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高1
3月(1)
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昼休みの外庭。
ザワつく声に琴音が「あ」と声を上げ、会話が中断する。
今日はいい天気で、亜姫達は外でお昼を食べていた。その少し先に、ヒロ達の集団が通りかかったのだ。
亜姫が振り向いた先に、周りより頭一つ分高い和泉の横顔が見えた。
琴音が実物の和泉を前にしてソワソワと可愛らしい様子を見せている。
そこへ、ヒロが「何してんのー?」と声をかけてきた。琴音がすかさず「ランチしてるの! 一緒に食べる?」と言葉を返す。
麗華が難色を示して静止を促すが、琴音は「和泉と直に話すチャンスなの! 今だけ協力して!」と小声で制す。
彼らの方もなにやら言い合っていたが、結局戸塚とヒロだけやって来た。
「あーぁ、行っちゃった。せめて和泉だけは連れてきて欲しかったなぁ」
琴音があからさまに残念がると戸塚が苦笑する。
「そんなことしたら、あいつらが全員きちゃうだろ。そうなったら琴音、麗華に殺されちゃうけどいいの?」
言葉通り、横では麗華が冷たいオーラを放っていた。琴音は肩をすくめて、ごめんと口だけの謝罪をする。そしてすぐ切り替えたのか、
「あ! この二人ならどう?」
と、亜姫に聞いた。
「何の話?」
「亜姫の好きなタイプを聞いてるの」
その言葉に、二人は身を乗り出した。
「どんなタイプが好きなのか、ちゃんと考えなって言ってるのに。亜姫ったら、考えても全然出てこないの」
「だってわかんないよ、そんなの。んーと、一緒にいると楽しい人?」
「亜姫は誰といても楽しんじゃうでしょ。参考にならないわよ、それじゃ」
麗華が呆れた顔をする。
「あぁ、そっか……じゃあ、よく笑う人!!」
亜姫が絞り出した答えに、琴音が即座に反応した。
「それなら、ヒロは?」
「はぁ? 俺?」
「だっていつ見ても楽しそうだし楽しませてくれそうだし、いつも笑ってるじゃん! 亜姫と雰囲気も合ってるし。付き合ってみたら? ヒロも彼女いないでしょ?」
「そこに、俺の意思はないのかよ……」
予想外の展開に若干焦るヒロ。そのボヤキを聞き流し、亜姫は彼をまじまじと見る。
「……うん、ヒロは確かによく笑うね。いつも楽しそうだし」
「ほら! 本当に付き合ってみれば?」
「付き合うって、何をするの?」
「いつも一緒に過ごしたり、お互いの事を一番に考えたり……とか」
琴音の説明を亜姫はふむふむと真面目に聞く。
「うーん、私……いつも麗華が一緒だし、一番はまだおっぱいだから……ヒロは無理かなぁ」
「おいおい、何で俺がフラれたみたいになってんだ? しかも、おっぱいに負けるってどーゆーこと?」
ヒロが苦笑する。
「あ! わかった、好きなタイプ! 一緒におっぱいを共有出来る人!」
亜姫がポンと手を合わせ、目を輝かせる。
「男は皆、おっぱい大好物じゃん。条件にはならなくね?」
「違う! 私がプルプルおっぱいを手に入れられるように応援してくれる人!」
力強く宣言する亜姫の胸元を、ヒロは無言で見つめた。
「あぁ、まぁ、頑張れよ……」
「あっ! 今、無理だって決めつけたでしょう!」
「決めつけてはいねーよ、思っただけで。それに、男は応援するより自分がおっぱいデカくしてやりたいって思うだろ」
「なっ……へ、変態! おっぱいをいやらしく言わないで! もー、ヒロと付き合うなんて絶対無理!」
「じゃあ、戸塚は?」
琴音の声に、亜姫は戸塚をジーッと見つめる。
「んーと……口では応援してくれそうだけど、心の中ですごくバカにされそうだから嫌だなぁ」
「確かに! 亜姫、お前見る目あるわ!」
「なんだよそれ。それじゃあ、まるで俺の性格が悪いみたいじゃん」
不満そうな戸塚の横で、ヒロが腹を抱えて爆笑する。
「あ! じゃあ熊澤先輩は!?」
聞いた瞬間、亜姫の目がひときわ輝た。
「好き! 一緒にいて楽しい! 先輩はおっぱいも応援してくれるし!」
「マジかよ、さすがだな。でも、先輩も心の中では笑ってるかもよ?」
戸塚が意地悪そうに言うと、亜姫は首を振りながら嬉しそうに笑う。
「ううん。笑ってはいたけど、普通に応援してくれたよ? 相当に険しい道のりだと思うけど一生懸命頑張れ、って」
「先輩も無理だって思ってんじゃねーか!」
「私の気持ちを尊重してくれるところがヒロとは違うもん。熊澤先輩、好き!」
しかし、熊澤は理想の兄だという亜姫。
好きなタイプは、おっぱいを応援してくれる楽しそうな人。
