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高1
1月(2)
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「ねぇ。和泉って、すっごくマジメなんだって」
携帯を眺める亜姫の前で、琴音がポツリと言った。
「マジメ?」
イズミとやらを表現するには似つかわしくない言葉。亜姫は携帯から手を離し、琴音を見た。
「うん、そう。これまで面倒くさがってた授業とかも、ちゃんと取り組むようになったらしい。やる気がなかっただけで実は何をさせても人より出来ちゃうんだよ、和泉って。
本当に、出来ない事なんて無いらしいよ。普通のスポーツはもちろん、格闘技とかも得意らしくて。もし和泉が本気で喧嘩したら、勝てる人はいないかもって。これは地元筋からの確かな情報。どうやら大人に混じって色々習ってるみたい。そこでもやっぱり目立ってたらしいけど」
そんなに沢山の才能を持ってるのに、笑える顔だけが手に入らなかったのかな。
亜姫は例のつまらなそうな顔を思い浮かべる。
「やっぱり、女で変わったのかしら?」
麗華が呟いた。
「あぁ、あの噂。結局、あれからどうなったんだろう?」
「なんもわかんなかった」
琴音が溜息をつく。
「外に女がいるんじゃないかって尾行した子もいたらしいけど、全然そんな感じはなかったらしい。最近じゃ男子が和泉とつるむようになって、ますます特定不能。そんな話は元から無かった、ってことになってる」
「最近は校内も落ち着いたわよね。一時期は毎日うるさかったし」
「彼を好きだった子達って今はどうしてるんだろう? あの光景が懐かしい」
この先、あれほど圧巻な光景を見られる日は来るだろうか。
亜姫はあの日見たプルプルおっぱいの群れを思い出していた。
「それがさ。イズミ人気、大爆発」
「へ?」
亜姫の頭を埋め尽くしていたおっぱいが、パチンと弾けて消えた。
琴音が言うには。
女と一切関わらなくなった和泉。日常生活は品行方正に。委員会活動など、やるべき仕事はサボらず黙々とこなす。
勉強も運動も万能。成績は総じて優秀。何をしててもやたらサマになる。
普段の無気力な様子からは想像できないが、脱ぐと鍛えられた体が現れる。運動中に時々見える腹筋や二の腕が、和泉の色気を増す要素となっている。
ただでさえ誰もが羨む美貌にそんなものが付随され、今やただのハイスペック男子。話す機会がほぼ無い、ということが更に稀有さを引き立てていると。
「相変わらず喋らないけど。必要最低限の関わりができるからって、同じ係になりたい子が続出してるらしいよ。今まで関わった子達も、本格的に狙い定めて再挑戦を狙ってる。今までみたいな正面突破は逆効果だから、密かに裏で動いてるんだって。
一番驚くのはさ、今まで軽蔑の目で見てた子達でさえ和泉に夢中なんだって」
「中身はヤりまくって女を雑に扱ってきた最低男のままなのに。皆、都合のいいイメージばかり押しつけて勝手よね」
麗華が冷たく言い放つ。
「麗華? どうしたの? 今日はなんだか厳しいね」
「どんな理由があれど、女を食い物にする男は嫌いなの。女を軽んじたり見た目で勝手に決め込む奴には碌なのがいないじゃない。そういうのに簡単に靡く女もそうだけど。そういう奴らに勝手なイメージ押し付けられて、こっちはいい迷惑だっていうのに。和泉なんて百害あって一利なしよ」
麗華は男性から不快を与えられることが多く、この手の話に出てくる人への嫌悪感がもともと強い。和泉の話にも厳しい見方をすることが多かった。
だが、普段の麗華なら頭ごなしに悪しざまに言ったりはしない。ここまで辛辣に言うのは非常に珍しかった。
「この騒ぎに乗じて、無関係の私も迷惑被ったのよ。噂の対象にあげられて鬱陶しいったらなかったわ」
どうやら亜姫の知らぬところで相当嫌な思いをしていたらしい。これまた珍しく、麗華はひどく怒っていた。
「何よ、亜姫だって同じことを思ったでしょ?」
麗華が言っているのは行為を見た日のことだろう。
そういえば、彼の顔を見たのはその時だ。
