上 下
37 / 43
第5章 ちびっ子B-Tuber大量出現!?レインボーブーストポーションの陰謀

第1話 B-Tuberカイ、マンネリ化する

しおりを挟む
 イリエナちゃんと正式にパーティを組んでから、30日ほどが経過した。
 今日も、ぼくとイリエナちゃんはダンジョンで冒険中だ。
 今いるのは第5階層。
 目の前には第6階層に続くオーブがある。

 ぼくはイリエナちゃんに言った。

「じゃあ、帰ろうか?」

 今日の冒険は第5階層まで。
 最初からその予定だ。
 だが、イリエナちゃんが言った。

「あの、今日は第6階層まで行きませんか?」

 ぼくはびっくりしちゃった。

「え、なんで? 第5階層までって言ったよね?」
「はい、そうなんですけど……」
「第6階層からは本当に危ないんだよ。モンスターも強力になるし、罠もあるし……もし転移の罠で離ればなれになっちゃったら、本当にマズいよ」

 ダンジョンには罠がある。
 第5階層まではせいぜい落とし穴くらいだけど、第6階層からは本格的な罠が登場するのだ。
 その中でもぼくが恐れているのが転移の罠。
 踏んだ瞬間、同じ階層の別の場所へワープしちゃうんだ。
 パーティを離ればなれにする罠だ。

 第6階層でイリエナちゃんがひとりぼっちになったら……さすがにマズいよ。
 歌魔法がいくら強力でも、発動までには時間がかかる。
 以前、ぼくがプレゼントした魔法の杖もあるとはいえ、第6階層のモンスター相手には心許ない。

 だから、イリエナちゃんが1人で戦えるようになるまでは、第6階層には行かない。
 危ないもん。
 そのことは何度もお話ししたんだけどな。

「でも、カイさん1人でなら10階層まで行けるんですよね?」
「うーん、まあ……」

 危険がないとは言わないけど、ソロでなら行ける。
 というか、実際イリエナちゃんとコラボする前に10階層まで行って撮影したし。
 だけどなぁ。

 イリエナちゃんはぼくに言った。

「昨日、マリアさんが言っていたことを覚えていますか?」
「マンネリ化のお話?」
「はい」

 イリエナちゃんは頷いた。

 コラボ撮影以降、ぼくらの動画の再生数は順調に伸びていた。
 だけど、10日くらい前から再生数が増えなくなった。
 もっといえば、徐々にだけど最新動画の再生数が減っている。

 マリアさんはその原因を『マンネリ化』だって言っていた。
 実際、第5階層までの冒険を撮影して、UPするのを繰り返しているだけだ。
 もちろん、ぼくの色々なスキルや、イリエナちゃんの色々な歌魔法を使ってみせたりはしている。でも、それだけだ。

 最近は動画のコメントに『いつもと同じ』、『平和な動画』、『なんか飽きた』みたいな書き込みすらでてきた。
 ぼくだって、視聴者さんの気持ちが分からないではない。
 せっかく動画を見るなら、新しいドキドキが欲しいもん。
 第6階層どころか、第10階層、第20階層ってどんどん先に進んでほしいって期待している視聴者さんもいるはずだ。
 もちろん、今でも変わらず応援してくれている人たちもいるんだけどね。
 イリエナちゃんはそのことを気にして、第6階層に行こうって言っているんだと思う。

 だけど。
 ぼくは断固として言った。

「ダメだよ!」
「でも……」
「ダメったらダメ」
「ですが、このままじゃ……」

 うーん、イリエナちゃんがこんなに言うのは珍しいなぁ。
 でも、こればかりはぼくも譲れない。
 ここはあえて言おう。

「このパーティのリーダーはぼく。それは最初に決めたよね?」

 イリエナちゃんとパーティを組むと決めた日に、そういうことにした。
 いくらイリエナちゃんの方が年上でも、ダンジョンの冒険は僕の方がずっと先輩だ。

「だったら、リーダーの言うことには従ってもらうよ。それが冒険者のルールだ」

 冒険者パーティではリーダーの決定には従わなくちゃいけない。
 話し合いをするのはいいし、反対意見をいってもいい。
 でも、最終決定権はリーダーにある。
  リーダーに従えないというなら、最悪パーティ解散まで考えなくちゃいけない。
 それが冒険者のルールって奴だ。

 もちろん、ダンジョンで仲間を追放するなんていう、アグレットがしたような暴挙はまた別のお話だけどね。

 イリエナちゃんは『シュン』と泣きそうな顔になった。

「ごめんなさい……」
「ううん。いいよ。ぼくも言い過ぎちゃった。ごめんね」
「いえ、私の方こそ、すみません」

 うーん、なんだろう。
 ちょっぴりマズいなぁ。
 ここだってダンジョン第5階層。
 いつモンスターが出てきてもおかしくない。
 こういう微妙な空気のまま冒険を続けると事故が起こりかねない。

「分かってくれたらいいんだ。今日はもう帰ろう」

 ぼくは言って、イリエナちゃんの手を握って【脱出】のスキルを使ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...