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パーティ追放者達~もうお前らで組めよ~

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「くっそ!」

 ダァンッと音を立ててジョッキをおいたのは、二十歳半ばの魔法使いだ。
 すぐに手に取れる位置には随分使い込まれた相棒の杖があり、青春のすべてを共に過ごしたと言っていいほど一際大きな魔石が中央に浮かぶ、それなりに高い杖だ。もうかれこれ10年ほどの付き合いになるだろうか。魔法の師がくれたものだが、未だ新調するほどでもない。むしろ使い込まれただけ味のある色合いに染まってきて、それなりに愛着もある代物だ。

「おう、荒れてるねぇ。珍しい」

 そこに現れたのは、身軽な格好をした女性の弓使いだ。
 けれども通常の弓使いが使うようなロングボウではなく、あまり使うものがいない。というよりもこの町でも使用しているのは彼女だけではないかというショートボウを得物として取り扱っている。
 弓使いは初心者のうち、パーティに所属していたらしい。けれど、ショートボウを取扱い、長距離ではなく中距離から至近距離を専門としているため、集団戦闘にはあいにくと向かなかったのだ。戦場を駆け回るその様は魔法を当てないかと遠距離職には冷や汗もの。近距離職には視界をうろちょろされて邪魔という理由から追い出されたそうな。
 彼女もそのパーティは相性が悪かったとわかっているからか、すんなりとパーティから離れ、それからずっと一人で活動をしている。

「……」
「なんだい」

 カウンターの隣に座る弓使いを睨みつけるように見ると、酒場のマスターにエールを頼んでいた彼女は、特に気を悪くするでもなく首を傾げた。

「ちょっと、ちょっと」

 そんな弓使いの肩を叩いて止めたのは、これまたソロ冒険者の回復術士。
 ただし、背中に背負っているのは、回復術士が一般的に使う短杖ではなく、魔法使いが使うような長杖だった。
 短杖と長杖の違いは魔力の差が関係している。短杖には魔法や回復術の媒介となる魔石の大きさが限られており、もともと魔力が大きいものからすると魔力が多すぎて杖自体が壊れてしまうことがある。かといって長杖がいいわけではなく、魔法や回復術を行うには自分の魔力で一旦杖を満たさなければならない。時としては瀕死の仲間を回復させることを迫られる回復術士にとって、魔力を満たす時間が長い長杖は嫌われている。
 この回復術士は、魔力量が多すぎて、短杖では耐えられない為、長杖を得物としているらしい。
 前に所属していたパーティでは魔法も使えた為、魔力が枯渇寸前まで魔法と回復術の使用を強要され、拒否をしてパーティから追い出されたそうだ。魔力が無くなれば死ぬこともあるので、必要な拒否だったと誰もが認めている。

「彼、今日パーティを追放されたらしいのよ。そっとしておきなさい」

 親切めいて言った回復術士だったが、ものの見事に魔法使いの心に突き刺さる。
 しかし事実なのだから言い返すことはできず、魔法使いはぐぅっと奥歯を噛み締めた後、追加のエールを注文した。

「へぇ。ふぅーん。ほぉ」

 それを聞いてにまあっとしたのは弓使いだ。
 手元に来たエールを一気飲みし、ガツンッとカウンターに置くと、彼女は大きく両手を広げた。

「ようこそ! ソロ冒険者一人身の世界へ!」
「くっそおおおおお」

 凄く悔しがる理由は、以前パーティを見た弓使いが、早いうちにパーティを抜けたほうがいいと魔法使いに助言したものの、その時こっぴどく振り払ったことが原因だろう。弓使いがパーティから追い出された理由もそれとなしに聞いている魔法使いが、まさか同じような目に遭うと思っていなかったのだ。

「けどまたなんで。確かパーティリーダーは幼馴染の親友なんでしょ?」
「あんなやつ、幼馴染でも親友でもねーよ」

 むすぅっと、追加のエールを流し込む彼の頭上を、大きな手がぽんっとなでた。

「気を、落とさ、ないで」
「あら。あんたも仕事終わりかい?」

 大きな盾を担いだ大男に声をかければ、盾使いは弓使いを見てゆっくりと頷いた。
 盾使いである大男もソロ冒険者だ。大男、と呼べるほど大きな図体の盾使い。しかし、実際は臆病で、殿として始めに前へ出ることが苦手。後方で盾に籠もっていることしかできないのかとパーティで貶められ、追放された。盾使いなのだから盾でパーティメンバーを守り、敵の注意を引きつけることが役割。その役割が果たせないのなら追放もやむを得ないのだが、この盾使いは《全方位防御》という珍しいスキルが使える。うまく導けば盾使いとして立派になれるのに、その前に芽を摘まれて、罠を中心とした技術を身に着けながらソロ冒険者をしている。

