やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと

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本編

死亡フラグを折りたい

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とても見慣れたデカい門。

前の時間軸はここに来る度に胸が高鳴ってドキドキしていたが、今の俺は違う意味でドキドキしている。

とにかく、死亡フラグのアランや王太子とは最低限の接触で乗り切りたい……!!

あと、前の時間軸では1人もできなかった友達を作ってみたいとか思ったり……いや、贅沢な願いだな、うん。
まずは死亡フラグちゃん達を避ける事に集中しよう。

馬車を降りる寸前にハルは口を開いた。

「レオベルト様、メロヴィング家と我がエンフィア家が仲が良いのはご存知ですよね?」

嫌って程ご存知だっての。

「あぁ。」

「その…ご子息のアラン様と、どうか、どうか……」

揉め事を起こさないでくれって事だよな?

「大丈夫。俺は心を入れ替えたし、面倒な事は起こさない。」

「あ、その……」

「…遠慮しないで。俺なんかに言葉を選ぼうとしなくていいから。」

「レオベルト様…?今日は一体何が」

「もうそろそろ降りないと。行こう、ハル。」

「あ……はい。」

ハルが言いたい事は分かる。昨日まで我儘で癇癪持ちで、気に障るようなことは何も言えなかったのに、今日はどうしたんだってな。

今日からの中身は死亡フラグに怯えるアラサーだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「エンフィア侯爵家より、レオベルト・エンフィア様のご入場です。」

「暗いって有名のレオベルト?」

「うわ、ホントに来たのかよ。」

「レオベルト様も呼ぶなんて、アラン様ってばとーってもお優しいのね。」

「バカ、家同士が仲がいいから仕方ないんでしょ。きっとブサイクに違いな……」

陰湿極まりない貴族達の悪口だが、3歳~7歳の言うことだ、まだ可愛い。と言い聞かせながら足を踏み出す。

騒がしかった会場は静まり返った。

さっきまで好き勝手言ってくれた奴らは俺の顔を見るだけで黙り込み、そして顔を赤くして見惚れている。

前の時間軸では有り得ないことだ。なんせ髪ボサボサのアブナイ雰囲気だったからな。今の俺は絶世の美少年である。

居心地の悪い視線を振り払ってズンズンと進み、主催者であるアランの元へ向かう。正直冷や汗が止まらない。
……が、この挨拶さえ乗り切ればいいんだ、頑張れ俺!

そして、人の垣根を越えていくと、前の時間軸で狂う程愛していたアランがついに目の前に現れた。

濡れた黒曜石のような黒髪に、明るい青い大きな瞳。人に好かれそうな顔立ちの、疑いようもない美少年。

心臓が痛いくらいに脈を打つ。
…前の時間軸とは違う拍動だ。

これは、『恐怖』だ。

アランの顔を見ると皆から蔑まれ、親から無視され、味方は自分たった1人の中、断頭台に立たされた、あの曇天の日を思い出す。

アランをみて恋に狂うどころか恐怖に狂いそうだ。

…とにかく早く挨拶しよう。

「…アラン・メロヴィング様にご挨拶申し上げます。エンフィア家のレオベルト・エンフィアでございます。今日はこの様な素敵なお茶会にお招き頂けた事感謝しております。」

隣でハルはビックリしている。まさに鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だ。
作法は完璧だろ?

「…レオベルト様はとっても礼儀正しいんですねっ!だけど、そこまで固くならないで下さい。僕はレオベルト様とお友達になりたいんですから!」

…流石モテモテヒロインだな。
明るくてキラキラしててポジティブ。一言一句が可愛らしいし。笑った顔は天使にも見える。

しかし俺にとっては死亡フラグが笑顔で追いかけて来ている気分だ。

お友達にすらなりたくない。

というかアランだって、悪目立ちしている俺と関わりたくないだろうに。家が仲が良いって大変なんだな。

「光栄です、アラン様。それでは。」

「えっ、あ……」

俺はそそくさと立ち去った。
それはもうゴキブリのようにカサカサと。

アランを見ていると、考えないようにしても前の時間軸を思い出して吐き気がする。

これ俺王太子見たらどうなんの…?

