和泉が優しいなって感じてる。
それに、話を聞きながらよく思ってたよ。皆、何があっても和泉のことをずっと好きなんだなって。それが恋愛としてなのか人としてなのか、私にはわからないけど。
女の子に対しても、酷い対応をしてたように見えちゃうけど。実際は和泉が願いを叶えてあげてただけで、誰かを傷つけたりはしていないと思う。
実際に関わった人達、誰も和泉のことを悪く言わないんだなって思ってた。だって、山ほど噂があるのに……和泉を非難する話は一つも出て来ないもの」
穏やかに話す亜姫の口から出てくるのは、和泉が初めて聞く言葉ばかりだ。
しかし、耳に入るそれらは先程と同じで──あまりにも綺麗過ぎて──受け入れることが出来ず、それどころか反発や拒絶の感情が猛烈な勢いで噴き出してくる。
和泉は必死で抗う感情の荒波に狼狽えた。
最近は色んな事を考えるようになっていた。
知らなかった感情と向き合うことも増えた。
ただ、その変化は……これまで頑なに閉じていた「新しい世界を知る扉」を開けていただけだと気づく。
そして、亜姫のことばかり考えていたにも関わらず、亜姫は何を考えているのかと──その「心」を探ろうと思ったことが殆ど無いと気づいた。
亜姫の気持ちを考えたのは、初めて会話した時──嫌われてないのだろうかと思った、あの一瞬──だけだ。
ずっと考えていたのは、亜姫に絡めた「今その瞬間の自分の心情」だけだ。
「今までの自分」について考えたことはなかった。
「固く閉ざされた心の奥底」をこじ開けるようなこともなかった。
考えるまでもなく、ただひたすら自分は最低だったと……その一言で片付けていたから。
今、開きかけたその扉を必死に閉じようとしている自身を感じて、そこは開けたくなかったのだと──見たくも知りたくもない、隠された感情があるのだと──初めて自覚した。
それなのに、いや、だからこそなのか。自分でも気づいてなかったドス黒い感情が、意思とは関係なく次々と吐き出されてゆく。
「だから、意味わかんねぇって……そんなことは有り得ねぇから。
俺は……全て消えればいいって、生きてる意味なんて無いと思ってた。
何もかもが鬱陶しくて面倒くさかった。
毎日が、明日が来るのが、嫌で嫌でたまらなかった。
だから、一番手っ取り早い方法で切り捨ててきたんだ。
行為一つで俺の前から消えてくれるなら、楽だと思ってたよ。相手も内容も方法も、俺にはどうでもいいことだった。
二度と関わんなって、たまに思うのはそれぐらいで。考えることすら放棄して、一方的に自分勝手にやってきたんだ。
優しさなんてこれっぽっちもねぇよ。逆に傷つけてきたんだよ。
けど、俺は女に罪悪感なんて持ったことないし、これから先も持つことはない。絶対にない。
そもそも、何かを感じたことなんかなかった。俺には……………何も、無かった。
感情も言葉も人と関わるのも、ただ邪魔なだけだった。
そんな俺を優しいなんて思う奴、いるはずねぇだろ。万が一いたとしても、俺にそんなこと求める奴なんかいないって。
誰にどう思われようが興味ないし、どーでもいいって言ってんだろ。今更そんなこと知ったって何も変わらないし、意味ない。
余計なこと言って掻き回してくんな。放っとけよ、お前に関係ねーだろ」
辛辣に吐き捨てられる、自分の口から出たはずの言葉。その内容に和泉自身が驚いていた。
自分はずっとそう思っていたのかと、言葉にして初めて自覚する。
だが腑に落ちる気持ちもあり、そうか自分はずっと怒っていたのだと──妙に冷静に受け止めた。
途端、今までの自分や纏わりついた奴らに猛烈な不快感が湧き上がってきた。
こんなに綺麗な言葉で塗り替えられる過去ではない。むしろ、言われたことで最低さが増したのではなかろうか。
それは、この先も自分に深く刻まれて消せないものだ。
そんな生き方をしてきたのは自分だ。
なのに、そんな自分にこそ腹を立てていることに気づく。
そして今更そんな過去をひどく後悔し──変わることばかり考えて、全て無かったことにしようと──都合の悪いモノに蓋をして、見ようとしなかった自分に吐き気がした。
その不快感は今までの比ではなく、今すぐ全てを破壊したい衝動に襲われた。その感情に溺れそうになるのを、拳をグッと握りしめて堪える。
そうしなければ、掻き乱してくる亜姫にますます酷いことを言ってしまいそうだった。
だが亜姫は微笑み続け、静かに首を振る。
「傷ついてる人がいるとしたら……それはきっと、和泉だけだよ。
毎日沢山の人が近づいて、一方的に気持ちを押し付けられて。それを、全部受け止め続けてきたんでしょう? それじゃあ、誰だって疲れちゃう。
どんな方法でもいいから全部消えて、なんて……よっぽどの事がなければそこまでは思わないんじゃない?
和泉は優しすぎるんだと思う。どうでもいいって言いながら相手の願いは叶えてあげて、相手が納得して引いてくれるように自分が我慢して。
人を傷つけても平気な人なら、最初から相手なんかしない。もしくは……もっとわかりやすく相手を傷つけて、あからさまに遠ざけるんじゃないかな。
あまり話さないみたいだけど、時には怒鳴り散らしたりすればよかったのに。
………今みたいに、言えばよかったのに。皆も好き勝手言ってるんだもの、和泉も同じように言ったってよかったんじゃない?
この間、すごく楽しそうに笑ってたよ? 見てる私まで楽しくなっちゃった。本当はあんな風に笑えるし、よく笑う人だよね。
和泉が笑わないって言われてるのは、笑いたくなる環境ではなかったってことでしょう?
でも今、和泉は過去形で話してる。今はもう、違うんだね。
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