「ギルドで、話、聞いた」
「夕方の話だけど、まあ、あれだけ大声なら聞こえるわよね」

 すでに内容を知っているらしい回復術士と盾使いは気の毒そうに魔法使いを見やった。
 いつまでも立っていては邪魔だと酒場のマスターに言われて、四人並んでカウンターへ座る。
 盾使いはホットミルクを、回復術士はワインを注文した。

「まあ、理由は大体察しはつくけどねぇ」

 弓使いは訳知り顔で息をつく。
 魔法使いは組んでいたパーティから追放された。理由は冴えない野郎だから、というもの。村から出るときに無理やり自称親友に連れられて冒険者となったが、美人ばかりパーティに入れて挙げ句邪魔になってきた彼を追放するとのこと。
 今まで魔法使いは自称親友をずっと助けてきた。見た目だけを選んでパーティに誘うものだからその実力は推して図るべし。いざとなれば剣士の自称親友では守りきれないこともあるので、上手く自称親友をのせながらパーティを切り盛りしていたのだ。女性の誰かが自称親友よりも魔法使いの方が周りを見れている、ということをぽつりと言ったのが原因だったように魔法使いは思う。もっとも、魔法使いのいないパーティは早々に解散しそうだが。実力的にも、精神的な繋がりも。

「やな野郎だったし、開放されたって喜ぶべきでしょ」
「でも、先行き、不安だと、思う」
「あんたも大概、人がいいというか、不運というべきか」

 三人が気の毒な視線を向けつつ、一杯ずつ魔法使いにエールを奢ってやる。いくらソロ冒険者とはいえ、彼らは前線で立派に戦っているのだ。エール一杯で痛むような懐はしていない。
 そんな慰めもヤサグレモードの魔法使いには焼け石に水といった状態だ。

「俺は、今日、飲む。明日からソロでやるんだ。今日ぐらい飲んだくれてやる」
「おう飲め飲め。そんで気持ち切り替えることだねぇ」

 結局、パーティを追放された者がきちんとソロでやっていくのか、それともならず者になってしまうのかは、これからの努力次第であるし、そばで聞いてやるくらいしかやれることはない。
 そう思っている彼らの側でグラスを拭いていた酒場のマスターが、胡乱げな視線を投げかけた。

「てか、お前ら全員ソロなら、もうお前らで組めよ」

 その言葉に、4人の動きは止まった。
 飲もうとしていたエールがだばだばとこぼれ落ちるのも構わずに、そこだけ時が止まったかのような4人の様子に、マスターは気まずくなる。
 一番始めに動いたのは、弓使いだった。
 カウンターに乗り上げてマスターの両肩を掴んだ。

「な、なんだよ」

 荒事もなれているマスターではあるが、あまりにも急な行動に目を白黒させる。
 鼻息の荒い弓使いが、マスターにぐいっと顔を近づけて頼んだ。

「もう一度言って」
「は?」
「さっきのを、もう一度!」
「全員ソロなら、もうお前らで組めよ?」
「「「「それだ」」」」

 ビシッとマスターに指を差して4人は顔を見合わせた。
 元々全員が不本意ながらもパーティから追放された者だ。気が合えばパーティを組んでも問題ない。
 臆病な盾使いに率先して殿を務められる弓使い、周囲の把握が得意な魔法使いに、いざとなれば攻撃もできる回復術士。剣を専門にしている者はいないが、いなくて何が問題だというのだ。弓使いという近中距離役がいれば十分ではないか。敵視を取りすぎたのならば、盾使いの《全方位防御》で守ればいい。ここは遊技盤の上じゃない。どんなパーティを組んでも問題ないのだから。

「明日の昼から一狩りいくかい」
「なら、今日はほどほどにしなきゃ」
「パーティ名は、どう、する?」

 三人でわいわいと次の日の予定を立てる中、盾使いがギルドに申請するパーティ名を聞いてくる。
 黙っていた魔法使いがぽつりと、つぶやいた。

追放者の溜まり場アウトロー・ハウント……とか、どうだ」
「「「それでいこう」」」

 自分たちにその名前はぴったりだと、笑いがなら。
 後にもう1人を加えて冒険者ギルドランクSランクに上り詰めた追放者の溜まり場アウトロー・ハウントの名声は、国中に広まっていく。しかし、このときはまだ、誰も予想などしていない。
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みんなの感想(2件)

GaNa
2018.06.30 GaNa

今後に期待

暁月りあ
2018.07.01 暁月りあ

ご期待いただきありがとうございます。
しかしながら、現在は一話完結となっています。
また魔が差したら投稿するかもしれませんが、そのときはぜひよろしくおねがいします。

解除
等々
2018.06.24 等々

新作きたぁぁぁぁぁぁぁ
更新楽しみにしてます!

暁月りあ
2018.06.24 暁月りあ

いつもありがとうございます!
注目!注目デスヨ!
一話のみデスヨ!!
夏頃にファンタジー小説大賞に向けた新作出すのでそちらをお楽しみに!

解除

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