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巡り合う定め
38:隷属の契約
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「貴方は、捨て置くと生まれた時に決めていたのねぇ」
その言葉で、オリビアもようやく理解したようで。
口元を震わせて。でも、声は出せないようで。
その瞳には絶望の色が揺れていた。
「私は……必要、なかったのですか……」
漸く、絞り出した言葉は、それであった。
それにオーバスは答えない。答えてはならなかった。
カルディアを慕っていたオーバスが、カルディアに良く似たオリビアを王女としてではなく、孫として純粋に可愛がっていたとしてもおかしくはない。
オーバスの異父姉であったカルディア王女の生まれ変わり。王宮の中限定とは言え、そう周囲から持て囃されて、自身もそうだと思いこんでいた彼女は、実際にカルディアの異父弟であったオーバスから生まれ変わりを否定されるという事実は、耐え難いもの。自身の存在を否定されたのだから。
家族として縁があれば余計に、その辛さは増していることだろう。
「私は……!」
「お前は、義姉上ではない。生まれ変わりでもない。良く似た他人だ」
涙に濡れた顔で、オーバスを見上げたオリビアは、目を見開いて言葉を止める。
オリビアに振り向いたオーバスの顔はカルディアからは見れない。
それでも、オリビアの表情から、饒舌に尽くしがたい顔をしているのは容易に想像がついた。
誰かに必要とされたい。それは、誰しもが一度は思うことなのかもしれない。
アグノスに仄かな想いを寄せていたのは、きっと、本当に好きなのではなくて、カルディア王女の生まれ変わりであろうとしたがゆえの、自己暗示のようなもの。本来、王族が冒険者に相まみえる機会などそうはない。本当に会ったのかも怪しいにも関わらず、想いを寄せるというということはそういうことだ。
カルディアの生まれ変わりとして、人間にしては高い魔力量と良く似た姿のオリビア。異父弟のオーバスがきっとぽろりとそう零したからこそ、周囲にもそう期待されたのだろう。そうでなければ600年前の王女など人々の記憶にすらないはずだ。
生まれ変わりとして価値があると思っていたのにも関わらず、実際には生まれ変わりではなく、偽物だと突きつけられるオリビアは、あまりに哀れだ。哀れ故に、その高い魔力量で禁忌を成功させる器として王妃と侯爵家に目をつけられたからこそ、こんなことに巻き込まれてしまった。
「人は弱く、故に傲慢だ。だから、お前に魔法を教えなかった」
カルディアも、それを嫌というほど知っている。
人は他人を利用する。その心は簡単に醜く汚れてしまう。
白が黒に染まるのは早く、どうあっても元には戻れない。
短い前世でも数多くのそういう者達を見てきた。
時には一人で。時にはアーノルドのそばで。時にはオーバスのそばで。
人は弱い。それでも。
「それでも、捨て置いていい理由にはならない」
オーバスならば正しく導けたはずだと、言うのは簡単だ。
導いても間違うことなんていくらでもある。
定めに抗っていくかどうかは本人次第とはいえ、周囲から可愛がられていたオリビアに抗う意思を奪うのは十分だっただろう。ぬるま湯に浸った日々というのは簡単には抜け出せない。
カルディアも、オリビアの自業自得は放置するつもりであった。
実に自分勝手な彼女を、カルディアがどうこういう資格もない。
「これからこの子は、対外的には病死として。薬殺刑に処されるのでしょう?」
そう、問いかけたカルディアに、オーバスはぽかんと口を開ける。
薬殺刑とは、毒を渡して囚人に服用させ死に至らしめる刑罰のこと。主に貴族等に恩情のある措置で行うもので、今回のように公表できない時に置いても使われる。
「義姉上。まさか……」
カルディアはオーバスを追い越して、オリビアのそばで膝をつく。
本物を目の前に、オリビアはただ、空虚な眼差してカルディアを映していた。
巡り逢う定めは、決して幸福だけを連れてくるものではない。
こうなることが定まっていた。ならば、これからの定めを決めるのはオリビア自身だ。
