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英雄、冒険者になる
5:英雄、ギルドタグをもらう
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試験が終わった後、合格者は別室に呼ばれて冒険者についての説明を受けた。
冒険者の基本的なルールとギルド発足の正確な経緯。後はランク制度と罰則について。
傭兵として暴力など見過ごされていたことが許されなくなるが、治安維持の為仕方ないことだ。むしろ、傭兵が冒険者になることで得られるメリットのほうが大きい。受験者の中には戦後家族の都合で傭兵を辞めて復帰している者もいるようで、説明を聞いてホッとしているものもいた。
説明も終わってあとは順番に呼ばれた者から本人証明書であるギルドタグを受け取って終わりだ。
試験が終わって和やかな空気が流れる。
「よう、嬢ちゃん」
元鍛冶屋の男もどうやら合格したようだ。
静かに待っていた私に声をかけてくる。
「剣を見せてくれねぇか。ここらへんでは珍しい剣を使っているよな」
騎士にとって剣は命と同等である。魔法士にとっての杖と同じ。
たとえギルドルールによって抜刀が禁じられているとはいえ、剣を預けることはできるだけしたくない。
グッと私は剣の柄を握る手に力を込めた。
王族から剣を賜って初めて騎士と呼べるようになる。
特に魔法士としても活動していた私は殿下のお側を警護する上で特別だった。
無言でいる私に、元鍛冶屋の男は何かを悟ったらしい。
「珍しいもんだから、仕方ねぇか。それ、マギサ鉱石で鍛造した剣だろ」
「そのとおりです」
元鍛冶屋の男に私は頷いた。
マギサ鉱石。研磨すればマギアとよばれる透明な宝石になる。
私の剣は剣として作られたとはいえ、元の鉱石の特色が大きくでて透明度が高い。
剣を作るには大きく分けて2種類の方法が存在する。
溶かした鉱石を型に流し込む鋳造と鉱石を熱して叩き伸ばす鍛造。
勿論、この他にも方法は様々であるが、主流であるのはこの2種類に違いない。
私の剣はその鉱石の特殊性によって鋳造は出来ない。
基本は鍛造で作られているが、ただ叩いて伸ばした訳ではなく特別な技法が中には込められている。
「マギサ鉱石は基本マギアにして杖にはめ込むのが一般的だが、剣にするのはべらぼうにやべぇくらいの技量が必要なやつだ。それこそ、宝剣レベルじゃないか」
「言い得て妙ですね。初めて手にした時、周囲には儀礼剣だと言われた程です」
特殊な技法、そして技能を必要とするマギサ鉱石の鍛造。
しかし、剣にしたところで見た目の美しさだけが先走るため、儀礼剣と周りの騎士達からは笑われた。
レヒト様から下賜された剣を侮辱されたので訓練で叩きのめしたものの、そうする必要がないほどに、この剣は私を導いてくれた。
「確かに普通の剣よりは脆いが、儀礼剣が金剛級と何度も打ち合えるもんか。その剣の真価は、ただの剣ということじゃない」
その先を口走ろうとした元鍛冶屋の男を手で制す。
誰もこんな人目のつく場所で自分の手を晒したくはないだろう。
自身が語ることに熱くなっていた自覚はあったらしく、元鍛冶屋の男はバツが悪そうにする。
「すまねぇ。つい熱くなっちまってよ」
「武器がお好きなんですね」
初めて会ったときはそこいらにいるチンピラにしか感じなかったが、こうして話してみるとただ不器用な職人といった感想だ。好きなことほど饒舌になり、その目はきらきらとしている。
私の言葉に顔を赤くしながら、タイミング良く彼の名前が呼ばれた。
「おっと、それじゃあな。……俺の名前はアラッドだ。仕事で一緒になったらよろしく」
「私はイアと申します。また」
お互いに名乗り合って別れた。
同じ日に冒険者になったのだ。
仕事や冒険者ギルド内で会うことも多いだろう。
最後に近くなると私の名前が呼ばれて、冒険者の中で一番低い鉄級の冒険者タグをもらった。
