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6日前④

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その夜。

私は神様2人の祠に向かっていた。

お酒とお水、お米と塩。
それと、私の夕食も兼ねて焼き鳥も買ってきた。
2人と一緒に食べるつもりだ。


記憶の中では細いなりに整った林道だったが、手入れをされていなかったその道はほとんど獣道になっていた。

だが、今の私には倉庫があるので、行手を遮る雑草や竹などは、全部収納して歩きやすくしていく。

大きな手をイメージして、素早く掴み取るイメージだ。

初めは腕一本で掴み取って1回1回目を閉じて確認していたが、段々とまばたきついでに倉庫を確認する程度で良くなってきた。
それに、感覚的にでしかないが、2本の腕を自分の腕のように使えるようになっている感じがする。




(便利だ…。)



便利だし、歩きながら連続して収納することで、祠に着く頃には今までより素早く正確に収納できるようになった。

やっぱり反復練習って実践でやるのが1番なんだね。



さて。
かくして無事に祠に着いた私は、愕然とした。

小さな祠は、壊れてはいないものの三分の一は落ち葉にうもれ、三分の一は蔦に巻き付かれ、ほとんど見えなくなっていた。

(こ…これじゃ2人が怒って当たり前だよ…)

蔦や落ち葉など大きな物はすぐに収納で取り除く。

出てきた屋根や壁も緑色の苔に覆われていたので、その辺の落ち葉を纏めてゴシゴシ擦って落とす。
流石にこういう細かい作業は倉庫の腕じゃできないからね。


幸い扉は壊れていないようだったが、動かしたら壊れそうだ。
恐る恐る、ゆっくりと開ける。




中は意外なことに綺麗なものだった。


何か白っぽい石のようなものが2つと、昔両親やばあちゃんと来た時にお供えしたであろうお酒やお米などが静かに置いてある。


持ってきたビニール袋に古いお供物を片付けて、新しいものに変える。

そして、パンパンと手を打って礼。

うろ覚えの作法だけど、気持ちは込めているから大丈夫だ。
敬う気持ちが1番大事だって、ばあちゃんも言っていた。



すると。


『やっと来た~!』
『遅いよ。』


祠の上に2人が座っていた。


話したい事は沢山あるが、とりあえず私は焼き鳥の入ったビニール袋を掲げ、2人を食事に誘う。 


「焼き鳥、食べない?」

『『食べる!』』


久々のお供え物に、2人は目を輝かせてシッポをブンブン振った。

可愛い…。







「あのさ…ごめんね。」

美味しそうに焼き鳥をほおばる2人に、私は早速謝った。

『『?』』

2人は不思議そうだったが
今日来たのは、改めて感謝と、退職に向けて荒っぽいこと(倉庫への誘拐)にも力を使うと決めた決意表明と、何より力不足で血生臭い事件を起こしてしまったことを謝罪するためなのだ。

神様からもらった倉庫に血まみれの頭皮をしまうなんて絶対良くなかったし、最悪祟られるんじゃないかと思ってね…。




「行方不明にするのは気が引けて、なんとなく髪の毛だけしまえるんじゃないかと思ったら失敗しちゃってさ。
せっかく神様からもらった倉庫、汚しちゃってほんとごめん…。

次からはね、ちゃんとどうなってもいい!って気持ちで交渉してさ。
どうしても退職受理できないって言う上司とか、万が一うちに危害を加えてきそうな人とかが居たら!しばらく閉じ込める用に使おうと思うんだよね。

ここに来るまでに使い方もだいぶうまくなったし、次は失敗しないと思う。

許してくれる?」



んぐんぐと焼き鳥を飲み込む2人に向けて頭を下げる。
(これには「祟らないでくれる?」という意味も込められている。)


祟られるとどうなるのか具体的なイメージを持っていないけど、当然良くない事が怒るんだろうな、と思うと頭を上げるのが怖い。


でも、2人から返ってきたのは意外なことに面白くてたまらないとでも言いたげな笑い声だった。


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