5 / 364
高1
6月(2)
しおりを挟む
耳に入る卑猥な音。今日も同じ繰り返し。
和泉はうんざりしていた。
会話なんかしない。女が興奮すればするほど逆に冷める。これの何が楽しいのか。
目の前の女が誰かなんて知る気もない。この先視界に入らなければそれでいい。
ただ、それだけ。
しつこくつき纏われる鬱陶しさより、一度相手する方が楽だ。
たった一度をこんなに望む。その気持ちは、和泉には全く理解出来ないものだった。
しつこい女には慣れている。というか、諦めている。無視や否定は無駄なだけ。
近づく奴らも、遠巻きの不躾な視線も、好き勝手言われる事も。全て、どうでもいい。
毎日こんなんばっか。言葉も会話も要らねぇな、それに何の意味がある? 何もかも邪魔、面倒くさい、つまらない。
なんで生きてるのか……それこそ意味が分からない。
こんなの、誰としてても同じだろ。同じ行為、同じ光景。そもそも、子作り以外にセックスなんていらなくね?
和泉がとりとめのないことを考えていると、足音が聞こえてきた。何気なく入り口へと目を向ける。
すると、少し開いた扉……そこを通った女と目が合った。女、と言うより「女の子」という表現が合いそうな子。
その子は目を見開き、一瞬でトマトみたいに赤く染まった。だが、それは次第に軽蔑の表情へと変化する。
そして、「最低……」と呟きながらその子は立ち去った。
和泉は校内でしかシない。外に出てまで関わりたくないから。
望んだことは一度も無い。だが、仕方がないと遥か昔に諦めた。
二人きりの状況や誤解を与えるような行動なんてしない。面倒ごとは御免だ。
室内なら扉を少し開けておく。
屋外なら人に見られそうな場所で。
見られたくなければやらなきゃいい。それで女が去れば好都合──そんな奴、今までいなかったが。
今日の女は、見られたことに気づきもしなかった。
変わらぬ現実にますます生きる気をなくした。
────あ。
和泉は不意に思い出した。
あの子。前、校門に立ってた。
あの時は笑ってた。
今日は笑ってなかった。
……笑わないか、こんなの見たら。
そう思ったのは、ほんの一瞬。
和泉はいつものように、考えることを放棄した。
◇
「麗華……見た?」
「一瞬ね」
初めて見た。衝撃的すぎて言葉にならない。
なにあれ、何あれ、ナニアレ!! あんな所であんなこと!
だけど、男の人は冷たそうだった。いや、つまらなそう? どうでもいい……? その表現が一番合いそうな……
「亜姫!」
麗華の呼ぶ声にハッとする。
「大丈夫?」
「あっ……ごめん、ボーッとしちゃった」
「でしょうね、亜姫には刺激が強すぎるもの。……あれよ。例の、和泉魁夜」
あれが! イズミとやら!!
「あれが、オネダリしてまでしたいこと……?」
どう見ても、楽しそうには見えなかった。
女の人はあれがいいのかな。
でも、イズミとやらはそう思ってないような……?
オネダリで渋々だから? 本当は嫌だから?
でも、結局彼は受け入れてるわけで。
なら、相手に対してあの態度は失礼じゃない?
亜姫の口から低い声が漏れた。
「やっぱり、最低……」
和泉はうんざりしていた。
会話なんかしない。女が興奮すればするほど逆に冷める。これの何が楽しいのか。
目の前の女が誰かなんて知る気もない。この先視界に入らなければそれでいい。
ただ、それだけ。
しつこくつき纏われる鬱陶しさより、一度相手する方が楽だ。
たった一度をこんなに望む。その気持ちは、和泉には全く理解出来ないものだった。
しつこい女には慣れている。というか、諦めている。無視や否定は無駄なだけ。
近づく奴らも、遠巻きの不躾な視線も、好き勝手言われる事も。全て、どうでもいい。
毎日こんなんばっか。言葉も会話も要らねぇな、それに何の意味がある? 何もかも邪魔、面倒くさい、つまらない。
なんで生きてるのか……それこそ意味が分からない。
こんなの、誰としてても同じだろ。同じ行為、同じ光景。そもそも、子作り以外にセックスなんていらなくね?
和泉がとりとめのないことを考えていると、足音が聞こえてきた。何気なく入り口へと目を向ける。
すると、少し開いた扉……そこを通った女と目が合った。女、と言うより「女の子」という表現が合いそうな子。
その子は目を見開き、一瞬でトマトみたいに赤く染まった。だが、それは次第に軽蔑の表情へと変化する。
そして、「最低……」と呟きながらその子は立ち去った。
和泉は校内でしかシない。外に出てまで関わりたくないから。
望んだことは一度も無い。だが、仕方がないと遥か昔に諦めた。
二人きりの状況や誤解を与えるような行動なんてしない。面倒ごとは御免だ。
室内なら扉を少し開けておく。
屋外なら人に見られそうな場所で。
見られたくなければやらなきゃいい。それで女が去れば好都合──そんな奴、今までいなかったが。
今日の女は、見られたことに気づきもしなかった。
変わらぬ現実にますます生きる気をなくした。
────あ。
和泉は不意に思い出した。
あの子。前、校門に立ってた。
あの時は笑ってた。
今日は笑ってなかった。
……笑わないか、こんなの見たら。
そう思ったのは、ほんの一瞬。
和泉はいつものように、考えることを放棄した。
◇
「麗華……見た?」
「一瞬ね」
初めて見た。衝撃的すぎて言葉にならない。
なにあれ、何あれ、ナニアレ!! あんな所であんなこと!
だけど、男の人は冷たそうだった。いや、つまらなそう? どうでもいい……? その表現が一番合いそうな……
「亜姫!」
麗華の呼ぶ声にハッとする。
「大丈夫?」
「あっ……ごめん、ボーッとしちゃった」
「でしょうね、亜姫には刺激が強すぎるもの。……あれよ。例の、和泉魁夜」
あれが! イズミとやら!!
「あれが、オネダリしてまでしたいこと……?」
どう見ても、楽しそうには見えなかった。
女の人はあれがいいのかな。
でも、イズミとやらはそう思ってないような……?
オネダリで渋々だから? 本当は嫌だから?
でも、結局彼は受け入れてるわけで。
なら、相手に対してあの態度は失礼じゃない?
亜姫の口から低い声が漏れた。
「やっぱり、最低……」
12
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。




溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる