やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと

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本編

何か違うモノ

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「レオベルト様、お口開けて?…あーんっ」

前世では最悪の仲だった少年が、ケーキをグイグイと押し付けてくる。
ここまででもかなりケーキは食べているから食べすぎて気持ち悪いし、やっぱりアランは俺の中でトラウマなせいで、さらに気分が悪い。

どうしてアランは俺にこんなに接触してくるんだろうか、とぼんやりと考える。

前の時間軸でのアランは俺に怯えて目も合わせず、逃げ回って他の男に縋っていた。おれの記憶の中のアランはいつも弱々しくて、大勢の男達から守られている。
その度に俺は嫉妬してたな…しかも激しく。

今でもどうしてあんなにアランが好きだったのかよく分からない。どうも前の時間軸の俺は俺ではないような感覚がある。

あそこまでの愛憎を、何故一目見ただけで持ってしまったのか?元々そういう独占欲の強い性格だったのだろうか?
前世を思い出してからは、全くもってそんな感情を抱かないけど…今後、俺はまたあんな感情に苛まれる事もありえるのか?
そう考えると不安になってくる。

………考え事をしちゃったな…早くお断りの返事をしなくちゃ。

「アラン様、お気持ちはありがたいのですが、自分で食べますので……」

断りの返事を聞いた途端、アランの愛嬌のある笑顔が一瞬硬直した。

その表情をみて背筋が凍った。

本能的に怖いと感じる……

「……そう言わずに~!ほらほら食べて?」

しかしアランはすぐに表情を戻してニコニコと微笑んだ。
しかし、目だけはどこかドロリとしていて不気味だ。
アランの濁った青い瞳に射抜かれて、口を開けざるを得なくなる。

「そうそう、あ~んっ!

…おいし?レオベルト様」

「…はい、アラン様。」

味なんて分かるわけがない。

アランに若干の恐怖を覚える。
目の端にチラチラと見えるクレープも、余計に俺の恐怖心を煽る。

アランは俺の何を知っているんだ?
クレープを知っているという事は、俺に前世の記憶がある事は知っているのか?

…分からない。

「なぁに?そんなに見つめて…レオベルト様、僕の事気になる?」


気にならないわけが無い。
アランは何か、今までのアランとは違うような気がする。禍々しい雰囲気が不定期に現れるのは何故なのだろう。

俺の中身が変わったから?バグでも生じているのだろうか。
だって、さっきまで不穏な雰囲気だった目の前のアランはもうすっかり元通りの澄んだ瞳をしていて、爽やかな微笑みはヒロインとして申し分ない程輝いている。
あまりの落差にバグが発生したとしか思えない。

きっと俺というイレギュラーな存在が、この世界に何か影響してしまっているんだろう。

「しげしげと見てしまって申し訳ありません。不愉快でしたよね。」

気を取り直そう。
今、このバクに対処する事はできない。まずはこのお茶会を乗り切って、家でゆっくりバグについて考えればいい。

「えぇ、なんで?もっと見てもいいのに!」

「お優しいんですね。」

「ほぁ、レオベルト様が褒めてくれた…嬉しい!

…んぅ~、でもでも!僕が優しくしたいって思うのは…その……レオベルト様だけ、だから。」

薄く色づく頬、潤んだ瞳に蕩けた視線。
アランのその表情は、攻略対象達だけに向けられるはずだったのに、こんな悪役野郎に向けてしまうとは。バグというものは恐ろしい。

「ありがとうございます。…そろそろうちの馬車が迎えにきますので、ここで失礼しますね。」

「えぇ~!もう?」

「はい、あっという間でしたね。」

「あっという間すぎるよ~…レオベルト様と一緒だと、楽しくてすぐに終わっちゃうね…」

「そう言っていただけて光栄です。」

お茶会の時間を2時間程度に設定しておいて良かった。
地獄とも言えるお茶会だったが収穫はあった。

俺というイレギュラーな存在によって、アランになんらかのバグが発生している事。そのバグのせいでアランは俺に友好的で、そして知らないはずの事も知っている。


納得のいく答えに満足し、俺はゆっくりと席を立つ。

「僕、出口まで送るね!」

「あ…ありがとうございます。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「レオベルト様の馬車はあれ?」

「はい。」

「レオベルト様の家の紋章、すっごく綺麗だよね!僕だぁいすき!」

確かに立派な紋章ではある。家の実情を鑑みれば、外ヅラだけはやたらいいハリボテにも見えるが。

「ありがとうございます。」

「中には誰かいるの??」

「従者のハルが乗っております。」

「あ~……あの子、ねぇ。」

ハルの話をした途端、アランの目からハイライトが消えた。
…ハルが精霊とのハーフだから、警戒心でもあるのだろうか?

人ならざる力を持つハルを警戒する人は前の時間軸にも沢山いた。そういう人は、身分の違いから抵抗できないハルを攻撃していじめていた。
それを見かける度に、前の時間軸の俺はイラついてソイツらを追い払ってたな…アランはそういう差別的な事はしないと思っていたが違うのだろうか?

純粋無垢のヒロインであってもそういう事は起きてしまうのか…と少し寂しい気分になる。

「…レオベルト様はその子が大事??」

アランの目が据わっていて、その雰囲気に押される。

「は、はい。もちろんです。」

「へぇ?そうなんだぁ…?

でもね、僕はレオベルト様の事、その子よりも知ってるよ。嘘じゃない。この言葉通り、僕はレオベルト様の事、この世界の誰よりも知ってるし、誰よりも…だいすき、なんだから、ねっ?」

アランのこの笑みも、雰囲気も、何かバグでは説明できない何かがあるように思えてくる。



━━━バグだけじゃないんじゃないか?




俺の直感はそう告げている。

直感は自分を納得させた答えから離れていく。

冷や汗が止まらない。

俺は怖くなって逃げるようにその場を離れた。後ろからアランが何かを小さくつぶやいていたが、耳には入ってこず、すばやく馬車に乗り込んだ。


「おかえりなさいませ、レオベルト様。」

あったかくて、柔らかなハルの声がする。
その声を聞くと、恐怖心がすこし落ち着いた。

「……うん、ただいま。」

「お疲れの様子ですね。帰ったらレオベルト様のお好きなホットチョコレートを作りますね!」

ふんわりとした笑顔のハルをみて、力んだ体の緊張が解けていく。

「ふふ、ありがと。ハルの声聞いてたらなんだか落ち着いてきたよ。」

「え、あ、そ、そうですか…?」

少し照れているハルを見ながら、俺は今日の出来後を振り返った。

この世界には存在しないクレープを出したアラン。
前の時間軸とは明らかに違う禍々しい雰囲気。
やたら好意的だけど、ハルには警戒心を持っている。


その全てが「アランらしくない」と言える。
バグとしか思えないけど……

何故か単純なバグには思えない。



地獄のお茶会は俺に疑問をもたらしたまま幕を閉じた。


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