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高2
新学期(1)
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「和泉!!」
ヒロが嬉しそうに和泉を呼ぶ。その隣には、同じように笑う戸塚。
「また一緒だな」
「あぁ」
二人の顔を見て、和泉の気持ちが少し綻んだ。
この日、和泉は朝から憂鬱だった。
なぜなら。
進級や進学に伴うクラス替えの時は、普段以上に多数の目が自分に向くからだ。様々な思惑が乗った視線と身勝手な接触を一身に受けるこの時期は、毎年煩わしくてたまらない。
クラス替えを楽しみにしたことなど一度もない。誰がいてもいなくても鬱陶しいのは変わらず、毎年同じことが繰り返されるだけ。なので、この時期はひたすら机に突っ伏している。それが煩わしさから逃れられる一番いい方法だったから。
この日も例に違わず時間ギリギリに登校した。誰もいなくなった昇降口で、張り出されたリストから自分の名だけを確認する。そして、これから起こるであろう鬱陶しさに辟易しながら新しい教室へ向かった。
だが教室へ入った途端ヒロ達の声を聞き、少し気分が上がる。
来年はクラス替えがないし、こいつらとずっと一緒か。
………いいかも。
「和泉、よかったな!」
二人のやたら高いテンションにも、また少し気持ちが上向く。
そうなると、余計に視線が煩わしくて。
楽しげな2人を横目に見ながら、和泉は早々に自分の席で突っ伏した。
担任は、今年も山本だった。彼は何かと構ってくる割に不快感がない。彼の顔を見て、なんだかホッとした。
変わろうと藻掻いている中、少しでもいい環境を保てるのはありがたい。あとは周りをできるだけ遮断して……。
山本が点呼を取る中、そんなことを考えていると。
「──ば─あき」
「はい」
聞こえてきた声に、和泉は顔を上げた。
自分が座る席は廊下側の一番後ろ。そこから、ゆっくりと室内を見回す。
すると、教室のちょうど中央付近。そこに、黒髪で笑顔の子が座っていた。
………………………………………………え?
「和泉! 和泉って! おい、起きてんだろ!」
バシバシと肩を叩かれ、気づけば放課後になっていた。
ニヤついた笑みを浮かべる戸塚とヒロ。
二人は放心状態の和泉を急かすようにして、彼の家へ上がりこんだ。
「……………………………なんで?」
昼を食べ始めて、ようやく和泉が口を開く。
「おい、本当に大丈夫かよ? 魂抜けっぱなしなんだけど」
「良かったね、亜姫と同じクラス。これで卒業まで一緒だよ」
「……………………」
呆然とする和泉をヒロがドつく。
「いい加減しっかりしろって! 最初に言っただろ、亜姫と一緒だって。やたら反応薄いと思ってたら、聞いてなかったのかよ? リストに名前が載ってただろ?」
「自分の名前以外、見ないし……」
「はぁ?」
「クラス替えは鬱陶しいだけだったから」
その言葉に、二人が事情を察して苦笑する。
「いや、それにしたってさ。亜姫とは同じ学年なんだから、この展開は有り得ただろ?」
「全く考えてなかった。これだけクラスがあったら、そんな可能性があるなんて思わねーだろ……」
「マジかよ。俺は少し期待してたけど」
ヒロが呆れた顔で和泉を見るも、彼は未だ衝撃にのまれたまま。
「おい? おーい? 和泉? 現実だからな? 明日から卒業まで毎日、同じ教室に亜姫がいるからな?」
「……いや、無理だろ……」
「隣の席になるかもよ?」
「……無理………」
「同じ係とか、班とか」
「……無理だって」
「笑いかけてもらえる日、すぐに来るかもな? 亜姫、いつも笑ってるし」
「…………………………」
和泉はとうとう頭を抱えてしまった。
「いや、無理だろ……俺、こんなの死ぬわ……」
ブツブツ言う情けない姿に二人が笑う。
「これからは、どうしたって絡まなきゃいけない時が出てくる。もう、覚悟決めろ。次は逃げんなよ?」
