親友にだけは恋をしない ~卯月ユウキは艶っぽい~

綾菜

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1話 このトキメキは友情だ

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俺には親友がいる。
そいつはとてつもなく良いやつなんだ。

親譲りの悪人顔が原因で俺は友達ひとり出来なかった。先生でさえビクビクするほどだ。

小学生の頃に公園で泣いているとあいつが「友達になろう」と言ってくれた。

それからは寂しいと思ったことは一度もない。
ずっと一緒にいたし、怖がる人がいたらどんなに俺が無害か説明してくれた。
あいつは俺のヒーローだ。

だから俺も卯月ユウキの親友として誇らしいオトコであろう。

「んっ。すまないアクト、ふう」

「……き、気にするな」

だと言うのに俺、亀島アクトという奴は。
満員電車にユウキとほぼ密着している状況にドギマギしている。顔が熱い。

高校生になり美少年であったユウキは当然の如く美青年になった。白馬の王子様ってのがしっくりくる。
しかも学力もスポーツもトップレベル。

……それにしてもあまりに綺麗になりすぎた。
女性はもちろん男性ファンも多い。
すらっとした脚、程良い肉付き、少年のような声色。
なにより仕草すべてがつやっぽい。

今だって伸びてきた黒髪を細長い指で耳にかける。
すげぇ、エロい。
それに釘付けになっていた俺と視線が合うと微笑んでから、少し恥ずかしくなったのか視線を外した。
すげぇ、可愛い。

「また混んできた。もう少し、近づいていい?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

一歩半ほど近づこうとしたユウキだったが、ガタンッと電車が揺れると体勢を崩す。

ぐいっ。


「「───……」」


まずい。
助けようとしたら、抱き寄せてしまった。
ユウキの顔は俺の大胸筋に埋まる。
どんな表情をしているだろうか。
黙ってるしまさか怒ってる?

気まずくて動けない。
それにしても身体が細い、これ以上強く抱いたら折れてしまうんじゃなかろうか。

ドキドキドキッ。

「なあ」

鼓動の音を聞かれてしまったか⁉︎
いや違うんだ!これは決して───

「アクト、男の子のにおいがする」

「すまない!クサいか⁉︎」

なんてことだ、毎日欠かさずお風呂に入っているのに……そう言えば高校に行く前に1時間ほど筋トレを。

大胸筋から顔を出した。
怒ってはいなそうだ。

すんすんっ。

「ちょっ!やめっ」

俺のにおいを嗅ぐユウキ。
「クサいか⁉︎」はしっかり嗅いで感想くれって意味じゃないっ!


「ううん、僕は好きだよ。アクトの匂い」


「……………………………………………………………………………そうか」

ドキっ。
これは決してそれではない。
これは〝友情のトキメキ〟だ。

俺は絶対にしない。
どんなに心が揺らいでも親友にだけは恋をしないッ‼︎

「僕はどう?」

うなじを見せるユウキ。
嗅げと言うのか⁉︎

……いや、これは単に男子同士の体臭チェックだ。
なにを意識することがある?

すんすんっ。

「あはは、好き?」

「ああ……好きだ」

花畑の匂いがした。
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