【完結】笑花に芽吹く 〜心を閉ざした無気力イケメンとおっぱい大好き少女が出会ったら〜

暁 緒々

文字の大きさ
上 下
23 / 364
高2

新学期(1)

しおりを挟む
「和泉!!」
 ヒロが嬉しそうに和泉を呼ぶ。その隣には、同じように笑う戸塚。
「また一緒だな」
「あぁ」 
 二人の顔を見て、和泉の気持ちが少し綻んだ。
  
 この日、和泉は朝から憂鬱だった。
 なぜなら。
 進級や進学に伴うクラス替えの時は、普段以上に多数の目が自分に向くからだ。様々な思惑が乗った視線と身勝手な接触を一身に受けるこの時期は、毎年煩わしくてたまらない。
 
 クラス替えを楽しみにしたことなど一度もない。誰がいてもいなくても鬱陶しいのは変わらず、毎年同じことが繰り返されるだけ。なので、この時期はひたすら机に突っ伏している。それが煩わしさから逃れられる一番いい方法だったから。
 
 この日も例に違わず時間ギリギリに登校した。誰もいなくなった昇降口で、張り出されたリストから自分の名だけを確認する。そして、これから起こるであろう鬱陶しさに辟易へきえきしながら新しい教室へ向かった。
 
 だが教室へ入った途端ヒロ達の声を聞き、少し気分が上がる。
 来年はクラス替えがないし、こいつらとずっと一緒か。
 ………いいかも。
 
「和泉、よかったな!」
 二人のやたら高いテンションにも、また少し気持ちが上向く。 
 そうなると、余計に視線が煩わしくて。
 楽しげな2人を横目に見ながら、和泉は早々に自分の席で突っ伏した。
 
 担任は、今年も山本だった。彼は何かと構ってくる割に不快感がない。彼の顔を見て、なんだかホッとした。
 変わろうと藻掻もがいている中、少しでもいい環境を保てるのはありがたい。あとは周りをできるだけ遮断して……。
 山本が点呼を取る中、そんなことを考えていると。
 
「──ば─あき」
「はい」
 
 聞こえてきた声に、和泉は顔を上げた。
 自分が座る席は廊下側の一番後ろ。そこから、ゆっくりと室内を見回す。 
 すると、教室のちょうど中央付近。そこに、黒髪で笑顔の子が座っていた。
 
 ………………………………………………え?
 
 
 
「和泉! 和泉って! おい、起きてんだろ!」
 バシバシと肩を叩かれ、気づけば放課後になっていた。 
 ニヤついた笑みを浮かべる戸塚とヒロ。
 二人は放心状態の和泉を急かすようにして、彼の家へ上がりこんだ。
 
「……………………………なんで?」
 昼を食べ始めて、ようやく和泉が口を開く。 
「おい、本当に大丈夫かよ? 魂抜けっぱなしなんだけど」
「良かったね、亜姫と同じクラス。これで卒業まで一緒だよ」
「……………………」
 呆然とする和泉をヒロがドつく。
「いい加減しっかりしろって! 最初に言っただろ、亜姫と一緒だって。やたら反応薄いと思ってたら、聞いてなかったのかよ? リストに名前が載ってただろ?」
「自分の名前以外、見ないし……」
「はぁ?」
「クラス替えは鬱陶しいだけだったから」
 
 その言葉に、二人が事情を察して苦笑する。
 
「いや、それにしたってさ。亜姫とは同じ学年なんだから、この展開は有り得ただろ?」
「全く考えてなかった。これだけクラスがあったら、そんな可能性があるなんて思わねーだろ……」
「マジかよ。俺は少し期待してたけど」 
 ヒロが呆れた顔で和泉を見るも、彼は未だ衝撃にのまれたまま。 
「おい? おーい? 和泉? 現実だからな? 明日から卒業まで毎日、同じ教室に亜姫がいるからな?」
「……いや、無理だろ……」
「隣の席になるかもよ?」
「……無理………」
「同じ係とか、班とか」
「……無理だって」
「笑いかけてもらえる日、すぐに来るかもな? 亜姫、いつも笑ってるし」
「…………………………」 
 和泉はとうとう頭を抱えてしまった。

「いや、無理だろ……俺、こんなの死ぬわ……」  

 ブツブツ言う情けない姿に二人が笑う。
「これからは、どうしたって絡まなきゃいけない時が出てくる。もう、覚悟決めろ。次は逃げんなよ?」
  
 その言葉に、和泉はしばらく頭を上げることが出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

処理中です...