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第4章 アグレット大炎上!

第6話 アグレットの終焉(後編)

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 ギルドの中に響いたおじいちゃんの声で、ぼくは手を止めた。
 ぼくの剣は、アグレットの頬を薄く傷つけただけだ。

「おじいちゃん?」
「カイくん、ギルドでの刃傷沙汰は御法度じゃ」

 おじいちゃんはそう言ったけど。

「でも、おじいちゃん、アグレットはイリエナちゃんを……それにラッカさんだって」

 ラッカさんの傷には、彼の仲間のヒーラーが回復魔法をかけているみたいだ。
 でも、傷が深いのか、まだ傷が塞がりきっていないようだけど。
 ぼくも回復魔法のお手伝いをした方がいいかな?

 ぼく以外の冒険者のみんなも、口々に言った。

「そうだぜ。先に刃傷沙汰を起こしたのはアグレットだ」
「カイは何も悪くない」
「これまでのことを考えも、処刑が妥当だ」

 それでも、おじいちゃんは言った。

「だまらっしゃい!」

 その声はとっても恐くて。
 ぼくはビシッと背が伸びてしまった。

「このギルドのおさはワシじゃ。ギルド内で勝手な私刑などされては、カイもここにいる全ての者も、処罰せざるをえん」

 そう言ったおじいちゃんに、ベテランの冒険者さんが反論する。

「支部長様、そうはおっしゃいますが、アグレットの凶行は許されざるものです」
「ふむぅ。くわしい事情を説明してくれんかのう?」

 おじいちゃんの言葉に、冒険者達が説明を始めた。
 始まりはアグレットが口げんかでラッカさんに追い詰められたことらしい。
 それで逆ギレしたアグレットは、ロングソードを振り回してラッカさんを傷つけたという。
 もともとのケンカの原因は、アグレットがネット上で『最強の神』と名乗っていたとかなんとか。
 でも、それはもうどうでもいいことだ。
 ギルドの中で剣を抜いて他の冒険者を傷つけた時点で、アグレットの処分は決まっていたのだから。

「ギルド内で刃傷沙汰をおこし、そこのエルフの少女を人質にとっていた以上、カイの行動は正当なものとして評価されるべきです」

 おじいちゃんは「なるほどのう」とうなずいた。
 それから、ベテラン冒険者さんをギロっと睨む。

「それで、お主らはアグレットを止められなかったのか?」

 そう言われ、ベテラン冒険者さんは「うっ」とうめいた。

「それは……私たちも未熟でした」
「そのあげく、カイくんに、手を汚させることを是とするのか?」
「しかしっ……」
「しかしもなにもない!」

 おじいちゃんがビシャリと言うと、ベテラン冒険者さんも、他の皆もそれ以上何も言えなくなった。

 それから、おじいちゃんはイリエナちゃんに言った。

「イリエナくんじゃったかの?」
「はい」
「ギルドで起きたことの全責任はワシにある。恐い思いをさせてすまなかったのう」
「いいえ。カイさんが助けてくれましたから」
「ふむ」

 おじいちゃんは頷いてから、ぼくに言った。

「カイくん、ここはワシに預けてくれんか?」
「おじいちゃん、でもアグレットはぼくやイリエナちゃんのことを『いつか殺す』って言ったんだ。だから……」
「分かっておる。だれもアグレットを許すとは言っておらん」

 おじいちゃんはそう言ってから、倒れたままのアグレットをギロリと睨んだ。

「さて、アグレットよ。30日ほど前、ワシは貴様に最後のチャンスをくれてやった。じゃがやはりそれは間違いだったようじゃのう。小悪党の性根しようねはかわらんか。残念なことじゃのぅ」

 おじいちゃんはヤレヤレと首を振った。
 それから、イリエナちゃんとラッカさんに聞いた。

「イリエナくん、傷は大丈夫か?」
「はい。カイさんの魔法で治してもらいましたから」
「うむ。ラッカ、お主の傷は?」
「まだ痛みますが、あの程度の不意打ちで傷を負うなど、俺も修行が足りませんでした。この痛みを教訓にしてさらに自分を鍛えようと思います。騒ぎを大きくして申し訳ありません」

 その言葉に満足したのか、おじいちゃんはアグレットに言った。

「アグレットよ、こうなった以上わかっておるな?」

 ぼくが今まで聞いたこともない、冷たい声だった。
 おじいちゃんってこんなに恐い声が出せたんだ。

 アグレットの体がビクリと震えた。

「あ、あの、いや……」
「いいわけでもあるかのう? ワシには弁解の余地はないように思うが?」
「あ、ああう、あぅ……」

 アグレットの表情は恐怖に引きつっていた。
 全身をガタガタと震わせ、あわあわと言葉にならない声を上げるしかできない様子だ。

 またアグレットはギルドから追放されるのかな?
 そう思ったが、今度は違った。
 それじゃあ許してもらえなかったのだ。
 ギルドの職員達がアグレットを縄で縛って拘束した。

「ま、まて! やめてくれ! たすけてくれぇぇぇ!!」

 アグレットが悲鳴を上げた。
 聞いている僕まで恐くなっちゃうくらいの鬼気迫る悲鳴だった。
 おじいちゃんは冷たくアグレットを処分するように命じた。

「Z-Xに放り込め」

 大声じゃないのに、その声はとても恐かった。
 僕が言われたわけじゃないのに、ちょっと体が震えたくらいだ。
 アグレットは絶叫するような悲鳴をあげた!!

「なっ、Z-X!? やめてくれ! 助けてくれ!! そんなところ、俺にはどうにも……!!」

 ギルド職員達がアグレットの懇願を無視して、地下へ向かう階段へと連行した。
 アグレットの悲鳴が地下から上がり、そしてやがて完全に消えた。
 ぼくは気になって、おじいちゃんに聞いた。

「おじいちゃん、ZーXって……」
「カイくんは知らぬところ、知らぬ方がよいところ、知るべきではないところじゃ」

 僕の背中にひんやりとした汗が流れた。
 いつもはやさしいおじいちゃんのほほえみが、この時ばかりはとっても恐ろしかったからだ。

「カイくんは道をたがえるでないぞ」
「う、うん……」

 ゴクリとつばを飲み込みながらうなずくと、おじいちゃんはいつもの様子に戻た。

「さて、ジジイの役目はこれで終わりじゃ。皆の者、あとはいつもの通り、冒険者ライフを楽しむが良いぞ」

 おじいちゃんはそう言って支部長室に帰っていった。

 ぼーぜんとおじいちゃんを見送るぼくの背に、イリエナちゃんが抱きついてきた。

「カイさん、よかった!」
「うん、イリエナちゃんが無事で良かったよ」
「そうですけど……そうじゃなくて」
「……?」
「カイさんが人殺しをしなくて良かったです」

 イリエナちゃんはそういうと、「ひっくひっく」と声を上げて、また泣き出してしまった。
 そっかぁ、そうだよなぁ。
 イリエナちゃんとおじいちゃんは、ぼくが人殺しをするのを止めてくれたんだ。
 2人とも、僕のことを心配してくれたんだ。

「ごめん、イリエナちゃん。ごめんね」

 ぼくはそう言って、イリエナちゃんをしっかりと抱きしめた。
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