「巡り逢う定めが連れてきた。抗うか。従うか」
それは、前世のカルディアの口癖であった。
かつてのカルディアも、流されるまま生きていた。
この世界に流されるまで現世では、社会のルールに縛られて。
前世では、レストロレイアの王女。一度も故国の土を踏むことなくウォーレンに囚われた人質として。
耐え難い屈辱も数多く、時にウォーレン国王から貞操を狙われることさえあった。
運命に抗う意思は完全にくじかれていた。
ただ、生ける人形として、そこに在ることを許された存在だった。
「全てを捨てて生きるか。これから死ぬか」
きっと全てを聞きたくはない彼女にも伝わるように、ゆっくりと。
定めに従うだけだったカルディアが、定めに抗い始めたのは手助けがあったからだ。
何もわからない中で、自分の身しか守れなかった中で。
生まれてはじめて、定めに抗えと言った存在が居た。
その存在がいないオリビアに、道を示すのは間違いじゃない。
「その腕を切り落として、名前を捨て。そして、私と隷属の契約を交わして、平民として新しく生まれ変わるか。決めるのは貴女よぉ」
隷属の契約。この大陸で奴隷という存在は遥か昔のものだ。600年前でさえ、廃れ始めていたもの。
故に、この契約が現在のウォーレンに残っているかは知らない。
契約主の命令には絶対で、自らその命を絶つことは叶わない。
禁術とされていないだけ、勿論、契約主にも様々なルールが存在する。
「義姉上。貴女を害そうとした者ですよ」
「あの時代でカーマが私に定めに抗えと。そう言わなかったら、私は定めに従っていたでしょう」
大切な、大切な侍女。
城から逃げ延びる時に、カルディアの代わりに犠牲となって命を落とした。
彼女が居なければ、カルディアは定めに抗うことはなかった。
「生まれ変わりと教え込まれて育てられたのは、早く否定しなかったオーバス責任があるわぁ。弟の責任くらいはとるしぃ」
お前の責任でもあると言ってやれば、オーバスは視線を落とした。
「やり直す……? そんなこと、出来るわけがない。私は、だって、生まれ変わりじゃなかったもの!」
「貴女は貴女でしかないわぁ」
オリビアの、無事な方の手を取る。
そっと魔力を流して、痛みを緩和させてやれば、少し驚いたような顔をした。
こんな簡単な魔力操作でさえも、誰からも教えられない可哀想な王女。
「私が私でしかないように。生まれ変わっても、私は、私でしかない。ほかの、何者にもなれやしない」
カルディアは前世を思い出した瞬間に、カルディア以外としての生き方を見い出せなくなった。
この世界に再び戻ってこれた喜びは勿論ある。愛おしい者のところに行き着けた感謝もある。
しかし、カルディアにカルディアとしての魔力があるかぎり、その魂がカルディアで在る限り、カルディアとして以外の生き方など出来はしない。
「けれど」
そうなるように全ては定められている。それがこの世界。
自分以外の何者にもなれず、他者を騙れば己の存在を捻じ曲げる。
巡り逢う。カルディアとオリビアのように。こうして逢うのも定め。
今までの巡り逢う定めは変えられない。
けれど、これからは違う。
「定めはなにも1つではないわぁ」
オリビアの極限られた周りだけ、彼女をカルディアの生まれ変わりだと思っていたのかもしれない。
城から出てしまえば、オリビアはカルディアの生まれ変わりではなく、ただ一人の王女でしかない。
オリビアがカルディアになる必要はどこにもない。
「貴女の定めは、貴女が選べばいいのよぉ」
「そんな簡単に出来るわけがない」
「だから、貴女は死ぬの。オリビア王女。王女としての貴女は死んで、生まれ変わる。それが、私が提示する貴女が定めに抗うための条件」
王族を死んだことにするのは容易ではない。
それは、未だ継承権を持つオーラムを見るに明らかなことだ。
それ故に隷属の契約を結ぶ。
死ぬことは許されず、子供を儲けることも許されない。禁忌に再び触れることも許さない。
そして、今や王族の証である髪と瞳の色を一生隠していかなればならない。
他にも様々な制約が存在する。それを強制的に守らせるための隷属の契約。
それでも、王女として生きるよりはよほど自由だ。
「聞きましょう。死にたい? それとも、生きたい?」
