上 下
20 / 364
高1

3月(1)

しおりを挟む
 昼休みの外庭。
 ザワつく声に琴音が「あ」と声を上げ、会話が中断する。 
 今日はいい天気で、亜姫達は外でお昼を食べていた。その少し先に、ヒロ達の集団が通りかかったのだ。
 亜姫が振り向いた先に、周りより頭一つ分高い和泉の横顔が見えた。
 
 琴音が実物の和泉を前にしてソワソワと可愛らしい様子を見せている。
 そこへ、ヒロが「何してんのー?」と声をかけてきた。琴音がすかさず「ランチしてるの! 一緒に食べる?」と言葉を返す。 
 麗華が難色を示して静止を促すが、琴音は「和泉とじかに話すチャンスなの! 今だけ協力して!」と小声で制す。
 彼らの方もなにやら言い合っていたが、結局戸塚とヒロだけやって来た。
 
「あーぁ、行っちゃった。せめて和泉だけは連れてきて欲しかったなぁ」
 琴音があからさまに残念がると戸塚が苦笑する。
「そんなことしたら、あいつらが全員きちゃうだろ。そうなったら琴音、麗華に殺されちゃうけどいいの?」
 
 言葉通り、横では麗華が冷たいオーラを放っていた。琴音は肩をすくめて、ごめんと口だけの謝罪をする。そしてすぐ切り替えたのか、 
「あ! この二人ならどう?」
 と、亜姫に聞いた。 
「何の話?」 
「亜姫の好きなタイプを聞いてるの」
 その言葉に、二人は身を乗り出した。
 
「どんなタイプが好きなのか、ちゃんと考えなって言ってるのに。亜姫ったら、考えても全然出てこないの」
「だってわかんないよ、そんなの。んーと、一緒にいると楽しい人?」
「亜姫は誰といても楽しんじゃうでしょ。参考にならないわよ、それじゃ」
 麗華が呆れた顔をする。
「あぁ、そっか……じゃあ、よく笑う人!!」
 亜姫が絞り出した答えに、琴音が即座に反応した。
「それなら、ヒロは?」
「はぁ? 俺?」
「だっていつ見ても楽しそうだし楽しませてくれそうだし、いつも笑ってるじゃん! 亜姫と雰囲気も合ってるし。付き合ってみたら? ヒロも彼女いないでしょ?」
「そこに、俺の意思はないのかよ……」 
 予想外の展開に若干焦るヒロ。そのボヤキを聞き流し、亜姫は彼をまじまじと見る。 
「……うん、ヒロは確かによく笑うね。いつも楽しそうだし」
「ほら! 本当に付き合ってみれば?」
「付き合うって、何をするの?」
「いつも一緒に過ごしたり、お互いの事を一番に考えたり……とか」 
 琴音の説明を亜姫はふむふむと真面目に聞く。
 
「うーん、私……いつも麗華が一緒だし、一番はまだおっぱいだから……ヒロは無理かなぁ」
「おいおい、何で俺がフラれたみたいになってんだ? しかも、おっぱいに負けるってどーゆーこと?」
 ヒロが苦笑する。 
「あ! わかった、好きなタイプ! 一緒におっぱいを共有出来る人!」
 亜姫がポンと手を合わせ、目を輝かせる。 
「男は皆、おっぱい大好物じゃん。条件にはならなくね?」
「違う! 私がプルプルおっぱいを手に入れられるように応援してくれる人!」
 力強く宣言する亜姫の胸元を、ヒロは無言で見つめた。
「あぁ、まぁ、頑張れよ……」
「あっ! 今、無理だって決めつけたでしょう!」
「決めつけてはいねーよ、思っただけで。それに、男は応援するより自分がおっぱいデカくしてやりたいって思うだろ」 
「なっ……へ、変態! おっぱいをいやらしく言わないで! もー、ヒロと付き合うなんて絶対無理!」
「じゃあ、戸塚は?」
 