と、思った矢先に最大の死亡フラグが目の前に現れた。

その死亡フラグの名は、王太子のイデア・ワール・アンテルラント。

白に近い金髪に、大きくて形のいい紫の瞳。全体的に気だるげで何を考えているか分からない感じ…。

……あー、無理無理しんどい吐き気MAXなんだけど。

もちろん前の時間軸の俺が100悪いんだから、王太子を不快に思うのはお門違いなんだけど、あの暗い王の間で、心底憎いという顔で、歪んだ笑みを浮かべながら処刑宣告をした王太子が鮮明に浮かび上がる。

逃げたくてプルプルしてきた足を叱責し、挨拶する。

「若き王国の太陽にご挨拶申し上げます。エンフィア家のレオベルト・エンフィアと申します。今日のような素晴らしき日にお会い出来たこと、光栄に思います。」

ハルが敬意のお辞儀をしながらもまた驚いているのが見えた。

「わぁご丁寧にありがとう。
ふふっ、エンフィア家のご子息は随分と荒れた噂を聞いていたけど…違ったのかな?」

彫刻のように美しい顔が優しく微笑んでいる。俺の挨拶に驚いて顔を白黒させていた周りの人達も、ほぅっと見とれている。

しかし、俺には分かる。

この滲み出る俺を馬鹿にしたような上から目線のオーラ。
前の時間軸、俺は、王太子の揚げ足取りの為に、ずっと王太子に張り付いていたせいで、不本意だが恋人であるアランよりもこいつの表情から感情を読み取れていた。

そしてこれは、俺が荒れていると皆言っているよ~という事を遠回しに言うことで、挑発しているのだ。

……俺が癇癪を起こすとでも?

「いえ、噂通り僕は今まで沢山の人に迷惑を掛けてきました。しかし、こんな不甲斐ない自分を支えてくれる家族や、僕の執事のハルのためにこのままでは駄目だと思った次第でごさいます。」

この言葉を聞いたハルがビックリして耳まで赤くしている横で、俺は完璧な笑顔を披露してやった。

前の時間軸で、アランに爽やかな笑顔を見せたいという理由で毎日自分の盛れる笑顔を練習していた……というキモすぎる努力の賜物をまさか王太子に披露するとは。
人生は何が起こるか分からないな。

「…そう。その心持ちがいつまで続くか楽しみだね。」

王太子は意外にもさっさと立ち去って行った。

なんだ?俺に冷静な態度を取られると思ってなくて面食らったか?にしても、ここまであっさりだと逆に気味悪いな。
……まぁいいか。今後極力関わらないならなんでもいい。

今日のミッションは終わったし、適当にケーキでも食べて帰るかな。

「ハル、顔真っ赤。」

「レオベルト様が私の名前を出すのでビックリして…」

「あ、嫌だった?ごめんね?」

「いえ!そういう訳じゃないです…う、嬉しいです。」

ハルは顔整ってるから赤くなってる顔を両手で挟み込んで困ってるのもめっちゃ絵になるな……イケメン羨ましいと思ったが、今は俺もイケメンなのか。

「そう?良かった。じゃあケーキでも食べようよ。めっちゃ美味そう!」

「お取り分け致します。」

「ええ~いいよ、自分でやるからハルも好きな物食べなよ。」

「私はレオベルト様の専属執事なので、そのような事は…」

「いやいや、いいからいいから……」

とワチャワチャしていると、後ろからちょんちょん、と控えめに背中をつつかれた。

後ろを振り返るとそこに

「…ぼ、くも。一緒に食べたいです。」




俺の死亡フラグ、アランが立っていた。
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