カルディアが首を傾げて結論を促せば、オリビアは唇を震わせる。
長々と話してはいるが、つまるところ、その2択だ。
王女としてのプライドと自分の全てを捨てされるか否か。それだけ。
飲み込めない感情は絶対にある。何より、憎んですらいるカルディアにその2択を迫られるのは、どれほどのものか。
「……生きたい。私は、生きたい」
誰も手を差し伸べなかった命を奪うことはあまりに忍びなかった。
それ故の我儘。
「義姉上ぇ」
「あとはオーバスがなんとかしなさいなぁ」
にこにことしながら、情けない声を出すオーバスに問答無用と言い放つ。
オーバスはオリビアを見遣った後、一度瞼を伏せて。その後に肩を竦めた。
「義姉上が責任を持つのなら、なんとかしましょう」
言質をとって、カルディアは頷いた。
くるくると杖を回しながら、魔力を流し始める。
【血は隷属。心は永久。破棄は叶わない】
魔法使いがその日に使える魔法は大体多くとも10発が限度だ。
既にその回数を大幅に越えているカルディアは、昨日までのカルディアであればこの魔法を使うことは出来なかったに違いない。限界ギリギリであるにも関わらず、体に不調は見られなかった。
【契約は繋がり、願いは叶う。しかし、その心縛ること叶わず】
カルディアは分かっていた。
アグノスとの行為で、この世界におけるカルディアの魔力量が安定したことを。
それ故に自分の限界値もわかるし、この魔法を行えばどうなるかも分かっていた。
カルディアとオリビアの足元に大きな魔法円が浮かぶ。
赤い、紅い、朱い。カルディアの瞳を写し取ったような色の魔法円。
オリビアの魔法円とは違って、完璧な魔力制御の元で行われる魔法。
朱い鎖がカルディアとオリビアに伸びる。
【我がカルディアの名において命ずる。我に従い、命を捧げよ】
オリビアは、ただ、呆然と。自身とカルディアの力量の差を実感していた。
ただ魔力を押し付けて完成させる乱暴な魔法ではなく、少ない魔力でも高度な魔法を完成させるその技術を。
魔法にとって不足なく、余ることもないその魔力を。
【隷属の契約】
ドクンと、鼓動が跳ねて、オリビアはその不思議な感覚に胸を抑える。
触れられない朱い鎖が、カルディアとオリビアに繋がって解けて消えた。
その言葉で、オリビアもようやく理解したようで。
口元を震わせて。でも、声は出せないようで。
その瞳には絶望の色が揺れていた。
「私は……必要、なかったのですか……」
漸く、絞り出した言葉は、それであった。
それにオーバスは答えない。答えてはならなかった。
カルディアを慕っていたオーバスが、カルディアに良く似たオリビアを王女としてではなく、孫として純粋に可愛がっていたとしてもおかしくはない。
オーバスの異父姉であったカルディア王女の生まれ変わり。王宮の中限定とは言え、そう周囲から持て囃されて、自身もそうだと思いこんでいた彼女は、実際にカルディアの異父弟であったオーバスから生まれ変わりを否定されるという事実は、耐え難いもの。自身の存在を否定されたのだから。
家族として縁があれば余計に、その辛さは増していることだろう。
「私は……!」
「お前は、義姉上ではない。生まれ変わりでもない。良く似た他人だ」
涙に濡れた顔で、オーバスを見上げたオリビアは、目を見開いて言葉を止める。
オリビアに振り向いたオーバスの顔はカルディアからは見れない。
それでも、オリビアの表情から、饒舌に尽くしがたい顔をしているのは容易に想像がついた。
誰かに必要とされたい。それは、誰しもが一度は思うことなのかもしれない。
アグノスに仄かな想いを寄せていたのは、きっと、本当に好きなのではなくて、カルディア王女の生まれ変わりであろうとしたがゆえの、自己暗示のようなもの。本来、王族が冒険者に相まみえる機会などそうはない。本当に会ったのかも怪しいにも関わらず、想いを寄せるというということはそういうことだ。
カルディアの生まれ変わりとして、人間にしては高い魔力量と良く似た姿のオリビア。異父弟のオーバスがきっとぽろりとそう零したからこそ、周囲にもそう期待されたのだろう。そうでなければ600年前の王女など人々の記憶にすらないはずだ。