あの日の彼を心底軽蔑した筈なのに、あの衝撃的な行為ではなく彼の表情しか覚えていなかった。そのことに亜姫は初めて気づいた。
「そうだったね……でも私、イズミとやらのつまらなそうな顔しか覚えてなかったかも」
「顔?」
「うん。つまらなそうな、何の興味も無さそうな顔してるなと思ってて……。あんなことをしてるのに、目の前の女の人すら見えてないような……あの時は、それも含めて最低だと思ったんだけど」
すると、琴音が不思議そうに首を傾げる。
「顔の造りじゃなくて、表情ってこと? でも、和泉はいつも同じ顔じゃん。無表情。だけど超イケメン」
「うーん、見た目の話じゃなくて……そうだね、表情、なの、かなぁ? 琴音ちゃんから色んな話を聞いていたでしょう? その時いつも『またつまらなそうな顔してるのかな』って思ってて……」
「なにそれ? どーゆー意味?」
意味がわからないと言う琴音に、亜姫は困った笑みを返す。
「私もよくわからない。でも話を聞くと『今日もあの顔なのかな』って思っちゃうんだもん」
改めて言われてみると、何でそんなことを考えていたのか自分でもわからなかった。
「亜姫はいつでも、人生は楽しいもんだと思って生きてるからね。傍からみれば、あいつなんて楽しそうなことばっかりしてるように見えるじゃない。そんな状況下にいて全く笑わないなんて、想像したこともなかったから気になってるんじゃない? ほら、前も表情筋の話をしてたでしょ」
「あぁ、そうだったねぇ。あれから、少しは笑えるようになったのかな?」
「基本は変わらないらしいよ。でも男とつるんでる時、時々口の端が上がるようになったんだって。その少し微笑んだ顔がまたカッコイイらしくて、それを見たいと覗き見する子が増加中」
琴音の情報量にはつくづく感心してしまう。だがそれを聞いた亜姫の頭の中は、和泉のつまらなそうな顔で埋まっていた。
「へぇ……笑えるようになってきたんだ?」
ヒロ達がいるからだろうか。それとも笑う練習をしているのだろうか。
どちらにせよ今までよりは笑えるようになってきたんだと思うと、亜姫はちょっと嬉しくなった。
携帯を眺める亜姫の前で、琴音がポツリと言った。
「マジメ?」
イズミとやらを表現するには似つかわしくない言葉。亜姫は携帯から手を離し、琴音を見た。
「うん、そう。これまで面倒くさがってた授業とかも、ちゃんと取り組むようになったらしい。やる気がなかっただけで実は何をさせても人より出来ちゃうんだよ、和泉って。
本当に、出来ない事なんて無いらしいよ。普通のスポーツはもちろん、格闘技とかも得意らしくて。もし和泉が本気で喧嘩したら、勝てる人はいないかもって。これは地元筋からの確かな情報。どうやら大人に混じって色々習ってるみたい。そこでもやっぱり目立ってたらしいけど」
そんなに沢山の才能を持ってるのに、笑える顔だけが手に入らなかったのかな。
亜姫は例のつまらなそうな顔を思い浮かべる。
「やっぱり、女で変わったのかしら?」
麗華が呟いた。
「あぁ、あの噂。結局、あれからどうなったんだろう?」
「なんもわかんなかった」
琴音が溜息をつく。
「外に女がいるんじゃないかって尾行した子もいたらしいけど、全然そんな感じはなかったらしい。最近じゃ男子が和泉とつるむようになって、ますます特定不能。そんな話は元から無かった、ってことになってる」
「最近は校内も落ち着いたわよね。一時期は毎日うるさかったし」
「彼を好きだった子達って今はどうしてるんだろう? あの光景が懐かしい」
この先、あれほど圧巻な光景を見られる日は来るだろうか。
亜姫はあの日見たプルプルおっぱいの群れを思い出していた。
「それがさ。イズミ人気、大爆発」
「へ?」
亜姫の頭を埋め尽くしていたおっぱいが、パチンと弾けて消えた。
琴音が言うには。
女と一切関わらなくなった和泉。日常生活は品行方正に。委員会活動など、やるべき仕事はサボらず黙々とこなす。
勉強も運動も万能。成績は総じて優秀。何をしててもやたらサマになる。
