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エピローグ ~星空の下で~

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 朝日野家大家族会議から数時間後。

 お屋敷の庭に私、健希さん、リリィさん、光太くん、ご主人様の五人が集合した。
 もうじき夜になる。今日は晴れだし、満天に星々が輝き出すだろう。
 十二月の空気は肌寒い。私は左横に座る健希さんを心配した。

「健希さん、大丈夫ですか? 寒いですし、無理はしないでください」
「たしかに、ちょっと寒いかな」

 健希さんは右手で私の左手を握った。健希さんの手のひらのぬくもりが、私に伝わってきた。
 同時に、私の胸がドキンっと高鳴った。

「あの、健希さん……?」
「ダメかな。こうしているとあったかいんだけど」

 私はからかうように言った。

「そんなこと言うと、本当に健希さんのこと好きになっちゃいますよ」

 口に出して、ようやくはっきりと意識した。
 ああそうだ。私は健希さんが好きだ。
 初めて出会ったとき、美少年だと思った。
 屋上で一緒に手を繋いで歩いてくれた。
 自分の体も大変なのにいつも優しくて、いつも笑っていて。

「晴香ちゃんが好きになってくれるなら、僕もうれしいよ」

 それってつまり……健希さんもわたしのことを?
 私がドギマギしていると、今度は右横に座る光太くんが私の片手を握りしめた。

「オレも手が冷たくなったから」
「あ、そうだよね。寒いもんね。光太くんも手を繋いでおこうか」

 それから、光太くんは健希さんを睨んだ。

「健希兄さん、これだけは負けないから」

 え? え? それって、ええっと?
 健希さんは、いつもよりちょっとだけ挑戦的な笑みで光太くんを見た。

「分かったよ。兄として……いいや、男として受けて立つよ」
「負けねぇからな」
「僕も、こればかりは譲る気がないよ」

 あの、これって、ひょっとして、えーっと。戸惑いまくる私に、ニヤニヤ顔でリリィさんが言った。

「私たち兄弟と晴香さんは血が繋がってないもんね。三角関係大いに結構じゃない?」

 そりゃたしかにそうだけど……

「ふふっ、三人ともウブよねぇ。アメリカならもっと積極的にアタックするもんだけど」

 私も健希さんも何も言えなくて。唯一、光太くんだけは言い返した。

「うるせー。リリィには関係ないだろ!」
「さてさて、どうかしらねぇ。晴香さん、どっちを選ぶの?」
「え、いや、どっちって、ええぇ!?」

 なんなの、これ。私、健希さんと光太くんの二人からプロポーズされたの?
 それも、ご主人様やリリィさんがいる前で!?

 む、無理! 選べないよ!
 健希さんは憧れの人だけど、光太くんだってかわいい頑張り屋さんだ。
 二人とも好きだよ!

 大慌ての私の様子に、リリィさんが愉快そうに笑った。

「ま、今いきなり選ばなくてもいいんじゃない? 道は色々あるわよ。今後健希兄さんや光太以上にいい男だって見つかるかもしれないし」

 ううぅ……
 そうこうしているうちに、太陽が沈み、月と星々がきらめきだした。

 ご主人様と健希さんが感慨深げに言った。

「なつかしいな。昔、こうやって家族で星を見たんだったな」
「そうだね。まだ光太が小学校に入学する前だったっけ。今日の星空はあの日に負けないくらい輝いていると思うよ」

 リリィさんと光太くんも続けた。

「ふんっ。たしかに綺麗ね。寒いけど」
「へへへ、やっと皆で天文観測できた。晴香、ありがとうな」
「私の力じゃないよ」
「晴香のおかげだよ。父さんやリリィの気持ちを知れたんだから」

 わたしは『ふふふっ』と笑った。

「どう、光太くん? 知るって大切でしょ? それがお勉強する意味なのよ」

 お勉強は国語算数理科社会英語だけじゃない。
 身近な人の気持ちを知ることも、とっても大切なお勉強だ。
 私だって光太くんが星好きだと気づくまでに一か月もかかった。
 リリィさんの気持ちを知らずにひどいことを言っちゃった。
 ご主人様とお父さんの関係も、今日まで知らなかった。
 知らなかったことも、まだ知らないこともたくさんたくさんある。

「私、健希さんのことも、もっともっと知りたいです」

 そう言うと、光太くんが横から言った。

「何でだよ! オレのことは知りたくないのかよ?」
「もちろん、光太くんのことも知りたいよ。リリィさんのことも、ご主人様のことも、保さんやメイドさんたちのことも」

 それから、私たちは星空の下でもっともっと色々なことを話した。
 それぞれの夢。
 それぞれの悩み。
 それぞれの好きなこと。
 それぞれの苦手なこと。
 そして、それぞれの目標。

 健希さんは家族を護れるように、まずは自分の体を鍛える。
 光太くんは宇宙飛行士になるため勉強する。
 リリィさんは朝日野グループの後継者になるため、今後もアメリカでがんばるそうだ。

 ご主人様はこれからもっと家族で話し合う時間を作りたいという。

 そして私は……私は学校の先生になりたい。
 自分の力で生きていけるようになりたい。

 そのためにも、今は。

「家庭教師、続けます!」
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