生まれ変わりとして価値があると思っていたのにも関わらず、実際には生まれ変わりではなく、偽物だと突きつけられるオリビアは、あまりに哀れだ。哀れ故に、その高い魔力量で禁忌を成功させる器として王妃と侯爵家に目をつけられたからこそ、こんなことに巻き込まれてしまった。
「人は弱く、故に傲慢だ。だから、お前に魔法を教えなかった」
カルディアも、それを嫌というほど知っている。
人は他人を利用する。その心は簡単に醜く汚れてしまう。
白が黒に染まるのは早く、どうあっても元には戻れない。
短い前世でも数多くのそういう者達を見てきた。
時には一人で。時にはアーノルドのそばで。時にはオーバスのそばで。
人は弱い。それでも。
「それでも、捨て置いていい理由にはならない」
オーバスならば正しく導けたはずだと、言うのは簡単だ。
導いても間違うことなんていくらでもある。
定めに抗っていくかどうかは本人次第とはいえ、周囲から可愛がられていたオリビアに抗う意思を奪うのは十分だっただろう。ぬるま湯に浸った日々というのは簡単には抜け出せない。
カルディアも、オリビアの自業自得は放置するつもりであった。
実に自分勝手な彼女を、カルディアがどうこういう資格もない。
「これからこの子は、対外的には病死として。薬殺刑に処されるのでしょう?」
そう、問いかけたカルディアに、オーバスはぽかんと口を開ける。
薬殺刑とは、毒を渡して囚人に服用させ死に至らしめる刑罰のこと。主に貴族等に恩情のある措置で行うもので、今回のように公表できない時に置いても使われる。
「義姉上。まさか……」
カルディアはオーバスを追い越して、オリビアのそばで膝をつく。
本物を目の前に、オリビアはただ、空虚な眼差してカルディアを映していた。
巡り逢う定めは、決して幸福だけを連れてくるものではない。
こうなることが定まっていた。ならば、これからの定めを決めるのはオリビア自身だ。
「巡り逢う定めが連れてきた。抗うか。従うか」
それは、前世のカルディアの口癖であった。
かつてのカルディアも、流されるまま生きていた。
この世界に流されるまで現世では、社会のルールに縛られて。
前世では、レストロレイアの王女。一度も故国の土を踏むことなくウォーレンに囚われた人質として。
耐え難い屈辱も数多く、時にウォーレン国王から貞操を狙われることさえあった。
運命に抗う意思は完全にくじかれていた。
ただ、生ける人形として、そこに在ることを許された存在だった。
「全てを捨てて生きるか。これから死ぬか」
きっと全てを聞きたくはない彼女にも伝わるように、ゆっくりと。
定めに従うだけだったカルディアが、定めに抗い始めたのは手助けがあったからだ。
何もわからない中で、自分の身しか守れなかった中で。
生まれてはじめて、定めに抗えと言った存在が居た。
その存在がいないオリビアに、道を示すのは間違いじゃない。
「その腕を切り落として、名前を捨て。そして、私と隷属の契約を交わして、平民として新しく生まれ変わるか。決めるのは貴女よぉ」
隷属の契約。この大陸で奴隷という存在は遥か昔のものだ。600年前でさえ、廃れ始めていたもの。
故に、この契約が現在のウォーレンに残っているかは知らない。
契約主の命令には絶対で、自らその命を絶つことは叶わない。
禁術とされていないだけ、勿論、契約主にも様々なルールが存在する。
「義姉上。貴女を害そうとした者ですよ」
「あの時代でカーマが私に定めに抗えと。そう言わなかったら、私は定めに従っていたでしょう」
大切な、大切な侍女。
城から逃げ延びる時に、カルディアの代わりに犠牲となって命を落とした。
彼女が居なければ、カルディアは定めに抗うことはなかった。
「生まれ変わりと教え込まれて育てられたのは、早く否定しなかったオーバス責任があるわぁ。弟の責任くらいはとるしぃ」
お前の責任でもあると言ってやれば、オーバスは視線を落とした。
「やり直す……? そんなこと、出来るわけがない。私は、だって、生まれ変わりじゃなかったもの!」
「貴女は貴女でしかないわぁ」
オリビアの、無事な方の手を取る。
そっと魔力を流して、痛みを緩和させてやれば、少し驚いたような顔をした。
こんな簡単な魔力操作でさえも、誰からも教えられない可哀想な王女。