結局、そう結論づけて話を終えた。
◇
「──だってさ。和泉。亜姫のおっぱい、応援してやれ。そしたら恋愛対象に入れるぞ」
「あと、笑える人がいいって。やっぱり、表情筋を鍛えた方がいいよ」
ヒロ達が笑いながらアドバイスを送る。
「何だそれ。どうやって応援すんだよ……」
和泉は呆れた。
あれから、亜姫の話をされても普通に楽しむようになった。
自分がどうにもならない間に、あの子が誰かのものになってしまったら……その時はその時だ、自分の気持ちがそれで無くなるわけじゃない。
肩の力が抜けた和泉は片想いを純粋に楽しんでいた。もちろん、それを知るのはヒロと戸塚だけだ。
「俺と戸塚はフラれた。俺はおっぱいに負けて、戸塚は性格悪そうだから駄目なんだって」
「おい、その言い方は誤解を招くからやめろ」
二人の軽口にも、普通に笑える。
「さっき、和泉も一緒に来ればよかったのに。皆で寄っちゃえばわかんなかったんじゃない?」
「いや、あいつらがっついてたし……何しでかすかわかんないから、行かせるわけにはいかねーだろ。他の男を近づけるってのもな。それに、俺もさすがに会うのは無理……」
自信無さげに小声で言った後、和泉はボソっと呟いた。
「やっぱり、先輩は特別なんだな」
沈む和泉にヒロは呆れた顔を向ける。
「なに弱気になってんだよ。確かに特別かもしれないけど、亜姫は恋愛対象としては見てねーぞ? 先輩はお兄ちゃんだからナイって言ってたし」
「いつ好きになってもおかしくはねーだろ。先輩がいい男なのはよくわかってるじゃん。
あれが相手だったら、今の俺じゃ絶対勝てねぇよ。あー、先が長げぇ……」
「和泉、随分素直になったなぁ。つーか、本当に変わったな」
ヒロが目を細めて和泉を見る。
「そうか? 自分じゃあんまりわかんない。環境が変わって楽しくはなったけど」
「生活変えて随分経ったけど、全然ヤりたくならないの?」
「ならない」
「亜姫とは?」
「会いたい」
ブハッと二人が噴き出した。
「ヤりたい、じゃねーのかよ!」
「実物のあの子にそんなこと思えない」
「亜姫の事ばっか考えてるくせに」
「それとこれは別だし……」
「さっき一緒に来れば会えたのに」
「……無理」
「早く告白しろ」
「無理」
「恋愛童貞」
「うるせぇ」
和泉はいつものようにちょっと不貞腐れる。
その姿が二人には面白くて。三人で過ごしている時は、このように揶揄って遊ぶ。
この先、和泉が亜姫と知り合える日が来ますように……と強く願いながら。
ザワつく声に琴音が「あ」と声を上げ、会話が中断する。
今日はいい天気で、亜姫達は外でお昼を食べていた。その少し先に、ヒロ達の集団が通りかかったのだ。
亜姫が振り向いた先に、周りより頭一つ分高い和泉の横顔が見えた。
琴音が実物の和泉を前にしてソワソワと可愛らしい様子を見せている。
そこへ、ヒロが「何してんのー?」と声をかけてきた。琴音がすかさず「ランチしてるの! 一緒に食べる?」と言葉を返す。
麗華が難色を示して静止を促すが、琴音は「和泉と直に話すチャンスなの! 今だけ協力して!」と小声で制す。
彼らの方もなにやら言い合っていたが、結局戸塚とヒロだけやって来た。
「あーぁ、行っちゃった。せめて和泉だけは連れてきて欲しかったなぁ」
琴音があからさまに残念がると戸塚が苦笑する。
「そんなことしたら、あいつらが全員きちゃうだろ。そうなったら琴音、麗華に殺されちゃうけどいいの?」
言葉通り、横では麗華が冷たいオーラを放っていた。琴音は肩をすくめて、ごめんと口だけの謝罪をする。そしてすぐ切り替えたのか、
「あ! この二人ならどう?」
と、亜姫に聞いた。
「何の話?」
「亜姫の好きなタイプを聞いてるの」
その言葉に、二人は身を乗り出した。
「どんなタイプが好きなのか、ちゃんと考えなって言ってるのに。亜姫ったら、考えても全然出てこないの」
「だってわかんないよ、そんなの。んーと、一緒にいると楽しい人?」
「亜姫は誰といても楽しんじゃうでしょ。参考にならないわよ、それじゃ」
麗華が呆れた顔をする。
「あぁ、そっか……じゃあ、よく笑う人!!」
亜姫が絞り出した答えに、琴音が即座に反応した。
「それなら、ヒロは?」
「はぁ? 俺?」
「だっていつ見ても楽しそうだし楽しませてくれそうだし、いつも笑ってるじゃん! 亜姫と雰囲気も合ってるし。付き合ってみたら? ヒロも彼女いないでしょ?」
「そこに、俺の意思はないのかよ……」
予想外の展開に若干焦るヒロ。そのボヤキを聞き流し、亜姫は彼をまじまじと見る。
「……うん、ヒロは確かによく笑うね。いつも楽しそうだし」
「ほら! 本当に付き合ってみれば?」