 琴音の声に、亜姫は戸塚をジーッと見つめる。 

「んーと……口では応援してくれそうだけど、心の中ですごくバカにされそうだから嫌だなぁ」
「確かに! 亜姫、お前見る目あるわ!」
「なんだよそれ。それじゃあ、まるで俺の性格が悪いみたいじゃん」
 不満そうな戸塚の横で、ヒロが腹を抱えて爆笑する。 
「あ! じゃあ熊澤先輩は!?」 
 聞いた瞬間、亜姫の目がひときわ輝た。
「好き! 一緒にいて楽しい! 先輩はおっぱいも応援してくれるし!」
「マジかよ、さすがだな。でも、先輩も心の中では笑ってるかもよ?」 
 戸塚が意地悪そうに言うと、亜姫は首を振りながら嬉しそうに笑う。 
「ううん。笑ってはいたけど、普通に応援してくれたよ? 相当に険しい道のりだと思うけど一生懸命頑張れ、って」
「先輩も無理だって思ってんじゃねーか!」
「私の気持ちを尊重してくれるところがヒロとは違うもん。熊澤先輩、好き!」
 
 しかし、熊澤は理想の兄だという亜姫。
 好きなタイプは、おっぱいを応援してくれる楽しそうな人。
 結局、そう結論づけて話を終えた。
 
  
 
 ◇
「──だってさ。和泉。亜姫のおっぱい、応援してやれ。そしたら恋愛対象に入れるぞ」
「あと、笑える人がいいって。やっぱり、表情筋を鍛えた方がいいよ」
 ヒロ達が笑いながらアドバイスを送る。
「何だそれ。どうやって応援すんだよ……」
 和泉は呆れた。
 
 あれから、亜姫の話をされても普通に楽しむようになった。 
 自分がどうにもならない間に、あの子が誰かのものになってしまったら……その時はその時だ、自分の気持ちがそれで無くなるわけじゃない。
 肩の力が抜けた和泉は片想いを純粋に楽しんでいた。もちろん、それを知るのはヒロと戸塚だけだ。
 
「俺と戸塚はフラれた。俺はおっぱいに負けて、戸塚は性格悪そうだから駄目なんだって」
「おい、その言い方は誤解を招くからやめろ」
 二人の軽口にも、普通に笑える。
 
「さっき、和泉も一緒に来ればよかったのに。皆で寄っちゃえばわかんなかったんじゃない?」
「いや、あいつらがっついてたし……何しでかすかわかんないから、行かせるわけにはいかねーだろ。他の男を近づけるってのもな。それに、俺もさすがに会うのは無理……」
 自信無さげに小声で言った後、和泉はボソっと呟いた。
「やっぱり、先輩は特別なんだな」  
 沈む和泉にヒロは呆れた顔を向ける。 
「なに弱気になってんだよ。確かに特別かもしれないけど、亜姫は恋愛対象としては見てねーぞ? 先輩はお兄ちゃんだからナイって言ってたし」
「いつ好きになってもおかしくはねーだろ。先輩がいい男なのはよくわかってるじゃん。
 あれが相手だったら、今の俺じゃ絶対勝てねぇよ。あー、先が長げぇ……」
「和泉、随分素直になったなぁ。つーか、本当に変わったな」
 ヒロが目を細めて和泉を見る。
「そうか? 自分じゃあんまりわかんない。環境が変わって楽しくはなったけど」
「生活変えて随分経ったけど、全然ヤりたくならないの?」
「ならない」
「亜姫とは?」
「会いたい」
 
 ブハッと二人が噴き出した。 
「ヤりたい、じゃねーのかよ!」
「実物のあの子にそんなこと思えない」
「亜姫の事ばっか考えてるくせに」
「それとこれは別だし……」
「さっき一緒に来れば会えたのに」
「……無理」
「早く告白しろ」
「無理」
「恋愛童貞」
「うるせぇ」
 和泉はいつものようにちょっと不貞腐れる。
 
 その姿が二人には面白くて。三人で過ごしている時は、このように揶揄って遊ぶ。
 この先、和泉が亜姫と知り合える日が来ますように……と強く願いながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...