「私が私でしかないように。生まれ変わっても、私は、私でしかない。ほかの、何者にもなれやしない」
カルディアは前世を思い出した瞬間に、カルディア以外としての生き方を見い出せなくなった。
この世界に再び戻ってこれた喜びは勿論ある。愛おしい者のところに行き着けた感謝もある。
しかし、カルディアにカルディアとしての魔力があるかぎり、その魂がカルディアで在る限り、カルディアとして以外の生き方など出来はしない。
「けれど」
そうなるように全ては定められている。それがこの世界。
自分以外の何者にもなれず、他者を騙れば己の存在を捻じ曲げる。
巡り逢う。カルディアとオリビアのように。こうして逢うのも定め。
今までの巡り逢う定めは変えられない。
けれど、これからは違う。
「定めはなにも1つではないわぁ」
オリビアの極限られた周りだけ、彼女をカルディアの生まれ変わりだと思っていたのかもしれない。
城から出てしまえば、オリビアはカルディアの生まれ変わりではなく、ただ一人の王女でしかない。
オリビアがカルディアになる必要はどこにもない。
「貴女の定めは、貴女が選べばいいのよぉ」
「そんな簡単に出来るわけがない」
「だから、貴女は死ぬの。オリビア王女。王女としての貴女は死んで、生まれ変わる。それが、私が提示する貴女が定めに抗うための条件」
王族を死んだことにするのは容易ではない。
それは、未だ継承権を持つオーラムを見るに明らかなことだ。
それ故に隷属の契約を結ぶ。
死ぬことは許されず、子供を儲けることも許されない。禁忌に再び触れることも許さない。
そして、今や王族の証である髪と瞳の色を一生隠していかなればならない。
他にも様々な制約が存在する。それを強制的に守らせるための隷属の契約。
それでも、王女として生きるよりはよほど自由だ。
「聞きましょう。死にたい? それとも、生きたい?」
カルディアが首を傾げて結論を促せば、オリビアは唇を震わせる。
長々と話してはいるが、つまるところ、その2択だ。
王女としてのプライドと自分の全てを捨てされるか否か。それだけ。
飲み込めない感情は絶対にある。何より、憎んですらいるカルディアにその2択を迫られるのは、どれほどのものか。
「……生きたい。私は、生きたい」
誰も手を差し伸べなかった命を奪うことはあまりに忍びなかった。
それ故の我儘。
「義姉上ぇ」
「あとはオーバスがなんとかしなさいなぁ」
にこにことしながら、情けない声を出すオーバスに問答無用と言い放つ。
オーバスはオリビアを見遣った後、一度瞼を伏せて。その後に肩を竦めた。
「義姉上が責任を持つのなら、なんとかしましょう」
言質をとって、カルディアは頷いた。
くるくると杖を回しながら、魔力を流し始める。
【血は隷属。心は永久。破棄は叶わない】
魔法使いがその日に使える魔法は大体多くとも10発が限度だ。
既にその回数を大幅に越えているカルディアは、昨日までのカルディアであればこの魔法を使うことは出来なかったに違いない。限界ギリギリであるにも関わらず、体に不調は見られなかった。
【契約は繋がり、願いは叶う。しかし、その心縛ること叶わず】
カルディアは分かっていた。
アグノスとの行為で、この世界におけるカルディアの魔力量が安定したことを。
それ故に自分の限界値もわかるし、この魔法を行えばどうなるかも分かっていた。
カルディアとオリビアの足元に大きな魔法円が浮かぶ。
赤い、紅い、朱い。カルディアの瞳を写し取ったような色の魔法円。
オリビアの魔法円とは違って、完璧な魔力制御の元で行われる魔法。
朱い鎖がカルディアとオリビアに伸びる。
【我がカルディアの名において命ずる。我に従い、命を捧げよ】
オリビアは、ただ、呆然と。自身とカルディアの力量の差を実感していた。
ただ魔力を押し付けて完成させる乱暴な魔法ではなく、少ない魔力でも高度な魔法を完成させるその技術を。
魔法にとって不足なく、余ることもないその魔力を。
【隷属の契約】
ドクンと、鼓動が跳ねて、オリビアはその不思議な感覚に胸を抑える。
触れられない朱い鎖が、カルディアとオリビアに繋がって解けて消えた。
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