「付き合うって、何をするの?」
「いつも一緒に過ごしたり、お互いの事を一番に考えたり……とか」
琴音の説明を亜姫はふむふむと真面目に聞く。
「うーん、私……いつも麗華が一緒だし、一番はまだおっぱいだから……ヒロは無理かなぁ」
「おいおい、何で俺がフラれたみたいになってんだ? しかも、おっぱいに負けるってどーゆーこと?」
ヒロが苦笑する。
「あ! わかった、好きなタイプ! 一緒におっぱいを共有出来る人!」
亜姫がポンと手を合わせ、目を輝かせる。
「男は皆、おっぱい大好物じゃん。条件にはならなくね?」
「違う! 私がプルプルおっぱいを手に入れられるように応援してくれる人!」
力強く宣言する亜姫の胸元を、ヒロは無言で見つめた。
「あぁ、まぁ、頑張れよ……」
「あっ! 今、無理だって決めつけたでしょう!」
「決めつけてはいねーよ、思っただけで。それに、男は応援するより自分がおっぱいデカくしてやりたいって思うだろ」
「なっ……へ、変態! おっぱいをいやらしく言わないで! もー、ヒロと付き合うなんて絶対無理!」
「じゃあ、戸塚は?」
琴音の声に、亜姫は戸塚をジーッと見つめる。
「んーと……口では応援してくれそうだけど、心の中ですごくバカにされそうだから嫌だなぁ」
「確かに! 亜姫、お前見る目あるわ!」
「なんだよそれ。それじゃあ、まるで俺の性格が悪いみたいじゃん」
不満そうな戸塚の横で、ヒロが腹を抱えて爆笑する。
「あ! じゃあ熊澤先輩は!?」
聞いた瞬間、亜姫の目がひときわ輝た。
「好き! 一緒にいて楽しい! 先輩はおっぱいも応援してくれるし!」
「マジかよ、さすがだな。でも、先輩も心の中では笑ってるかもよ?」
戸塚が意地悪そうに言うと、亜姫は首を振りながら嬉しそうに笑う。
「ううん。笑ってはいたけど、普通に応援してくれたよ? 相当に険しい道のりだと思うけど一生懸命頑張れ、って」
「先輩も無理だって思ってんじゃねーか!」
「私の気持ちを尊重してくれるところがヒロとは違うもん。熊澤先輩、好き!」
しかし、熊澤は理想の兄だという亜姫。
好きなタイプは、おっぱいを応援してくれる楽しそうな人。
結局、そう結論づけて話を終えた。
◇
「──だってさ。和泉。亜姫のおっぱい、応援してやれ。そしたら恋愛対象に入れるぞ」
「あと、笑える人がいいって。やっぱり、表情筋を鍛えた方がいいよ」
ヒロ達が笑いながらアドバイスを送る。
「何だそれ。どうやって応援すんだよ……」
和泉は呆れた。
あれから、亜姫の話をされても普通に楽しむようになった。
自分がどうにもならない間に、あの子が誰かのものになってしまったら……その時はその時だ、自分の気持ちがそれで無くなるわけじゃない。
肩の力が抜けた和泉は片想いを純粋に楽しんでいた。もちろん、それを知るのはヒロと戸塚だけだ。
「俺と戸塚はフラれた。俺はおっぱいに負けて、戸塚は性格悪そうだから駄目なんだって」
「おい、その言い方は誤解を招くからやめろ」
二人の軽口にも、普通に笑える。
「さっき、和泉も一緒に来ればよかったのに。皆で寄っちゃえばわかんなかったんじゃない?」
「いや、あいつらがっついてたし……何しでかすかわかんないから、行かせるわけにはいかねーだろ。他の男を近づけるってのもな。それに、俺もさすがに会うのは無理……」
自信無さげに小声で言った後、和泉はボソっと呟いた。
「やっぱり、先輩は特別なんだな」
沈む和泉にヒロは呆れた顔を向ける。
「なに弱気になってんだよ。確かに特別かもしれないけど、亜姫は恋愛対象としては見てねーぞ? 先輩はお兄ちゃんだからナイって言ってたし」
「いつ好きになってもおかしくはねーだろ。先輩がいい男なのはよくわかってるじゃん。
あれが相手だったら、今の俺じゃ絶対勝てねぇよ。あー、先が長げぇ……」
「和泉、随分素直になったなぁ。つーか、本当に変わったな」
ヒロが目を細めて和泉を見る。
「そうか? 自分じゃあんまりわかんない。環境が変わって楽しくはなったけど」
「生活変えて随分経ったけど、全然ヤりたくならないの?」
「ならない」
「亜姫とは?」
「会いたい」
ブハッと二人が噴き出した。
「ヤりたい、じゃねーのかよ!」
「実物のあの子にそんなこと思えない」
「亜姫の事ばっか考えてるくせに」
「それとこれは別だし……」
「さっき一緒に来れば会えたのに」
「……無理」
「早く告白しろ」
「無理」
「恋愛童貞」
「うるせぇ」
和泉はいつものようにちょっと不貞腐れる。
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