冒険者にもランクが存在する。
そのランクによって受注できる依頼が異なっており、実力や人格がランクに大きな影響を及ぼすようだ。
実力が伴わない依頼を受注しないように、冒険者でいる限り危険は付きまとうが、死者がなるべく出ないように様々な配慮がおこなれている証拠である。
鉄級は冒険者ランクの中でも一番低く、町中の依頼を受けられる冒険者の駆け出し。
町の中で依頼をこなして、住民と関係を結ぶ下積みランクだ。冒険者であるということで身分の保証もされ、いい評価であればそれだけランクも早くなる。そういうことで頑張ってやる者も多くいる為、冒険者は住民にとって受け入れが早いのだろう。
そうして下積みを終えたら次は銅級。町周辺の外までの依頼をこなすことができる。
町中よりは危険度は高いものの、町と近いために討伐依頼も少ない。基本的には薬草採取等の依頼になってくる。同じ銅級の先輩に教わって薬草を採りすぎない方法を学ぶ。これは遠方に採取に行ったときもその地域の人に迷惑をかけないようにする為の基礎だ。先輩もギルドから出る依頼で教えるものがあるので報酬が出る。先輩後輩共に利益がある行為だ。
そうした下積み時代を終えて、銀級へと上がる。
多くの冒険者はこの階級に留まっているそうで、このランクになると駆け出しを脱出した証明になるらしい。
このくらいになるとパーティで護衛依頼を受けたり、依頼の幅もかなり広がる。人数が多いということはそれだけ実力も上下の差も大きいようだ。
実績によって黄金級に上がれば一流。
一人で魔竜を倒せる実力を持つ金剛級。
そして冒険者の最高峰マスター級と、冒険者のランクは分かれている。
目指すなら勿論マスター級なのだろうが、黄金級からは貴族の指名依頼も存在するらしい。その中には勿論騎士としての私を知っている人もいるだろう。
辺境伯より上の爵位を持つ冒険者なんて扱いづらいことこの上ない。
双方のためにも銀級で留めておくのが無難と言ったところか。
「次、イアさん」
名前を呼ばれて私も立ち上がる。
目出度くギルドタグを貰って、私は家路についたのだった。
冒険者の基本的なルールとギルド発足の正確な経緯。後はランク制度と罰則について。
傭兵として暴力など見過ごされていたことが許されなくなるが、治安維持の為仕方ないことだ。むしろ、傭兵が冒険者になることで得られるメリットのほうが大きい。受験者の中には戦後家族の都合で傭兵を辞めて復帰している者もいるようで、説明を聞いてホッとしているものもいた。
説明も終わってあとは順番に呼ばれた者から本人証明書であるギルドタグを受け取って終わりだ。
試験が終わって和やかな空気が流れる。
「よう、嬢ちゃん」
元鍛冶屋の男もどうやら合格したようだ。
静かに待っていた私に声をかけてくる。
「剣を見せてくれねぇか。ここらへんでは珍しい剣を使っているよな」
騎士にとって剣は命と同等である。魔法士にとっての杖と同じ。
たとえギルドルールによって抜刀が禁じられているとはいえ、剣を預けることはできるだけしたくない。
グッと私は剣の柄を握る手に力を込めた。
王族から剣を賜って初めて騎士と呼べるようになる。
特に魔法士としても活動していた私は殿下のお側を警護する上で特別だった。
無言でいる私に、元鍛冶屋の男は何かを悟ったらしい。
「珍しいもんだから、仕方ねぇか。それ、マギサ鉱石で鍛造した剣だろ」
「そのとおりです」
元鍛冶屋の男に私は頷いた。
マギサ鉱石。研磨すればマギアとよばれる透明な宝石になる。
私の剣は剣として作られたとはいえ、元の鉱石の特色が大きくでて透明度が高い。
剣を作るには大きく分けて2種類の方法が存在する。
溶かした鉱石を型に流し込む鋳造と鉱石を熱して叩き伸ばす鍛造。
勿論、この他にも方法は様々であるが、主流であるのはこの2種類に違いない。
私の剣はその鉱石の特殊性によって鋳造は出来ない。
基本は鍛造で作られているが、ただ叩いて伸ばした訳ではなく特別な技法が中には込められている。
