あんまりです、お姉様〜悪役令嬢がポンコツ過ぎたので矯正頑張ります〜

暁月りあ

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予知なんて、あんまりです!

3-1

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 家臣が長い長い書状を読み上げる。
 それには多くの時間を必要とし、裏付けもまた、大変なものであった。

「随分とまあ、ここまで好き勝手出来たものだ」

 王族では珍しくない金髪は部屋の明かりをほんのりと反射して髪に天使の輪が現れている。空のように澄んだ瞳は、今や跪く娘を蔑むように見下ろしていた。
 彼の年頃といったら18歳かそこらと言ったところだろうか。
 謁見室で彼の前に拘束された娘は、澄ました顔で彼を見ている。
 なんのことかわからない、という顔で。
 その娘は、ウェーブのかかった紫色の髪を結っており、海よりも深い藍色の瞳は妖艶に嗤っている。
 誰もが羨み、隣を通り過ぎれば目で追ってしまうほどの美女といった出で立ちの彼女は、証拠も罪状も並べられながら、それでも悠然とその場にいた。

「はて、それらに記憶などございませんが」
「これだけの罪状を、裏取りもせずに婚約者である君を拘束してまでここに引っ立てるほど、私は愚かではない」

 彼は王太子という立場上、失敗は許されない。
 だからこそ、婚約者である彼女に対しては特に慎重にあたった。

「殿下」

 ふっとそのぷっくらとした唇で、彼を呼ぶ。

「我が妹にどんな甘言を吹き込まれたのかは存じませんが、それらの罪状をわたくしが・・・・・しているという確かな裏取りは致しましたか?」

 彼が婚約者を放置してその妹に現を抜かしながら、妹の罪状を婚約者である姉になすりつけようとしているのだと示唆され、彼は怒鳴り散らそうとすることを必死に抑える。
 婚約者である彼女には確かに妹がいる。婚約者であった彼女よりも親しくしていることは事実だった。
 けれど、この情報はその妹からの情報でもあり、情報が正しいものかどうかはきちんと精査している。
 故に、彼女の妹が嘘を吐いているという考えは既に彼の中から存在しなかったのだ。

「君の目には、私は愚かに見えるのだろうな」

 ボソリとそう呟く。
 婚約者よりも、その妹を好ましく思った彼。
 彼女を断罪すれば、その妹である愛おしい人と結ばれることは難しいことになるだろう。
 身内が断罪されれば、その親族である妹は共に処刑かよくて修道院か。
 それでも、王太子として、罪は正さねばならなかった。

「あまりに残念だ。アマリリス」
「後悔いたしますわよ。殿下」

 アマリリス。
 決して折れない、悪の華。
 後世には人々にそう呼ばれる彼女。
 強い虚栄心に塗れた、哀れな婚約者。
 最後には、彼女が愛した彼によって、その生命は散らされる。

 それは、彼が生まれた頃から見ていた悲しい、悲しい夢。
 けれど彼はわかっている。
 この未来が現実に起こり得ることなのだと。

*****

「ほら、なかないの。リリィ」
「だってぇ」

 べそべそと泣いて出発を遅らせているのは、恋愛ゲーム主人公に残念なファンが入ったリリィである。
 姉であるアマリリスが本日お茶会にいくというので、大泣きしていた。
 そこに外聞もなにもあったものではない。
 生まれてから4年以上、リリィのそばに常にいたのがアマリリスだ。
 アマリリスが7歳になるまでお茶会というものに出席したことも出かけたこともなく。
 今回のお茶会がアマリリス人生初のお茶会になる。
 そのための教育は侍女長が必死に行ってきたおかげで完璧ではあるのだが。
 精神が体年齢に引きずられているのか、アマリリスが外出することがとても悲しい。

「すぐに帰ってくるわ。それに、今日は一緒に寝ましょう?」
「うぅ……」

 だっこもぉと、完全に精神も幼児化しながらアマリリスに甘える。
 アマリリスもそんなリリィにはいはいと抱きしめながら、嬉しそうだ。
 そこに精神年齢大人としての矜持はないのかと聞かれれば、勿論あってないものだとない胸を張る。それがリリィクオリティ。
 最終的には侍女長とクレイに引き剥がされ、大泣きするリリィを置いてアマリリスは出発した。

「お嬢が珍しいな。こんなこと」

 クレイが来てから1年が経過していた。
 暗殺の訓練も使用人の訓練も全て休んでいいからリリィの相手をするように指示されたクレイが、リリィの私室であやしながらそういった。対するリリィといえば、アマリリスがいないことでぶつぶつと気味が悪いくらいアマリリスの名前を呼び続けながらソファで泣いている。
 リリィの本性については、暗殺の訓練一日目で既にクレイにバレた。オルディマと取引を持ちかけたのがリリィであることも、たかが3歳児が養親の片足を治せるかもしれないということも。
 ただ、アマリリスのように敵愾心を向けなかったのは、単純に3歳児に対抗することがみっともないと思ったことと、養親の足をもとに戻せるかもしれない恩人(仮)になるかもしれないからだった。

「だって、おねぇさまとはなれたこと、ないし」

 いつもはお嬢様言葉を使っているリリィだが、クレイに対しては自身が幼いことを理由に前世の言葉遣いで話している。クレイとしても肩苦しいままというのは辛いらしく、リリィもお嬢様言葉を使うより、現在の方が気が楽ということもあった。
 ぐすぐすと泣いているリリィをほんのりと温かい濡れタオルで拭いながら世話をしていく。
 意外にもクレイはアマリリスよりも面倒見がよかった。
 天然で不幸体質のアマリリス。なにかしらリリィをお世話しようとして、なにかしらやらかすことも多い。
 それに対して卒なく対応するクレイという構図。今やクレイはアマリリスとリリィにとって近所のお兄さんポジションが出来上がりつつあった。

「まだ難しいだろうが、姉離れしないと今後辛くなるぞ」
「つらい?」

 こてんと首を傾げるリリィ。

「今日リリスお嬢様が行ったお茶会、王太子殿下との顔合わせだろう?」

 そう言われて、リリィは絶叫する。
 王太子殿下。まさに王道の攻略対象者だ。
 アマリリスが一人でお茶会に行ってしまうことに泣いていただけで、まさか婚約者内定のお茶会だとは知らなかった。分かるはずもない。ゲームでは最初から婚約者だったのだから。

「みぎゃあああああ!!」

 アマリリスが出ていったときよりも酷い泣き方に、侍女達までもが顔を出す。
 果ては父親のブルックスが来ても泣き止まず、泣き疲れて眠るまで侯爵家は大変だった。
 子育てとはそういうもので、今まで余り泣かなかったことが不思議なくらいだと侍女長と年嵩の侍女達が珍しくフォローを入れていたのだが、今後も続くのかと思えば心中察するとお互いに肩を叩いて慰める。
 余り泣かなかったリリィだが、アマリリスが母親代わりとなっていたからこそ、今までゆったりと平和な時間が多かったのだとこの時侯爵家の面々は知ったのであった。

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