その言葉に、和泉はしばらく頭を上げることが出来なかった。
ヒロが嬉しそうに和泉を呼ぶ。その隣には、同じように笑う戸塚。
「また一緒だな」
「あぁ」
二人の顔を見て、和泉の気持ちが少し綻んだ。
この日、和泉は朝から憂鬱だった。
なぜなら。
進級や進学に伴うクラス替えの時は、普段以上に多数の目が自分に向くからだ。様々な思惑が乗った視線と身勝手な接触を一身に受けるこの時期は、毎年煩わしくてたまらない。
クラス替えを楽しみにしたことなど一度もない。誰がいてもいなくても鬱陶しいのは変わらず、毎年同じことが繰り返されるだけ。なので、この時期はひたすら机に突っ伏している。それが煩わしさから逃れられる一番いい方法だったから。
この日も例に違わず時間ギリギリに登校した。誰もいなくなった昇降口で、張り出されたリストから自分の名だけを確認する。そして、これから起こるであろう鬱陶しさに辟易しながら新しい教室へ向かった。
だが教室へ入った途端ヒロ達の声を聞き、少し気分が上がる。
来年はクラス替えがないし、こいつらとずっと一緒か。
………いいかも。
「和泉、よかったな!」
二人のやたら高いテンションにも、また少し気持ちが上向く。
そうなると、余計に視線が煩わしくて。
楽しげな2人を横目に見ながら、和泉は早々に自分の席で突っ伏した。
担任は、今年も山本だった。彼は何かと構ってくる割に不快感がない。彼の顔を見て、なんだかホッとした。
変わろうと藻掻いている中、少しでもいい環境を保てるのはありがたい。あとは周りをできるだけ遮断して……。
山本が点呼を取る中、そんなことを考えていると。
「──ば─あき」
「はい」
聞こえてきた声に、和泉は顔を上げた。
自分が座る席は廊下側の一番後ろ。そこから、ゆっくりと室内を見回す。
すると、教室のちょうど中央付近。そこに、黒髪で笑顔の子が座っていた。
………………………………………………え?
「和泉! 和泉って! おい、起きてんだろ!」
バシバシと肩を叩かれ、気づけば放課後になっていた。
ニヤついた笑みを浮かべる戸塚とヒロ。
二人は放心状態の和泉を急かすようにして、彼の家へ上がりこんだ。
「……………………………なんで?」
昼を食べ始めて、ようやく和泉が口を開く。
「おい、本当に大丈夫かよ? 魂抜けっぱなしなんだけど」
「良かったね、亜姫と同じクラス。これで卒業まで一緒だよ」
「……………………」
呆然とする和泉をヒロがドつく。
「いい加減しっかりしろって! 最初に言っただろ、亜姫と一緒だって。やたら反応薄いと思ってたら、聞いてなかったのかよ? リストに名前が載ってただろ?」
「自分の名前以外、見ないし……」
「はぁ?」
「クラス替えは鬱陶しいだけだったから」
その言葉に、二人が事情を察して苦笑する。
「いや、それにしたってさ。亜姫とは同じ学年なんだから、この展開は有り得ただろ?」
「全く考えてなかった。これだけクラスがあったら、そんな可能性があるなんて思わねーだろ……」
「マジかよ。俺は少し期待してたけど」
ヒロが呆れた顔で和泉を見るも、彼は未だ衝撃にのまれたまま。
「おい? おーい? 和泉? 現実だからな? 明日から卒業まで毎日、同じ教室に亜姫がいるからな?」
「……いや、無理だろ……」
「隣の席になるかもよ?」
「……無理………」
「同じ係とか、班とか」
「……無理だって」
「笑いかけてもらえる日、すぐに来るかもな? 亜姫、いつも笑ってるし」
「…………………………」
和泉はとうとう頭を抱えてしまった。
「いや、無理だろ……俺、こんなの死ぬわ……」
ブツブツ言う情けない姿に二人が笑う。
「これからは、どうしたって絡まなきゃいけない時が出てくる。もう、覚悟決めろ。次は逃げんなよ?」
その言葉に、和泉はしばらく頭を上げることが出来なかった。
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