「マギサ鉱石は基本マギアにして杖にはめ込むのが一般的だが、剣にするのはべらぼうにやべぇくらいの技量が必要なやつだ。それこそ、宝剣レベルじゃないか」
「言い得て妙ですね。初めて手にした時、周囲には儀礼剣だと言われた程です」
特殊な技法、そして技能を必要とするマギサ鉱石の鍛造。
しかし、剣にしたところで見た目の美しさだけが先走るため、儀礼剣と周りの騎士達からは笑われた。
レヒト様から下賜された剣を侮辱されたので訓練で叩きのめしたものの、そうする必要がないほどに、この剣は私を導いてくれた。
「確かに普通の剣よりは脆いが、儀礼剣が金剛級と何度も打ち合えるもんか。その剣の真価は、ただの剣ということじゃない」
その先を口走ろうとした元鍛冶屋の男を手で制す。
誰もこんな人目のつく場所で自分の手を晒したくはないだろう。
自身が語ることに熱くなっていた自覚はあったらしく、元鍛冶屋の男はバツが悪そうにする。
「すまねぇ。つい熱くなっちまってよ」
「武器がお好きなんですね」
初めて会ったときはそこいらにいるチンピラにしか感じなかったが、こうして話してみるとただ不器用な職人といった感想だ。好きなことほど饒舌になり、その目はきらきらとしている。
私の言葉に顔を赤くしながら、タイミング良く彼の名前が呼ばれた。
「おっと、それじゃあな。……俺の名前はアラッドだ。仕事で一緒になったらよろしく」
「私はイアと申します。また」
お互いに名乗り合って別れた。
同じ日に冒険者になったのだ。
仕事や冒険者ギルド内で会うことも多いだろう。
最後に近くなると私の名前が呼ばれて、冒険者の中で一番低い鉄級の冒険者タグをもらった。
冒険者にもランクが存在する。
そのランクによって受注できる依頼が異なっており、実力や人格がランクに大きな影響を及ぼすようだ。
実力が伴わない依頼を受注しないように、冒険者でいる限り危険は付きまとうが、死者がなるべく出ないように様々な配慮がおこなれている証拠である。
鉄級は冒険者ランクの中でも一番低く、町中の依頼を受けられる冒険者の駆け出し。
町の中で依頼をこなして、住民と関係を結ぶ下積みランクだ。冒険者であるということで身分の保証もされ、いい評価であればそれだけランクも早くなる。そういうことで頑張ってやる者も多くいる為、冒険者は住民にとって受け入れが早いのだろう。
そうして下積みを終えたら次は銅級。町周辺の外までの依頼をこなすことができる。
町中よりは危険度は高いものの、町と近いために討伐依頼も少ない。基本的には薬草採取等の依頼になってくる。同じ銅級の先輩に教わって薬草を採りすぎない方法を学ぶ。これは遠方に採取に行ったときもその地域の人に迷惑をかけないようにする為の基礎だ。先輩もギルドから出る依頼で教えるものがあるので報酬が出る。先輩後輩共に利益がある行為だ。
そうした下積み時代を終えて、銀級へと上がる。
多くの冒険者はこの階級に留まっているそうで、このランクになると駆け出しを脱出した証明になるらしい。
このくらいになるとパーティで護衛依頼を受けたり、依頼の幅もかなり広がる。人数が多いということはそれだけ実力も上下の差も大きいようだ。
実績によって黄金級に上がれば一流。
一人で魔竜を倒せる実力を持つ金剛級。
そして冒険者の最高峰マスター級と、冒険者のランクは分かれている。
目指すなら勿論マスター級なのだろうが、黄金級からは貴族の指名依頼も存在するらしい。その中には勿論騎士としての私を知っている人もいるだろう。
辺境伯より上の爵位を持つ冒険者なんて扱いづらいことこの上ない。
双方のためにも銀級で留めておくのが無難と言ったところか。
「次、イアさん」
名前を呼ばれて私も立ち上がる。
目出度くギルドタグを貰って、私は家路についたのだった。
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