普段の無気力な様子からは想像できないが、脱ぐと鍛えられた体が現れる。運動中に時々見える腹筋や二の腕が、和泉の色気を増す要素となっている。
ただでさえ誰もが羨む美貌にそんなものが付随され、今やただのハイスペック男子。話す機会がほぼ無い、ということが更に稀有さを引き立てていると。
「相変わらず喋らないけど。必要最低限の関わりができるからって、同じ係になりたい子が続出してるらしいよ。今まで関わった子達も、本格的に狙い定めて再挑戦を狙ってる。今までみたいな正面突破は逆効果だから、密かに裏で動いてるんだって。
一番驚くのはさ、今まで軽蔑の目で見てた子達でさえ和泉に夢中なんだって」
「中身はヤりまくって女を雑に扱ってきた最低男のままなのに。皆、都合のいいイメージばかり押しつけて勝手よね」
麗華が冷たく言い放つ。
「麗華? どうしたの? 今日はなんだか厳しいね」
「どんな理由があれど、女を食い物にする男は嫌いなの。女を軽んじたり見た目で勝手に決め込む奴には碌なのがいないじゃない。そういうのに簡単に靡く女もそうだけど。そういう奴らに勝手なイメージ押し付けられて、こっちはいい迷惑だっていうのに。和泉なんて百害あって一利なしよ」
麗華は男性から不快を与えられることが多く、この手の話に出てくる人への嫌悪感がもともと強い。和泉の話にも厳しい見方をすることが多かった。
だが、普段の麗華なら頭ごなしに悪しざまに言ったりはしない。ここまで辛辣に言うのは非常に珍しかった。
「この騒ぎに乗じて、無関係の私も迷惑被ったのよ。噂の対象にあげられて鬱陶しいったらなかったわ」
どうやら亜姫の知らぬところで相当嫌な思いをしていたらしい。これまた珍しく、麗華はひどく怒っていた。
「何よ、亜姫だって同じことを思ったでしょ?」
麗華が言っているのは行為を見た日のことだろう。
そういえば、彼の顔を見たのはその時だ。
あの日の彼を心底軽蔑した筈なのに、あの衝撃的な行為ではなく彼の表情しか覚えていなかった。そのことに亜姫は初めて気づいた。
「そうだったね……でも私、イズミとやらのつまらなそうな顔しか覚えてなかったかも」
「顔?」
「うん。つまらなそうな、何の興味も無さそうな顔してるなと思ってて……。あんなことをしてるのに、目の前の女の人すら見えてないような……あの時は、それも含めて最低だと思ったんだけど」
すると、琴音が不思議そうに首を傾げる。
「顔の造りじゃなくて、表情ってこと? でも、和泉はいつも同じ顔じゃん。無表情。だけど超イケメン」
「うーん、見た目の話じゃなくて……そうだね、表情、なの、かなぁ? 琴音ちゃんから色んな話を聞いていたでしょう? その時いつも『またつまらなそうな顔してるのかな』って思ってて……」
「なにそれ? どーゆー意味?」
意味がわからないと言う琴音に、亜姫は困った笑みを返す。
「私もよくわからない。でも話を聞くと『今日もあの顔なのかな』って思っちゃうんだもん」
改めて言われてみると、何でそんなことを考えていたのか自分でもわからなかった。
「亜姫はいつでも、人生は楽しいもんだと思って生きてるからね。傍からみれば、あいつなんて楽しそうなことばっかりしてるように見えるじゃない。そんな状況下にいて全く笑わないなんて、想像したこともなかったから気になってるんじゃない? ほら、前も表情筋の話をしてたでしょ」
「あぁ、そうだったねぇ。あれから、少しは笑えるようになったのかな?」
「基本は変わらないらしいよ。でも男とつるんでる時、時々口の端が上がるようになったんだって。その少し微笑んだ顔がまたカッコイイらしくて、それを見たいと覗き見する子が増加中」
琴音の情報量にはつくづく感心してしまう。だがそれを聞いた亜姫の頭の中は、和泉のつまらなそうな顔で埋まっていた。
「へぇ……笑えるようになってきたんだ?」
ヒロ達がいるからだろうか。それとも笑う練習をしているのだろうか。
どちらにせよ今までよりは笑えるようになってきたんだと思うと、亜姫はちょっと嬉しくなった。
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